空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

荒野の空に響く金槌の音

リアクション公開中!

荒野の空に響く金槌の音

リアクション


■ 荒野の空に響く金槌の音【12】 ■



 まだ日は落ちない。
 孤児院が招いた中で過去にない人数で始められた孤児院の改修工事は、知識も豊富な手慣れた者達の指示と、それに従う者達の連携により予定時刻より三十分程早く終わった。
 中には慣れない肉体労働で疲れ切った者も居たが、これから「お疲れさまパーティー」が開かれると聞くやいなやすぐに復活した。
 椅子が足らず立食状態になるがそれを気にする者もいなかった。



…※…※…※…




 天音、シェリー、ニカの前でブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は両腕を腹の前で組む。
「我の言いたいことはわかるな?」
 生真面目に参加していたブルーズは途中で、微妙にサボっている風だったのに気づき、確認し、三人が何をしていたのか知っていた。
「まずはそのペンキ塗れの手を洗うんだ」
 菊達が腕に縒りをかけて作った料理が待っている。
 その手のままにしておくのは大変に失礼だし、行儀も良くない。
 小言を言いながらでも、ある程度ご飯を食べたらブルーズは隠していたお菓子を出そうと考えている。
 特に棒に刺したマシュマロを軽く炙って食べるなんてことは、きっとここの子供達は知らないだろうから。反応が楽しみだ。



…※…※…※…




「ダーくん、みんな、お疲れ様! いっぱいあるから、どんどん食べてね!」
 美羽が、慌てなくてもいいよと声をかける。そんな美羽にバーベキューコンロの前に立つ大鋸は生肉を要求する。
「お肉も野菜も、まだまだありますよ」
 新しい皿を出しながらベアトリーチェも美羽をサポートする。
 良い火加減で焼かれた肉が盛られた器を手に取る和希は、片手で食べられるように工夫された副菜を持ってくる菊に気づいた。
「菊姐さん、おつかれ」
「はいよお疲れさん」
「一個貰うぜ」
「残すんじゃないよ」
「わーかってるって」
 ガイウスはベアトリーチェの後ろを追うように食材運びの手伝いをしている破名を呼び止める。
 根回しでシャンバラの政府機関等にこの施設が健全に運営できるように資金的また人的にサポートを要求するつもりの旨を伝えると、施設の代表者は一瞬だけ困った顔をしたが、お金の事はよくわからないが、自分は世に疎いので相談にのってくれるのは有り難いと返していた。



…※…※…※…




「駄目ですよ。出して下さい」
「え、でも」
「お代? そんなのいいって! あたしもみんなもこのイベントの参加者なんだから♪ と言っていたのを私は覚えています」
 ミルディアがキリハに詰め寄られている。
「こちらで出すお金ではないので、なぁなぁは駄目です。報告として書類に纏めないといけないのです。とにかく領収証が無ければ金額を出して下さい」
「え、え、でも、覚えてないし」
「思い出して下さい」
 ちなみにキリハの犠牲者になっているのはミルディアだけではない。



…※…※…※…




 改めて孤児院を正面から見たジブリールは、くぃっと小首を傾げる。
「孤児院の名前……系譜って、オレはこの言葉好きだけど。随分面白い名前つけるよね。果たしてどの意味合いで名づけたんだろう?」
「バカの一つ覚えのようなものですよ」
 メモ帳を片手に歩き周り契約者達から領収証を巻き上げているキリハが、そんなジブリールの独り言を拾った。
「え?」
「自分が居て私が居て子供達が居て、共に過ごす場所。そこに象徴する名を付けることになった時、ソレしか思い浮かばなかったんだと思います」
「どうして?」
「私が産まれ、クロフォードが混ざり『あの子達』と共に過ごした場所もまた『系譜』と呼ばれていたので。結構単純でしょう?」
「そう、だね」
 特に深い意味は無いと知れた。正確には、破名にとって系譜という単語は共に過ごす場所という意味の言葉でしかないということが、だ。
 キリハはどうして『系譜』と呼ばれているのかということまでは答えていない。
 はぐらかされたような気分になって、ジブリールは軽く両肩を竦めた。
 聞けば答えてくれる少女。多分、もう少し踏み込めば答えてくれるのかもしれない。
 系譜の意味……繋がりが「人」か「物事」か。はたまたそのどちらなのか。いずれか気になるジブリールは、ちらりとフレンディスの方を見遣る。
 彼女が気にしないのであればと、破名の存在に違和感を抱くが、自分からの積極的な関与を控えた。



…※…※…※…




「くろふぉーど!」
 全力ダッシュで駆け寄ってきたフェオルを見て、抱きつかれるあと一歩で破名は足を退いた。
 目標地点が遠のいたのに気づき、その場にピタッと止まったフェオルは、キッと破名を見上げる。
「くろふぉーどのばーかッ」
 文句に年長としてフェオルのお守りをしていたシェリーが、慌てて幼女を抱えた。
「ダメよ、フェオル」
「否、今のは俺が悪い」
 機嫌を損ねるとわかっていてワザとやったのだから、全面的に破名が悪い。
 シェリーは首を傾げる。
「疲れた?」
「疲れる理由が全くない。ところで良い顔をしているな。楽しかったか?」
「うん。でも、今がとっても楽しい。みんなでご飯食べるの、大好き!」
「そうか。それはよかった。他の子供達にはどんな埋め合わせをしようか考えるだけで、俺は今から頭が痛い」
「仕方ないわ。あっちはあっちで大切なご用事だもの」
 シェリーに笑われた破名の元に康之が駆けて来る。
「なぁ、まだ明るい内に孤児院をバックに集合写真撮ろうぜ」
 この時の写真は後に食堂に飾られることになった。