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リアクション
「う……む?」
ばつん、と何かスイッチが入る音とともに柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)はいきなりまぶたを照らす強い光に目を醒ました。
刺す様なライトの明かりに、彼は眼を瞬かせる。
「あん……俺、なんでここに?」
必死に記憶を呼び戻そうとするが、
「たしか牧場を散歩していたら、急に真上が真っ暗になって……」
そこから先の記憶をなぜか思い出すことができない。
致し方なく彼は体を起こそうとした。
しかしがちり、と音と共に地面に引きとめられて起き上がれない。
「な、なんだこりゃ!?」
ここで彼は始めて彼の置かれた状況に気づいたのであった。
彼の四肢はベルトによってベットに縛りつけらている。周囲にある物は一面銀色に輝いており、それはまるで……、
「宇宙船みたいじゃねえか……」
「コレガアタラシイジッケンタイカ」
「!?だ、誰だ!」
ベットのすぐ傍から不気味な声があがる。
恭也は首を巡らしてみた。
そこにいたのは全身銀色に輝き、小人のような姿の人影。
「げっ、宇宙人!?」
彼は黒く大きい瞳をくりくり、と動かすと恭也に語りかけた。
「ソ〜ノ〜ト〜オ〜リ〜。ワ〜レ〜ワ〜レ〜ハ〜ウ〜チュ〜ウ〜ジ〜ン〜ダ〜」
「……はぁ?」
喉をとんとん、と叩きながら喋るその様子に彼は一気に脱力した。
「ワ〜レ〜ワ〜レ〜ハ〜ウ〜チュ〜ウ〜ジ〜ン〜ダ〜」
そのポータラカ人はもう一度、今度はわかり易いようにはっきりと言った。
「……いや、お前よく見たらポータラカ人じゃねえか」
さすがに恭也もあまりの事に落ち着きを取り戻しつつある。
「っていうか、テメェいきなり何してくれてんだゴラァ!?いきなりUFOっぽいもんで誘拐しやがって!」
彼の記憶は気を失う直前まで鮮明に甦っていた。
そう、たまたま牧場の近くを通りかかった恭也はポータラカ人たちに目を付けらたのである。
そして宇宙人に物理的にキャトられた彼は、こうして実験体のようにベットに貼り付けられたのであった。
「つーか、何でこんなベットに磔にされてんだよ!?何する気だテメェ!」
「シュ〜ジュ〜ツ〜ス〜ル〜」
ポータラカ人は恭也の叫びにも怖気ず、ゆったりと答えた。
「は?」
「カ〜イ〜ゾ〜ウ〜、シュ〜ジュ〜ツ〜ス〜ル〜」
銀色のポータラカ人はそう言うと、UFOの荷物入れから様々な道具を取り出した。
それは丸ノコ、ドリル、果ては電動ドリルまで……。
「ちょ、ちょっとまて!まさかテメェ、俺をバッタのバイク乗りみたいにするつもりか!?」
銀色の首がこくり、と縦に動く。
「あ、阿呆かテメェ!何考えてやがる!?」
恭也はポータラカ人達の手から逃れようと、必死にベルトを引っ張り出すのであった。
「最近は道具使って変身するのが主流で、改造手術って初期じゃねぇか!それについ最近のは魔法で……」
ちゅいーん、と。
ポータラカ人がもつ電動ノコギリが唸り声をあげた。
「お、おい、やめろ!何で機材を起動させて……ちょ、話せばわかる!」
「モ〜ン〜ド〜ム〜ヨ〜」
「どこの海軍将校だこのやろ、マジやめろポータラカ!ぶっ飛ばすぞー!」
ポータラカ人の魔手が、今にも恭也に襲い掛かろうとしていた。
その瞬間、
「おわぁ!?」
彼等の乗るポータラカUFOが大きく揺れ動いた。
そしてUFOの側面からまるで突き刺さるように軍用バイクのホイールが恭也の眼に入った。
「おいあんた、大丈夫かい?」
バイクの上から体をねじ込むようにしてUFOの中に入る湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)。
彼は恭也の体を縛るベルトを素早く取り除くと、傍にいる銀色のポータラカ人の頭を叩いた。
「まったく……遊びたいなら他所でやれ!ミステリーサークルとか地上絵とかやられる側は迷惑でしかねぇんだぞ!?」
「ェ〜」
小さく不満の声をあげるポータラカ人の頭を彼はもう一度叩いた。
「はぁ……それ以上文句言うなら剥製にして売り飛ばすぜ、ったく……おい、立てるか?」
「ああ、すまねぇ」
忍は恭也の体を引き起こすと、そのままの勢いでバイクのサイドシートに彼を押し込めた。
「悪いけど、このまますっ飛ばすぞ。なにしろ……」
忍はスロットルレバーをフルに回す。
ぶるん、と軍用バイクは唸り声をあげるとタイヤでUFOをかきむしった。
「今このポータラカUFO落ちてるんだわ。なにしろ、もともと1人乗りのところを3人で、しかもバイク突き刺して乗ってるんだからな……!」
そうして落下し続けるUFOから2人は飛び出す。
意外と地面スレスレだったらしく、バイクはすぐに地面に着地したのであった。
「ふぅ……ギャンブルってのはやっぱこうじゃないとな」
背後でポータラカUFOの墜落音が聞こえる。
そして一緒に乗っていた銀色のポータラカ人はというと、
「ヤ〜ラ〜レ〜タ〜」
これはこれで割と楽しかったらしい。
仲間のポータラカ人が乗るUFOのマジックハンドに掴まりながら、呑気な表情で悠々と空を飛んでいたのであった。
遠くからやってくる影に牧場はさらに騒然となった。
「我々ハ火星人デアル!」
『DS級空飛ぶ円盤』をポータラカUFOの群れのさらに上空につけ、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は喉をとんとん、と叩きながらスピーカー越しに宣言した。
同時に用意していたイレイザーキャノンを牧場の誰もいない地点に向けて撃ち放つ。
轟音と共に地面の牧草が抉れ、吹き飛ぶ。
彼女はにやり、と笑みを零した。
「サア、今スグコノパラミタヲ明ケ渡スノダ!」
「火星人!?」
この言葉に金元なななは敏感に反応する。
「ま、まさか宇宙人達のただ遊んでいるように見えるこの動き……実はパラミタ侵略が目的だったんだ……!」
「いや、そんなことまで考えてないと思うわよこいつら」
相変わらずポータラカUFOのアームに捕まっている雅羅はなななにツッコミを入れた。
実際ポータラカ人達は円盤の登場にテンションが上がったのか嬉々とした動きを示しているのみで、別に一緒になって攻撃しようというつもりはないらしい。
しかしなななは彼女の言葉に耳を貸すことも無くアホ毛をびびび、と動かすと、
「宇宙刑事の名にかけて、あなた達はここで退治するよ!覚悟して!」
大げさにそう言って吹雪の乗り込むUFO(円盤)に立ち向かうのであった。
「我々ニ刃向カウトイウノカー」
吹雪はそんな彼女の様子を見てとると、円盤の入り口を開く。
「ナラバ思イ知ルガイイ。我々ノ力ヲ!」
「!?何か出てきた!」
円盤から飛び出てきたのは、わしゃわしゃといくつもの足を付けた多脚装甲車である。
地面に降り立ったと同時に、恐るべき火星人が姿を現した。
「よく聞けパラミタに住む愚民どもよ!」
無数の足をうねうねと動かしながら『ドワーフの火炎放射器』から炎を噴射する火星人。
――いや。
「我こそ、パラミタ侵略の尖兵イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)である!」
イングラハムは得意顔で名乗りをあげるのであった。
そんな彼(?)の後ろから飄々とした様子でもう一人――こちらは普通に人間の姿をした――男が現れる。
上田 重安(うえだ・しげやす)である。
彼はよいせ、と身を多脚装甲車から降ろすと、一言「すまない」とこちらを見下ろす雅羅に向けて声をかけた。
「なによ。あなたも火星人だ、とか言うわけなの?」
「いや、違う」
重安は首を横に振った。
「ここで美女の乳絞りができると聞いたんだが……」
「できないわよ!」
火星人ではなくおっぱい星人な重安の言葉に被せる雅羅。
彼女はもうここ数日分のツッコミを一度にした気分で、非常にぐったりするのであった。
「なんだいできないのか。それがし、実はかなり期待してたんだがねぇ」
頭をぽりぽりと掻きながら重安は両手に『ひぐらしのナタ』を掴む。
「それじゃ、始めましょうかイングラハム殿。すべての乳をそれがしの手中にするために」
「無論だ重安。さあ覚悟せよななな!貴様など我が触手の餌食に……あだ!?」
瞬間、イングラハムの頭上に何かが落下してきた。
「むぅ、何であるか?せっかく我のカッコいい出番を……」
凹む頭を抑えながら落下物を拾い上げる。
そして、叫んだ。
「こ、これは機晶ばく……」
「お、おいまさか……」
ドゴォォォ!
イングラハムと重康が乗る多脚装甲車は、轟音と共に光に包まれたのであった。
「は!どうだ火星人ども!」
上空を小型飛空艇で滑るように飛行しながら、シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)はガッツポーズを取った。
「あー、ゼーさん!」
地上から「やっほー」と手を振るなななに、彼もまた手を振り返す。
「来てやったぜななな!……おっと!」
そんな彼の傍を吹雪の円盤はイレイザーキャノンのビームが通過する。
「我々ノ侵略ヲ邪魔スルカ!」
「まったく、雅羅も助けないといけないのに、厄介な相手が居たもんだぜ……」
「ゼーさーん!」
地上のなななは声を張りあげてシャウラに声をかけた。
「なななは火星人の相手をするから、ゼーさんは雅羅ちゃんをお願いするよー!」
「ん……そうか。わかったぜななな!気をつけろよ!」
「ゼーさんもー!頑張ってねー!」
彼女の声援を受けると、シャルラは飛空艇を旋回させ、一転して雅羅を掴むポータラカUFOへと向かうのであった。
「フフフ……我々ト一人デ戦ウツモリカ、ナナナ」
ひとり残ったなななは、吹雪の乗り込むDS級空飛ぶ円盤を前に武器を突きつける。
「なななはM76星雲からやってきた宇宙刑事だよ!絶対に、悪の宇宙人なんかに負けはしないよ!」
ノリノリで火星人を演じる吹雪と、これまたノリノリで相手をするななな。
牧場に一陣の風が吹いた。
「行くよ火星人!」
「望ム所ダー!」
そして今、宇宙刑事なななと火星人(?)葛城吹雪との一大決戦が始まろうとしていたのであった。