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【すちゃらか代王漫遊記】任侠少女とアガルタの秘密

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【すちゃらか代王漫遊記】任侠少女とアガルタの秘密

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第二話「シリアスは唐突にくるから、気を抜いてはいけません」

 仲山 祐(なかやま・ゆう)がC地区を散策していたときのことだ。
 そこで絡まれていた巡屋の構成員を助け、どうかその力を組の再興のために貸してほしい、と言われた。
「俺でも役に立つのなら」
 祐はそううなづいた。 
 今、祐はパートナーのファウナ・ルクレティア(ふぁうな・るくれてぃあ)とともに、地図を見下ろしながら美咲と掬宇(エッツェル)を横目で見ていた。掬宇はいつの間にか、巡屋の頭脳としての地位を気づいていた。
「組織を動かすには、やはり資金と言うものは重要です。慈善事業ではありませんから」
「ソレは分かっているんですけど、でも」
「別段法外な値をつける必要はなく――あと、別の区とも交流をしていたほうがいいでしょう」
「他の区と、ですか?」
 一個の組織を動かす立場につく美咲に、掬宇が様々なことを教えている。それはただたんなる『力』のことではない。今まで普通に過ごしてきた美咲にとって、中々厳しいこともあるようだが、必死に学ぼうとしている姿勢は賞賛に値する。
「ねぇ、祐。私たちはあの子の護衛をするってことでいいんだよね?」
「ああ。あまり実力に自信はないが、危機察知能力を生かせるだろうからな」
 ファウナに服を引かれ、そちらへ目線を向けてそう淡々と答える。

 瞬間、鋭い殺気を感じて背筋があわ立つ。

「っ!」
 祐が慌てて目線を美咲へ送れば、少女はヤスたちと真剣に話し合っているところだった。先ほどと何も変わらない。
(気のせい、かーー?)
 首を傾げつつも、移動を始める美咲たちについていくため、祐も立ち上がった。


***   ***


「ふふふふふっ。ああっどんな素敵な顔をしてくれるかしら」
 自分の腕をかき抱いてその瞬間を妄想している御主 悪世(おぬし わるよ)を見て、上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)は密かに眉を寄せていた。
(時給の良いあるばいと、と聞いてやってきたが……どうもあの御主とやら、きな臭いな)
 身動きのとれない五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)のために社会勉強をしている景虎は、今回警護の依頼を受けていた。警護対象は御主。そばで付き従っているため、彼女が何をしようとしているか。多少見えてくる。
(ううむ。時給だけであるばいとを選ぶのは、あまりよくないようだな)
 こうして景虎は一つ学んだ。
「して貴公はこれからどうするつもりだ?」
 後悔していることなど表に出さず、部下への指示を出し終えた悪世にたずねる。悪世は、ソレはソレは楽しそうな顔を浮かべて言い切る。新しい玩具を買ってもらった子供のように無邪気な表情だった。

「今はまだ待機ね。一番良いタイミングですべて奪わないと……あの素敵な顔が見られないもの」

 その言葉に対して「了解した」とだけ返した景虎は、壁にもたれて目を瞑る。それ以上女を見ているのが不快だったからだ。
(とにかく引き受けてしまった以上。もうしばらく様子を見るか。いざとなれば警護の為と言って行動を阻むぐらいは出来るだろう。
 文字通り、肉の壁としてな)


***   ***


「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
『げっまたここ……ぎゃー!』
「にゃあー」「ににゃー」
 {SNM9998851#セレスティアーナ}たちを笑顔で出迎えた『にゃあカフェ』店長、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が言い終わる前に猫たちに飛び掛られた土星君から悲鳴が上がった。
 やはり丸いから追いかけたくなるんだろうか(毛糸玉追いかけるみたいに)。あいからわずモテモテだ。
「おおっ広くなっているな!」
「そうなんだ。ニャンコと戯れる部屋を2カ所にしてみたよ」
 経営は順調に行っているらしく、エースは店を拡張していた。
 あと奥に子猫の保育園のような場所(里親に引き渡すまでの保育室)も作っているが、こちらは一般公開はしていない。
 元気に出迎えてくれるのは看板猫達、三毛の『ちまき』、茶トラの『きなこ』、ハチワレの『おはぎ』とサバトラの『ごましお』、白猫金目銀目の『おもち』。キャットシーで長毛ハチワレの『なな』とチョコポインテッドの『ここ』ら。
 まあ元気にとはいっても、我関せずあくびをしている子もいて、なんとも自由気ままだ。セレスティアーナが目をきらきらさせながら、猫たちへと話しかける。
「貴様らも元気にしていたか?」
「セレスティアーナさんが来てくれて、みんな喜んでますよ」
「そうか! あ、ペンタ。紹介してやろう! 土星君も行くぞ!」
『は〜な〜さ〜ん〜か〜』
 奥からクッキーを手にやってきたエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)がそう言うと、セレスティアーナはなぜか胸を張ってペンタを新しくできた部屋へつれていこうとした(土星君は当然のように引っ張られている)。ペンタが一瞬うかがうように陽一を振り返ったので、陽一は「行っておいで」と笑い返した。それでペンタは安心したようにセレスティアーナの後を追いかけていく。
 セレスティアーナたちが向かった部屋は、猫と一緒におもちゃなどで遊ぶのがメインになった部屋らしい。土星君の叫び声とセレスティアーナや猫たちの歓声が聞こえてくる。
「どうぞ。こっちの部屋ではのんびりお菓子でも食べていってください」
「ありがとうございます」
 陽一が笑顔でケーキと紅茶を受け取ると、エオリアも笑って頭を下げた。それから別の客のもとへと向かう途中、『ニャンコと楽しく運動会』な部屋を覗くと、案の定。と言うべきか。子猫たちに乗っかられ、転がされ、と玩具にされている土星君が見えて苦笑した。
 しかしなんだかんだで土星君も猫たちのことを見てくれているようだったので、とりあえず放っておく。あまりにもひどくなりそうなら止めに行くつもりはあるが、今のところは大丈夫そうだ(たぶん)。
 その時、入り口のベルが鳴る。
 動こうとしたエオリアだったが、一足早くエースが向かっていたので、自身はお菓子の準備をすることにした。

「あの……他の区との交流って」
「こちらのお店からぜひ来てくれとお話があったので、会ってみる価値はあると思いますよ。何せこちらには基盤がありませんから」
 そこにいたのは、おどおどした雰囲気の少女。巡屋美咲を筆頭にした、にゃあカフェにはあまり似合わない強面(美咲は除く)の面々だった。……エースは少し驚いた後、再びにっこりと笑って美咲に花を差し出した。
「いらっしゃいませ。ようこそ、にゃあカフェへ。素敵なお嬢さん」
「わっ、あ、あの……ありがとう、ございます」
 あまりそういった対応に慣れていない美咲が顔を赤くしながら花を受け取った。名前の記帳を頼むと、そこに書かれた名前を見て「君が」と小さく呟く。
「その、私が巡屋美咲です。あの、そのっ」
「俺はエース・ラグランツ。とりあえず奥へ。お茶でも飲みながら、ゆっくりしていってね」
 美咲を席へと案内したエースは、言葉通り紅茶をふるまい、それを美咲たちが口にして一息ついたのを確認してから用件を口にした。
「ここでは猫たちの保護や里親探しもしてるんだ。それでC地区の猫たちの様子を聞きたくて……できれば保護の協力もお願いしたいんだけど」
「あ、なるほど。……えっと、そうですね。結構ノラ猫さんは多いみたいです。住民から苦情も出ていますし、こちらとしてもゆくゆくはなんとかしないと……」
 話を聞きながら、エースはふむとうなづいた。思っているより、状況は悪いかもしれない。対策を練らなければ。
 しばらく猫について話し合った後、エースはエオリアを呼んだ。
「今日はわざわざありがとう。お礼、といってはなんだけど。これどーぞ」
「わぁ、かわいいケーキですね」
「ありがとうございます。サクラをイメージして作って見ました」
 桜をイメージした淡いピンクの可愛いケーキは、本来ならカップル限定だが、今回は特別に。

 美咲はケーキや猫たちの姿を楽しみ、C地区を制することができたならば、猫たちについてできるかぎり協力してくれると約束し、満足げに帰っていった。強面のみなさんも、意外と動物好きが多かったらしい。ほんわか〜な顔をしていた。

「セレスティアーナさんたちもかんこ……視察、気をつけてね」
「うむ! 有意義な時間だった!」
『…………』
 今日も猫カフェから出て行く客たちは笑顔でいっぱいだ――丸い物体を除いて。


***   ***


「そこにいる愚民たち! さぁ、寄っていくのです!」
 お目当てのC地区までもう少し。
 な途中で、{SNM9998851#セレスティアーナ}たちに声がかけられた。振り返ると、豆柴犬がどこかの代王よろしく偉そうに胸を張っていた。巨大な柴犬(名前:ビグの助 種族:【猛き霊獣】)に乗った状態で。
「かわいい!」
 女子たちに騒がれる中、まんざらでもない顔をしている豆柴犬こと忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は、セレスティアーナたちを店――マリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)の店へと連れ込む。
「連れてきましたー」
「ポチちゃん、お疲れ様さね。そしていらっしゃい。……って、あれ。もしかして代王ちゃん?」
 奥からやってきた店主のマリナレーゼが、セレスティアーナを見て目を丸くする。しかしすぐに朗らかに笑って、歓迎する。
「随分大勢で来てくれたんさね。グラちゃんアウちゃん。お願いするさ。教えたとおりにね」
「うむ。分かった」
「主ならできますとも! 頑張ってくだされ。しかしあまり無理は」
「このために給仕や紅茶の入れ方を習ったんだ。大丈夫だ」
 奥から出てきたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が、まるで独り言のように何か言いながら出てきた。……いや、どうもギャルソンエプロンが声を発していたようだ。
 エプロンに扮しているのはアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)。応援の声をかけた後は、黙って主を見守る。
 なぜ彼らがマリナレーゼの店にいるのかと言うと、今より少し前。グラキエスたちが壊した物品の弁償をマリナがしてくれた、ということがあった。その弁償代を払うため、こうしてウェイターとして働いているのだ。

(主のお気持ちには感服する。この時の為給仕の技術も熱心に学ばれた。洗練された仕草、そのお姿。
 なんと素晴らしかった事か!
 しかし昨日は熱を出され、今も万全とは言い難い。俺がお側で見守って差し上げねば!)
 感動しながらも、体調が万全ではないグラキエスのため。アウレウスはこうしてエプロンになっているのだった。
 そしてグラキエスを心配しているのは彼1人ではない。厨房から顔を出したウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)が、眉を寄せている。
(あれを一人で働かせるなど不安が多すぎる。
 昨日も熱が出た。食事もあまり摂れていない。そんな状態で慣れぬ労働をすると体の負担も……)
 2人の心配げな視線に、グラキエスは息を吐き出す。
(アウレウスもウルディカも心配し過ぎだ。少しの体調不良で休んでられるか。
 それに今日の手伝いは詫びのためでもある。手を抜くわけにはいかない)
 
 心配している2人に気づいているのかいないのか。ポチが口を開く。
「グラキエスさんたちは無理しないでいいのですよ。雑用はエロ吸血鬼に任せていたらいいのです」
「おいこら。ソレどういう意味だ……けど、マジで無理はするなよ」
「ありがとう。だが本当に大丈夫だから」
 ポチたちからも心配されてしまえば、グラキエスももう苦笑するしかない。笑いながら頭をなでるとポチが気持ち良さそうに尻尾を振った。
「ほんとグラキエスは素直だな。もう少し見習ったらどうだ、駄犬」
 同じく厨房から顔を出したベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)がポチに詰め寄ろうとするが、その気配を察したポチはさっさときびすを返す。
「ご主人様。マリナさん。集客は僕にお任せください。ビグの助、さあ行きますよ。これはエロ吸血鬼にはできない任務なのです」
「ええ。ポチ、頑張ってきてくださいね。私も負けずに頑張ります。今回こそ見事に給仕のお勤め果たして借金返済致します。沢山頑張りますよー!」
「気をつけてさね。知らないおじさんにはついて行っちゃ駄目さ?」
「どっかいっちまえ、駄犬。あとできればフレイは頑張るな(逆に借金増えるから!)。それとマリナ姉。なんかそれは違くね?」
 なぜか割烹着姿でウェイトレス(?)をしているフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)とマリナがポチを見送っているのを、ベルクが肩を下げながら見つめる。そんなベルクを見たウルディカは、なんとなく自分と似た空気を察して、その肩をぽんと叩いた。
 ちなみに借金=グラキエスと同じ理由である。
「ウルディカ、お前……」
「…………」
 ベルクも、どこか疲れたような(あまり表情事態は変わってないのに)ウルディカを見て、同じ空気を感じ取った。――ここに、熱い(?)友情が結ばれたのであった。
「ほらほら。呆けてないで働くさね。ベルちゃん、ウルちゃん。皿洗いと発注はどうなったさ?」
「ああ、もうすぐ終わる。その後はどうすりゃいいんだ?」
「発注は終わったが、どうも今日の納品が遅れるらしい。ついさっき連絡があった」
「今日の納品と言うと……うん。了解さ。あ。ベルちゃん。皿洗い終わったらゴミだしお願いさね。その後は店の前の掃除。ウルちゃんはフロアのフォローしながら、事務仕事手伝ってほしいさ」
「分かった。……はぁ。人使い荒いぜ」
「ああ」
 マリナレーゼに言われ、裏方仕事へ戻る。
(あー、本当はフレイとアガルタをデートしてみたいんだけどなぁ……いつになったら叶うことやら)

「まあマリナ姉主導だから大丈夫だとは思うが……出来りゃ今回位心穏やかに済んで欲しい所なんだがな」
「そうだな。今回位は」
 ベルクの口からでる今回位、にやたらと哀愁が漂っていて、ウルディカはインカムや【M・ROA】へと意識を集中させた。せめて、これ以上ベルクに負担をかけないよう、グラキエスのことは自分が、と思ったからだ。

「……注文は以上で?」
 グラキエスは、パートナーから教わったとおりに微笑みながら注文を復唱し、たずねる。
「うむ。かまわんぞ」
「はい。それでお願いします」
 注文をとった後は、さて。
 微笑を絶やさぬまま、教わったことを頭の中で考えていると、装着したインカムからウルディカの指示が飛んでくる。
『オーダー票を切り取って、厨房へ持ってくるんだ。もう一枚の紙は……』
「ああ思い出した。ありがとう」
『紅茶の入れ方は大丈夫だな?』
 指示通りに紙を切り取っているグラキエスの隣では、割烹着ウェイトレス。フレンディスが全員に水を配っているところだった。セレスティアーナがその白い割烹着を興味深そうに眺めた。
「その制服はずいぶんと変わっているな」
『せやな。あんまみたことないわ』
「これですか? これはかっぽうぎ、というエプロンですよ」
「俺も割烹着の方がよかったか?」
「そうですねぇ。グラキエスさんなら割烹着も似合いそうですね。でも今のもとてもお似合いですし……そうだ。明日は割烹着にしますか?」
 割烹着の話で盛り上がっているグラキエス・フレンディスたちに、厨房では

「普通はエプロンだからな」

 というツッコミの声が2つ上がっていた。
 店主のマリナレーゼはというと「それはそれで面白そうさね」と笑っている。頭の中では商売人としての計算もしているのだろうが、笑顔からだけでは真意が見えない。そして笑いながら飛ばす指示は適格だ。

「あっ! いたいた! おーい、サターン壱号!」
 紅茶を飲んでいた土星君に、そう大きな声で駆け寄ってきたのは白銀 昶(しろがね・あきら)だ。
「昶、そんな大声で」
 苦笑しながらその後からやってきた清泉 北都(いずみ・ほくと)が「お邪魔してすみません」とセレスティアーナやマリナレーゼに頭を下げる。
「少し時間いいかな、土星君」
 真剣な瞳に、土星君はいいとも悪いとも言わず、ただ目を伏せた。彼らが何をしに来たか察したからだ。
「今、アガルタにある遺跡の調査員を募集していてね、僕らも行こうと思ってるんだ。遺跡には興味があるし、何よりニルヴァーナを救う方法が眠っているかもしれないなら調べてみたい」
『……ほーか』
「でも、知っていると思うけど、手がかりはほとんどない。……ねぇ。無理にとは言わないけど一緒に来てくれないかな」
『嫌や』
 土星君の答えは短い。明後日の方向へと向いた彼が、どんな顔をしているのかは、高い位置で浮遊しているため誰にも見えない。昶が眉を下げた。
「遺跡にはお前の仲間が居るんじゃないのか?
 何を嫌がってるのか知らねぇけど、もし一人で行くのが怖いなら付いて行ってやるぜ。誰かが一緒なら不安も減るだろ」
 明るい声で誘う昶に、土星君は何も返さない。北都は、できれば協力してほしいと思っていたがそこまで嫌ならば、と昶の肩に手を置く。北都の顔を振り返った昶だったが、唇をかんだ。
「俺たちじゃ、役不足か?」
 土星君が震えた。浮遊位置が下がる。
『っそういう……わけやない。ただ、わしが――』

 唐突に始まったシリアスな雰囲気。大丈夫なの? シリアスな文章とか書けるの? 力尽きない? 大丈夫?
 どこかの誰かがそんな心配を始めたころ、土星君の体から力が抜け、その一瞬を見逃さない人物がいた。

「(隙ができた)今よ! 輪っか様ぁっ! 今助けに行くわ!」
 虎視眈々と輪っかを狙っていたレオーナである。――ああ。どこからか、やっぱりシリアス長続きしないな、という声が聞こえる。
「させませんわ! レオーナ様。もうこのようなことはお止めください」
 だが同時に飛び出たクレアがレオーナの前に立ちふさがる。レオーナが眉を寄せ、飛び掛ろうとしていた身体を止めた。
 空気が一瞬緩む。

 のもつかの間、土星君に向かう影が複数現れる。その影は、レオーナとは違い、殺気を放っていた。その証拠に、手に握られたそれらが銀色の鈍い輝きを放って襲い掛かってきた。動きを止めたレオーナの目の前をクナイが通り過ぎる。
 クナイの先にいるのは、セレスティアーナ……ではなく、土星君。
「はわわわっ」
『こいつらは』
「セレスティアーナ様はお下がりを。ペンタ、頼んだよ」
「土星君に何のよう? さらおうなんて悪い子にはセレスティアーナ・アッパーだよ!」
「いきなりな挨拶っだね」
 陽一が深紅のマフラーを握り締めて振るい、美羽が腰を低くして構えて見事なアッパーを繰り出し、飛んできたクナイをなぶらがはじいた。
 険悪なムードの中、「お店は壊さないでほしいさ」「マリナ姉。そういうこと言ってる場合じゃ」「喧嘩はいけません! 私が止めて」「おい、待て。また借金増えるだけだから。っていうか、止めて」「そうですよ。こういうのは、エロ吸血鬼に任せたらいいのです」「おい、駄犬」などという会話がBGMのように流れていた。

「このぐらいであたしたちをどうにかしようなんて、甘すぎるんじゃない?」
 背後から近寄ってきていた刺客を蹴り飛ばしながらセレンフィリティが笑った。その横で店に被害を出さないよう細心の注意を払っているセレアナが、「暴れるのはほどほどにしてよ」と声をかける。はいはい、と軽く流すセレンフィリティに通じているかは不明だ。
「お前ら、サターンをどうする気だ!」
「…………」
「答える気はないみたいだね。ならっ遠慮はしないよ」
 敵の狙いはどうも土星君らしい。北都は土星君をつかみ、店の外へと飛び出る。店内よりも動きやすくするのと、セレスティアーナから彼らを離すためだ。その意図を理解したベアトリーチェが、パニックになって外へ飛び出そうとしているセレスティアーナの腕を引き、安全な場所へと連れて行く。
 当然のように土星君を追いかけてきた襲撃者らに、セレンフィリティが笑った。

「ここなら存分に暴れてもかまわないわよね」
「……ほどほどにね(どーせ言っても無駄なんでしょうけど)」
「なぶら殿、なぶら殿! これは絶好の勇者あっぴる〜タイムなのだ」
「ソレ言うならアピールな。それと、そういうのは口に出したら駄目だから」
『……すまん。わしのせいで』
「土星君のせいじゃないよ! この人たちが悪いんだから!」
「そうだぜ。サターンは何も悪いことしてないだろ」
「そうですよ。むしろ俺たちがいるときでよかった」
「うん、ほんとに。あ、もう少し僕らの後ろで大人しくしててね」
「クレア! そこどいて! 輪っか様が待ってるの」
「駄目ですわ。これ以上、ご迷惑をおかけするのはわたくしが許しません」
 襲ってきた人数はそう多くない(レオーナ除く)。クレアはレオーナを押さえながら土星君に謝罪を述べる。

「土星君様、大変申し訳ありません。ですが……どうか遺跡探索のお手伝い願えませんでしょうか。お互いのためにもよろしいかと思います」
 クレアの声は、騒音の中ちゃんと土星君に届いたはずだが、土星君は黙り込んだまま。昶と北都はそんな土星君を一瞬見やってから、目の前の敵へと目を戻す。とにもかくにも、今はこいつらをどうにかしなければ。


***   ***



 周囲が一段楽するには、少し時間がかかった。
「妙にしぶとい連中だったのだ」
 瑠璃が首をかしげながら額の汗をぬぐった。
「誰かに雇われたプロってところかしら」
 セレアナが意識を失った彼らを縛りながら淡々と言う。土星君が襲われた理由は――様々考えられる。彼自身がかなり珍しい存在であるし、移動式住居を動かすには彼の存在がなければならない。
「……襲われる理由に心当たりはありませんか?」
 状況が落ち着いたのを見て駆け寄ってきたベアトリーチェが、硬い表情の土星君へたずねる。土星君は苦々しい顔をした。

 そうして、観念したのか。悲しげに笑いながら、ぽつりぽつりと話し始めた。