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アガルタ祭開催!

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アガルタ祭開催!

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★第九話「た〜まや〜、と叫ぶ人って本当(リアル)にいるのかなと、小一時間議論したい」★



 街を太陽のごとく照らしていたライトが消え、アガルタの夜が来る。
 街灯と家の明かりのみになった、まさしく地下に輝く星を見下ろし、山葉 加夜(やまは・かや)が感想を上げた。
「わぁっ。綺麗ですね」
「そうだな」
 山葉 涼司(やまは・りょうじ)が同意しながら、加夜によりそう。2人の口からは白い息がもれ、手にした温かい飲み物を両手で包んで暖をとる。
 ここはアガルタのスポットの1つ。展望台。そこから見下ろす街の夜景は、地上では決して見れないもの。空の光が全くないからこそできた幻想的な風景。
(夜中0時にアガルタの夜景を好きな人と見ると、永遠に結ばれるって噂が広がったのも。なんだか分かる気がします)
「あ、野球はお疲れさまでした。今日はゆっくりできましたか?」
「ああ、おかげでな。こんなにのんびりと過ごせたのは久しぶりだぜ。ありがとな、加夜」
「いえ、私は涼司くんが楽しんでくれたのならそれだけで――」

 一瞬、世界が明るくなった。

 早めに待機していたのだが、話しこんでいるうちに花火の時間になったようだ。
 ぱらぱらと落ちてくる花弁は、手を伸ばせば掴めるような錯覚を覚える。思わず加夜が手を伸ばすと、ほぼ同時に涼司も手を伸ばしていて、2人の手がぶつかる。
「あ」
 目が合うと、どちらともなく笑いあう。同じことを考えていたのだと思えば、なんだかおかしく、そして嬉しい。
「ねえ、涼司くん。知ってますか?」
「ん〜?」
「夜中0時に、夜景を一緒に見たカップルは永遠に結ばれるって噂があるそうです」
「へぇ?」
「せっかくなので、0時を待ちませんか?」
 涼司は時計を見る。まだまだ0時には遠いが、加夜の顔を見て涼司は息を吐きだした。
「……しょうがねぇな。ほら」
「きゃっ」
「風邪引かれたら困るからな」
「……ふふ。とても温かいです」
 大切な人に包まれながら見上げた花火は、先ほどまでよりももっと美しいものに見えた。



「きょ、今日はお忙しいのに来ていただいてありがとうございました」
「いや〜、俺の方こそ誘ってくれてありがとう。とっても嬉しいよ」
 仁科 耀助(にしな・ようすけ)と手をつないで歩いていた一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)は、これが現実なんて信じられないと、今まで祭りを一緒に過ごしていたのに思った。

『どうやら、アガルタの街は夜景が素敵なんだそうで……今日、どうやら花火もあるみたいで、その。
 私が、耀助さんと一緒にお祭りに行きたかった。ただ、それだけの事なんです。
 
 もちろん、ご迷惑でなければですが……一緒にアガルタ祭、周って頂けないでしょうか?』

 震える声でそう誘い、OKをもらって、嘘じゃないかと疑って、緊張しすぎで手が震えて。
 あともう一つだけ、と手をつないでくれないかと頼んだ。手から感じる耀助の体温が、今目の前の現実が幻ではないことを悲哀に教えてくれる唯一のものだった。
「あの、今日はすみません。お願いばかりで……ほんと、今日の私は駄目ですね」
「そんなことないよ!」
「でも、その……代わりといってはなんですが、輝助さんが何かして欲しい事がありましたら……言って下さいね?」
 私は何があっても輝助さんの味方でいたい。たとえそのそばに立つのが自分ではなかったとしても、輝助さんが幸せならば、自分はそれでいい。
 悲哀は、震える声で言う。
「困った事があったら遠慮なく言って下さい。
 輝助さんの為でしたら……私はなんでもできると思います。貴方の、お役に立ちたいのです」
 どこまでも真剣で、そして純粋な言葉と真っすぐな瞳に、輝助は嬉しげに笑う。
「ありがとう。君は優しいね」
「そんな、こと」
 輝助の言葉に悲哀は首を横に振る。じっと見つめられて、顔が熱くなる。
 闇の中を上へと向かって伸びていく花の弦が、つぼみから一気に花を咲かせ、2人の頭上で輝いていた。



「どうですか? ジェイダス様」
「ふむ。素晴らしい眺めだ」
 不安と期待に揺れていた師王 アスカ(しおう・あすか)は、振り返った先にあるジェイダスの笑顔に、胸をなでおろした。
 花火がよく見えるその場所には、ほとんど人がいなかった。

『祭り、か。ジェイダス様をお誘いしたいけど、お忙しい方だから時間を作っていただくのは難しいわよね……花火観賞の時間なら大丈夫かしら。できたら急かされずにのんびりと鑑賞したいもんね〜』
 そう考えたアスカは、花火が上がる場所や周囲の地形などを調べ、良い花火の観賞スポットを探していたのだ。

(混みでガヤガヤ〜は好まなさそうだし、と思って穴場を探したんだけど、正解だったみたい)
 花火に照らされる美しい横顔を眺め、アスカは微笑む。それから首元が冷えるだろうと、持ってきたストールをかける。
「失礼します。夜は冷えますから……可愛らしいデザインなのは許してくださいねぇ?」
「構わない。美しいストールだな」
 女性物のストールのはずが、ジェイダスに装着させるとなぜだか様になる。
「でもジェイダス様って花火とは正反対って感じですね〜」
「ん?」
「花火は一瞬の豪華さと消える間際の儚さがありますけど、ジェイダス様は雅な妖艶さとずっと記憶に残る永遠さって感じです」
 だからこそ、アスカは迷っていた。記憶に残る永遠の美と一瞬の儚い美が共演したこの光景を、絵を描けないのが。
 しかし目に焼き付けるだけでは本当にもったいない。アスカは思って、懐からカメラを取り出す。写生用にと持ってきていたのだ。
「あの……一年の思い出を形に残させてくれませんか?」
 ジェイダスはいいだろう、と快く頷いてくれた。


『夏は傍にいませんでしたし、一緒に花火を見られると嬉しいです』
 天音のささやかな願いを、ジェイダスが断ることはなかった。傍に控え、共に花火を見る。
 ジェイダスが楽しげに見ているのに気がつき、1つ提案をしてみる。
「薔薇の学舎の研究はきっと役に立つと思いますが、エネルギー開発局局長でもある理事長のお力で中継基地にエネルギー研究施設を作られたらいかがでしょう」
「ふむ……確かにニルヴァーナ文明が持っていただろうエネルギー技術や、このニルヴァーナの地に眠っているだろう未知の資源には、興味がある。
 機があれば、そちらの事業を進めることもあるだろう」
 またいくつもの花がアガルタの空を染める光景から目を離さず、ジェイダスはそう静かに答えた。



「ルドルフさん! 花火が」
「ああ……これは美しい」
 アガルタの夜空は完全な暗闇に包まれている。その中に一瞬だけ咲き誇る巨大な光の花。ヴィナはルドルフとともにそれを見上げる。
 しばらくは無言で花火を見ていたが、ヴィナがルドルフに尋ねる。
「ねえ、ルドルフさん。今日一日楽しかった? 明日への英気を養えた?」
「……ああ。十分すぎるほどだよ。ありがとう」
「そっか。なら俺もとても嬉しいよ、ルドルフさん」
 光り輝く花弁が、優しく降り注ぐ。



「花火……そっか。もうこの祭りも終わりか」
 唯斗は両手に抱えた荷物を抱え直しながら、感慨深げに花火を見上げる。荷物持ちから解放されると喜ぶべきか……しかしなんだかんだといって、唯斗自身も祭りを楽しめた気はする。
「唯斗。これをあげるでありんす」
「今日は一日ありがとうございました」
 ハイナと房姫からご褒美だ、と渡されたのは丸い球体のついたキーホルダーと、温かいコーヒーを渡される。どこかで見かけたことのあるキャラに見えるが、まあそこは気にしないことにして。
「……一日付き合った褒美がキーホルダーとコーヒー?」
「不満でもありんすか?」
「……おかしいですね。旅のお土産にはキーホルダーが一番とお聞きしたのですが」
「たしかに旅先でキーホルダーは売ってるけども……ま、ありがたく」



「あ、見て見てラドゥ様。花火だよ」
 音が聞こえて窓を見れば、暗闇に負けずに咲き誇る花が見えた。
「見えている」
「気持ちは分かりますが……仕事してくださいね」
「えー、少しぐらい」
「……仕方ないですね。5分だけですよ」
「やった」



「ほんと、聞いていた以上に綺麗ね」
「そうだね……寒くないかい、リリア」
「大丈夫よ。でもなんだか、ロマンティックで綺麗よね。噂が広まるのも分かる気がするわ」
「噂? それは」
「あら知らないの? あのね……この夜景を0時に」



「わっ今の見た? メイリン! めっちゃでかかったな」
「見てるわよ。ちょっと。そろそろお酒飲むの止めたらどう?」
「まだまだいけるって……」
 というか女性陣は全員酒に強そうだ。ルカルカとかも。
「よく言った! じゃあ酒のみ勝負しようぜ」
「えっ? さすがに垂には勝てねーってば」
「おいおい、逃げるのかー?」
「ぐ……やってやろうじゃねぇか! 一番強い酒持ってこいよ」
「キャー、カオル君カッコイイ!」
「きもいから、その声」
 勝負を受けたカオルに飛ぶ野次。その勝負がどうなったかは、
「……馬鹿ね。勝てるわけないでしょ」
「うー、めいりーん」
 梅琳の膝に頭を乗せて倒れているのを見れば、分かるだろう。
「…………」
 エレーネはそんな梅琳の横顔を見る。文句を言いつつも、幸せそうなその顔を見て……かすかに口もとで笑みをかたどった。どこか寂しげでもあったが。
「ご苦労だったな」
 鋭峰の唐突な言葉に、ルカルカは目を瞬き、笑った。
「……たまにはこういう時間も悪くない」
「それは良かった。明日は中継基地の周りを御案内しますね」
「ああ。頼む」
 また花火が上がり、そのたびに歓声も上がる。
「記念に花火をバックに撮影しませんか?」
「賛成!」
 ユーシスの提案に反対意見など出るはずもなく、酔っている人たちもいるはずなのに『無駄に』(?)チームワークを発揮してさっさと並び、各々好きなポーズをとる。
 ちゃっかりなななの隣に並んでいるシャウラへ、スイッチを押して駆け寄りながらぼそりと呟く。
「伊達にプレイボーイだったわけじゃない、と」
「昔の話だってば」
「ゼーさん、ぷれいぼーい?」
「ななな! いやっそれは誤解で」
 慌てて弁明するシャウラ。

 シャウラが弁明しているのとほぼ同じく。
「あれ? メイリンが2人いる?」
「飲み過ぎよ。しっかりし」
 ふらふらしているカオルを支える梅琳に、垂が密かに近付いていた。
「おおっと手が滑ったっ」
「……ひゃっ?」
「おわっ」
 バランスを崩して、カオルの身体が梅琳にもたれかかり、パシャリ。
 カメラが空気を読んだ。



「すっごーい。きれー」
「ええ、ホントに綺麗……あ。えっと、地下の空間だからか、凄く音も響いて迫力があります……」
「伝わるかなー。でもホント綺麗だから、又機会があったら、みんなも来てみてね!」
 理沙はカメラに向かって言い。あとはただ花火を綺麗といってはしゃいだ。もう、それ以外の言葉なと必要なかった。



「聞いていた通り、綺麗な景色ですね」
「中々良いわね」
「でも、環菜の方が綺麗ですけど」
「……馬鹿」
 街を見下ろしながら、陽太は優しく環菜に口づけをした。軽く、触れるだけの口づけを。



「これはまた、すごいな」
 陽一たちもその花火を見上げていた。
「すっごい綺麗」
 隣で感嘆の声を上げる理子へと目をやる。セレスティアーナは、ジークリンデと何か話している。花火についての感想だろう。
「うん。本当に」
 一緒に見ることのできた花火。この日のことは、思い出としてそれぞれの胸に刻込まれたに違いない。



 レン・オズワルドは、酒を手に窓から花火を見上げて目を細めた。
「綺麗ね〜」
「ほんと」
「美味しいものを食べながら花火も見れるなんて……幸せです」
「えっ? まだ食べるの?」
「むしろこれからじゃないかと」
「まじかよ」
 一部のやり取りに苦笑しつつ、レンは思う。
――好きな女性と頼れる仲間たち。そんな大切な人達との思い出を1つ1つ作っていければ。
「どうかしたの? さっきから黙ってるけど」
「……いや。なんでもないさ……それよりフリューネたちも飲まないか?」
(何でもないこんな日常こそ、大事にして行きたいな)



「綺麗なはずなのにな」
 レイスは長い息を吐きながら、街を見下ろす。暗闇に浮かぶ花が、街へと降り注ぐ景色。恋人と見ることができたのなら、どれだけ良かったろう。
「あいつとは、いつ会えるんだろうな? 少し寂しいな」
 1人で見る美しいはずの景色は、ただ寂しさを運んでくる。



「へぇ。思っていた以上にでけぇ花火だな」
 恭也は感嘆の声を上げた。
「ええ、凄いです」
 露店で買い食い、遊び、花火を見る。今日は随分と穏やかな日だった。

「中々、良い一日だったな」

 こうして祭りの夜は更けていく。