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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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■第三幕:武道大会ペア部門−リカイン&アストライトVSハイコド&ソラン−

「あーあ、噂の可愛い新入生とお知り合いになりたかったんだけどなあ」
 アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)は期待外れとばかりにため息を吐いた。彼の視線の先、ペア部門第一回戦となる対戦相手の姿がある。何やら仲睦まじく見つめ合ったり話したりと……羨ましい光景であった。
 それも当然と言うべきか、彼の対戦相手であるハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)は夫婦である。
「こっちにはバカ女しかいねえしな」
「あんたにだけは言われたくないわよ」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がアストライトに厳しい視線を送る。
 どうやらパートナーの関係とは一重にできるほど単純なものではないらしい。
 色々な形があるものなのだろう。
「ともあれせっかくの機会です。楽しませてもらいましょう」
 リカインは笑みを浮かべる。
 そして戦いの幕が上がった。

                                   ■

 銅鑼が鳴ると同時、盾を構えて駆け寄ってくるリカイン。
 彼女とは逆にその場から動かずに様子を覗うアストライト。
 二人の姿を見たハイコドは迫りくるリカインに対処するべく拳を構えた。
「あっちは任せたよソラ!」
「任せてよハコ!」
 彼はソランの返事に頷くと前へ出た。
 先手を狙っているのだろう。その動きは素早い。
 左右に身体を揺らしながらリカインに迫る。
「無手……いえ、爪ね!」
「正解っ!!」
 ハイコドの義手から鉤爪が顔を覗かせた。
 切り裂くように振り下ろされた一撃をリカインは盾で防いだ。
 ――ギィンッ!
 爪が弾かれ腕が持ち上がる。
「ははっ」
 鉤爪を格納し、重力に従って身体を倒し、盾を回り込むように動いた。
 盾の内側に入られたのを視界の端で確認したリカインは盾を手放した。
「怪我しても知らないわよ」
「僕の心配より相方の心配をした方がいいよ」
 そう告げるハイコドの背後、リカインたちの脇を通り抜けてソランがアストライトに向かって駆け出した。だがリカインはそれを阻止する素振りを見せることなくハイコドと対峙する。
「えいやぁっ!」
 相手に突き出していた手による上段突き、一歩踏み出しての中段突きという連撃が放たれた。彼女はそれを手のひらで払い防いだ。丁寧に、掌底で打撃を与えながらの防御だ。見ればハイコドの義肢が軽くへこんでいる。
「打撃力は僕より上か……それならこれで――」
 彼の掌にエネルギーが集中していく。
 その様子を見ていたリカインが笑みを浮かべて言った。
「怪我するわよ?」
「やってみなくちゃわからない!」
 エネルギーの塊が放たれた。
 リカインはそれを片手で防ぐ。いや、彼女の手に吸収されているように見えた。
 その場で踊るようにリカインは身体を回すと、エネルギーを受け止めた手とは反対の手を大きく振り払った。すると同じようにエネルギーの塊が彼女の掌からハイコドへと放たれた。
「――っ!?」
 衝撃が彼を襲い、後方へと吹き飛んだ。

                                   ■

 素早い身のこなしでアストライトに接近したソランは『殴る』『殴る』『蹴る』といったように乱打戦に持ち込んだ。彼女の鋭い視線に一瞬とはいえ浮足立ってしまったアストライトが体勢を立て直すのは容易ではなかった。
「ったく、やってらんねえな!」
 彼は己が身からブレードトンファーを取り出すと彼女の攻撃を捌く。
 拳が刃の部分に重なるが切れる様子はない。
「んーっ! 燃えてきたぁぁぁぁ!」
 ソランは目を輝かせるとアストライトに特攻する。
 彼の目の前で彼女の姿が二人に別れた。
「なっ!?」
 だがそれは一瞬だ。
 見ればソランは頭上に跳んでいた。
(見間違い――違うな。あれは残像だ)
 アストライトはソランの技を見破ると死角から迫る気配に気づいた。
 彼は後方に跳んだ。前面、何かが空を切る音が耳に届いた。
「分身に隠形かよ……」
「避けられるとは思わなかったよー」
 ソランは楽しげに彼を見るがすぐに厳しい面持ちになった。
 アストライトの後方、リカインと戦っていたハイコドが吹き飛ばされる光景が目に入ったのだ。彼女は相方の危機と判断してすぐに彼の下へ向かった。

                                   ■

「ハコ、だいじょうぶ?」
「見ての通りだよ」
 よろけつつも起き上がると埃を払った。
 勝つのは厳しい、二人はそう判断していた。特にリカインが難敵であった。
 自分たちと比べて明らかに一回りほど技術と身体能力が高いように見受けられた。
「最後に試したいことあるんだけど……」
 ソランはそう告げるとハイコドは苦笑する。
「いいよ。僕は君と肩を並べて戦えるだけで楽しいから」
「流石私の旦那様、分の悪い掛けにも乗ってくれる♪」
 彼女は感極まった様子でハイコドに抱き着くと唇を奪った。
 おおー、と観客席が沸く。
「なんてうらやまけしからん……」
「あんたにああいう相手は一生できないわね」
「バカ女も同じようなもんだろうが……」

 仲良し夫婦はリカインたちに特攻を仕掛けてみるも、失敗に終わってしまうのであった。