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リアクション
『えー、リング上では爆発、乱入と予想外の展開が立て続けに起こりました。選手はまだ爆発のダメージを……おっと、ウルトラヴァイオレット選手にネクロホーミガ選手がダメージを負いながらも立ち上がろうとしています!』
運よく爆風のダメージを最小限に抑えられた九条と、【リジェネレーション】をかけていた貴仁がほぼ同時に立ち上がる。
お互いに身構えるが、立っている者が自分達だけ、という状況に『戦っている場合ではない』と気づく。
二人はそのまま金網に手をかけ、ロープを足場にして上り始める。ダメージが想像以上に重かったためか、九条も貴仁も金網に上るのには時間を要していた。
「そうはさせるか!」
綾が場外から【パチンコ】で狙うも、
「【ヨシヒコ】!」
カンナに思いっきり叩きつけるように【ヨシヒコ】を投げつけられ、妨害されてしまう。カンナではなく、【ヨシヒコ】の妨害である。
その間に、リング内で立ち上がる者がいない為、妨害されることなく九条と貴仁は金網に上り切る。
それぞれの手に届くところにブーケはあった。九条と貴仁はブーケに手を伸ばす。が、ふと観客席を見ると二人とも手を止めてしまった。何を思いとどまっているのか、観客席がざわめき出す。
少し間を開けると、二人共金網の淵に立った。本来足場になる様な場所ではなく、狭い不安定な場所でバランスを保ちながら、しっかりと九条と貴仁は立っていた。九条はリングを正面から向き、貴仁は背を向けていた。
そして、ほぼ同時にリングに向かって飛んだ。
九条は身体をリングと水平にし、エルボードロップの体勢になる。貴仁はそのまま宙を回転するムーンサルト。
両者、受け身など考えていない決死のダイブ。食らった方は勿論、放った方もただでは済まない。
目標はリングに仰向けに倒れる目に入った二名。九条の肘は荒神、貴仁の身体は陽太が着地点だ。
重力に従い、落下する二人。果たして、待ち受けていたのは――
「「ぐはぁッ!」」
何もない、キャンバスであった。直前で荒神も陽太も転がって回避したのである。
九条と貴仁の身体が大きくバウンドし、倒れ込んだ。観客席から悲鳴に近い声が上がった。
「おいおい……何でブーケ取らないんだよ……アレ取ってたら勝ってたんじゃないのか?」
広明が今起きた出来事に、目を丸くして呟いていた。
「納得いってなかったからですよ、長曽禰さん」
広明の隣で学人が言う。
「納得いってなかったからって……何がだ?」
「試合の出来にですよ……粉塵爆発のダメージを負いつつも金網を上った……確かにそのタフさは認められるでしょう。しかしそのような棚ボタ的な勝利では納得いかないんですよ、自身も観客も……」
「観客も……って……観客の為に飛んだって言うのか?」
「ええ、盛り上がりますからね。見てくださいよ、この観客の沸き様を」
学人に促され、改めて広明が観客を見回す。そこは倒れた選手達に檄を送る観客達が居た。
「勝利よりも、試合のクオリティ……まさしく、ウルトラヴァイオレットは男の中の男ですよ」
学人が頷きながら言った。
「……いや、女だろ」
「男の中の男ですよ」
「……そうか」
押し切られた広明は、そのまま黙って試合へと視線を向けた。
「あぶねぇあぶねぇ……あれ食らってたら流石にまずかったな……」
まだ爆風のダメージが残るらしく、震える膝を押さえる様にして荒神が立ち上がる。
(おい馬鹿! 後ろ後ろ!)
綾から【精神感応】の声が届く直後、
「とーうっ!」
「ぐおッ!?」
後ろから茶子のライダーキックの一撃を浴びて倒れ込む。
『いつの間にか復活していた茶子選手、コーナーからのライダーキックがブラックジャガー選手に決まった!』
「ふっふーん、ライダーキックがばっちり決まるとかかっこいいじゃん! よーし、このままチャコが決めちゃうよー!」
茶子が荒神を無理矢理引き起こすと、そのまま背後から腕をクラッチする。
「えーっと……確かパンフレットでの形はこうだったっけ? まあいいや、トラマスクの人だからこの技! 猛虎原爆固めぇーっ!」
茶子はそう叫ぶと、腕をクラッチしたまま背後へと放り投げる。が、
「トラじゃねぇっての……っと!」
荒神は自ら勢いをつけて宙を一回転し、着地する。
「およ? あうっ!」
荒神は茶子に一撃食らわせ、蹲ったところで腕をクラッチする。
「せぇッ!」
そのまま荒神は茶子を持ち上げると、空中でくるりと回転させて背中から叩きつける。タイガードライバーと同型のジャガードライバーが決まった。
受け身を取り切れず「きゅう」と茶子は目を回してリング上に大の字になった。
『あっと茶子選手、ブラックジャガー選手のジャガードライバーに沈んだ! だがジャガー選手もダメージが深いのは同じ! そのまま足をふらつかせながら金網に手を――しかしその背後からウルトラヴァイオレット選手が歩み寄る!』
金網に手をかけた荒神の背後から九条がクラッチ。ジャーマンの姿勢に入る。
だが金網からの自爆ダイブによりダメージが深い九条も投げきれない。腰を落とし耐える荒神は、九条の手を取り逆に背後に回り込みクラッチ。相手に耐える隙を与えぬ高速のジャーマンで投げる。
しかし九条は空中で身を翻し着地。直ぐに起き上がれない荒神に両手を合わせ、それを枕に見立てて眠る仕草を見せる。そして漸く起き上がったばかりの荒神を肩に担ぐ。このまま前に落として顔面に膝蹴りを食らわせればゴートゥスリープの完成である。
だが今度は荒神が身を捩り九条の後ろに着地した。振り返る九条の顎に荒神がトラースキックを放った。
「ぐぅ……ッ!」
ふらつきながらも、九条は倒れない。荒神はそのまま九条の両足を払う様にローキックを放つ。足を払われ、座り込むように九条が尻餅を着いた。
「トドメ! ジャングリオン=ヤガー!」
荒神は叫ぶと、ロープへと走り反動を利用して加速。その勢いのまま膝を折り畳み、スライディングのように滑り込み膝頭を九条に叩き込んだ。蒼魔刀という技と同系のニーアタックを叩きこまれた九条は流石に耐えきれず、大の字でリングに転がった。
『大技の応酬を制したのはジャガー選手! 必殺ジャングリオン=ヤガーを食らったウルトラヴァイオレット選手は起き上がれない! そのままジャガー選手金網に手をかける!』
「させるか……う?」
場外、金網を上る荒神を邪魔しようとするカンナであったが、突如沸き起こった眠気に思わず膝を着く。ふと見ると【偽乳特戦隊】、シンも眠りについている。
それでもカンナは蹴りを放とうとするが、睡魔にあらがう事が出来ずそのまま倒れ込んでしまった。
「悪く思わないでね」
倒れたカンナ達を見て綾が呟く。【ヒプノシス】で眠らせていたのである。
そして金網に目を向ける。妨害が無い状況、荒神はダメージを負った身体でゆっくりであるが着実に頂上へと向かっていた。
『ジャガー選手、頂上までは時間の問題か!? 一方で他の選手達も回復してきているようです!』
「っく……金網ダイヴは無茶だった……」
金網ムーンサルト(セルフ)のダメージが徐々に回復してきた貴仁が何とか立ち上がろうとする。
「お?」
だが何者かに頭を掴まれた。貴仁が見上げると、そこには息を切らつつもしっかりと立っている陽太がいた。
「お、おお!?」
貴仁を無理矢理立ち上がらせると、陽太は再度列車投げの体勢に入る。決着を着けるつもりなのだろう。
しかし貴仁は少し驚いたものの、余裕は保っていた。先程同じ技をダイヤモンドカッターで返したばかり。今回も同じ芸当ができるだけ余力は残っている。
「陽太! 横よ!」
環菜がそう叫ぶと、陽太は貴仁を投げた。真横に水平に。列車投げ『弾丸超特急』である。
真横にリングと水平になる様に力任せにぶん投げる技である。普通のリングなら場外に放る、といった事も出来るが今回は、
「んぐぉっ!?」
金網にぶち当てる事も出来る。顔面から金網がひしゃげるほどの威力で叩きつけられた貴仁は、ずるずるとリングへと沈んでいった。
そのまま陽太は金網に手をかける。上るようである。
「……ふっふっふ。一体いつからしていた!? 海音☆シャナ、復活です☆」
その時炎を浴びて燻って倒れていた佐那の背中にあった、目立たないが設置してあったファスナーが割れ、緑と白を基調としたコスチュームの佐那が現れた。
「背中を見せやすいこの試合、脱がされても構わないようにオーバーボディは二重です☆」
「ならもうオーバーボディは無いんですねぇ?」
その背後から、ルーシェリアが佐那の首に腕を回す。スリーパーの体勢に入るが完全に決まり切らず、佐那が耐える。
だがルーシェリアは少し屈んだと思うと、
「そぉれぇッ!」
首を絞めたまま後方に反り投げる。スリーパースープレックスで投げられた佐那はリングに頭と首を固定された状態で倒れる。
しかしルーシェリアもダメージは大きかった。投げる方も体力の消耗が激しく、中々起き上がれない。
「あらあら、いいじゃありませんか」
起き上がろうとしたルーシェリアに、優梨子が柔道の上四方固めの形で覆い被さった。腕を入れ、跳ね返そうとしていたルーシェリアであったが徐々にその力が失われ、ぐったりとしていった。
『おっと、優梨子選手に抑え込まれたルーシェリア選手がまるで落ちたように体から力を失う! 一体どういう事でしょうか!?』
「いかがでしたか? 藤原式体固めの味は」
そう言って優梨子は口の端から垂れる血を指でそっと拭い舐める。体固めという名前だが、その実質抑え込んでいる間に相手の身体に【吸精幻夜】で血を吸って落としたのである。
立ち上がった優梨子は金網を上る二人を見るが、既に頂上まで手を伸ばせば届くところにいた。今から邪魔をしたところで間に合わないだろう。
「ふむ、仕方ありませんわ……なら次はあの方を狙いましょうか。身体もいっぱいあるなら頭もいっぱいあるでしょう」
そう言って優梨子は子供のように目を輝かせ佐那を見る。
「それにしても……爆発なんて戦法がありなら私も刀剣を持ち込めば良かったかしら」
ぐったりした佐那を引き起こしながら優梨子はもう炭と化しそうな吹雪を見て呟いた。流石に斬首はアウトだ。
――そうこうしていると、ほぼ同時に金網の頂上に辿りついた荒神と陽太がブーケを引き抜いた。直後にゴングが鳴り響いた。
『試合終了のゴングが鳴り響く! 波乱の展開の中、勝利を勝ち取ったのはジャガー選手と陽太選手! 今手にしたブーケを高々と掲げて勝利をアピールしています! 激闘の中勝利を勝ち取った二人、そして他戦い抜いた選手達に会場から拍手が送られています! 以上、本日の試合はすべて終了となります。権利を勝ち取った選手は後程牧師さんの所までお願いします。尚、途中からあからさまにルーシェリア選手を応援するようになった解説の泉空さんは私の独断でマイクを切らせて頂きました』
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