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行方不明になった少女達と森の化け物達

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行方不明になった少女達と森の化け物達

リアクション


■ 逃亡せし魔女 ■



「やっぱり逃げる」
 唐突に考えを変えた魔女に男は大きく溜息を吐いた。
「最初からそうしていれば手間はなかった」
 男の言い方に、残念だと言外に言われて魔女は半眼になった。
「どういう意味ぃ?」
「そのままの意味だ。わかってるだろ? お客さんだ」
 同時に盛大な音を立てて扉が開かれた。
「魔女め、見つけたよ!」
 対物機晶ライフルを構えた笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)が高らかに叫んだ。
「うっはぁ。正義の味方参上ってやつぅ? しかもなんか色々バレてるしぃ」
 取り巻く状況に歓声すら上げた魔女に男は両肩を竦めた。
「客が来てから逃げるなんて、自分が不利になる状況を自分で作るなんて趣味は俺にはない。悪いが俺は退かせてもらう」
 魔女の気まぐれにはこれ以上付き合えないと男は一歩後ろに下がった。その足元に銃痕が叩きつけられる。
 機晶ライフルを魔女と男どちらにでも対応できる様に構え直す紅鵡の表情に容赦の文字は含まれていない。
「共犯なら逃がさない」
 威嚇でも脅しでもなく宣言する彼女に男の後退はそこで止まった。
「そんな事よりさぁ、ねぇねぇ、あたしの館に来るまで化け物ちゃん居たでしょぉ? どうだったぁ?」
「やはりおまえが首謀者か?」
 魔女の背後に立った柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が低い声で問うた。
「ちゃんと玄関から入ってくれなきゃ困るなぁ」
 魔女が開けた窓から侵入を果たした恭也に魔女は緩く笑みを零し片腕を持ち上げる。魔女の動きに牽制と振りかざしたアーミーナイフは召喚されたミイラに弾かれた。
「ネクロマンサーか!」
「女の子相手でも手加減しなくていいわよぉ」
 ミイラは少女。情報を手にしている契約者達は床から出現したミイラに驚きの声を上げた。
 そんな彼らをせせら笑うように魔女が踵を翻す。
「逃がすか」
 恭也がアーミーナイフを持ち直すと空かさず魔女との間にミイラが入り込んだ。
「くッ」
 行方不明の少女達の両親達から依頼を受けている恭也は顔を顰める。
「ミイラ化はおまえの仕業か」
「ええ、そうよ」
「それは解除されるのか?」
「そんなこと知りたいのぉ? てゆうかなんか期待してるぅ? 化け物ちゃんが可愛子ちゃんに戻るとかぁ?」
「戻らないっていうの?」
 ミイラと魔女の位置が悪すぎて機晶ライフルを構えたままトリガーを引き絞れない紅鵡が思わずと聞き返した。
「んー、そう。 ――って答えたいところだけど、まぁ、戻れる、かなぁ」
 ご期待に添えられますよと魔女はミイラに近づき、そのミイラの頬を優しく撫で上げる。
「単なる実験だぁかぁらぁ、色々証明したいことはあるのよぉ。今晩あんた達がこうやって乗り込んできちゃったから止めたけど、化け物ちゃんから可愛子ちゃんに戻るお薬ってものもちゃぁんと用意してたの。てゆうか、親切に説明するあたしっていい子だと思わないぃ?」
「それは取引しようとということか?」
 魔女はにっこりと恭也に喜びを顕にする。
「そうなのぉ。あんたのナイフがココにブスってしてくれたら、お薬わけてもいいわぁ」
 恭也に後ろから抱きしめたミイラの心臓を示し、紅鵡にも「もちろん、そっちのライフルでってのもいいわ。でもぉそうなると薬の所在を知っているあたしも一緒に死んじゃうわねぇ」と、本当に魔女は楽しげにしている。
「でも、それはただのミイラでありますね?」
 銃声が鳴り響くのと同時にミイラの肩を貫通して魔女の左肩に銃弾が埋め込まれ、鮮血が飛んだ。
「我、参上」
 と扉の向こうから葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が姿を現した。手には機晶スナイパーライフルが握られている。
「おい」
 恭也の呼びかけに吹雪は頷いた。
「情報では彼女たちは失踪当時に着ていた服そのままと聞いているであります。そんなみすぼらしいミイラは囮と見るべきです」
「そうねぇ、完全なる死者から作り上げているわけじゃないから、召喚は無理なのよぉ。それにあれは不死族を作るんじゃなくてあくまで呪いの範囲だしぃ」
 だからこそ元に戻せる余地が残っている。あくまでも契約者達を動揺させて遊ぼうとする魔女に男はそのまま息を引き取るように気配を消した。
 肩の傷みによろけ魔女はミイラから離れた。その彼女の右腿に風穴が空く。
「あーもう、ノヴァ、コレが死なない程度なら好きに遊んでもいいよ」
 機晶ライフルをぶっ放した紅鵡がノヴァ・ルージュ(のうぁ・るーじゅ)に言い放った。
「うん♪ 分かった、いっぱい遊ぶね!」
 否応無くミイラの相手をすることになった恭也を押し退けてノヴァが魔女の前に踊りでた。
 一閃、二閃とノヴァのサバイバルナイフが室内灯の明かりを反射させていく。身の危険を感じた魔女がもう一体ミイラを呼ぼうと持ち上げた右掌に紅鵡が撃った弾丸が貫通する。
 鮮血が散る室内に外との連絡をし終え援護に駆けつけたコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が驚きの声を上げた。
「ちょうどいい時に! こいつを殺すと元に戻せなくというか、元に戻す薬の在り処がわからなくなるでありますよ!」
 ノヴァの凄惨な笑みにただならぬものを感じて吹雪がコルセアに視線を送った。魔女に接近してきた吹雪にノヴァが反応する。
「お楽しみの邪魔をしないでね! 邪魔するならこの女性の股に刺して抉るけど?」
「やりすぎであります! 出血多量って言葉を知らないでありますか!」
 邪魔をするのなら、と、紅鵡がノヴァを止めようとする二人に機晶ライフルの銃口を向ける。それに気づいた吹雪がグラビティコントロールをどちらに使用するか瞬間程迷った。
 恭也もノヴァを止めようとミイラを押しのける。ここで傷めつけてしまえば痛みに慣れ常闇の拷問器具の効力が落ち必要な情報を引き出せないのではと危惧したからだ。
 魔女の頭上でナノマシン拡散を解除したイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が実態化した。
「我から逃げられると思うなよ〜」
 幾多の触手でもって捉えようとするイングラハムに向かって魔女はカッと大きく目を見開いた。
「あんまりあたしを舐めないでよねぇ〜!」
 魔女の絶叫と共に、轟音を立ててミイラが爆ぜた。