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「あ、レナ。どうでした?」
 牡丹はネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)と共にオークの木の下でレナリィの帰りを待っていた。ほぼ集落の中央といえるこの場所で、その大きな楢は見事な枝ぶりを誇っている。
 早速レナリィはハーヴィたちに聞いてきたことを掻い摘んで話した。
「それでしたらあまり細かくクラスを分けない方が、皆で授業を受けられて楽しいでしょうね。本校舎には全員が入れる大きめの教室を作るとして……」
「子どもの妖精も少しだけどいるんだよね。なら、この樹を子ども園にしようよ! ちいちゃな子だって、みんなでお勉強したいと思うんだ!!」
牡丹の隣でレナリィの話を聞いていたネージュは、びしっと楢の梢を指差している。その風貌はまさに子どもたちの代表という感じで、あどけない顔がきらきらと輝いていた。
「そうですね。私もねじゅちゃんの言うとおり、ちっちゃな子たちが遊んだり学べたりする場は必要かなって思いますわ。他に要ると思われるのは図書室に職員室、遊戯室……などでしょうか」
 水穂も慈愛に満ちた微笑を浮かべて、ネージュの意見に同意する。傍から見たその姿は、幼い少女を見守る保護者のようであった。
「えーと、学校を建てるって聞いて来たんだけど、私たちも混ぜて貰っていいかな?」
 声をかけて来たのは金髪ポニーテールの少女、白波 理沙(しらなみ・りさ)だった。理沙の後ろには彼女のパートナーであるチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)ノア・リヴァル(のあ・りう゛ぁる)、それにランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)が続いている。
「もちろんですよ。今、皆で校舎の設計について考えていた所です」
「そうなんだ。ぜひ聞かせて!」
牡丹がこれまでに出た設計案を理沙たちに説明している間中、女性ばかりの輪に入ることになったランディは少しバツが悪そうにしていた。
「他に、何かこうしたら良いという案はありますか?」
「そうね、やっぱり来るのが楽しみになるような見た目にしたいわね。学校の周りに花をいっぱい植えたら、綺麗だし心も和むんじゃないかしら」
「周囲に広がる一面のお花畑って、素敵ですわよね」
 理沙の言葉を継ぐようにチェルシーが言う。
「ところで、学校を作るのはいいけど誰が何を教えるのかしらね?」
「それは私も疑問に思っていたんですよ。どなたが先生をなさるのかって。物事を教える事のできる立場の存在って、この集落にいらっしゃるのでしょうか」
もしかしたら妖精たちは学校と言う存在の本当の意味を知らないで、単に「仲間達が集まってわいわい生活する場所」なのだと勘違いしている可能性もあるのではないか、と牡丹は思っていた。
聞いてみようか、と言って理沙は、丁度カイと族長がこちらに向かって歩いて来ているのに気づく。
「おお、お前さんたちが学校を建ててくれるんじゃな」
 ハーヴィは駆け寄ると、満面の笑みを浮かべてそこに集った面々を見回した。
「で、どうかの? 足りないものなどないかのう?」
「足りないというか……先生はどうするのかな、と」
「立場上、イルミンスールから派遣してもらうことになるのですか? それとも族長さんが教師役をなさるとか?」
 理沙と牡丹に教師の不在を指摘されたハーヴィは、ああそのことか、と頷く。
「到着が遅れているようじゃが、一応、こちらに来たいと言って下さった先生が一人おってのう。専門は産業考古学、じゃったかな……失われた古代の技術について研究しているとか。イルミンスールの先生じゃないらしいが、優秀な好青年じゃ」
「先生お一人で足りますかね?」
「その辺りは追々……と、その樹は邪魔じゃったかの?」
 何気なく楢の幹に手をやったネージュに気付いて、ハーヴィが尋ねる。
「この辺りを整地した時に雑草や枯れ木は撤去したんじゃが、立派だったもんでその樹だけは残しておいたんじゃよ。邪魔なようなら別の場所に移すが……」
 それを聞くとネージュは首を横に振って、ツリーハウスのような子ども園を建てるつもりであることを告げた。
「樹の形状を活かしてちっちゃな子向けの施設を作るつもりなのですが、よろしいですか?」
「もちろん。活かしてくれるなら樹も喜ぶじゃろう」
 水穂の問いに頷いたハーヴィ自身の顔もとても嬉しそうであった。
「お前さんたちのおかげで良い学校が出来そうじゃ。作業はカイや妖精たちも手伝うからの。頼んだぞ」
「俺としてもあの奇怪な図面に従わなくて良くなったのでホッとしてます。頑張りましょう」
ハーヴィと別れた契約者たちは急いで最終的な設計図を完成させると、早速作業に取りかかった。
ネージュと水穂は主に子ども園作りを担当し、他の人員は本校舎建築にあたる。余り重たいものを持つのが得意でないチェルシーとノアは、校舎周りに花を植える作業を受け持った。
「今から完成が楽しみですね」
 とノアが微笑むと、チェルシーも小さな花の苗を手にしてにこっと笑う。
「植えるお花について皆さんの意見も聴けましたし、きっと素敵になりますわ」
 チェルシーはそう言って、彼女好みの控えめな花を植える。
「こちらの学校の授業にお菓子作りがあったら、ぜひ参加してみたいです――あっ、理沙が木材を運んでいます。皆さん大変そうですね……腕力の関係なさそうな仕事があったらお手伝いしたいのですが」
 ノアは少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら、理沙たちの姿を眺めていた。
 一方、花についてはセンスがないからと力仕事を買って出たランディは、必要な材料を運搬するついでに辺りを巡回することにした。以前この集落を訪れた時のような騒動は起こらないと信じたいが、用心に越したことはない。
 その時集落の片隅に妙な集団がいることに気付いて、思わずランディは足を止める。
「何やってんだ、ありゃあ……?」
 全身黒タイツに身を包んだ謎の集団は、丸太の山を前に決起集会を開いていた。


「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! さあ、我ら秘密結社オリュンポスが『悪の戦闘員養成所』という名の学校を建ててやろうではないか!」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)は高笑いを上げながら、黒タイツの戦闘員たちを鼓舞している。その傍らには彼のパートナーである怪人 デスストーカー(かいじん・ですすとーかー)が控えており、戦闘員たちと共にハデスの指示を受けていた。
「任務、了解しました、ハデス師匠! これより、僕らの修行の場、悪の戦闘員養成所を建設します!」
 デスストーカーによる了解の合図と共に、その作業は開始された。
 スキルによって強化されたハデスの的確な指揮と部下たちの謎の手際の良さから、ただの丸太の山がみるみるうちに『悪の戦闘員養成所』へと形を変えてゆく。
あっという間に無骨な丸太が組み立てられて、完成したのは立派な掘っ立て小屋だった。所々繋ぎ目がおかしい箇所があるようだが、突貫工事なので気にしてはいけない。