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リアクション
■噂を調査せよ
「ねぇ聞いた? 最近起こってる通り魔事件のこと」
「聞いた聞いた、なんか最近転校してきた子と犯人の顔がそっくりらしいよ」
「本当? なんか怖いなぁ……」
――蒼空学園には、連続通り魔事件が浮足立った形で噂として広まっていた。目撃者がいたこともあり、犯人の顔はクルスそっくりだというものが一番多く囁かれている。
(みんな、なんだか最近よそよそしい感じがします……僕、何かやったのでしょうか……?)
登校途中のクルスも日に日に避けられている人数が多くなっていくのに対し、不安を感じ取っていた。自分が何かをしたわけではないのに、なぜ避けられなくてはならないのか。……物を知らなすぎるクルスにとって、このような事態は戸惑いを覚えるのには十分であった。
そして、その様子を見ていたパール・ルイス(ぱーる・るいす)は、ルビー・ルル(るびー・るる)との朝の会話を思い出していた。
『――変な噂、でありますか?』
『はい……クルスが最近起こってる通り魔事件の犯人なんじゃないか? って噂が立ってて……。クルスとは少し交流があるくらいの付き合いなんですけど、クルスがそういうことをやるような方には見えませんでしたので、少し気になりました』
……確かに、見れば見るほど通り魔事件を起こしそうな雰囲気には見えない。それを確認し終えたパールはルビーの言葉を信じ、ルビーと共にクルスの無実を証明するため、事件の調査を開始する。
「ルビー殿の言うとおりでありますな。きっとクルス殿は犯人じゃないはず。よし、このパール――一肌脱ぐでありますよ!」
(何よりも、面白そうな気がするであります!)
……そんな思いもあったりするのだが。
とはいえ、調査するにしても情報が少ないため、どこから手を付けるべきか難しい状況である。……パールは少し考え、そして答えに至った。
「片っ端から聞き込みを行うであります!」
……下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるの考えだった。さっそく聞き込みを開始するパール。ルビーもパールと一緒に聞き込みをし、得た情報をまとめる役に徹する。
しかし当然のことながら、噂が噂なだけに尾ひれやら背びれやらが付いた助長的な噂ばかりが中心で、役に立ちそうな情報はなさそうであった。
「聞けば聞くほどクルスが犯人みたいな話になってますね……。でも、犯人は二人組だっていうのは掴めましたよ」
「けど決定打ではないでありますな……」
完全に噂が一人立ちして、あらぬ方向に来ている……そう感じ取りながらも、パールたちは次の生徒に聞き込みを行ってみる。……と、その生徒は今までの生徒とは違う反応を見せた。
「君たちもクルス君の無実を証明しようとしているのですか。――実は僕もなんですよ」
パールがたまたま聞き込みをしたこの人物の名は御凪 真人(みなぎ・まこと)。クルスとも面識があり、パールたちと同様にクルスの無実を証明しようと独自に動いていた。
「なんと、それは本当でありますか!?」
思わぬところで同じ目的を持った生徒と遭遇できたパールとルビー。さっそく、真人から色々と話を聞くことにする。
「そもそも、彼に通り魔事件を起こす動機がないでしょう。彼は人を傷つけて喜ぶようなタイプじゃないですし、何よりデイブレイカー事件の被害者……噂だけで判断するのはとても軽率な行動は本当ならば慎むべきなんですが」
「デイブレイカー事件……ですか?」
きょとんとした顔で、ルビーがデイブレイカー事件を知らなさそうに尋ねる。
「ん、ああ……随分前に起こった空京テロ未遂事件です。その事件にクルス君が被害者という形で関わっていたんですよ」
真人からデイブレイカー事件のあらましを聞き終えると、なおさらクルスが今回の通り魔事件の犯人でないという確信を得ることができた。……話が少しずれてしまったため、パールたちは改めて真人から話を聞いていく。
真人の見解としては、あまりにもクルス=犯人という噂が明確になりすぎているという点が気になっているようだ。
「噂というものは紐解いていけば原型というものにたどり着きます。……そうですね、今回の場合だと似た機晶姫……つまり、同型機の可能性があるかもしれませんよ」
理知的な真人の見解にふむふむと頷きながら情報をまとめていくルビー。パールもまた、面白いことになってきたことに対して期待感を膨らませつつあった。
「とはいっても憶測にすぎませんけどね。……ただ、この憶測が当たっていた場合、今回の事件はまだ根が深そうな気がしますよ」
それに対し、真人はこれから起こりうるかもしれないであろう事態をひしひしと感じ取っているのであった……。
「そうだ、もしよかったらクルス君の無実を証明しようとしてる人が他にもいますから、会ってみますか?」
真人からのそんな誘いに二つ返事で乗るパールとルビー。そして真人も加えた3人で向かった場所には、匿名 某(とくな・なにがし)と大谷地 康之(おおやち・やすゆき)の二人がおり、ちょうどクルスもその場に居合わせていた。
「クルス、噂なんて真に受けるな! クルスがそんなことする奴じゃないってのはよくわかってるから! 何があったって俺がクルスのダチであることに変わりねえから安心しろ!」
「康之さん……ありがとうございます」
今回の事件で精神的に参っているであろうと思ったのか、クルスを励ましに来た康之。クルスもその心遣いに対し、微笑んで返していく。
「にしても、許せねぇのは勝手にデマを信じて噂を流してる奴らだ! クルスが犯人なわけないってのにどういう言い分だ!」
「康之、気持ちはわかるがとりあえず落ち着け。そう言ってさっき、噂してた生徒に一喝して逆に怒られてただろ」
康之を落ち着かせるようにして某がどうどうとなだめる。しかし、友人を犯人扱いされて落ち着いていられないのもわからなくはない面もあるので、複雑なところではある。
「こうなったらクルスの無実が証明されるまで俺がクルスと一緒にいる! その間に事件が起こればクルスにはアリバイがあるって証明できるだろ!」
康之からの提案は確かにクルスの無実を証明するには良さそうではあるのだが、逆にクルスのプライベートが侵害される恐れがありそうだった。
「……さすがにそれは少し自重したほうがいいのでは。でも、一緒にいれる間はいたほうがいいかもしれませんけどね」
ちょうどそのことを突っ込む感じで、真人たちが話に加わった。そしてそこから某と真人、そしてパール(主にルビーのまとめた情報だが)で今までに集めた情報を交換し合う。某はその交換した情報を《ティ=フォン》に逐一記録していった。
「――とりあえず、クルス君のことは康之君に任せることにして……学園内の噂だけでは限界を感じますね」
「そうだな……ひとまず、学園外のほうにも目を向けてみるか。噂のいくつかには通り魔事件の現場のこともあったし、そこを当たってみるのも悪くないかもな」
「おとり捜査でありますな!」
まだおとり捜査を行えるほどの情報が集まってはいないのだが……パールは目を輝かせる。
「……ま、まぁとりあえず現場のほうにいってみますか。康之君、クルス君のことはお任せしましたよ」
「おう、任せとけ!」
クルスの護衛を一任された康之は胸をどんと叩き、気合の入った様子を見せる。クルスと康之を除いた残りのメンバーは、一路学園の外へと移動し、更なる情報を集めることにしたのであった。
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