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【ぷりかる】コンロンに潜む闇を払え

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【ぷりかる】コンロンに潜む闇を払え

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四章 暗転

「ここは地下。地上へ出る通路はエレベーターの一本だけ、そしてそこに至る道を今、君たちに塞がれている……これは困ったね」
 楊霞から玄白の所在を聞いたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)たちは先んじて玄白を追い詰めていた。が、玄白はさして慌てることもなく薄く笑みを浮かべたままエヴァルトたちと対峙していた。
「何を言ってるの! もう勝敗は明白なんだから大人しく降参して!」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は声を上げるが玄白はそれでも表情を崩さない。
「仮に……ここで君たちが勝利して楊霞は本当に幸せになれるのかい?」
「……どういうこと?」
「もう知っているんだろう? 彼女の秘密を。彼女は普通の人間とは違う、それはこれから先も同じだ……」
「お前は次に『ただの人間たちがそんな存在とは対等になれない』……と言う」
「ただの人間たちがそんな存在とは対等になれない……む……」
 玄白は初めて表情を変えた。
「契約者舐めんな。メデューサ系特性持ってる友人なんぞ他にもいる。その程度で驚くと思ったか、この三下が。仮にいなかったとしても、石化能力持ちくらい些細な事だ。友人を助けない理由にもならん」
 喋りながらエヴァルトは静かに玄白へと近づき、その腹に思いっきり拳を打ち込んだ。
「ぐっ……は……!」
 突き刺さるように腹に拳がめり込み玄白はカッと目を開けて口から胃液を漏らす。
「てめえに同情の念は一切ねえ、てめえも人を攫ったにしては反省の色も全くねえみたいだしな……だから」
 エヴァルトは両拳を固く握り締め、
「てめえは俺が裁く」
 玄白の顔面を思いっきり殴った。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
 雨あられと拳が玄白の身体に降り注ぎ、玄白は口から鼻から出血を始めるがそれでも拳の雨は止まず、
「やめてください!」
 女の人が割って入り、玄白を庇うように覆い被さった。
「な、なんだよあんた! 邪魔だ! 怪我するぞ!」
 エヴァルトは女性に声をかけるが、女性はエヴァルトをきつく睨んだままそこから離れようとはしない。
「エ、エヴァルトさん……何か変ですよ……」
 郁乃に声をかけられて、エヴァルトも手を止めて周りを見る。
 見れば、今までロボットの建設作業をしていた女性たちがエヴァルトたちの周囲を囲んでいた。その目には助けてもらえる希望の光は無く、憎しみや恨みといった黒い念のようなものが感じ取れる。
「ど、どうしたんですか皆さん……あの人は皆さんを攫ってここで無理やり働かせている張本人なんですよ? なんでそんな人を庇うようなことを……」
 荀 灌(じゅん・かん)は戸惑うように女性たちに語りかけると、
「あんたたち、玄白様になにしてくれてるのよ!」
「そうよ! 玄白様に手を出さないで!」
 一人二人と女性たちがエヴァルトたちを避難すると、やがて飛び火するように避難の声が広がり罵詈雑言の言葉を浴びせられる。
「ど、どうしたんですか皆さん! 落ち着いてください! 私たちは皆さんを助けに……」
「誰もそんなこと頼んでないわ! 私たちはここで働いて玄白様の助けになるのが一番の幸せなの!」
 そうだそうだ! と周りの女性たちは同調する。
「ど、どうなってるの……? この人たちも楊霞さんみたいに洗脳されちゃってるの?」
「おいおいさすがにこの人たちをぶっ飛ばしたら怪我じゃすまねえぞ!」
 暴動寸前の女性たちを前に三人は背中を合わせて警戒態勢を取る。
 その隙に玄白はゆっくりと起きあがり、口元に垂れた血を拭いながら白い歯を見せるように笑顔を見せる。
「ストックホルム症候群、犯人と人質が長い間同じ空間で生活すると人質が犯人に信頼や愛情を抱くようになる心理を指す精神状態だ。彼女たちは皆、私の意志とは関係なくその状態に陥ったのだよ」
「あなたが攫ったから彼女たちはこうなったんじゃないですか! 罪のない人たちをこんな風にして……許せません!」
「そうだよ! この人たちを元に戻せ!」
 荀と郁乃は叫びながら玄白を見つめるが、玄白から笑みは消えない。
「それなら、僕をぶっ飛ばして無理やり彼女たちを連れ帰ればいい。ただし、僕をぶっ飛ばそうとすると彼女たちが身を挺して僕を守ってくれる。……困ったね?」
「てめええええええええええええ! どこまで腐ってやがるんだ!」
 女性たちを押しのけてエヴァルトは玄白に掴みかかろうとするが、女性たちがエヴァルトの前に立ち塞がってしまう。
「どいてくれ! あんたたちはあいつに操られてるんだ!」
「無駄だよ、彼女たちに正論を言ったって聞く耳なんてないんだから」
 そう言いながら玄白は三人から背を向けてしまう。
「ど、どこに行くんだよ! まだ話は終わってないよ!」
 郁乃の声にも足を止めず、玄白は振り返りもしない。
「僕はこれから逃げるんだよ。エレベーターは使えないからね、代わりにアレに乗って脱出させてもらうよ」
 玄白は上を、巨大兵器を見上げた。
「それじゃあまたね。運が悪かったらまた会おう」
 玄白は喉を鳴らすように笑い声を上げながら三人から離れて、工事足場を女性を連れて上っていく。
 薄い鉄を叩くような音を響かせながら、玄白は巨大兵器の胸の部分にあるコックピット前まで辿り着く。
 と、
「動くな」
 突然、背中にナイフを突き立てられる。
 首だけ動かすと、そこには柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の姿があった。
 玄白はため息をつきながら両手を上に上げて見せる。
「やれやれ、いつから家はネズミ屋敷になってしまったんだい? 次から次へと……まったく。君は彼らとは違うみたいだね教導団の人かな?」
「答える義務はない。……ったく、これだけでかい兵器をただの犯罪組織がよくも今の今まで隠せてたもんだな」
「君はいくつか勘違いをしてるよ。まず、これは僕が作った物じゃない。どこかの誰かがここに眠らせていたものだよ。その上に僕が屋敷を建てて、動かせる状態まで修復していただけなんだ」
「なるほど……それで? おまえはこれで脱出するつもりなんだな?」
「その通りさ。生憎と地上へ出る道はまだ作ってないから屋敷を破壊して出ることになるけどね……こんなところで油を売ってないで上にいるひとたちを逃がした方が良いんじゃないかな?」
「心配するな。ここでお前を捕まえれば余計なことはしないで済む」
「俺を捕まえられないから助言しているんだよ……正義の味方君!」
 玄白は両手を下ろすと一緒にいた女性を工事足場から突き飛ばした!
 足が足場から離れた女性はそのまま落下していく。
「全長が40メートルだからここは大体30メートルくらいかな? ま、普通に死ぬね」
「くそ!」
 恭也は舌打ちしながら同じく飛び降り、傀儡【銀星】を出す。
 銀星は工事足場の鉄パイプに捕まり、恭也は銀星の手に捕まりながら落ちていく女性の手を掴んで何とか落下を防いだ。
 その姿を見ながら玄白は一人巨大兵器のコックピットに乗り込んだ。