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第1章 初心 2

 ジークが仲間にしたのは、何も契約者だけに限ったことではなかった。契約はしているものの、今回は契約者抜きで参加しているという冒険者もいたのだ。御神楽 舞花(みかぐら・まいか)マリオン・フリード(まりおん・ふりーど)がそうだった。
 舞花は御神楽 陽太(みかぐら・ようた)と契約している少女だが、今回は陽太は不在のようだった。契約者とそのパートナーはいつ何時も一緒にいなくてはならないというわけではないらしい。ジークは勉強になった気分だった。
 炎と光。二つの属性を持つ刀を手に、舞花は敵へ斬り込んでいる。巨大な旋風を起こして敵を吹き飛ばし、骨を叩くように砕き切っていく様は、圧巻だった。
「自分の成長のために、戦いたいのよ」舞花は、この仕事に参加する際にそう言っていた。「様々な経験を積むのが、今は大事だから」
 経験? なるほど、そんな考え方もある。実際、ジークにとって今回の仕事は一つの経験だった。同時に、自分は一人でも十分に戦えるのだという証明。そのためには、他の連中に負けるわけにもいかなかった。
 例えば、マリオン。ジークと同様に、今回が初めての実践的な冒険仕事らしい。気合いは十分。右手には義父であり契約者のルイ・フリード(るい・ふりーど)譲りとかいう手甲を嵌めて、動きやすいように薄茶の髪を三つ編みに束ねている。本人は拳を握ってやる気を見せているが、肩や足は震えていた。
「ジ、ジークくんは魔法が得意なんだよね? じゃ、じゃあ、ここはあたしが前に出ないと!」
「余計なことをするな」
「え、ええぇぇ……」
 ジークに一蹴されて、マリオンは肩をおとした。
「俺は一人でやる。お前も、自分の実力を試したいなら一人でやれ。間違っても、邪魔なんてするなよ」
「そんなぁ。義父さんは言ってましたよ! 冒険はみんなで協力し合ってするものだって!」
「そんなものは弱い奴がすることだ。違うか?」
 マリオンはジークをにらんだ。
「そんなことないです! それがきっと、強いってことなんですよ!」
「だったら、一人でだってやれる。そいつが、本当に強いやつならな」
 ジークは言い捨てるようにして、敵へと向かっていこうとした。そのとき、背後で衝撃波が起こる。塊になった闘気が敵を吹き飛ばして起こった衝撃波だった。すぐ足元では、複数の骸骨たちが燃え尽きている。どうやら、背後からマリオンたちに迫ろうとしていたようだった。
「な、なにが起こったの?」
 マリオンは面食らう。だが、ジークは曲がり角にささっと隠れる見知らぬ影に気づいていた。巨体だ。しかも一瞬だけしか見えなかったが、ぴかーっと光ったツルピカ頭だった。マリオンに聞いていた義父とやらの特徴と、見事に一致していた。
「気にするな。さっさと始末するぞ」
「う、うん」
 ジークとマリオンは別れ、戦いに戻った。

 アンデット退治。そんな風に聞いていた。緋王 輝夜(ひおう・かぐや)はそのために、もしかしたらあの人がいるのでは、と思った。
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)。逃げ出した魔術研究員。かつてイルミンスールの研究機関にいた。輝夜の契約者だ。今はどこにいるか、何をしているか、輝夜たちにも分からなかった。だから、行方を追っている。怪物と化したエッツェルのことだ。アンデット事件に関わりがあってもおかしくないと思ったが、どうやら、当てが外れたみたいだ。
「姉君……なに、……ぼーっと……して……るの?」
 足元で、巨大な戦斧をかついだ少女が言った。子どものような外見だが、人間ではない。魔鎧と呼ばれる、意思を持ち、かつ、人型になることも出来る少女。ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)という名前の、呪いの鎧だった。
「いや、エッツェルはやっぱりいないなぁって思ってね」
「まだ……わからない……んじゃ……ないの?」
「わかるよ、ネームレス。あいつがいたら、あたしたちには分かる。なぜか知らないけどね。契約者の絆ってやつかも」
 感じるはず。エッツェルがいたなら。だけど、心は何も伝えないし、何も教えてくれない。ネームレスもゆっくりうなずいた。
「いない。我にも……わか……る」
 ネームレスの傍にいた、四匹の龍が同意するように吠えた。龍といっても、瘴気で出来た龍だ。これといった正確な形を持たない。黒い霧のような四つの異形の影が、かろうじて龍のような姿をとって、鳴き声をあげているように見えた。
 爆発音が鳴った。ミサイルやライフルの弾丸が、骸骨兵たちを次々と倒していく。銃弾を撃ち込んでいたのは、巨大なロボットの姿をした機晶姫のアーマード レッド(あーまーど・れっど)だった。
 レッドはさらに、輝夜が倒した骨たちを容赦なく踏み、地面に押し潰していた。まるで標本みたいだ。輝夜はケタケタと笑った。
「いいじゃん、レッド。さすがだね」
「標的――スケルトン――殲滅率――七六%」
「もうそろそろか。門番にしちゃあ数が多いけど、どうしてかね」
「復活……してる……やつも……いる」
 ネームレスが粉々になった骨を指さした。ふわふわと浮き上がった骨が、まるで時間を巻き戻すかのように集まって、兵士に戻っていた。
「骸骨王の魔力が成せる技かね。めんどくさ」
 輝夜は頭をかいた。
「レッド、あんたはここで動くなよ! そのでかい図体じゃ、邪魔になるからね!」
「――了解」
 レッドをその場に待機させて、輝夜は飛び出す。ネームレスと一緒に、次々と骸骨兵たちの粉砕にかかった。