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ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな) シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ) シェリル・マジェスティック(しぇりる・まじぇすてぃっく)



僕から仕掛けることにした。

「ねぇねぇ、名探偵のお姉さん。
僕とファタちゃんは、いま、ものすごく困ってるんだ。
もちろん、今回の事件に関することなんだけど、僕らじゃどうやってもこたえにたどりつけそうもないんだよ。

ヒントをちょうだい。

力をかしてよ。

いや、それどころか正解を教えてよ。

問題なんか知らなくても、きみならできるよね。
だってきみらは、人の秘密を探ることを、それを人前で明かすことにさえ、なんのためらいも感じない名探偵様なんだから」

僕の横でファタちゃんが笑いを噛み殺してる。
ファタちゃんは人が困ってるところをみるとゾクゾクする素敵な性格の持ち主なんだ。
しかし、僕らの前にいる彼女は僕のムチャな質問にも、まるで、困った様子をみせていなかった。
なのに、ファタちゃんがすでに喜んでいるのは、なぜかといえば、性格が悪すぎて、誰かが誰かを困らせようとしているのを感じた時点で、うれし楽しくてたまらなくなってしまうからだろう。
え。さっきとファタちゃんの性格への評価が違うって。

読者のきみ。
もしかして僕の言うことをいちいち信用してないよね。
僕は、かわい維新だよ。
それでも信用するの。

「かわい維新。ファタ・オルガナ。
おひさしぶりですね。シャーロット・モリアーティです。
いきなりの質問にご返事する前に、一つ、誤解を解いておく必要があるようですね。
まず、事実として私はこれまで、地球でも、ここパラミタでも警察がさじを投げた事件をいくつも解決してきたプライベート・ディテクティブですが、私はなんでも知っているわけではなく、私が知っているのは」

「私が知っていることだけ、じゃろう」

うれしそうにファタちゃんが口を挟む。
有名なラノベにそんなセリフがあったよね。

「いいえ。
調査を終えた時、探偵として私が知っているのは、依頼人であるあなたの知らなかったことだけですよ」

「へぇ。さすがだね。だったら、いまの僕の質問にもこたえてよ。
さぁ、早く」

僕は、シャルちゃんに催促した。
無理は承知のうえさ。
だって、僕も僕の恋人の歩不くんも、探偵には、本当にひどいめにあってるんだ。
探偵さえいなかったら、僕らは犯罪者にならずにすんだ。

「残念ながら、あなたがたは私の依頼人ではありません」

青い瞳。
高潔。
しかも清潔。
知的な整った顔を僕にむけ、シャルちゃんはシレっとつぶやいた。

依頼人じゃなきゃ、人権はないのか!

僕は、言いかけたけど、意味不明なのでやめておく。

「たしかにそれは残念じゃな。
ならば、いまここで、この館の幽霊探しをおぬしに依頼すれば、たちどころにわしらの疑問にもこたえてもらえるのかのう」

笑いをふくんだファタちゃんの依頼にシャルちゃんは目を伏せ、首を横に振る。

「申し訳ありません。
私は、いまから、そこにいる清泉北都、ソーマ・アルジェントのお二人と話をする約束があるのです。
話の流れによっては、今日はもう他のことをする余裕はないでしょうね」

「ようするに僕らから逃げるんだね」

「こら。維新。あまり、感情的になるな。
シャルはおぬしに悪意などは持っておらぬと思うぞ」

ファタちゃんはカン違いしてるよ。シャルちゃんがどう思おうと関係ない。
探偵、それも名探偵に悪意どころか、敵意、殺意を持っているのは、この僕です。

「仕方がありませんね。
今後、あなたがたとお会いする機会がそうあるとも思えませんし、今回は知り合いヘの助言として、お望みのものをさしあげるとしましょう。
とはいえ、プライベート・ディテクティブの私がタダ働きしていては、他の依頼人の方々にもうしひらきが立ちません。
ここは、彼女に特別サービスしてもらいますね」

シャルちゃんが手をむけた先には、いつの間にきたのか、黒と白の帽子に同じく黒白のワンピ、十字架の柄の赤いネクタイをした、ロングの金髪のロリ服の女の子が立っていた。

「私は、世界の誰よりもマジェスティックにくわしい占い師。
シェリル・マジェスティックよ。
こんにちは。かわい維新。ファタ・オルガナ。
パートナーのシャルにお願いされて、ここで、私があなたたちの運命を占うのは、ずいぶん前にカードが教えてくれていたわ」

シェリルちゃんは名刺みたいに大判のタロットカードを一枚、僕らの前にさしだす。

「真の姿の逆。
つまり、あなたたちが求めているものは、そのものの真の姿の逆なのではないかしら。
例えば、あなたたちが犯人を追っているのなら、それは犯人ではなく、むしろ被害者。
女ならば、男。
生者ならば死者。
なにか思い当たることはないかしら」

いかにも占い師らしく、まわりくどく話しているけれど、僕はピンときた。
幽霊の逆は人間。たぶんね。
謎の女の幽霊が、ほんとは生きている人間なら話は簡単だ。
神父を苦しめたい誰かが、幽霊のフリをしてるってなる。
案外、からかいたいだけかもしれない。
だったら、動機のある人間を探してゆけば、早いよね。
神父をキラってる人や憎んでる人や破滅させたいくらいうらみのある人、うわーっ、いっぱいいるかも。

「お役に立ったようですね。よかったです」

「うんうん。
ありえない。
全然、ダメ。
意味わかんないよ。
もっと噛み砕いてわかりやすく説明してくれないと、僕の脳細胞では、消化しきれないみたい。
めまいまでしてきた。
はぁはぁはぁはぁ」

僕がひらめいたのに気づいたらしく、シャルちゃんがほほ笑んだので、僕は全身全霊で否定して、呼吸まで荒くしてみせた。

「維新が納得したのなら、それでよい。
シャルの仕事の邪魔をするのもよくないじゃろ。
では、行くとするかのう」

ファタちゃんまで僕の熱演を無視しちゃって。
いっそ、ここで倒れてしまおうか。

「ああー。もうダメだ。未来がみえない。みえなすぎる」

「いつまでも遊んでおらぬで、行くぞ」

倒れかけた僕の襟をつかんで引きずり起こし、ファタちゃんは歩きだす。
見た目は幼女のクセに、ファタちゃんの怪力め。
悔しいので、僕は目を閉じて、ファタちゃんに引きずられるままにしてる。

「維新。
あなたがどれだけ名探偵をキライでも、世の人々が物語を必要とする限り、名探偵とその役回りをするものがいなくなることはありません。
また、あなたは自分を犯罪者だと思っているのかもしれませんが、それは一時的な呼び名にすぎず、永遠にその名の状態のままである者などいはしないのですよ。
多くの犯罪者は囚人となり、一般人へと戻ってゆくのです。
大人、子供、少年、少女、と人はその時の状態によってさまざまな呼ばれかたをします。
あなたを縛っているのは、過去ではなく、あなたの思い込みではありませんか。
また、どこか別の物語であなたと出会う時、あなたは、そして私はどんな呼び名で呼ばれているのでしょうね。
楽しみです。
かわい維新。
ごきげんよう」

シャルちゃんの声がした。
高慢ちきな名探偵らしくない、優しいお姉さんの話しかただった。
チェッ。