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【ダークサイズ】未来から来た青年

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【ダークサイズ】未来から来た青年

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 ダークサイズが行動を起こせば、正義を名乗る向日葵達が邪魔をしに来るのはいつものこと。
 ダークサイズ側も、今回イコン開発という気合いの入った事業のため、妨害への警戒はいつも以上に強いようだ。

「来たな。魔女っ子サンフラワー」

 相沢 洋(あいざわ・ひろし)は、表から遺跡へと何者かが降りてくる気配を感じ、【パワードアーマー】を向けて向日葵たちの前に立ちはだかった。
 洋もそれなりの準備で警戒を買って出たが、魔女っ子サンフラワーちゃんとなった向日葵たちの雰囲気に、

(ほう、今までとは少し違うようだな……)

 と、瞳に鋭さを増すと同時に口元には薄い笑みを浮かべた。

「性懲りもなく、私たちの計画を邪魔しに来たか。魔女っ子サンフラワー」

 まずは洋の一声。
 向日葵も負けじと、

「魔女っ子サンフラワーちゃん! 燦々サンフラパワーでダークサイズの暗闇をきれいさっぱりアレしてやるわ!」

 といつの間にかすっかりその気だが、まだ決め台詞があやふやだ。

「正義の魔法少女、ユーワームーンも! え〜っと……が、がんばりますっ」

 ユーワームーンこと結和も、台詞が思いつかないながらも頑張ってポーズをとった。
 洋は飛びあがって岩場の上に着地して、宣言する。

「なるほど! いいだろう、サンフラワーとやら! 貴様らの心意気は見せてもらった。だが、我らダークサイズの力を甘く見てもらっては困る」

 彼の言葉を合図に、後ろから複数の影が飛び上がった。

「!?」

 チームサンフラの面々が、反射的に身構える。
 その影たちの数は4つ。彼らは中空でくるりと回転すると、洋を囲むようにして岩の上に着地した。
 洋を含めた5人は向日葵たちを見下ろして、声を揃える。

「我々は! チームサンフラを止める命を帯びし、特命部隊ッ!」
『DS5天王!!』
「DS……5天王……!」

 ひなげしが息を飲みながら復唱した。

「DS5天王ですよー! 本物ですよー!」

 清明の興奮を見るあたり、彼らもアニメに登場しているらしい。

「ご、5天王? 四天王じゃないの?」

 向日葵がつぶやくと、

「貴様らを警戒すると立候補したのが5人だったからな」

 と、洋が説明してくれた。
 洋の隣では大佐が手を振っている。

「やあ、さっきはどうも」
「あんたも5天王だったの!?」

 向日葵が大佐を指さして叫んだ。
 洋が一歩進み出る。

「この遺跡にいる限り、貴様らは我ら5天王の攻撃におびえ続けるとこになるのだ。そしてまずは!」

 洋が飛び上がると、残りの4人も飛び上がり、遺跡中へと散ってゆく。
 そして、洋のみが向日葵たちの前に降り立ち、

「DS5天王の一人、相沢洋がお相手する」

 魔女っ子サンフラワーと魔法少女ユーワームーンの誕生に喜んだのもつかの間、ダークサイズは新たな関門を用意して立ちはだかる。
 沈黙を破ったのは洋。

「ところで、今日は貴様の息子が来ていると聞いたが?」

 と、洋がチームサンフラの面々を見渡すと、ひなげしが進み出て洋を指さす。

「未来の母さんに聞いたぞ。何でもシャンバラ教導団に属しているくせに、ダークサイズにも加担している相沢洋!
あんたみたいなやつがいるから、ダークサイズは調子に乗る一方なんだ!」

 ひなげしは洋を糾弾するが、対する洋もひなげしの言葉を鼻で笑う。

「ふん。未来ではどうか知らんが、ダークサイズは現在非合法な活動は行っておらん。
ダークサイズが施設したフレイムタンのリニアモーターカーを見ろ。
あれは間違いなく、未来のニルヴァーナでも役立っているに違いない」
「うっ……」
「たとえ悪の秘密結社であろうとも、法を守っている限り教導団としては保護対象だ。
貴様は法の番人の教導団に、法を逸脱した行動をとれというのか? ダークサイズのために、教導団そのものの立場を危うくしろと言うのか?」

 さすがシャンバラ教導団の洋である。
 彼に遵法の視点から語らせると、ひなげしはぐうの音も出ない。
 さらに、洋の攻めどころはそれに留まらない。

「そうそう、サンフラワー。法と言えば大事な話がある。貴様らによるダークサイズへの大量殺戮未遂事案。覚えているかな?」
「え? 何それ! あたしがそんなことするわけ……」

 向日葵は、とんだ言いがかりだと反論しようとして、ハッと口をつぐむ。
 洋は一気に責め立てる。

「思い出したようだな。そうだ。私たちが初めてニルヴァーナに向かう際、貴様は蒼空の城ラピュマルの空気供給を絶ち、
ダイソウトウ閣下はおろか全ての幹部を殺害しかけたのだ。危うく全員宇宙で窒息死だぞ? 法で言えば殺人未遂の上、あれはかなりエグい殺害方法だ。
あんな手段を使う癖に、よく正義の味方を名乗れるな」

 彼が言葉を続けるに従って、向日葵のこめかみからは冷汗が流れ落ちて来た。

「いや、ちが、あれは……」

 できたての魔法少女は最初の難敵に後ずさりし、そのままひなげしに身体をぶつける。
 ひなげしは向日葵の肩を抱き、

「か、母さんをいじめるな!」

 と、彼女の身体を後ろに引いて自分が前に出る。
 すると今度は乃木坂 みと(のぎさか・みと)が立ちはだかり、

「まあ、貴公が噂のひなげしですのね?」

 と、優しそうな言葉と物腰と、上目遣いで近づいていく。
 青年とはいえ、ひなげしも美女に迫られると思わず顔を赤らめて顔をそむける。
 みとはクスリと笑い、

「英語ではシャーレイポピーですから、サンフラちゃんに倣ってポーちゃんとお呼びした方がよろしいかしら?」
「や、やめろ!」
「ひなげしと言えば、花言葉はいたわり、思いやり、陽気な優しさ、忍耐に、そして妄想に……恋の予感。
なるほど、貴公がこの時代にいらしたのは、お父様とお母様の恋を予感させるためでしたのね」
「な、何言ってるんだ」

 ひなげしの言う通り、みとの言うことは良く分からない。
 ただ、彼女の話を聞くほどに、妙な予感が当たりを包み始める。

「となるとポーちゃんの年齢と、写真に写る大総統とファーストクイーン、そしてこのイコンの製造能力から逆算すると……
まぁ、サンフラワー。来年にも出産しないと、未来にひずみが生まれてしまいますわよ?」
「えーっ! そんな切羽詰まってるのー?」

 この青年ひなげしの年齢は二十歳前後といったところか。
 彼はまだ語っていないが、みとの言う通り写真から逆算して推察するに、ひなげしは20年ほど未来からやってきた計算になる。
 となると、向日葵は来年にはひなげしを出産しておかないと、未来のひなげしはこの危機を伝えに今の時代にやって来ない計算になる、というのがみとの仮説。

「そりゃ大変だぜ! おいおっぱい(向日葵)、今すぐ俺様と式挙げて初夜を済ませないとだ……ぎゃーっ!」

 振りむきもせずゲブーを殴り飛ばし、向日葵はひなげしに駆け寄る。

「ひ、ひなげしくん! 何でこんなギリギリの時代に飛んできたのよー?」
「甘いな向日葵さん。未来からの青年が、そんなヨユー持って飛んでくると思うか? ありえねーぜ」

 向日葵がひなげしに問いただしている所に、今度は弥涼 総司(いすず・そうじ)がやってきた。

「普通なら自分の誕生が確定してから来るだろ。なんせ変な影響及ぼして、自分が生まれねーのが一番あぶねえからな。
こいつは早く来た方だぜ。そうだよな、秋野、えーっとパンツ君」
「おいなんだそのかすりもしない名前は」

 総司が自分を妙な名前で呼ぶのを、ひなげしは思わず言い返した。
 総司は掌を額に当て、

「あーすまない。野郎の名前は基本的に覚えねーもんでね。未来から来たってことで下着と混同しちまって」
「どうやったら未来と下着を混同するんだよ……」
「いやー、母親が向日葵だもんな。花にはとんと疎くてね。えっと……そう! 秋野ひなンクス君」
「おいやめろ!」

 ひなげしが変な連想を予防するように、総司の口を塞ぐ。

「どうでもいいが総司。貴様イコンの発掘作業は手伝わんでいいのか?」
「あ、総司は5天王じゃないんだ……」

 誰かが言った。
 相変わらずふらふらしている総司に洋が注意するが、総司はお構いなし。

「オレそういう面倒なこと向いてねーしさ。それより未来がどんな感じになってるのか、ひなンクスに聞きてーし」
「ひなンクス言うのやめろって!」
「なあなあ、未来のニルヴァーナってどうなってんの? 17号とか18号とかいんの? どうなのひなンクス」
「いないよ! あんたの世界観どうなってんだ。ひなンクスやめろって!」

 総司の勝手なネーミングには、みとも腰に手を当てる。

「そうですわ。彼にはすでに、ポーちゃんという立派なあだ名があるんですよ?」
「いや、ポーちゃんも辞めてほしいんだが……」

 ひなげしが脱力気味にみとに言う。
 そして、ひなげしの未来の隣人が腕を組んでため息をつく。

「ホントですよ。マンガと現実をごっちゃにしないでもらいたいものです。ね、ポーちゃん」
「清明! お前もか!」

 一方の総司は名前いじりに早くも飽きたのか、

「んで? お前来年生まれなきゃいけねーんだよな? てことはダークサイズ含め、この中に父親がいるってわけだ。誰なんだよ?」

 と、身も蓋もなくひなげしに聞く。
 ひなげしはため息をつき、

「さっきあんた自分で言ってただろ。俺が父さんの名前をばらしたら、気まずくなって俺が生まれなくなるかもしれない。
だから父さんの名前を言うわけにはいかないんだよ」
「そうなのかよ。つまんねーなー」
「逆に考えるんだぜ! ひなげしさえ生まれれば父親は誰だってかまわねー。おっぱい(向日葵)、今すぐ初夜ぎゃー!」
「ポーちゃん、見れば見るほど、大総統の面影がありますわね。渋い大人になりそうですわ」
「ええー……ダイソウトウは勘弁してほしい……」
「まあ向日葵。引きのリアクションなんて斬新ですわ」

 清明やらゲブーやらみとまで合流してひなげしに絡むのを見て、放っておいたらいつまでもこのくだりが続きそうだと思ったコア。

「今日来たのは他でもない。ダークサイズのイコン獲得を止めるためだ。覚悟してもらうぞ」

 と、堂々と宣言する。
 洋はようやくまともな敵と話ができると思い、

「ならば、私たちは全力で止めるのみ」
「ところで、先ほどの洋様のお言葉、お忘れではありませんね? 以上」

 洋の後ろからエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)が姿を見せる。

「大量殺人未遂を実行してしまう以上、ダークサイズなどより問題はあなたがたチームサンフラなのですよ。
確かに正義とは力を持つ者が決める傾向にあるのは理。なれどその力を虐殺に向かわせるのは、その時点で悪と断ぜざるを得ません。以上」

 エリスが『以上』と言葉を締めたのを見て、ひなげしが口を開く。

「あんたたちのような悪を止めるためには……」
「今やチームサンフラは」
「あ、話続くのか……」
「ダークサイズ以上の悪たる存在なのかもしれません。以上」

 ひなげしの話の途中でエリスの話が続き、今度こそ以上と締めたのでひなげしのターン。

「悪を止めるための力は……」
「最悪の場合」
「あ、まだ続きあるのか……」
「空京放送局筆頭株主への名誉棄損、並びに威力業務妨害への損害賠償を求めて、法廷で争う必要も出てきます。以上」
「……(話終わったかな、よし)あの……」
「この提案は空京放送局局長、およびダイソウトウ様、洋様はじめダークサイズ幹部のお歴々に提案いたします。以上」
「いちいち以上って言うのやめてくれないかな! ややこしいから!」

 エリスがひなげしを翻弄しつつ、過去のチームサンフラによる殺人未遂に言及しようとするが、コアたちの口元には余裕の笑みが浮かぶ。

「何か勘違いしているようだが……私たちはイコン発掘を手伝いに来ただけなのだが?」
「何っ」

 コアの言葉に、洋が思わずのけぞった。
 さらに永谷が言う。

「結果的に死者は出なかったが、それをネタにいつまでもつつかれては埒が明かない。
それにそんなみみっちい戦いを続けるのは、軍人であるお前もつまらないだろう?」
「……」
「だから発掘は全面的に協力する。それでこの件はチャラだ。どうだ?」
「むむ……」

 過去の罪の清算、さらに軍人としてのプライドをくすぐられた洋は、

「……いいだろう……」

 と、制止するわけにはいかなくなった。
 この流れを見ていた相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)

「……あー、なるほどそういうことか! これがダークサイズのニルヴァーナ統治500年の礎になるわけかー」

 ひなげしよりはるか先の未来、500年後からやってきたという洋孝。

「ええー、ダークサイズの支配って、500年も続くんですかー?」

 結和が思わず声を上げる。
 洋孝はこくりと頷き、

「第十代大総統の統治下では、ダークサイズは最大の支援勢力になってるよ。教導団を支援してくれるほどの大きくて優秀な組織にね。
この時代に造られたダークサイズイコンの初号機。それの後継機は陸戦の王者と言っていいね。
治安維持には最高のパフォーマンスになってるよ」
「す、すごいー」

 遠い未来では征服どころか平和と安定に寄与しているという洋孝。
 結和は感心して、

「うーん、確かにダイソウトウさんがニルヴァーナを治めたら、逆に平和が続くような気も……」

 と呟いていると、コアが後ろからぽつりと言う。

「ユーワームーン。お前どっちの味方だ……」
「はわ! ちちち、違うんですー」

 向日葵は永谷や小次郎に耳打ちしている。

「ね、ねえ。協力とか言っちゃって大丈夫なの……?」
「大丈夫です。協力はあくまで、表向きの方便にすぎません。作戦自体は変わらずです」
「ああ、イコン発掘までは手伝うつもりだったし、肝心なのはその後のイコン奪取にこぎつけることだ」
「な、なるほど」

 ともあれ、洋の理論攻撃をくぐりぬけた(?)チームサンフラ。

「よーしみんな! 全力で古代のイコンを発掘してみせるぞ! 言っておくが、傷をつけぬよう慎重にな!
サンフラだろうがダークサイズだろうが、ケンカせずに一致協力して、立派な発掘作業にしてやろうじゃないか!」

 と、意気揚々と遺跡の奥へと進んでいくコア。
 気合い満点のその後ろ姿を見送りながら、ラブがひなげしに耳打ちする。

「言っとくけど、あいつ真面目バカだからね。たぶんもうあいつの頭ん中、発掘しかないから」
「え、大丈夫なのか……?」
「さあ? ダークサイズに良いように利用されなきゃいいけど。
さてと、向日葵。あんた空京放送局のクビがかかってるんでしょ? あたしが一緒にスクープ写真の手伝いしてあげるわ」

 と、ラブは向日葵の手を引っ張って、飛んでいく。