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学生たちの休日12

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学生たちの休日12
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    ★    ★    ★

「ただいまー……って、これは何!?」
 ヴァイシャリーへの出張から戻ってきたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が最初に目にしたのは、惨状でした。
「お帰りなさーい♪」
 いつもの水着姿にエプロンだけという、かなり危ない姿で出迎えたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)でしたが……。その手には血に濡れた包丁……いや、ケチャップらしき物ですね、これは。
 よく見ると、エプロンにも赤青黄色と、何やら得体のしれない液体が派手に飛び散っています。
「さあ、料理の用意はできているから、早く食べて食べて」
 そう言うと、セレンフィリティ・シャーレットがセレアナ・ミアキスの背中を押してダイニングへとむかいました。
 途中、開かずの間と化したキッチンの前を通りすぎたような気もしますが、中から漂い出て来ている障気……のようなものに気圧されて、セレアナ・ミアキスはそちらを見ることができませんでした。
 さて、ダイニングにならべられていた物は……。
 ゲテモノと呼ぶには、それはすでに前衛芸術のオブジェのような物でした。地球にはない奇天烈な食材が豊富なパラミタですが、さすがにこれは強烈です。
 七色に変色した七面鳥……らしき物の丸焼き。いったい、どんな調味料を使ったら、こんな縞々模様に焼きあがるのでしょうか。ブッシュドノエル……らしき物は、まるで破壊されて廃棄されたスペースコロニーのようです。生クリーム……らしき物は凸凹とあちこちとんがり、スポンジ……らしきものはレーザーの直撃を受けたように焼け焦げ、デブリのように周囲に飛び散っています。さらに、その色……まるで食欲の湧かない原色系のクリームです。マジパン……らしき物で作られたイコンの残骸は、あちこちに突き刺さっていて、飾りと言うよりはもはや飛び出した魚の骨です。まさかと思いますが、本物のイコプラのパーツが突き刺さっていると言うことは……。
 思わず、セレアナ・ミアキスの目には自主的にモザイクがかかって見えます。精神的防壁です。
「さあ、いただきましょう」
 ふつふつと土留め色の泡を吹き出す飲み物……のような物をグラスに注ぎながら、セレンフィリティ・シャーレットが言いました。
「はい、あーん」
 料理の中から何かを箸につまんだようですが、もうそれが何だかはセレアナ・ミアキスには判別できませんでした。目が拒絶しています。
 しかし、ここで食べないわけにはいきません。それが愛の証しであるのであれば、なおさらです。なあに、教導団のサバイバル訓練で、泥水を啜りミミズをむさぼり食った思い出に比べれば、たいていの物は大丈夫なはずです。
「あーん」
 意を決して、セレアナ・ミアキスはセレンフィリティ・シャーレットがさしだした箸の先にある物体を口に含みました。とたんに口の中に広がる……いえ、やめておきましょう。
「これが、ナラカに堕ちると言うことなのね……」
 今までセレンフィリティ・シャーレットと過ごした日々の走馬燈を見ながら、セレアナ・ミアキスがばったりと倒れました。
「まあ、気絶するほど美味しかったの?」
 そう言って、セレンフィリティ・シャーレットもパクリと一口。
 そして、部屋の中にはしばらく呻き声が聞こえた後、静寂だけが支配しました。

    ★    ★    ★

「何か手伝うことはありますか」
 神崎 輝(かんざき・ひかる)本名 渉(ほんな・わたる)に訊ねました。
「今のところは。何かあったら声をかけますので、しばらくは楽にしていてください」
 恋人である一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)のメンテナンスをしながら、本名渉が言いました。
 二人の目の前には、メンテナンスハンガーに横たわった一瀬瑞樹が、静かに目を閉じています。
 先日から、一瀬瑞樹が身体の調子が少し悪いというので、神崎輝が本名渉の所へと連れてきたのです。
 一瀬瑞樹は機晶姫ですから、本名渉でもある程度のことは対処できます。チェックプログラムを走らせると、どうやら各種追加武装の調整が甘くて、うまく一瀬瑞樹とシンクロしていないようです。そのため、フィードバックによって過負荷がかかっているようでした。根本的な本体の不具合でしたら本名渉の手に余りますが、これであればなんとかなりそうです。
「装備を再設定すれば、ましになると思いますが」
 そう言いながら、本名渉が神崎輝の前で、一瀬瑞樹の装備を一つ一つ外していきました。だいたい、いつもこんな重装備をつけたままでいるから、あちこちに歪みが出てしまうのです。
 大切な恋人の身体をいじることから、少々緊張しながら本名渉は装備を外していきました。ミサイルポッドや機晶ブースターが外されていき、だんだんと一瀬瑞樹が戦闘用の機晶姫のシルエットから、普通の女の子のシルエットへと変貌していきます。なんだか、女の子の服を脱がしているような気分になって、さらに思い切り緊張してきた本名渉でした。別にやましいことをしているわけではないのですが、背後にいる神崎輝の視線もかなり気になります。
 とはいえ、だんだんと技術者としての本分が顕わになってきて、真面目に全ての装備を外し終えました。
 しみじみ、一瀬瑞樹も普通の女のなんだなあと思ってしまいます。
 真面目にハードポイントのジョイント端子を綺麗に洗浄し、各種パーツのインターフェース部を新しい部品へと換装しました。これで、負担はほとんどなくなるはずです。
 一応、仮組と言うことで予備コードで各パーツを結線して様子を見てみます。
「調子はどうですか?」
 再起動した一瀬瑞樹に、本名渉が訊ねました。
「ええと……。うん、なんだかすっきりしました」
 ニッコリと、一瀬瑞樹が答えました。
「大丈夫そうだね。じゃあ、後は任せてもいいかな。ちょっと用があるので、先に帰っているよ。瑞樹はゆっくりしてきなさい」
 そう言うと、神崎輝は先に帰っていきました。確か、家にはクリスマスケーキがあるはずです。たまには、一人でホール食いもいいでしょう。
「じゃあ、仮組を解くよ」
「お願いします」
 本名渉がケーブルを抜く間、一瀬瑞樹はじっとしていました。
 全部のケーブルを外すと、なんだか急に本名渉が赤面し始めました。あらためて、ずっと恋人の身体をあちこちいじくり回していたという思いがこみあげてきます。別に恥ずかしいことをしているわけではないはずなのに、なぜかとっても恥ずかしいのです。
 そんな思いが伝わってしまったのか、一瀬瑞樹も顔を赤らめています。いつも身につけている重装備を全て外されてしまったので、なんだか裸でいるような気になってしまったのかもしれません。
「そ、そうだ。渡したい物があるんだっけ」
 突然思い出したかのように、本名渉が綺麗にクリスマス包装された小箱を一瀬瑞樹に差し出しました。
「クリスマスプレゼント」
「わあ、ありがとう!」
 喜んで一瀬瑞樹がつつみをあけると、中からアクセサリーが出て来ました。その中央には、一瀬瑞樹の誕生石であるペリドットが美しく輝いています。
「綺麗ですね」
「ペリドットの意味は『運命の絆』なんですよ。きっと、瑞樹さんとの出会いは、運命だったのかもしれません」
 そう言うと、本名渉は一瀬瑞樹と共に、再び顔を赤らめました。