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怪魚に飲み込まれた生徒を救え!

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怪魚に飲み込まれた生徒を救え!

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■ 魚釣り!!!! ■



 飛空艇の周囲は混乱を極めていた。
 平均六メートルの巨体の魚の群れに囲まれて、一生に一度あるかないかの体験に船を貸した男は思わず口笛を吹いた。
 船はモンスター級の怪魚パラミタワカヅマに囲まれている。
「パラミタワカヒトヅマは……おらんのぅ」
「無理です勘弁してください!」
 勇が体を揺らして大物を狙う羽純に訴えかける。
「今すぐ解け、俺は釣る側になる! ていうか俺全ッ然狙われてないんだけど、どういうことだ!」
 騒ぐオリバーの隣で甚五郎は無言だった。無言でパラミタワカヅマの体当たりを冷静に躱しながら海を飲み込んでいる魚はどれかと目を凝らした。
「俺様無理、無理、やっぱ無理!」
 魚入りの匂い袋を胴に括りつけたままケルピーが数匹のパラミタワカヅマに囲まれて、その大きさに驚いたのか臆病風に吹かれたらしい。思わずツァンダの方に向かって逃げ出そうとしている。
 それとは逆に光術のライトアップと神おろしの降光を使って誰よりも目立っているのがアガレスだった。器用に海が入っていないと判断されたパラミタワカヅマを遠くへと誘導していく。
 その様子を確認し計画通りと隆元は頷き、心配するなとリースの背中を軽く叩いた。
 ハーモニックレインで挑発されたパラミタワカヅマが自分の状況を受け入れつつあったルースを飲み込んだ。
「よし、今よ」
 ルゥの合図を受けてワイルドペガサスの馬車の御者を務める知流は達人の手綱を大きく捌いた。ワイルドペガサスの馬力を受けてワイヤーが一気に引き上げられ、ルース入りのパラミタワカヅマが宙を舞う。
 空かさずルゥの打撃が魚の胴にヒットするがルースは吐き出されない。
「俺の歌を聴けェ!」
 紅月の歌声を受けてレゾナント・ハイが共鳴しはじめた。
 紅月は詳細に書けない罵詈雑言の不協和音を奏でていた虎徹をギフトとして呼び寄せる。暴れるパラミタワカヅマに向かって虎徹を装備した紅月は遥かな願いを乗せて霞斬りの斬撃を繰り出した。
「ったく、愛に飢え過ぎ、だ」
 左から襲いかかっている牙に気づいてポイントシフトで躱す和輝は乱れた前髪を掻きあげた。
「大丈夫? 逃げる?」
「いや、もう少し粘ろう」
 結果から言うと変装は呆気無く見破られた。しかもドンピシャなワカヅマが居たらしく看破後は絵に描いたような追いかけっこである。
「(んっ!? ディテクトエビルに引っかかったよ! 下から来るよッ)」
 アニスの警告を受けて再びポイントシフトでの回避を試みた。
「和輝!」
 スノーが悲鳴に近い声を上げた。回避した先でパラミタワカヅマが待っていましたと大口を開けている。
「ブルーズが入っているのはどれかな……」
 泳ぐ怪魚を見下ろしていた天音はお腹をぷっくりさせてじっくり餌を選んでいる余裕を見せる一匹を見つけた。
 奈落の鉄鎖を持ち出し天音はパラミタワカヅマ目指して船から飛び降りた。パラミタワカヅマの背に着地すると、疾風迅雷と千里走り加えて身軽なこともあり頭から尾びれへ五メートルほどの距離をあっという間に詰めた。ドラゴンアーツを帯びた手刀で先に教えられた餌の吐き出し方を実行する。十三回中一回の確率を引き当てる経絡撃ちが魚の体に食い込んだ。
「そっち回ってください」
 永夜が飲まれてしまい、パートナーの一大事とアンヴェリュグと白影は素早く二手に展開した。白影がブリザードショットガンを構える。
 ショットガンより放たれた散弾が大気を凍らせてパラミタワカヅマの進路を阻んだ。進めないことを知ったパラミタワカヅマは身を捩ると視界に入った白影に向かって突進しだした。
「本当に食べられるなんてね。しかも見境なしだ」
 白影に夢中になって上手く警戒されず死角に回り込んだアンヴェリュグが鱗に手を振りかざす。エナジードレインを受けてパラミタワカヅマの動きが鈍くなった。それを見てでは次の手をと動いた白影の背後に巨体が現れた。
「白影君!」
 災難は続く。
 ジェイコブを飲み込んだパラミタワカヅマの動きを船上から監視していたフィリシアは一向に動きを見せないパートナーに更に落ち着きを無くしていた。一度深呼吸する。遠くに行かせてはいけないので、誘導する為術印を結んだ。
 その隣で同じくパートナーたる三月が食べられてしまった柚も決意に両手を拳に握りしめていた。食べられたからといって即死ぬわけじゃない。負けず嫌いの三月のことだ、きっと中で奮闘している。自分も外から応援できないだろうか。
 パラミタワカヅマの生け捕りに成功したエースは船の上に引き上げたその巨体を眺めて改めてその大きさに目を丸くする。
「これで飛べるんだからすごいよね」
 巨大魚の前に回りこんでその顔からそっと網を外し、こんにちはと語りかける。
「相手を愛でたいのなら、飲み込んだりせずに一緒に遊びに行ったりした方が楽しいと思うんだけど、どうだろう?」
 あくまで女性として接するエースの姿勢に感服するメシエだったが、だからと言って彼のように積極的に触ろうとはしなかった。
 じっと自分を見つめてくるパラミタワカヅマにエースはレーヴェン擬人化液を差し出した。
「これを飲むと人の姿になれるから、陸でデートとかもできちゃうんだけど、どうかな? 勿論その時はお腹に入っている人たちを吐き出してもらわないと大変な事になるんだけどね」
 人の姿の君はとてもかわいいと思うんだけど、と紳士に説得を試みようとするエースの気持ちが伝わったのかパラミタワカヅマがその口を開けてレーヴェン擬人化液の瓶をそれを持つエースの腕ごと咥え込んだ。
 三匹のパラミタワカヅマにものの見事に弄ばれているダリルにルカルカは無言でバルキリの羽を使って甲板を蹴った。その両足にゴッドスピードを掛ける。
「ちょっと飢え過ぎなのよ若奥様」
 Sインテグラルナイトの位置を確認し、聖槍ジャガーナートを手にし、いつまでもパートナーを取り合っているパラミタワカヅマの輪の中へ向かって、ジャイアントキリングでしかと両眼を開いたルカルカは急降下した。
「待って、みんな!」
 両手を胸の前に握りしめて、船の上、レオーナは雲海の中奮闘する契約者達に声を張り上げていた。
「高円寺くん同様、彼女も一人の女の子なのよ!」
 確かにその言葉は一理ある。レオーナの慈悲は魚まで及ぶのか、誰もが一瞬、パラミタワカヅマの生態について考えてしまう。その心理に気づいたのかパラミタワカヅマも数匹がレオーナを見た。
「こいつらヤバイから、今だけ辛抱。お願い! 今度もっといい男連れてくるから、ね?」
 小さな声での内緒話。ビーストマスターのレオーナのお願いに腹に餌を入れていない空腹のパラミタワカヅマが動き出した。ぐるぐると飛空艇の周りを旋回しだす。
「……レオーナ様……」
 クレアが呆然とパートナーの名前を呼ぶ。信じられないと。
 うんうんとレオーナは魚と目が合う度に頷いていた。約束約束と。
 どちらも愛を知っている者同士、通じるものがあるらしい。
 さぁっとパラミタワカヅマの群れが飛空艇から離れていく。
 救出活動が終わっていないメンバーの顔色が変わった。