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一会→十会 ―領主暗殺―

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一会→十会 ―領主暗殺―

リアクション

 『MG∞』に参加する魔法少女たちのために解放された控室は、早くも大勢の出演者たちで混雑していた。
 そのうちの1人である小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、ドアをくぐって早々聞かされた話に絶句する。
「あ、アレクがバァルの代役やってる!?」
「うん」
「バァルの……」
 驚きのあまりそれ以上口にできなくなっている美羽に向け、椎名 真(しいな・まこと)はことのあらましをざっと説明する。それはアレクのことを知っている美羽が、いざ本番が始まってからバァルの格好をして貴賓席に座っているアレクを目にしたとき、不必要に驚いたり「どうしてあなたがそこにいるの!?」といった言葉を口走ったりしないようにとの配慮からされたことだった。
「――ということだから、このイベントの間はアレクさんをこの国の領主として扱ってほしいんだ。よろしくね」
 そう言うと真は室内を見渡して、アレクの正体を知っているほかの出演者へと移動して、再び美羽にしたのと同じ説明を始めた。
「美羽、大丈夫?」
 絶句したままの美羽に、馬口 魔穂香が少し心配するように横から覗き込む。
 美羽はくるっと魔穂香の方を向いた。
「魔穂香、ごめん!」パッと頭を下げる。「一緒に歌おうって約束してたけど……私、バァルの力になりたいの」
「うん。美羽ならきっと、そう言うと思った」
 ずっと頭を下げっぱなしの美羽に、魔穂香は明るく言う。
「ステージのことは心配しなくていいよ。私と六兵衛でなんとかするから」
「まあ、そうなるッスよね。コハクさんは美羽さんと一緒に行くってのはもう分かってるッスよ」
 やはり傍らで聞いていた馬口 六兵衛が悟ったような声と表情で、「……ですよね?」とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)へ問いかける。
「うん。ごめんね、六兵衛」
 六兵衛の予想通りに、コハクが答える。美羽のパートナーであり恋人でもあるコハクが、美羽だけを犯罪者の探索にあたらせて、自分はステージで曲を演奏しているなんてことはあり得ない。それは六兵衛だって分かっている。
 六兵衛は、はああーっとため息をついた。土壇場で出演者4人のうち2人がいなくなるのだ、その負担は大きいに違いない。それを知るコハクは心底から申し訳なさそうに六兵衛を見る。
「まぁ、なんとかするッスよ。魔穂香さんもそう言ってるッス。
 豊美ちゃんには話をしておくッスから、気をつけて行ってきてくださいッス」
 そう口にする六兵衛からは、悲観の表情は見られない。先ほどの派手なため息の一瞬で気持ちを切り替えたのか、謝罪するコハクに笑えるだけの余裕があった。
「さあ、そうと決まったら行って行って。必ず犯人を捕まえなさいよ?」
 しっしと、追い払うようなしぐさまでしてくる魔穂香に、美羽は感謝いっぱいの目を向けて抱きつくと
「ありがとう、魔穂香」
 とありったけの思いでささやき、手を振りながらコハクとともに控室を飛び出して行ったのだった。



 会場内に入場が開始され、レティシアは鑑賞の為に良い場所を探す振りをしながら城内の観客たちを見て回った。
 レティシアや他の警備担当者は、セレアナがスキルによって予めあたりをつけた『暗殺者が潜みそうな場所』や『実行に適した場所』を分担し回っている。回りきれない部分は封鎖し、また兵士たちに敢えて客を誘導して貰い『衆人環視』の状態にする事で、極力犯人が顰めない様にしてやる。
 更にセレアナは人ごみの中でも彼等が動き易い様にナビゲーションを行っていた。
 それらを伝達するのはミスティの役目だ。
(警備役同士で連携が取れればいい結果に結びつくと思います。誰の犠牲も無く解決出来る様に全力を尽くしますよ)
 そう考えながら、ミスティがこっそり目配せするのはピンクの兎だ。姫星は小さな子供に対応しつつ、衣装の中からそっとミスティを見る。
(ここは大丈夫そうですね。次は……)
 領主が座る貴賓席付近。
 そこにはルゥルゥ・ディナシー(るぅるぅ・でぃなしー)が涅槃イルカに乗っている。日よけにさしている傘は普通ならば『他のお客様の為に』と咎めるところだが、意図があってやっているのだ。目的の為に敢えて、わざと空気を読まない。ルゥルゥの得意とするところだった。
(それに上はリースさんが居ますし、完璧ですね)
 ミスティは会場の上を飛び回るリースを見て小さく頷いた。
「えい!」
 リースが指先を空に向かって掲げると、そこから放たれる魔力が鮮やかに青い空へ舞い上がる。ステージを彩る真昼の花火に観客達は湧いている。
「わああっ」「みて、花火だわ」「綺麗ねぇ」
 歓声に会釈で答えて、リースは次の場所へ飛びながら観客達の持ち物を見ていた。
 例えばこれが地球なら遠くからスナイパーライフルで狙ってくる人間が主だろう。だからリースはステージが開始される前から特に大きめケースを背負うものを重点的にチェックしていたのだ。そんな折、リースはヴァイオリンのケースを持った女性を見つける。
(こんなところであんなケース……あ、怪し過ぎます!)
 リースは息を吸い込んで、再び空へ向かい指先を振り上げた。
 緑と黄色の花火に混じって打ち上げられたのは赤色の花火だ。その『合図』を見て、下に居る米軍の兵士達が動き出のを確認し、リースは一人頷くのだった。
(お願いします!)



 領主の挨拶――と言ってもアナウンスに会わせて貴賓席から観客に手を振るだけのもの――が終わり、いよいよ『MG∞』の最初のイベントが始まろうとしていた。
「あわわ、緊張しますですー」
「うん、実は私も、緊張してるかも。さっきチラッと見たけど、凄いたくさんの人が集まってた。
 でも、きっと大丈夫! みんなが居るからねっ」
 横でそわそわとしている讃良ちゃんに、遠野 歌菜(とおの・かな)が笑いかける。そこに月崎 羽純(つきざき・はすみ)と豊美ちゃんがやって来て、出番を告げる。
「歌菜、そろそろ出番だ。
 裏方は任せろ、頑張ってやってこい」
「讃良ちゃん、私がちゃんと見てますから、頑張ってきてください」
 励ましの言葉をもらって、歌菜が「ね?」と言えば、讃良ちゃんも「うん!」と返す。
「それじゃ、行こっ!」
 歌菜が讃良ちゃんの手を取って、ステージに上がる。魔法少女の衣装に身を包んだ二人へ、スポットライトと歓声が向けられる。

「皆さん、本日は『MG∞』のイベントに来てくれて有難う御座います!
 本日の司会は私、【魔法少女アイドル マジカル☆カナ】と」
「【ぷち魔法少女 うのの☆さら】が務めます!」


 紹介をし、頭を下げる二人の魔法少女に、惜しみない拍手と歓声が送られる。
 魔法少女達が安心と幸せを届ける夢のステージ。どうぞ最後まで、楽しんで行ってくださいね☆
 では、本日最初のステージは……」

 こうして、魔法少女たちのステージは幕を開けた――。