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リアクション
【ホール】
「わーSAYUMINも着てたんだぁ!」
客入れ前の緊張の時間に遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)から唐突な洗礼を受けて、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は肩から崩れ落ちる思いだった。
「ひ、寿子ちゃん、ここではコスネームじゃなくて本名でお願いね」
「ああごめんねぇついつい。
それより……さゆみちゃんもやっぱり冬の祭典で?」
「その通りですわ。さゆみは何時も衣装にお金を使いすぎですのよ」
少々あきれを含んだ声で、さゆみの恋人のアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が口を挟んだ。
「それは分かってるんだけど、今回のジャンルだけはどうしても妥協出来なかったの!
……まあだからって高い布使い過ぎたのは事実よね」
「分かりますよ。あ、コスの事はそんな詳しくないですけど、さゆみさんの着てたあのジャンルだと安い布だと……」
「はいはい楽しいお話はその位にして。
お客様、あと三分でいらっしゃるからね」
詩穂に肩をたたかれて、寿子は手を振って配置へ付いた。
「や、やっぱりイベントがあるとお店って混むのかしら」
入り口に向かってアデリーヌは唇を噛む。
そんなに緊張するのなら、頑張らなくてもいいのに。とさゆみは思うのだが、今回アデリーヌはそこを譲らなかった。
今までもこういったアルバイトの経験は有ったが、元来の引っ込み思案な性格が邪魔して失敗してしまっていた。
(けれどいつまでもそうやって苦手だからと甘えていてはいけませんわね)
アデリーヌは意を決して、笑顔を口元に笑顔を称えた。
「いらっしゃいませ!」
*
【会場】
「解体ショーご覧の方はこちらです」
「中からでもご覧頂けますが鮪料理のみご注文のお客様は――」
真と壮太が入り口で客を捌いている。それを聞きながらある一行が歩みを進めていった。
「ふむ、解体ショーはこのテントの方か」
眉間に皺を刻んだまま難しい顔で入って行くのは夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)。
「うわーっ! もうこんなにお席が埋まってるよ!」
「待った甲斐があるといいのだが」
ルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)が草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)の服の裾を感嘆の声を上げながら引っ張っている。
そして三人の後ろで、げっそりしているのはオリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)だ。
「もう限界だ。オイラの腹が死じまう」
四人が着席したのを確認すると、テーブルの担当者のさゆみが挨拶を始める。
「五分後にショーがスタートします。
鮪料理はショー開始から5分〜10分程でご注文を頂く形になりますので――」
「って事はまだ食べられないのかぁ!?」
「これを機会にそなたは少し待つことを覚えた方がよさそうじゃ」
「しかしおまえ、このままじゃオイラ腹が……」
オリバーと羽純のやりとりに、さゆみは失礼にならない程度に口元を歪ませて答える。
「通常メニューでしたらすぐにご注文頂けますよ。
こちらの野菜炒め定食やソース焼きそば定食、丼ものでしたら提供までの時間がそれ程かかりませんし」
「じゃあそいつを全部頼むぜ」
「……全部で、宜しいんですか?」
「その定食と丼もの全部だ」
目を白黒させているさゆみに、ルルゥが笑いながら言う。
「大丈夫だよ、オリバーはね、お腹すっごいの。そのあとに鮪もぜーんぶ食べられちゃうから!」
「ビュッフェ形式の食事を全部一人で平らげる男だ。問題ない」
甚五郎の言葉を受けて、さゆみは注文の復唱を始めた。
注文を終えたさゆみの元へ、アデリーヌがやってくる。
どうやら彼女も一仕事終えたようで、解体ショーのステージ前に
白波 理沙(しらなみ・りさ)とチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)、ランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)の三人を案内し終わったところらしい。
「凄い注文の量でしたわね。
でも流石さゆみ、上手にお客様を誘導しているんですもの」
「メイドカフェとか他のバイトで鍛えられたからね。
割烹着を着るのは初めだけど。これはこれで新鮮でいいかな?
今日はショーが見れなくてちょっと残念だけど、一緒に頑張りましょ!」
「ええ」
答えるアデリーヌははじめのぎこちない笑顔と違って柔らかく微笑んでいる。
(もう心配なさそうね)
さゆみは大量の注文伝えるべく厨房へ入っていった。
*
友人の顔を客席に見止めて、ジゼルはあるテーブルに駆け寄った。
「皆きてくれたのね、ありがとう!」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)、リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)はジゼルの友人だった。
「美味しい食べもののあるところ、オイラは必ず現れるのにゃ!
だってオイラ育ち盛りのただいま10歳! 食べ盛りの食欲は抑えられないのにゅん!」
「ふふふ、そうね。
すっごく美味しいマグロづくしと聞けば誰でも食べたくなっちゃうわ。
それにジゼルちゃんが働いているお店だし」
クマラとリリアがやりとりをする横で、エースはジゼルにこっそり耳打ちする。
「マグロフェアの広告を握り締めて行きたい行きたいと騒いでいたんだよ。
でも自分だけじゃ連れて行ってもらえないと踏んだのか、リリアに「ジゼルちゃんがバイトしてるお店なんだって」ってね。
クマラもだんだん頭を使うようになってきたよ」
隠れて笑いあうエースとジゼルに、クマラは頬を膨らませる。
「あ、ジゼルちゃんに変なこと教えてないよね!?」
「なんでもないわよ。ね、エース」
「ねぇジゼルちゃん、私マグロの解体ってはじめてみるの。すっごく興味があるわ。
だってわくわくするでしょ。あの巨大な包丁とか!
効果的な肉の捌き方とか!
色々生活に役立つ技が一杯よ」
クマラとは違った方向へ目を輝かせているリリアに、エースは釘をさしてみた。
「リリア、君の解体ショーへの興味って、食材を捌くのを見るというよりも
むしろ戦闘時の敵攻撃を想定していないか?」
「あらいやだ。でも効果的に倒せるじゃない」
リリアの話しを聞きながら、ジゼルは笑って物騒な事を話し出していた。
「うーんでもねエース、案外リリアの言うとおりかもしれないわよ。
今日のパラミタオオマグロ、余りにも巨大すぎるから皆「自分のもの」を持ってきてもらったの。
あ。消毒とか、その辺はちゃんと済ませてあるから安心してね」
*
「いーえーい」「イェイ」
少々テンポがズレているような両手のハイタッチでジゼルと挨拶をしていたのは次百 姫星(つぐもも・きらら)だ。
普段はジゼルと同じく貧乏キャラが板についている彼女だが、今日はアルバイトが休みな上、少々お金にも余裕がある。
「なら、行くしかないです!」と財布を握り締めやってきたのだ。
「ジゼルさんこんにちは〜! マグロと聞いてお腹空かせてきましたよ。
あのステージの上のシートがかかっているのが例の?」
ジゼルが頷くのを見て、姫星は目を耀かせた。
「うわぁ、あんな大きさのマグロ。中々お目にかかれませんよ。
楽しみですね〜、ふふふのふ〜
……あれ?
そういえばオバちゃんの姿が見えませんね?」
「女将さん、腰を痛めちゃって休んでるのよ」
「えっ、ギックリ?
あらま、それはお大事にです」
「ありがとう。
実はこれを機会にしっかり休んで貰うつもりで、明後日から暫く改装もかねてお休みになるの」
「そうなんですか。ちょっと寂しいですけど、復活に期待して――
今日は休みの間の分も一杯食べますね!」
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