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白い機晶姫と機甲虫

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白い機晶姫と機甲虫

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三章 巣


 ――大廃都・地下迷宮。
 潜入組は立ち塞がる機甲虫たちを撃退し、地下迷宮の更なる奥に進んでいく。
 イコン組は上手くやっているだろうか。アルト・ロニアの住民は避難できているだろうか……様々な想像がセレアナの中で膨らんでは弾けていく。
 幾度となく曲がり角を曲がり、上下の感覚さえ定かではない通路を通り抜け、潜入組は巨大な扉の前に辿り着いた。
 イコンの出入りを想定しているのだろうか? 扉は人よりも遥かに大きく、常人の力では開ける事すら適わないように見える。
 そして何より。扉の向こう側からは、溢れ返る程の濃密な気配が漂っていた。銃型HC弐式のモニターにも、この先に無数の敵が集っている事を示している。
「……開けるわよ」
 セレアナの言葉に皆が頷く。4人が扉に手をかけ、思い切り力を込める。
 ……ギ、ギ、ギ……
 重く鈍い音を立てて、扉が開く。開け放たれた扉の先でセレアナが見たのは、機甲虫だった。
 全てが機甲虫だった。床から天井、それらを支える柱や壁面に至るまでも、全てが機甲虫で侵食されていた。どこまでが迷宮で、どこまでが機甲虫なのか定かではない。赤く輝く機甲虫の眼が暗闇を微かに照らし、部屋全体は無数の機甲虫がもたらす胎動に包まれていた。
 ――巣だ。これこそが、機甲虫の巣なのだ。
「来るわ……!
 部屋から放たれる威圧感に戦(おのの)く暇もなく、機甲虫が群れて襲いかかってきた。
 セレアナは【秘めたる可能性】を使い、【アブソリュート・ゼロ】を発動した。機甲虫の動きを遮る氷の壁を作り、機晶ロケットランチャーを撃つ。
「キシャアアアアアアアアアアアアアッ!」
 対イコン用ロケット弾が機甲虫の群れを貫き、爆散する。
 だがここは機甲虫の巣だ――仲間が爆炎に沈むのも意に介さず、次々と機甲虫の群れが襲いかかってきた。

「目を瞑ってて下さいよ! 光条ストーンフラァッシュッ!」
 飛来する機甲虫の群れに、巽はツァンダー変身ベルトから光粒子を放出した。
 放たれた光が機甲虫の群れを突き刺し、勢いを削ぐ。この隙を突き、巽は跳躍。部屋の中に侵入した。
(守ってばかりではダメだ! 攻めなければ!)
 同じ考えに至ったのだろう。セレンフィリティと吹雪も部屋内部に入り込み、それぞれの方法で巣の破壊を目指した。
 セレンフィリティが【ゴッドスピード】と【グラビティコントロール】を、吹雪が【千里走りの術】を使い、壁や天井を縦横無尽に走り回り、相手を攪乱する。壁や天井に群れる機甲虫は鋭い爪で2人を突き刺そうとするが、巽の龍殺しの槍がそれを防ぎ、セレアナの機晶ロケットランチャーが敵を吹き飛ばしていった。
 とは言え、敵はこの部屋そのものだ。4人だけでは回避と防御に精一杯であり、殲滅するのは不可能だ。
 足下から爪を振るう機甲虫を避けて回りながら、飛翔する機甲虫の群れに龍殺しの槍を突き通す。防戦一方になりつつある状況下で、巽の【ホークアイ】が、とある物を捉えた。
(あれは……何だ!?)
 広大な部屋の片隅に、球状の物体が生えていた。巽の知る限りではキノコに近い。よく見るとその球状物体は、部屋のあちこちから生えているようだった。
 そして、その球状物体からは……芋虫が生まれ落ちていた。全身に灰色の金属装甲を纏った芋虫を守るように、機甲虫たちが群れ集っているのだ。
「そうか、あそこから機甲虫が生まれてくるのか……!」
 仮に機甲虫が虫としての性質を色濃く引き継いでいるとしたら、あの球状物体は卵嚢である可能性が高い。巽は自分の推測を、3人に伝えた。
「みんな! あの物体を破壊してくれ! あれが、機甲虫を生み出している!」
 吹雪、セレンフィリティ、セレアナが頷き、卵嚢に向かう。対して機甲虫は卵嚢を守るように何重もの陣形を組み、潜入組の行動に抵抗した。
 吹雪が22式レーザーブレードで群れを斬りつけ、離脱。続いて、セレンフィリティが機晶爆弾を投げつけ、セレアナが機晶ロケットランチャーを撃ち放った。
 爆発が荒れ狂い、機甲虫の群れが織り成す『盾』に大きな穴が出来る。巽は必死の覚悟で穴の中に飛び込むと、卵嚢に【ダブルインペイル】を放った。
 手応えあり。卵嚢に突き刺した槍の石突を殴り、より深く抉る。
「――青心蒼空拳! 晴天霹靂掌!!」 
 【轟雷閃】の電撃が槍を伝い、卵嚢に流し込まれた。ジジジジジッ、という音と共に卵嚢から発火、爆発する。
 ……ギィィィィィィィィィ……!
 機甲虫の悲鳴が聞こえたような気がした。
 部屋の中には卵嚢がまだ残っている。だが、皆疲弊しており、これ以上の追撃は無理だった。
 心に若干の痛みを残しながらも、巽は告げた。
「……撤退しよう!」