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リアクション
第三章 遺跡・撮影者の護衛
イルミンスール、魔法中毒者の遺跡前。
「……」
厚手の服装に帽子と首に巻いたストールで口元を隠した人物が虚ろな瞳でぼんやりと遺跡を見上げていた。
「あなたが撮影者ね」
「わたくし達は事情を聞き、協力しに来た者ですわ」
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が遺跡を見上げる人物、撮影者に声をかけた。二人はこれまで正体不明の魔術師の騒ぎに何度か関わっておりその件で呼び出され顔を出したら知らぬ間に平行世界云々という騒ぎになっていて放置は出来ないとここに足を向けたのだ。
「……あそこに……あの中にいる」
撮影者は視線をさまよわせ、いつの間にやら遺跡から飛び出した巨大な獣に向けた。離れていても同じ自分であるため居場所を感知出来るらしい。
「……あそこってあれは巨大な獣……グリフォンみたいね……あの中にいるという事?」
「大変な事になりましたわね」
さゆみとアデリーヌはとんでもない状況に困った声を上げた。
そこに
「何じゃと、あの獣の中に魔術師がいるとな」
「面倒な事になったですぅ」
付近にいたアーデルハイトとエリザベートが駆けつけ話しに加わった。
「そうらしいですわ」
アデリーヌがこくりとうなずき、遺跡破壊を続けるグリフォンらしき魔物を見る。
「遺跡内は魔法が使えない上にあの魔物から救い出さないといけないなんて大変ね」
面倒な事になったとさゆみがぼやいた。
その時、空を飛ぶ魔物の姿を見て討伐を決めた者達が次々とやって来た。
アーデルハイトはその者達に魔物の体内に魔術師がいる事を伝えてから見送った。
撮影者は魔物の討伐が完了してから侵入する事にしてそれまでさゆみ達が警護をする事になった。
警護開始後。
「……衰弱が激しいみたいですわね。気休め程度にしかならないかもしれませんが」
アデリーヌは衰弱が続く撮影者に『ナーシング』をかけた。少しでも魔術師回収時の道のりが楽になるようにと。
「敵が来たわね。撮影者の事を頼むわ」
「分かりましたわ」
さゆみは撮影者をアデリーヌに任せ、
「♪♪」
自分達を囲む魔物達に向かって『恐れの歌』と『悲しみの歌』を続けて歌い、『エクスプレス・ザ・ワールド』で歌のイメージを強力にして心理的ダメージを与えて足を止める。
「……」
撮影者の近接警護を担当するアデリーヌは『ヒプノシス』で背後からの敵を素速く眠らせた。
「……(今の内に)」
「……(眠りましたわね。今なら)」
二丁銃【シュヴァルツ】と【ヴァイス】を抜き、掃討しようとするさゆみとフロンティアソードを構えるアデリーヌ。
しかし、引き金や剣を降り下ろす必要は無かった。どこからか飛んで来た銃弾によって怯んだ魔物達は次々と急所を撃ち抜かれ、魔物は見事に切り裂かれたからだ。
「……一体、誰が」
「これはどういう事ですの」
さゆみとアデリーヌは攻撃のでどころに視線を走らせた。
そこにいたのは教導団の軍服を着たりりしい二人の女性。
「怪我は?」
きびきびとした口調で安否確認を入れる女性。
その顔には見覚えがあった。
「……無いけど。もしかして……」
こちらのふわりとした感じではないがさゆみそのもの。
「えぇ、そのもしかしてよ」
平行世界から来たさゆみは不敵な笑みを浮かべて答えた。
「……助かったわ(これが平行世界の自分なの……まるで)」
さゆみは礼を言うと共に現れた士官殿を頭から足の爪先まで舐め見て内心びっくりしていた。
「さゆみ、唐突に現れた訳ですから紹介が必要ですわ」
軍人アデリーヌが驚くさゆみの様子を察し、自己紹介を促した。平行世界でもアデリーヌの印象に違いはない模様。
「そうね。私達は見ての通りシャンバラ教導団所属の軍人で団長の命により元凶が潜むこの遺跡に赴いた」
軍人さゆみは改めて自分達の正体を明かした。
「……教導団の軍人。わたくし達が」
アデリーヌは目の前の軍人の自分を改めて見て驚きを隠せないでいた。
「今現在の状況を聞かせて欲しいのですが」
「あの魔物の体内に魔術師がいるらしいのですわ。現在、魔物討伐のため何人かが向かい、魔法凍結装置破壊に数人侵入していますわ。こちらは討伐終了後に侵入予定です」
状況を訊ねる自分にアデリーヌが簡潔に伝えた。
「了解したわ。早速、護衛に加わる。アディ」
「えぇ、騒ぎが無事に収束するよう務めますわ」
軍人さゆみとアデリーヌは護衛に加わった。
そして、早速の戦闘。
軍事さゆみはいち早く【シュヴァルツ】と【ヴァイス】の二丁の銃を抜き、的確に急所を撃ち抜き、余分な弾数は消費せずに次々と片付けて行く。その隣では同じく拳銃を使って戦うさゆみがいた。
「……やっぱり、訓練を積んでいる本職は違うわね(こっちの私と違って動きにキレがあるわ)」
戦闘をしつつ軍人さゆみの洗練された武器の扱いなど戦闘中の動きに感心と驚愕が入り交じった溜息を洩らすさゆみ。
「迎撃は私に任せ、あなたは彼の体調管理を」
軍人さゆみは銃を構え周囲を警戒しながらさゆみに指示を下す。襲撃する敵を全て担おうという事らしい。性格もまた軍人らしくきびきびしている。
「分かった(頼りがいがあって思わず頼ってしまうわね)」
頼りがいと実践向きな軍人な様子にさゆみは思わず頼ってしまい、『歴戦の回復術』で撮影者の衰弱緩和に回り戦闘を一時軍人さゆみに任せる事に。
「……凄いですわね(戦闘となると訓練された軍人は動きが違いますわね……)」
アデリーヌもまたさゆみと同じく軍人の自分の意外な姿に見惚れていた。
軍人アデリーヌは武器を使うだけでなく『ヒプノシス』で相手を眠らせたり『サイコキネシス』で遺跡の破片などをぶつけたりとアデリーヌよりも格段に武器や技の扱い、瞬時の反応が上で次々と敵を葬っていく。さすが訓練された軍人。
「……次から次へときりがありませんわね」
雷鳴轟く空、襲撃する魔物の姿を一瞥し、溜息を洩らすアデリーヌ。
「これくらい大した事はありませんわよ。何をすれば解決なのかすでに道筋が見えていますもの」
戦闘には慣れた軍人アデリーヌは大した事の無いように言った。見た目は両方同じでも精神的な強さは平行世界の方が上のようだ。やはり軍人として多くの訓練や任務をこなしてきたからだろう。
この後、四人は撮影者の護衛を続けてすぐに魔法凍結装置組が現れ、遺跡へ出発した。そのしばらく後、丁度、グリフォンのような魔物との戦闘が佳境に入った頃に撮影者の護衛を遺跡へ侵入を試みる二人に任せて自分達は遺跡の外での戦闘を続け、無事に騒ぎ解決の時を迎えた。
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