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最強タッグと、『出来損ない』の陰謀 前編

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最強タッグと、『出来損ない』の陰謀 前編

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5/厄介な相手たち

「ちっ」

 そろそろ、手加減と時間稼ぎとを念頭に置いた戦いを続けるのは苦しくなってきた、ということか。相手が、相手なだけに。
 いや──はじめから、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)にはそこまでの余裕はなかったのだろう。大勢の観衆の前での極度の緊張。そして、「殺さない」というルールを順守せねばならないという条件の下で。

 優勝を狙う。その上で、鏖殺寺院のことを探るために潜入をした面々のために、注意も引きつける。
 あくまで、ルールを破らない範囲で。
 その条件設定に適応すべく、彼女なりに必死だったに違いない。
 だからこそのこの、苦戦だ。──ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)にはそれが些か、苦々しい。
   
「条件は同じ。まさか、雅羅たちがここまでできるようになってたとはな……!」

 押されているわけではない。しかし、押しきれない。つまり互角。
 顔見知りが相手とはいえ、こうも決めきることができないとは。「やるじゃん」としか、言えない。
 雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)アルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)。知り合いだからこそ、負けたくない気持ちもなおのこと強い。

「マスター」
「まあ……それが本来、あいつらや俺たちの目的なんだろうが、な」

 お互い、傷だらけだ。雅羅たちも、フレンディスも、ベルクも。
 そのくらい実力的には拮抗している。それを利用してたっぷり潜入チームの時間稼ぎ。理想的な展開ではあるが。

「けどな、やるからには勝ちたい。そうだろ? フレイ」

 隣に立つフレンディスに、ベルクは語りかける。

「そう。こっちも、そうよ」

 向こう側で、雅羅もパートナーを隣に、返す。
 余力はそろそろ、どちらもなくなってきたところだ。──このあたりでもう、決着をつけるべきだろう。
 時間かせぎを意識しすぎて、お互い共倒れになる前に。そんなことになってしまっては、すっきりしないことこの上ない。

「行くぞ、フレイ」
「はい、マスター」

 それまでの、暴風がごとき接戦が嘘のような静かな、言葉のやり取りだった。
 この一撃で、すべてを決める。双方、その意志を声と武器とに込める。

「アルセーネ」
「ええ。勝つのは、こちらです」

 十分、時間は稼いだ。あとは心置きなく、悔いを残さぬよう戦うのみだ。
 どっちが勝っても、恨みっこはなしで。



 耳に仕込んだ通信機が不意に、上役の声を伝えた。

「──は? 一時撤退?」

 そして一瞬、恭也は自分が聞いたその言葉を疑った。
 まさに今現在、恭也は竜斗との一騎打ちの真っ最中なのだから。
 ここを抜かれればあとはまともなトラップも、戦力も残っていない──それゆえに必死の立ち回りを演じているというのに。

 正直、不満はある。

『そのお前の雇い主がいいと言っているんだ。かまわん、退け』

 荒神の声が上から押さえつけるように言う。
 はいはい、そうですか。

「……了解!」

 釈然としない気持ちは残るものの、大人しく恭也は指示に従うことにした。
 そろそろ、連れてきた警備兵たちも全滅しそうだ。それに、視界の隅に捉えた通路の向こう側から、梅琳が侵入者たちに合流せんと走ってくるのが見えていたから。
 変に粘っても、ジリ貧。給料には見合わないことになりそうだと、判断したわけだ。

「あっ!?」
「悪いが、この勝負はおしまいだ!」
   
 警備兵のひとりに命じ、壁のスイッチを押させる。
 放出されるのは、通路いっぱいを埋め尽くす真っ白な煙幕。それが敵の視界を奪うのと同時、その場を離脱する。
   
「……解せないことには、変わらないが、な」
   
 この先にあるトラップに、目ぼしいものはない。
 一体雇い主の老人は、なにを考えているのだ?
  


「朱鷺さーん」

 三対一で追い詰めていたのに、相手は持ちこたえていた。
 もう一歩、押しきれなかったその相手が煙幕の向こうに消えたそこに立ち尽くしていた朱鷺は、聞こえてきた声に振り返る。

「皆さん」

 別行動で潜入をしていた、加夜たちの一団だ。声の主は、彩夜か。

「敵は!?」
「……どうやら、後退したようです」

 セレンと麗も、煙の向こう側をじっと睨んでいる。
 追いついた一行にかくかくしかじか、ここで起こっていた出来事を話す。
 おそらくは、敵の中でも上位に位置するであろう、手練れであったこと。
 あの男が出てきたということは、もう敵の親玉がこの近くに潜んでいるであろうという予測も、伝える。

「そっか。なら、ここからはみんなで行ったほうがいいかもだね」

 美羽の呟きに、頷く。
 敵の本拠が近いなら、用心しておくに越したことはない。
 そして。

「……ここにきて、隠そうとすらしなくなってきてるね」

 コハクが、ベアトリーチェとともに頭上を睨んでいた。
 そう、もはや隠してすらいない。
 天井からぶらさがる監視カメラ。コハクの一撃で、それは粉々に砕かれる。

 一同の目が、破壊されるそのカメラを追った。
 防衛よりも──そんなに記録が重要なのか?



「なんだか、本調子じゃないみたいね?」
   
 くるくると、手にした拳銃をまわしながらセレンフィリティが言う。

「……くっ」
「それとも、ナメられてるのかしら? なんだか、それなら不愉快ね。面白いコだって、思ってたのに」

 油断を、していたわけではない。それでも、一筋縄でいかない相手を前に、自分に枷をはめた状態で戦っていたのだから──そのように不機嫌そうに言われてしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
 ──どうすんのよ、真人。セルファは背中を伝う冷や汗に、思う。

「全力できなさいな。お互い、そのほうが楽しいってことくらいわかってるはずよ?」
「……うるっさい!」

 やれるもんなら、とっくにやってるっての。これだけ記録をされている中で、フルに実力を絞り出すなんてできない。隠し球は隠しきる。それが真人との約束なんだから。
 件の真人も、セレアナに追い込まれている。回避し続けるだけで、一杯のようだ。そりゃあそうだ。彼もセルファも、自らの能力と戦術とを敢えて限定している。実力がある程度以上近い同士と当たれば、そのぶん不利なのは目に見えていること。

「ま、本気出さないまま負けていいっていうのなら、止めないけど? 別にこっちだって、とっとと次の試合に進むだけだし」
「大きなお世話だって……言ってるでしょっ!!」

 折っていた膝を支えて、立ち上がる。──大丈夫だ、自分はまだやれる。
 だがカメラを気にしてこのまま戦って、どうにかなる相手でもない。

 ──どうする。

 約束通りに技を封印したまま、敗北覚悟でやりあうか。
 勝つために、すべての技を駆使するか。
 ほんとに。どうすんのよ、真人。あたし、負けるのやだかんね?

「く……!」

 セレアナの一撃に打ち据えられ、真人の身体がリングの上を滑り、転がる。
 あまり決断をするのに、時間は残っていないようだ。

「あんたたちなんて、このまんまで十分なんだからね」
「ふーん、あ、そう」

 どうする。どっちを選べばいい。
 軽く流されながら、精一杯の強がりを吐き出して。それでもまだ、セルファは自分がどうすべきなのか迷い続けていた。



「指示通り、警備兵たち、すべてに撤退命令を出したが。……ほんとうに、これでいいのか?」

 通信を切り、荒神は老人へと振り返る。
 車いすの上で、財団の首領たる彼は無言に頷いてみせた。

 ──理解の出来ない、選択でありそれは要求。

「じじいの自殺に手を貸すために俺は出資したわけじゃあないんだぞ。ほんとうに勝算はあるんだろうな?」

 老人は、無言。黙って見ていろ、とでも言わんばかりのその態度に、荒神は溜め息を吐く。

「もしものときは──相応の覚悟、見せてもらうぞ」

 部屋の扉がスライドし、猛が姿を現す。
 彼が戻ってきたということは、じきに追っ手もそのあとに続き、ここにやってくるということ。

 ──かまわん、好きにしろ。侵入者たちは皆、この制御室に通せ。

 そこではじめて、そう言って老人は口を開いた。
 まったくの鈍色一色に染まった壁面と、モニターとに囲まれて、老人の声は深く低く、響き渡っていった。

 その、直後──だ。
 よくもまあ、これほどの人数の侵入を容易く許したものだ。
 そう、荒神が呆れるほどの数の侵入者たちが扉を破壊し、乱暴にも闖入をしてきたのは。