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リアクション
ジゼル達がまんまとK.O.H.に巻かれて逃げられてしまった所為で、図書館では二つ目の爆弾『びーえる爆弾』が爆発してしまった。
多くの学生が暖をとる為に集まる中、パートナーの黄乃 弥生(きの・やよい)と空京大学を訪れていた松本 恵(まつもと・めぐむ)もその効果をモロにうけてしまったようである。
(なんだろうこれ、胸がキュンキュンしてきた。
どうしよう、僕妻子持ちなのに……)
人差し指からするりと腕を這ってきた指先の艶かしい感覚に、恵は歓喜する。
(これは恵にあんなことやこんなことを彼が正気に戻ったとき責めない程度にやるチャンスよ!)
打算を心に秘めながら、撓垂れ掛る恵の頬から顎へ掌を滑らせてそして……
ッパァン! ッパァン!!
美しい男の娘の絡みを御期待頂いた方々には申し訳無いのだが、図書館には『男子レスリング同好会』の会員が多く居たのです。カメラがそちらへ映ってしまったので、この後はパンイチのガチムチの漢達が繰り広げるくんずほぐれつをお楽しみ下さい。
で、暫くの後。
「だあああああもおおおおおパンパンパンパンうるっさいのよおおおお!!」
頭を掻きむしりながら叫んだのは綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)だった。
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)とコスプレアイドルデュオ『シニフィアン・メイデン』として活動するさゆみ。多忙過ぎるアイドルカツドウをこなしながら、大学生としても過ごすのは簡単な事では無い。
今日は久方ぶりのオフであるが、教授が滅茶苦茶厳しい宗教学のレポートを徹夜でかき上げたその足で此処へ向かい、しんどい統計学の講義に出て、それが終わったら図書館で試験勉強という発狂寸前コースだったのだ。
さゆみだけでなく、普段はおっとりしているアデリーヌですらパニック気味なのに、これが終わったらテレビ局でバラエティ番組の収録である。
(……このままだと過労死しちゃう)
そう思っていた矢先、鼻先を甘ったるい匂いが掠めた。
が、二人はそれに気がついただけだ。
何しろ勉強に必死だったし、さゆみもアデリーヌも『ただ甘い匂い』だとしか思わなかったのだ。かの有名な『オカマ爆弾』を元にトゥリンが冬休みの自由研究で作った『びーえる爆弾』は、矢張り「キマシタワー」には効果が無かったようだ。
そんな調子で暫く勉強を続けていると、人の足音すら絨毯ばりの床で消している図書館の静寂が、ッパァンという破裂音に破られたのである。
(誰か転んだのかしら。いやいやそんな事知ったこっちゃないわねっていうかもーどうでもいい眠りたいでも眠れないからどーでもいいどうでもいい)
始めこそ無視していたが、それが何度も続けば無視する事も出来なくなってくる。
さゆみとアデリーヌの頭の中でぐるぐると雑念が巡り始めた。
(タダでさえ徹夜が続いて眠たくてたまらないのに。
しかも徹夜のせいでお肌が荒れ気味だというのに。
ちっとも試験勉強がはかどらないのに。
しかも新曲の歌詞がまだできてないというのに)
――ぷつん。
音にすればこんな具合だろう。
二人の中で、一本の糸が切れる。そんな感覚が有ったような、無かったような。兎に角さゆみはもの凄い形相で叫んだのだ。
「私の人生邪魔するんじゃないわよ!
もし留年したらどうしてくれるのよっ!
もし新曲の歌詞がマトモに書けなくてて変な間違いをしたららどうしてくれるのよっ!」
図書館を支配していた独特の破裂音が生み出すリズムが、二人のアイドルの歌によって掻き消された。
それはとても幸せで、恐ろしく、悲しい程に嫌悪感を催す。
そんな歌だった。
図書館と食堂のある3号館の前、真に上着を掛けられた死体……じゃなかった昏倒した姫星を見下ろしながら、トゥリンは掌に収まる程度の筒状の物体のスイッチを押して芝生の上へ落とした。
「真、アタシ今すごく落ち込んでる」
『ご都合主義爆弾』が煙を吐きながらコロコロと転がっている間、トゥリンは真に向かって心底残念そうに首を横に振る。
「オカマ爆弾はやっぱりびーえるにしか効果が無かった……女性兵士相手に使えないんじゃ兵器としては二流。
改良の余地があるよね?どうしたらいいのかな……。
そうだ、今度実験手伝ってくれる!?」
子供に期待の目で見上げられて、真は引き攣った笑い声で答えるしかなかった。
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