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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

リアクション

 同日 教導団本校 データ室

「一度解決した事件ってな、こういうもんなのかね」
 データ室の端末前で裏椿 理王(うらつばき・りおう)は呟いた。
 相棒である桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)とともにデータ室に籠って調査していた理王だったが、なかなか有益な情報は出ていなかった。
「エッシェンバッハ・インダストリーか……」
 その企業に関するデータを引き出し、会社のロゴマークをしばらくじっと眺め、関連があるかは不明だが、代表者の経歴、そのロゴマークを持つ建物や商品、何らかのコミュニティーがないか調べてはみたものの、出てきたのは既に一般人が知っている程度のものだった。
 曰く、ドイツに本拠地を置く重工業の老舗。
 曰く、代表者は創業者一族の息子から息子へと継がれていく。
 曰く、最近、イコン産業への参入を試みていた。
 出てきた情報はその程度のものだった。
 どうやら、相手側のガードもそう甘くはないようだ。
 またイリーナからの話にあった『サークル』の存在とその構成メンバーが特定できないか各学校のイコン開発に関わった団体やサークルに関するデータも理王は調べてみた。
「武術にも秀でた優秀なイコンパイロットはそうざらには居ないだろう……」
 だが、『武術にも秀でた優秀なイコンパイロット』はおろか、サークルそのものに関する情報もなかなかキャッチできていないのが現状だった。
 そもそも、カバーストーリーであるとはいえ、一度終結を見ている事件である為か、情報の幾つかがそれほど大事に保存されていないのも大きい。
「せめて未解決の事件ならよぉ」
 欠伸を噛み殺しながらキーを叩き、マウスを動かしていた理王はふとある記事に目を止める。
「ん……?」
 理王が目を止めたのは、とある声優の行方不明事件だった。
 正確には行方不明事件とは少し違うが。
 今まで調べていた『偽りの大敵事件』関連――といっても、関連度は低いと判断されたカテゴリに振り分けられていたトピックに偶然気付いた理王はふとした興味で、そこにアーカイブされたニュース記事に目を通していく。
 そのニュース記事とは、一人の声優……正確にいえばその遺体が行方不明だというものだった。
 かつて『偽りの大敵事件』があった日、会場に来ていたとある声優が事件に巻き込まれた。
 これだけならば痛ましい事件で済む所だが、後日、再三再四に渡る捜査が行われたにも関わらず、現場からは遺体が発見されなかったというものだ。
 ゆえに、死亡ではなく行方不明。
 記事を読んでいた時、突如として理王のモニターにテキストがポップアップする。
 理王がその記事を見ているのに気付いた屍鬼乃がメッセージをタイプしてきたのだ。
『あー、それ一文字理沙だね』
 すぐ近くにいるにも関わらずテキストタイプによる筆談という手段を選ぶ屍鬼乃にも慣れたのか、理王は普通に返す。
「一文字理沙ぁ?」
『もしかして知らないの? 当時、結構ブレイクしてたのに?』
「悪うございましたね。流行遅れで。で、その一文字理沙とやらはどんな人物なんだ?」
『本人もかなり熱心なアニメ好きを謳ってて、しかも人気取りの為のポーズとかじゃなく、本当に好きだっていうことからファンの好感度も高かった声優さんだね。もっとも、本人は声優志向だったけど、ルックスやスタイルも良かったから事務所としてはアイドル的な売り方をしてたみたいだけど。だから演じたキャラクター名義じゃなくて、本人名義のCDも割と早い段階から出てるよ』
「随分詳しいな」
『実はさっき私も同じ記事に気が付いてね。少し気になって検索エンジンで調べてみたんだよ」
「そうか。続けてくれ」
『で、それが高じてテレビにも顔出し出演とかぽちぽちするようになったみたいで、しかも更に高じてモデルやグラビアの仕事もやってたみたい』
 テキストタイプで喋りながら、屍鬼乃は『一文字理沙』の画像を理王のモニターに送った。
 屍鬼乃の言う通り、モデルやグラビアの仕事をやっていたということもあって、少し画像検索するだけで『一文字理沙』の画像は驚くほど沢山出てくる。
 適当に一枚をピックアップした理王は、サムネイルから全画面表示に切り替えてみる。
 どうやらテレビガイドの表紙らしく、書名のロゴと一緒にショートヘアの髪型と、良く言えば開放感のある、率直に言えば露出度の高い服装をした少女が写っている。
 トップスは、もはやノースリーブに近いような短い袖で、バストがかろうじて覆えるほどの丈しかないTシャツ。
 そのTシャツは裾から伸びたクリップ付のベルト――サスペンダーを思わせるパーツでミニスカートに繋がっているようだ。
 更にはミニスカートも同様のパーツでロングブーツの裾と繋がっており、そうした構造がただでさえ露出度の高いコーディネートをより扇情的にしている。
『で、件のエッシェンバッハ・インダストリーがイコン業界に参入するのに合わせて、この会社と日本のアニメ会社がタイアップしてイコンを題材にしたテレビアニメを作るとかで、彼女はこのアニメのヒロイン役と主題歌を歌うアーティストに選ばれてたから、当日は会場にライブをやる為に来てたわけだね』
「なるほどな。こんな関連性があったのか」
 屍鬼乃に返事をしつつ、理王はふとした気まぐれから、音楽の配信サイトを開き、そこの検索バーに『一文字理沙』の名前を入力する。
 ほどなくして、それなりの数の楽曲が表示され、理王は取りあえず一番上に表示された楽曲をクリックしてみる。
 次の瞬間、爆音のごとし大音量で激しいアップテンポのダンスチューンが流れだす。
 もともと、端末の音量設定が高めだったのと、この楽曲自体が激しい音で演奏されている為だろう。データ室は一瞬にして騒々しくなる。
 二人の他に誰もいなかったから良かったが、それでも慌てたように理王は停止ボタンをクリックする。
 ふと人心地付いて、理王は何かひっかかるものを覚えていた。
「この曲……どっかで聞いたことあるんだよなぁ」
『ああ、この曲はね。十年以上前に民放で放送されたロボットアニメの主題歌だよ。作品そのものはもちろん、主題歌もかなりの人気を博したとかで、後年になってもアニメ関連の企画とかでカバーされて続けてるんだ。そして、一文字理沙もそれをカバー人の一人だよ』
「やっぱりお前詳しいな。実はファンだろ?」
『フリーの百科事典に書いてあったことだけどね。そっちこそ、この曲を聞いたことがあるってことは、それなりのアニメファンなんじゃないの?』
 冗談めかして聞く屍鬼乃。
 だが、理王は未だ違和感を拭えないようだった。