リアクション
激戦、お嬢さま
「ふうー…………。あーえらい目にあった」
歌菜と羽純の二人組からなんとか逃れた夢安は、フレッドとともにとある部屋で休憩していた。
物置みたいになっている部屋であるし、さしあたりは安全のようだ。
「なんとか逃げ切れたなぁ」
フレッドも安堵の息をつく。
二人はすでに仲間を何人も失い、いまや二人だけになっていた。
もちろんそれでも、二人は諦めるつもりはない。お互いの目的のために、アメーリエの下着を目指すのだった。
と、そこにいきなり、何者かが転がり込んできた。それは榊 朝斗(さかき・あさと)だった。
「夢安っ!?」
「朝斗っ……!」
二人は互いの顔を見あわせ、驚いた。まさかこんなところで出会うとは……。
しかし、再会を喜んでいる場合ではない。朝斗は夢安の肩をがっと掴んで言った。
「夢安――悪いことは言わない。すぐに逃げろ」
「ど、どうした急に?」
下着ドロのバレているためだろうか。夢安は警戒を露わにしたが、どうやら朝斗はそういうつもりではないらしい。むしろ、本気で夢安を心配している顔をしていた。
「いいから早く! 早くしないと、ここには彼女が……彼女がっ……」
その瞬間だった。
「!?」
ドゴォッというすさまじい破壊音とともに、壁をぶち抜いて一人の娘が現れた。
それは――アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)。けれど、機晶姫のその身体を駆使した、あまりにも重武装な姿に、夢安は目が点になった。
朝斗がガクガクブルブルと震えている。
「き、きたああぁぁぁぁぁぁぁっ……――っ!!」
どうやらなにかのトラウマの引き金が引かれたらしい。
ひいいいぃぃとムンクの叫びのようになった朝斗は、夢安を引っぱった。
「早く! 早く逃げるよ夢安!」
「お、おいっ!」
夢安はなにがなんだかわからない。
すると――
「朝斗さあぁぁぁ……――ん……あなたは……この変態どもの味方をするつもりですかぁ…………」
ゆらりと、緑色だったはずの瞳に赤い光学レンズをはめ込んだアイビスが、動きだした。
「ならば――」
ガチャリと、アイビスの武装が音を立てる。
銃弾がいくつも装填され、バズーカやマシンガンの照準が夢安たちを捉えた。
「あんたも皆殺しよおおおぉぉぉぉっ!!」
「ひいいぃぃ!!」
ずがががががががががっ!!
無数の弾丸が壁や床を次々と破壊してゆく。朝斗と夢安はそれから逃れながら、必死に廊下を駆け抜けた。
「朝斗ぉ! おまえ、なんちゅーことをっ!」
「ぼ、僕のせいじゃないいぃぃ!」
涙を流しながら、曲がり角にさしかかる。
と、そこにはもう一人の追っ手の姿があった。
「娘の下着を盗むとは迷惑千万!」
こっちはこっちで、夢安たちの前に立ちはだかる紫月 唯斗(しづき・ゆいと)である。
彼は不可視の封斬糸をピーンと張って、軽やかな動きで夢安たちに迫った。
「お覚悟を!」
「だああぁぁっ! 今度は忍者かよ!?」
背後からは戦闘平気。前方は下着を守る忍者である。
もうこうなったら正面突破しかあるまい。立ち止まることは死を意味していた。
が、目の前に張り巡らされるのは幾重にも結ばれた不可視の封斬糸。
普通なら身体中が切り裂かれるところだが――
「どええええぇぇっ!」
アイビスが放ったロケットが爆発し、その爆風に飲み込まれるように、朝斗たちはまるで軽業師のごとくいろんな奇跡を起こしながら、それを通り抜けた。
「うおー………………いま、なんか自分でもびっくりなことが起こった気がする」
夢安が目を丸くして驚く。
「ミラクルミラクル」
フレッドもそれには同意だった。
やがて三人は廊下をひた走ったすえに、ある部屋に飛びこむ。
そこは図らずも、ニブルナ家のご令嬢であるアメーリエがいる部屋だった。
「ぬおっ! まさかこんなところで見つかるとは!」
「棚からぼた餅とはこの事だ! やりぃ!」
フレッドと夢安は二人して喜ぶ。
が――
「夢安! もう悪いことはやめて!」
「げっ、美羽っ……って、痛い痛い痛い痛い痛い!!」
アメーリエの護衛として部屋に待機していた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に逆エビ固めをかけられて、夢安は悲鳴をあげた。もちろん、誰も助けることなどしない。下着ドロを企てた男の末路は哀しいものなのだ。
「てめーっ! 美羽このやろー! ひとの邪魔して何が楽しいんだ!」
「なに言ってるの、もう!」
美羽は夢安を叱りつけた。
「悪いことをして人に嫌われながらお金儲けをするより、いいことをして人に喜ばれながらお金儲けするほうがよっぽどいいでしょう!? だから下着ドロなんてそっこくやめるの!」
「いやじゃーっ! 俺は金が欲しいんじゃー!」
夢安はジタバタと暴れる。美羽の加勢をするように、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がその足を取り押さえた。
「ぐええぇっ! コ、コハク! お前まで!」
「夢安! これ以上、下着ドロを続けるなら、こっちにだって考えがあるよ!」
言うやいなや二人は、夢安とフレッドをロープで縛りつける。
いったいどこから持ってきたのかはわからないが、立派なロープだ。
それでぐるぐる巻きにされた二人は、えっさほいさっと運ばれていく。
「ぐぬおぉっ! 離せー! どこに連れていくつもりじゃー!」
夢安の悲鳴に答える者はいなかった。
* * *
アメーリエの護衛をする
オルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)は、
蘇 妲己(そ・だっき)と
セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)を巻き込んでアメーリエのベッドに潜りこんでいた。
両刀使いのオルフィナにとって、アメーリエは格好の獲物。
ガールズトークにかこつけて、アメーリエを手籠めにしようとしていたのである。
「あっ……オ、オルフィナさん……そこは……」
「ふふふ……いいだろ……なあ、セフィーも……」
「オルフィナ……あんたねぇ……」
自身の大きな旨を突いてくるパートナーに呆れるセフィー。
「ふふん、いいじゃない、セフィー。ちょっとは良い思いしないと……」
なぜか白虎柄の下着姿でいる妲己が、艶めかしい声を出しながらオルフィナたちと絡む。
色んな意味で苦悩の色を隠せないセフィーであった。
と、そこに――
「ぬおおぉぉぉおおっ! な、なんつーことを!」
窓から血の涙を流した下着ドロたちが乱入してきた。
「なんだお前たち! せっかく良いところだったって言うのに、邪魔するんじゃねえよ!」
オルフィナが怒りを爆発させる。
下着ドロたちも黙ってはいなかった。
「うるせー! お前らみたいな女がいるから、俺たちのところに女が回ってこないんだ! いい加減にしろ!」
「そうだそうだ! 少しはこっちにわけやがれ! そのうらやま……ああ、いや、女同士なんてけしからん!」
文句を言ってはいるが、痴態は見ていたのか。
鼻血を吹きだしつつ怒る下着ドロたち。
「知るかよ、んなこと……」
オルフィナはやれやれといったように、頭をかいた。
それから襲ってきた下着ドロたちを、ボコボコにする。
妲己が作りだした氷術の刃も、壁際にいた彼らの後ろへ、ズダダダダっ、と突きささり、それまでのお気楽なムードとは違った真剣な戦いの様が生まれた。
「そんなの出来るなら、最初からすればいいのに……」
半ば呆れたように言うセフィー。
「いや〜ん、だって演出って必要じゃない?」
くすっと笑いながら、妲己は黄色い尻尾をくるくると巻いた。
そして彼女たちが侵入者を撃退しているその間に、メイドたちが呼んできた
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が、エバーグリーンの魔法で操る蔓の群れで、侵入者たちを一挙に捕らえた。
「どわあああぁぁぁぁ――!!」
侵入者たちは蔓に絡まれ、一斉に宙へ持ちあげられる。
それを下から見ながら、薔薇を一輪手にしたエースがほほ笑んでいた。
「やれやれ……。美しい光景とは言えないけど、圧巻ではあるね」
それと同時に、がたんっとドアが開いて捕らえられたフレッドたちが、美羽たちの手によって転がり込んできた。
「おや」
エースは目を丸くする。
侵入者の主犯格である二人が捕らえられるとは、面白いことが起こったものだ。
とするとこれで事件解決? フレッドと夢安は、ロープを外されたものの、計画が失敗してむすっとしている。
(なんだかすんなり行き過ぎだなぁ……)
エースは釈然としなかった。けれども、実際に二人は捕まっているのだから、それは事実。
彼は『ニブルナ家の赤きダイヤ』に執心しているフレッドへ、ある事実を伝えようとした。
「フレッド君、実は――」
と、隣の部屋から大きな物音がしたのはそのときだった。
「なんだっ!?」
バッとふり返るエースたち。
するとそこに、アメーリエの姿がないことに気づいた。
「まずい……!」
嫌な予感はこのことだったのか!?
エースと、それにフレッドたちは、急ぎ、隣の部屋へ向かった。