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魔女 神隠し

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魔女 神隠し

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■ エピローグ ■



 ザンスカール。某病院。
「特に体に何か影響するというわけではありません」
 ベアトリーチェの推測通り、眠った魔女達の額に浮かぶ徴について手引書キリハは、これがどういったものか丁寧に教えてくれた。
「基準を満たす優良体かどうかを調べるだけの機能しかないです。この文字が消える頃に目が覚めるので……そうですね、あと二日待てば起きてくださいますよ」
 断言されて、シェリエはそっと眠る妹の頬を撫でた。
「それにしても珍しい体ですね」
「え?」
 手引書キリハに言われたことが瞬時に理解できずシェリエは思わず聞き返した。
「いえ。誘拐された方全員事情がありそうなお体でしたので。それが原因で誘拐されたと考えていいと思います」
「目的はなんだったと思う?」
「私では全く」
 確かに、そうだ。彼女は助けてくれと依頼した立場である。誘拐した理由などわかるわけもなかった。
「今も寝ている人は?」
「クロフォードですか? どうでしょう。知らないと思いますよ」
「どうして?」
「前に一度聞いたことがあるのですが。サファイスは自分の本当の研究は全く残さなかったそうです。副産物である呪いの魔法とかはそれこそ別宅にごろごろさせていながら、本命は頭の中にしまって、文字の一つも残していなかったそうですよ。流石天才を自称するだけあると、クロフォードが甚く感心していました」
「そう、なの……」
「はい。それにしても、巻き込んだことも含め、色々と申し訳ありませんでした。ご姉妹がご無事でなによりです」
 破名に代わって、手引書キリハは深々と頭を下げる。



 ザンスカール。某病院。別室。
 起床は、跳ね起きるのが常である。
「ッツ ――ッ!」
 跳ね起きてそのまま両手で頭を抱え、二つ折りの旧式携帯のように上掛けに突っ伏した。
 頭の中がガンガン言っている。
「おはようございます」
「……キリハ?」
 潰れたカエルの様に無様な格好をさらす破名に手引書キリハは、はい、と答えた。
「お話は色々聞いています。プログラムを使用する時は気をつけてくださいね。最優先起動項目にメインプログラムが指定されています」
「……調整しないと駄目か。設定は苦手なんだがなぁ」
「脳が潰れてもいいというのならそのままでもいいんじゃないですか?」
 沈黙し顔を上げる破名に、「人格変更の魔法の影響は無いみたいですね」と頷いた手引書キリハは、持っていた白衣をどうぞと渡した。
「着替えは私がしましたから安心して下さい。誰にも見せてませんよ。それよりも聞きたいことがあります」
「何だ?」
「サファイスを逃しましたか?」
 単刀直入に聞かれて、白衣を受け取った破名は目を瞬く。
「何故、聞く?」
 聞き返されて手引書キリハは今回の救出での事の顛末とルシェードが消えたことを簡単に説明した。最後まで話を聞いた破名は否定に緩く首を振る。
「俺じゃない」
「そうですか。皆さん疑っていたようなので、その言葉が聞けて安心しました」
「俺じゃない」
「クロフォード?」
 痛む頭を右手で押さえて、繰り返す破名は、力なく笑った。
「俺じゃないが、ルシェードをあの場から消すことができるのは、もう一人居る……俺はまた研究者を失う、のか」
 原理が同じだからこそ、破名は受ける負担の重さを知っている。契約者はリンクする存在と聞いている。負荷を受けたパートナーを見て果たしてルシェードが耐えられるだろうか。自分の研究によって転移の能力をパートナーに与えた結果の自業自得とは言え、なんとも言えない気分になる。あの脳だけのパートナーはルシェードと相思相愛らしい。自分の身を顧みず少女を逃したのだから。その愛は本物だ。
 じっと一点を見て考えこむ破名に、手引書キリハは嘆息した。
「『逃した責任は果たしなさい』」
「キリハ?」
「貴方を貴方にした研究者『クロフォード』の言葉ですよ。貴方が研究を続けメインプログラムが起動し、万が一にも生きていたら話すようにと言われてました」
 責任は果たしなさい。
 伝言の内容につられて破名は、思い出す。
「俺は子供達の元に帰るべき、と言われた」
「はい」
「そうなると問題が……見て見ぬふりをしてきた問題が多くて……研究は一時凍結だな」
「クロフォード?」
 目の色を変えた破名に手引書キリハは首を傾げた。
「本当は待たせているんだろう? 呼んできてくれ」
 出向くのが礼儀だろうが、今は話すだけでも頭が痛く破名は動けなかった。
「ですが、プログラムを起動させてどうしようと」
「見せたほうが話が早いだろ?」
「説明なら私が」
「いいんだ。俺が話をする。これはあの子達に関わる上で俺が乗り越えねばならないことだろうから、自分で言う」
 規則を守るのは大事な事だ。
 しかし、それと同じくらい大事にしないといけない事が出来た。
 ただ実行に移すには、契約者達と関わってきた破名は、それが一人ではとても難しいことを痛感している。
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)を呼びに行く手引書キリハの背を見送りながら、破名はゆっくりと息を吐き出した。
 綺麗に折りたたまれたクロフォードの白衣に手を置いて、破名は目を閉じる。
 研究者がいない今、道具だけで先に進む愚かさを破名は認めた。



 誰も追いかけてこれない場所。
 晴天と、時期はずれの草原。吹く風は、少し肌寒いくらい。
「あたしを理解してくれるのはぁ、やっぱりぃ、はちみつちゃんだけよねぇ」
 硝子瓶を抱えてルシェードはうっとりと至福に目を細めた。
 遠くで羽ばたく鳥が高い音色で囀っている。
 少女は虚ろな瞳で小鳥の鳴き声を真似する。
 愛しい者を危険に晒した重責は、少女の紙一重だった均衡を崩すに十分だった。
「はちみつちゃん愛してるわぁ」
 愛しい者を抱きしめて、いつまでもいつまでも幸せを噛み締める。

 ここは誰も来れない場所。
 二人だけの楽園。

担当マスターより

▼担当マスター

保坂紫子

▼マスターコメント

 皆様初めまして、またおひさしぶりです。保坂紫子です。
 今回のシナリオはいかがでしたでしょうか。皆様の素敵なアクションに、少しでもお返しできていれば幸いです。
 いつも有り難うございます。課題ばかり増えていく不甲斐なさですが、精進します。
 それと誤解解かせていただけるのなら、ルシェード・サファイスは想定していた中で最良の形となっております。一種のラブラブハッピーエンドです。

 また、推敲を重ねておりますが、誤字脱字等がございましたらどうかご容赦願います。
 では、ご縁がございましたらまた会いましょう。