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リアクション
第 4 章 -休憩の一コマ-
場内アナウンスで1時間の休憩時間が設けられると、小腹が空いた観客達は食べ物露店へと足を運び、モデル達が着ていた衣装を販売するコーナーにも若い女性の姿が見え始める。
「一気に忙しくなったな、俺達に休憩は無しかよ!?」
「いや、むしろショーの間が僕達の休憩時間みたいなもの? だからねぇ」
それにしたって、とぼやく双子の兄弟の背中を叩いて宥めつつ注文の食べ物を手際よく渡していく。甘いお菓子から揚げ物スナックと色々揃えようとして露店2か所分を2人の青年が忙しそうに行き来していた。
「露店のアルバイト代は僕達のお小遣いにしていいと団長にも許可をもらってるし、1日だけの事だから頑張ってみるとしよう。これも社会勉強だよ」
「……1つ聞くが、俺達ってその小遣い使う機会あるのか?」
そう訊ねる相棒を軽くあしらいながら駄菓子を沢山買っていく色花やネージュ、ユーリ達に満面の笑みを見せて接客する横で、買い物客から見えないように片手で尻を思い切り抓る。悲鳴を上げそうになる彼は何とか堪えるが涙目で隣の相棒を睨み付けた。
「無駄口叩いていないで接客しようね、忙しいんだから」
至極穏やかに言うものの何となく黒いオーラを感じ取り、2人はショーの休憩時間の間忙しく走り回る事になるのだった。
◇ ◇ ◇
休憩時間となり、静香とラズィーヤがモデルの控室へ訪れる。
「前半に出場の皆さん、お疲れ様でした! ささやかですが、露店の食券とアクセサリーの引換券です。後半に出場の皆さんもどうぞ」
差し出された食券と引換券を手にした淵に、静香はこっそり耳打ちする。
(さっきは大変でしたね、出るはずの方は急にキャンセルしてしまったので……お見事でした、ボクも見習わないとダメだね)
―――見習う
―――何を?
思わず心の中でツッコんだ淵だった。誤解を払拭するためか、淵はルカルカと静香の手を取って露店へと促す。
「さすがに俺、小腹が空いた! せっかく食券もらったし、何か食べに行きたいのだが……静香殿もご一緒に!」
「え、ボクも?」
静香が何か答える前に、淵はルカルカと静香を引っ張って控室を出ると露店へ向かっていってしまう。その様子に胸を撫で下ろしている長身の美女が控室の隅で慎ましやかに佇んでいた。
「あらあら、静香さん連れていかれてしまいました……残念」
佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)がニコニコと佇む人物へ近付く。チラリと視線を向けるが最早諦めたという態度がありありと窺えた。
「行ってくれて良かった……桜井にバレたら色々終わってしまうだろう、というかこの姿を見せるのでさえ抵抗あるんだ俺は!」
思わず声を荒げる佐野 和輝(さの・かずき)だが、ルーシェリアは扱いも心得ているという余裕を見せ、人差し指を立てて静かにと合図する。
「あんまり大きい声を出すと、周りの方に聞こえるですよ?」
―数時間前、ファッションショー当日の朝
「和輝捕まえた〜! 敵は前だけとは限らないのだ〜!」
いきなりアニス・パラス(あにす・ぱらす)が後ろから和輝に抱き付いた。何事かとアニスを見下ろす和輝だが、彼女の表情に一瞬頬が引くつく。
「……アニス、お前何を企んでる?」
「ファッションショーのモデル? また随分急な誘いをしてきたな。まあ出るだけなら、構わない……いや、待てよ……ルーシェリアとレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)の結束力から見て嫌な予感もするんだが」
「あら、逃げようとしてもダメですぅ。もうあなたの分も申し込んであるですよ?」
和輝は何も言えず頷いてしまった。会場に着くと、無難に執事服に手を伸ばそうとした和輝にルーシェリアは『女装』用のドレスを身体に当ててニコニコしている。
「ちょ……っ、待て待て! お決まりな展開にも程があるだろうが! って、アニス!? お前もそっち側なのかよ!」
回れ右をしようとしたところへ、再びアニスが抱き付いて確保すると有無も言わさず和輝を変身させていくのだった。
「……うん、完璧♪ ルーシェリアお母さん、どうかな?」
「うん、これなら完璧ね、いい子ね……アニス」
ルーシェリアに撫でられ、ご満悦なアニスと対照的に和輝は何とも言えない顔で頭を抱えると腹を括り、バレないように演技力を駆使しようと心に決めたのであった。
「あら、もうこんな時間……では、後半に出場の皆さん頑張って下さいな」
控室で談笑していたラズィーヤも部屋を後にした直後、会場アナウンスが入り、後半のショーが始まる知らせが会場内を巡ったのでした。
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