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リアクション
悪魔の研究2
「これは……何の臭いだ?」
「うっ……とてもじゃないけれど嗅ぎ続けていられませんわ」
「酷いもんだな…歌菜大丈夫か?」
「ええ、大丈夫…!」
右の扉を開けるととてつもない異臭が漂ってきた。
だが、これでも換気扇が回っているようで、ブオーンという音が耳につく。
それぞれ鼻を押さえながらもジョバンナとナオの姿を必死に探す。
「ジョバンナさ〜ん? ナオさ〜ん?」
「いたら返事をするですわー!」
「…ん、あれは?」
巽の見つめる先には、靴が落ちていた。
その横には机にほとんど隠れてしまっているものの、つま先のようなものが見える。
「!? いた、あれだ!」
巽はフィールドを飛び出し、見えたものの方へと走り出す。
「あっ、巽さん!?」
「おい待て!」
「おい……大丈夫か? …っ!?」
巽の見る先には、何かを貪り食う犬の姿があった。
数は3匹。 だが、普通の犬とは決定的に違っている点が1つあった…。
それは、目が血走り体の一部が機械で代用されていたことだ。
「グルゥゥゥゥゥァァァ!!!」
巽に犬が一斉に襲い掛かる!
「ちっ、このくらい!」
巽は【後の先】を使い、華麗にカウンターを食らわせながら歌菜のフィールドへと後退する。
「巽さん! 早くこっちへ!」
「ああ……、おい、気をつけろ! 貴公らの後ろだっ!」
「何っ!?」
天井から突如蛇達が降ってきたかと思うと、歌菜達のフィールドをとぐろを巻くように取り囲み始める。
蛇にしても長すぎる舌は、人1人など簡単に丸め込んで呑み込んでしまうようであった。
「シャャャャァァァ!!」
「どうしよう羽純くん!?」
「一旦フィールドを解くんだ! 走るぞ!」
「私が援護しますわ!」
【花散里】と【メルトバスター】をそれぞれ構え、連れていた【強化型スポーン】を体に装着するとスポーンの触手で周りの蛇を薙ぎ払う。
「早く! 今ですわよ! …伸びなさい! 【サーペントクラウン】!」
自在に伸びた髪と触手が炎に満ちた業火の舞を踊り狂い、その合間には斬撃と銃撃が華を添える。
「分かったわ!」
「急ぐぞ!」
今度は2人が巽の方へと走り出す。 巽は、近くにあった椅子や動物を飼育するケージを使い犬と戦っていた。
そして一瞬のスキを見て【ツァンダー変身ベルト】を装着する!
「全く、変身時は攻撃しないのがお約束…! と言っても判んないか!? 変んっ身!」
巽は光に包まれたかと思うと一瞬で変身を終える。
「蒼い空からやって来て! 緑の大地を護る者! 仮面ツァンダーソークー1!」
ポーズを決めると、再び襲い掛かろうとする犬に、今度は先制攻撃をかける。
「行くぞっ! ツァンダーーーーキッーーーークッ!!!」
飛び上がったツァンダーは勢いよく蹴り技をきめる。 流石にこれは効いたのか、喰らった犬はダウンした。
「魔女の侠客よ! 貴公も早く!」
ツァンダーは横を通り過ぎる歌菜達を確認し、エリシアに呼びかける。
「分かって、ます…! わっ!」
【真空斬り】で蛇を吹き飛ばしながらエリシアも合流する。
そうすると、今度は前方から鷹の大軍が飛んでくる。その雄々しき羽があるはずの場所は、骨がむき出しとなっていた。
「アアアァァッッッ!!」
「くっ! 俺達も戦うぞ!」
「うん! 【ハーモニックレイン】!」
歌菜の歌声は魔力の満ちた雨となり、鷹を地面へと叩き落とす。
そして羽純と歌菜は近づき【トランスシンパシー】で心を1つにする……!
ツァンダー、エリシアも2人の元へと近づいていく…
「「ほとばしる閃光……吹きすさぶ薔薇に想いを込めて! 目の前の敵を打ち払わん!」」
2人の両手にはそれぞれ槍が握りしめられていた。
「「【薔薇一閃】!!」」
四槍は息の合った2人の手で、次々と脅威を薙ぎ払う。 その様は風に吹きすさぶ薔薇の花弁が、舞い踊るようで。
2人が離れた時には、既に鷹は跡形もなく姿を消していた。
こうして突然の襲撃は一旦幕を閉じる。さすがに歴戦を戦い抜いた彼らも、準備なしに襲われれば必要以上に体力を消耗してしまう。
「はぁ、はぁ…… これで終わったか?」
「どう、かな…?」
「でも…、なん、で…? わたくしたちは、殺気…に、十分警戒して、いましたわ…」
「こうも、畳みかけられると…… もたない、ぞっ…」
4人の息を整ってきた頃、今度は蟻の大軍が姿を見せる。 その体躯は人間と同程度であるから厄介だ。
「また!? どうしてなの?」
「あーもう、細かい事ぁいいんだよ。 次が来た。 とにかく引こう、ここに俺達が探してる2人はいない」
「同感だ。 …おっ、あそこに非常口がある! あの中へ!」
「分かりましたわ!」
非常口の中に入り、内側からロックをかける。非常口は地下へと階段が繋がっていた。
「とにかく連絡をとろう、あの蟻達が閉じ込められていたのだとしたら、この部屋から出たがるはずだ」
「だとしたら、今私達のいた部屋とBチームの部屋は筒抜け状態ですわ!?」
「大変!? 早く伝えてあげないと…! 羽純くん!」
「分かってる!」
階段を下りながら一行はHCを使い連絡を取る。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ここは…倉庫というより、研究室?」
「暗くてはっきりとは見通せないが、研究に必要そうな設備は大体揃っているな」
【LEDランタン】を掲げるダリル。
そこには、大きなスクリーンとコンピューター。 さしずめ中央研究室とでもいうような部屋だ。
いくつものカプセルが並んでいて、奥の方にもたくさん部屋が見える。
「ルカ達はここでPCのデータをチェックしようかしら?」
「ならあたし達は奥をちょっと覗いてくるわね」
「私とカンナも行くわ」
「ぼ、僕も行きますっ」
そうして別行動、ルカとダリルはコンピューターの状態を確かめる。
「どう?」
【サイコメトリ】を使うダリル。
「……これは、しっかりと読み取ることが出来ないな。 ”想い”は感じるが、安定していない。 とでも言ったところか。」
幸い機能が死んでいるわけではない、とダリルは電源をつけ【電脳支配】で直接内部データに干渉する。
「ちっ。 どうやら能力者を警戒していたようだな、セキュリティが厳重だ。 そして何よりこんなセキュリティは見たことがない。
通常のシステムじゃない独自のセキュリティでデータを守っていたみたいだな」
「じゃあ、何も読み取れないってこと?」
「いいや、ただ少し時間をくれ」
「分かった、ならルカは他の皆の様子を見てくるわ」
一方その頃、セレンとセレアナは薬品室に来ていた。
「あたしが扉壊したときから薬臭かったけど、ここはさらに強烈ね…」
「さすがにつらいわね。 でもこの部屋、パラミタの薬品もあれば地球の薬品もある。 こっちは…独自製造かしら?」
「うーん、いまいち目的が掴めないわね。 こっちの方照らしてくれる?」
セレンの頼みに、セレアナは【光術】の光をセレンの方に向ける。
「あら、何かしらこれ…?」
「それも見たことない薬ね。 一旦持っていきましょう。 九条先生やダリルは医学に詳しいはずだし、何か分かるかもしれないわ」
「そうね」
その九条とカンナは、手術室に足を踏み入れていた。
「随分と古びた施設だけど、ここは比較的新しい場所なのね」
「だけど衛生管理もなにもあったもんじゃないけどね。 手術台がいくつかあるけど、ほとんど汚いな」
「そうね…… もう少し調べてみましょうか」
「九条先生、どうですか?」
「ああ、ルカ。 どうやらここには目立つものはないみたい。 もう少し調べてみるわ」
「おーい、ルカ! こっちに来れるか?」
ダリルの声を聞きルカ、九条、カンナが駆けつける。 そこにセレン達も合流した。
「どうだった、ダリル?」
「ああ、あんまりうれしい結果でもないがな…」
画面上には地球やパラミタの環境データやイコン、各種族の特性に動物のデータまでありとあらゆるデータがそこには表示されていた。
「しかもかなり最近まで更新されているようだ。 そこに何かがはまるような穴があるだろう? 恐らくそこにはカプセルがはまっていたんだろうな。 その中にいた何かにデータを送り続けていたらしい
このデータからみると、どうやら軍事的な目的も含まれているようだな。 不死の軍隊とそれによるパラミタの武力制圧を目的として……と、一部の資料に記述がある」
「他には?」
「悪いなルカ、これ以上はお手上げだ。 セキュリティ自体は回避できるがそれをやるとデータが全部ふき飛ぶように設定されている。
つまりデータの最奥は、特殊な方法を知る一部のやつしか使えないってことだ」
「そうなの…… 分かったわ。 ありがとうダリル」
「ならこの薬、これのデータはない?」
「調べてみよう」
薬を認識させると画面上には薬の細かなデータが表示される。
「…なによこのデータ!?」
「ロゼ? 急にどうした…?」
「これ、ドーピングなんてものじゃないわよ! こんなの毒薬と同等…いえ、それ以上の激薬だわ! 飲んだら死んでしまう!」
「……だが、どうやらこれは”第4次試作品”だ。 俺なら試作すれば当然、実験もするだろうな。 ってことは…」
「……許せない!」
「落ち着いてよロゼ、この施設を今怒り任せに吹き飛ばしても意味がない… あたし達にはしなきゃならないことがあったはず」
「それと、最後にデータから見つけたのはこのキーワード…… ”禁断の果実”」
「……やっぱりそこにつながるわけね。 ルカもそんな気はしてたけど」
「だが、これじゃ腑に落ちない点が多すぎる」
「そうね、結局あたし達が手に入れた情報をまとめるとどうなるわけ? 研究してたのは薬の開発のため?」
「セレンさんの今言ったことが目的なら、この薬……もし飲んでも生きらていられるとしたら、体は人を超越するような何かになってるんでしょうね」
「つまり強化人間開発…って感じかな? そして施設全体は古びてるのに、ここだけは使われているっていう矛盾した様子が問題、か…。
あんたはどう思う、セレアナ?」
「確かにカンナの言うこともそうでしょうね。 だけどトラップの謎も残ってるわ」
「うわぁぁぁぁーーー!!!」
そんな時、勇の叫び声が木霊する。全員がその声に向かって走り出す。
「うう、うわぁぁ…」
「どうしたの… っ!? こんな! ひどい…、こんなの許せないわ……」
先頭に立ち駆けつけたルカもその部屋の惨状を目撃する。
部屋に書かれていたのは資材在庫室との名前が書かれていた………
そこには、体の一部が欠けた”人間のようなもの”がケースに入れられていた。
他にも、中身が漏れ出ているものもあり、赤い小部屋には一杯の惨劇が詰まっている。
薬物の臭い以上に強い刺激臭は部屋の中に充満し、思考を狂わせていく…。
そんな狂気の中にさらされ、勇は硬直を解けずにいた。
「すまないね、ユウは立ち直るのにもう少し時間がかかるだろう。 とにかくここにはジョバンナもナオもいないようだ。
私達も他の道に合流するとしよう」
「わ、分かったわ…」
他のメンバーもこの惨状を見てさすがに話す言葉はなく、それぞれが広場へと戻っていく。
「こんなの…こんなの…こんなのって…………!!!」
「それでも…ここを進むしかないんだよ。 考えるなとは言わない。 動きながら考えろ。 ジョバンナを探しに来たんだろう!」
「こんなの……そう、………ですね………こ、怖いですけど、早く探さないと……」
「ダ、シ……テ?」
「……えっ?」
「ダシ……テ?」
「…ユウ、早くこの部屋を出よう…」
「ここカラ……、ダして!」
そして籠の中の鳥達は一斉に囀りをあげる。
「イヤアアアアァァァァァ!!!!」
「くっ…行くぞ! ユウ!」
「う、はい! フエンさんっ!」
2人は部屋の外に出て扉を閉めた。 そのすぐ後に狂気の箱が開かれ扉へと群がる音がする。
そして勇が研究室へ戻ってきた時、ダリルのHCに連絡が入る。
「こちらCチーム、羽純だ。 そっちはどうだ?」
「こっちはBチームダリル。 取り敢えずこの施設の概要がおぼろげにつかめたところだ」
「そうか! その様子だとまだ来てないんだな、なら今すぐそこから逃げろ!」
「なに? どうしたそんな慌てて」
「悪いがこちらが抑えきれなかった。 今度はそっちに向かったはずだ!」
「何?」
「皆さん大変です! あっちの部屋にいた人達がっ! 動き出して!」
そして最悪のタイミングで蟻の軍団が研究室に侵入する。
「結局こうか! 羽純、残念だが手遅れだ。 あとで落ち着けば連絡を入れる!」
「全員撤退! とりあえず手術室へ!」
ルカの指示に全員が手術室の方へと避難する。
セレンとセレアナは、それぞれの【フリージングブルー】【バーニングレッド】で
自身の武器を強化し、迫る蟻の大軍の頭に一発ずつ確実に命中させていく。
「あたしたちが時間を稼ぐわ! でもいつまでももたないわよ!」
そして残りのメンバーは手術室へと入る。
「さて逃げ込んだのはいいが…どうするんだ?」
ダリルの質問には誰も答えることが出来ないでいた。
「さっき調べた時は特になにもなくて…変な所といえば中央の手術台がきれいなことくらいですかね」
「でも、改めて見ると、この手術台何かおかしいわ…… 移動できるようになってる?」
そのカンナと九条の発言が勇にひらめきを与える。
「…他に綺麗すぎる場所はないですか?」
「…そういえば、あそこに並べられてる机、1つだけ汚れがついていないわ!」
「それですっ、きっとそれに仕掛けが…」
机を調べてみると、綺麗な机は他と違ってその場から動かせなくなっていた。
「机の形から考えれば、多分それに手術台を近づければ何か出てくるはずですっ!」
「ダリル、動かして!」
「ああ」
そこにセレン達も入ってくる。それと同時に手術室の扉を塞ぐ。
「お前達、外はどうなったのかい?」
「……あんまり聞かないほうがいいわ」
「そうね」
外からは叫び声が聞こえてくる。 漁夫の利とでもいうのだろうか。
資材在庫室からあふれ出た何かは、欠けた腕を伸ばすように、足が失われてるにも関わらず走り寄るように、一心不乱に一行を追いかけてきた。
その欠損部分から流れ出る液体と腐った臭いは、蟻にとって自分達の本能に刺激を与えるものでしかない。
ただその本能は目の前を歩く者の肉を引き裂き、咀嚼させる…… こうして互いが互いの足止めとなって、研究室になだれ込むことが防がれていた。
それでも彼らは同胞が無残に食べられることなど気にも留めないように彼らは迫ってくる。
「タ、ス……ケテ! オイテ……カ! ナイ、デ……!」
「あたし達も撃ったけど無理。 蟻はまだしも、あれは死なないみたいだわ」
そしてダリルが手術台を机に近づける。 そうすると、なんと机の中からPC飛び出し起動した。
そのまま彼がPC内のプログラムを作動させると、手術室の壁の一部が扉となって先への道を示す。
「ただ先に進むだけなのにこの手間をかけるか、どうやら通常この先へは滅多なことがなければいけないようだ」
「ユウ、よくこの仕組みを見つけたな。 さて、ここであの者たちと同類になるわけにもいかないだろう?
先を急ぐとしよう。 無論私はネズミだから同類にはなり得ないがね」
そうして一行もまた、背後に狂気と混沌を聞きながら、先へと歩を進めていく……
――――――――――――――――――――――――――――――
再会
かつみを先頭にエドゥアルトと正臣がその後に続く。 彼らが選んだ正面の道はすぐに階段へとつながっていた。
彼らはそれをひたすらに下っていく………
「この階段、一体何処まで続くんだろう?」
「知るか! とにかく、ナオを見つけるまでオレは…っと!?」
「危ない!!!」
焦るあまり階段を踏み外しかけるかつみ。 エドゥアルトがそれを咄嗟に支える。
「かつみ、大丈夫かい? もう少し落ち着いて進んだ方が…」
「生憎だが俺は命令されるのが大嫌いなんだ! それにナオが今にも危険な目にあってるかもしれないだろ!!?」
「あっ、そんなつもりは…」
「かつみ! ……ナオが心配なのは私も同じだよ。 それはあなたもそうだろう、正臣? かつみ、
苛立つのは分かるが、正臣にぶつけるのは違うだろう? もう少しのはずだ、時間はないが焦らず行こう」
「………………分かった、悪かったな」
「いいや、オレも皆がいるから抑えられてるけど……、アンナが心配でたまらないよ…」
「よし……早く見つけ出してこんなところでてやるよ!」
「ああ!」
「私も全力を尽くそう」
そして3人は遂に最下層に到達する。 そこはとてつもなく広い空間であった。
どこかの大ホールかのように高い天井には、いくつかの照明が心もとない光を注いでいる。
光はその空間の中心に向けられていた…… 正臣達は自然とそのスポットに照らされた存在を見つめることとなる。
「あれ、は…… なんだよ…?」
「女の子みたいに見えるけど…」
「とにかく、行ってみよう」
3人は空間の中央へと歩みよる。
そこにはカプセルが1つあり、中で少女が眠りについていた。
≪お待ち、しておりました…≫
「!? 誰!?」
正臣が反応して振り返る。
そこには、カプセル内の少女よりも大人びた女性が2人、いつのまにか現れていた。
2人はそれぞれナオとジョバンナを抱きかかえていた。
「ナオ!」
「アンナ!」
かつみと正臣は駆け寄り、それぞれのパートナーを引き渡される。
≪彼女達には…苦労を、掛けてしまいました。 あなた方にお返し……いたします≫
「…? これは、テレパシーなのか?」
「おまえ達、ナオに何かしやがったのか!?」
≪私達は、ここでずっと誰かが来るのを待っていました…。 外への助けを求めながら…
あなたがナオと呼ぶその少年と…そちらの女性は、私達の呼びかけ、に、答えてくれたのです…≫
≪私達は、この施設の隔離フロア…から、出ること、が、できませ…ん。 そして、私達は、研究を完成さ…せなければなりません…≫
「研究って、何のことなんだい…? キミ達とこの子はどうしてこんなところに?」
≪私達は、このパラミタを……調査するため、の強化…人、間、…です≫
≪この施設を、運営、し……パラミタを……調査して、地球…人が、契約をしなくとも…ここで暮らせ、る、よう……に≫
「一体誰の指示でそんなことをさせられている?」
≪私、達に命じた……人間は、もう…いま、せん……≫
≪お願い……です、そ、の子も、連れて………外に≫
「待てよ、それならお前達も一緒に来ればいいんじゃないのか?」
≪わた……し、達は、も、う長く…ありま、せん…≫
≪その子に……果実、を…………≫
その時、天井が爆音と共に吹き飛んだ!
「うわっと!?」
「何だいきなり!」
「禁断の果実は自分がいただくでありますーーー!!」
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が穴から空間の中へと入り込む。
「むむ、あのトラップを潜り抜けてくるとは……だがこれで!!」
ポチッ。
「……ん? おかしいでありますね?」
ポチッ、ポチッ。
そこにB、Cチームの面々も合流する。
「ああ! 正臣さん! 無事だったんですね!」
「かつみも一緒ね。 その2人は…ルカとジョバンナ!?」
「そう、2人とも無事だった…って、あれ?」
歌菜とルカの呼びかけに、正臣は笑顔で答える。
しかし…吹雪の爆発に気をとられた一瞬の間に、2人の姿は消えてしまっていた……
「見つかったんですねっ! 良かったです〜!」
「どうやら我らの進んだ3つの道は、ここでつながるようになっていたようだな」
「無事でよかったよダリル」
「ああ、もう少し早く連絡がほしいところだったがな」
勇、巽、羽純、ダリルも互いの再会に安堵する。
「あっ、こっちのボタンじゃなかったであります、そっちのをっと…」
吹雪が3度目の正直で別のボタンを押すと、今度は空間の壁が破壊され激しい揺れが一行を襲う。
どうやら爆発の影響は、施設全体にまで及んでしまっているようだ。
「きゃっ!? あの人は何してるんですの!?」
「ああごめん、あれもうちの生徒よ…… セレアナ、あたし達で吹雪を止めるわよ」
「了解したわ」
「ふむ、今までの衝撃でここはもう持たないだろうね…… あそこから出られるようだな。 ユウ、早く脱出を」
「ナオ。 どうだろう、動けるかい?」
「エドゥアルトさん…はい、動けます」
「俺達も急ぐぞ…? おい正臣!?」
「頼まれたんだ! この子も連れて行かないと!」
全員が吹雪の爆弾で開けた穴から外へと脱出していく中、正臣はカプセルのフタを開けようと奮闘する。
「それはそうだが…早くしろ! 崩れるぞ!」
「く、…あかな、い……!」
「……正臣。 ……わたし、やる」
「アンナ? 平気なのか!?」
「…【サイコキネシス】…!」
こくりと頷くと、アンナは力を使う。
カプセルは長い間開かれていないようであったが、ゆっくりと音をたててその封印を解いていく…
そこには白いワンピースを着た少女が、静かに目を閉じていた。
「ありがとうアンナ!」
正臣がそっと少女を抱き上げると同時、崩落の影響で天井から岩の欠片が降ってきた!
「危ない正臣!」
九条は【紅王】を抜刀すると、大太刀とは思えない速さで振り下ろし岩を一刀両断にする。
カンナもそれに合わせてジョバンナの身を守る。
「つっ…助かりました。 ありがとうございます!」
「私はみんなの引率よ? 絶対護ってみせるから、安心してね!」
「ジョバンナはあたしが連れていくからあんたはその子ね」
「分かった!」
こうして、一行は、ジョバンナとナオ、そして謎の少女を連れて悪夢のような施設から脱出することとなった…