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一月遅れの新年会

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一月遅れの新年会

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第一章
酒に呑まれた宴会・校舎

 この新年会は、葦原明倫館総奉行ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)が主催で開かれた。年末年始、商売や仕事で働き詰めだった方々を酒で労おうというハイナの計らいで、一般参加も受け付けた結果、実に百人前後の人々が集まった。
 酒は明倫館側でも用意されたが、一部の参加者からも酒や肴を持ち寄られ、ハイナたち主催者の想像以上の豪華な宴会となった。
 人数が人数なので明倫館の道場を借りて盛大に開かれたまでは良かった。
「ひゃーっはっはっはっ! なんっと美味い酒でありんすか! ほらほら、ぬし様ももっと飲んでくんなまし!」
 現在、ハイナ総奉行は真っ赤な顔でべろんべろんに酔っ払っている。
 並べられた酒の中に、70パーセント以上のアルコール度数を持つ名酒ウォッカが大量に混じっていたのだった。参加した面々がそれに気が付かなかったのは、そのビンのラベルが剥がされていたり、全然違うビンに入っていたりしたためである。ちなみに今、ハイナが男性に向かってぐいぐい進めているのも、ウォッカだったりする。
「あ、ありがとうございます総奉行! 頂きます!」
 そしてそれに気付かずに男性はグラスをぐいっと飲み干した。
 普段飲む酒の何倍も強いアルコールが一気に入り、男性は顔を一気に真っ赤にしてひっくり返った。
「ありゃまあ、弱いでありんすなあ! あっはっはっは!」
 そしてハイナは別の宴会客という次なる獲物に向かって、半分まで減ったウォッカ入りのビンを右手に、未開封のチューハイの缶とグラスを左手に去っていった。
 彼女はこうして、かれこれ十人の参加者を酔い潰している。その手の酒ビンは凶器以外の何物でもない。
 そして一部、暴走した酔っ払いが正気の幹事や参加者を襲い始め、会場の外にまで騒ぎは拡大していた。

「なあ、いいだろ? オジサンとお酒を飲みながらオハナシしよーぜぇ?」
「ひ……来ないでください! てゆーか、呂律が回ってないし、なんで私ばっかり追って来るんですか! 触手モンスターみたいにうねうねしながら来ないでください!」
 校舎一階のある教室。電気もついていない薄暗い室内で、制服姿の少女がやたら筋肉質なツナギの男に言い寄られていた。
「なー。いいだろ? なーってばよ」
「うわーん! さんざん聞いたじゃないですか! オハナシって言ったって、オジサンが同じ話を一方的に喋るだけじゃないですかぁ! もー! だーれーかー!」
 ふらふらくねくねしながら近づいてくる男の後ろから、そーっと近づく小柄な影があった。
「せーの、えい!」
「へぶ!」
 体を力いっぱい捻っての、メイスでの一撃。見事に後頭部に直撃。
 白目をむいてゆっくり倒れる酔っ払い。その後ろで、エセル・ヘイリー(えせる・へいりー)がメイスを両手に抱えて佇んでいた。
「悪い事しちゃいけません!」
「うお、いきなり打撃かよ。容赦ねえな」
 彼女の後ろから、パートナーのレナン・アロワード(れなん・あろわーど)が倒れた男を見下ろして、気の毒そうな顔をした。
「う、うわぁん! 助かりました! 死にそうになったわけじゃないけど助かりましたぁ!」
 少女がへたり込んで、ひたすら二人に感謝を投げた。
「お、おう。こんなのに絡まれたら魔物とは違った恐怖を感じるよな。にしても見事に白目剥いてるな、このオッサン」
「後ろから殴れば大丈夫かなあって思ったの。気絶してるだけ……よね?」
「魔法学校にいるくせになぁ……ま、大丈夫だろ。邪魔にならないように隅に転がしとくか」
 レナンが教室の隅に倒れた酔っ払いをごろりと転がした。
「さ、お外まで連れて行くから、逃げるの!」
「は、はい!」
 エセルとレナンが女子生徒を連れて教室の外へ出た、その時だ。
「うぉい!」
 左側から野太い男の声。振り向けば、赤ら顔の厳つい男が立っていた。
「っぶねえじゃねえかコラぁ! いっきなり出てくんじゃねえぞヴォケが!」
 酔っ払いだ。なぜこんなところにいるのか分からないが、いきなり視界に現れた三人に向かって理不尽にキレはじめた。
「ひ……こ、光術!」
 エセルのかざした手から突如放たれる強烈な光。
「逃げるぞ! 前走れ、二人とも!」
 そしてレナンがしんがりに、少女二人を前に走らせて逃げはじめた。
「いっきなり何すんだこのガキぁ、コラ!」
 目くらましは効くには効いたが効果が薄い。
 わずかに稼げた距離を保って三人は廊下をひた走る。

■■■

 一方そのころ、別地点ではクリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)が一人、廊下をぶらついていた。
 いかにも不満そうな顔つきで、何かをきょろきょろと探している。
 実は彼女も仲間たちとともに酔っ払いたちを鎮めに来た一人である。襲われている少女たちを助けに、という建前で実は酔っ払いたちを狙う女豹だったりする。
 クリームヒルトたちは、俗に言う色仕掛けで酔っ払いたちを片っ端から捕獲していた。
 さっきまでパートナーのアンネリース・オッフェンバッハ(あんねりーす・おっふぇんばっは)、恋人の神月 摩耶(こうづき・まや)、彼女のパートナーのミム・キューブ(みむ・きゅーぶ)と一緒に数人の男たちを捕まえて、明倫館校舎の一室でいちゃついていたが、酔いが相当きつかったのか、四人の美少女たちの色仕掛けに耐性がなかったのか、あっという間に全員が撃沈、気絶した。
 男たちは満足したかもしれないが、快楽が目的のクリームヒルトとしてはこれっぽっちも満足していないので、新しい獲物を探しにふらついている次第だ。おそらく他の仲間も同じだろうと思う。
「あーあ、他の男たちはどこにいるんだか……ん?」
 と、視界の向こうからわたわたと走って来る影が見えた。
「ひー! クリームヒルトちゃん! おーたーすーけー!」
 エセルとレナンと、見慣れない少女。どうやら隠れていた生徒を見つけたようだ。そしてその後ろから、厳つい顔を怒りに歪ませた男が危なげな足取りで精一杯走って来る。
 ぺろ、とクリームヒルトは唇を舐めた。
「分かったわ。ここはあたしに任せてもらおうかしら」
「何をする気か知らねえが、戦うなら任せるぜ! 逃げ道確保しといてよかったぜ!」
「ふふ、あたしの心配はしないで。他の子たちも助けてあげてね」
 そして三人はクリームヒルトを通り過ぎ、廊下の向こうへ消えて行った。
「そこのおじ様! こちらを見て頂戴♪」
 はらり、と服を肌蹴る。男は思わず立ち止まった。
「ふふ……ねえ、私たちとあっちで遊ばない? 美味しいお酒用意してるわよ?」
 ごくり。男がのどを鳴らして、クリームヒルトを眺める。
 ――捕った♪
 確信とともに彼女は、男を誘い、校舎の奥へと消えて行った。

■■■

 酔っ払いの男が誘われた先は、クリームヒルトに負けずとも劣らない三人の美女が、別な男たちと汗まみれで戯れていた。
「あ、クリムちゃん! クリムちゃんも見つけてきたんだ!」
「えへへ! ミムちゃんたちも捕まえてきたよ! 道場の近くに行ってね、女の人に悪いコトしようとしてるおじさんにぴとっとくっついて……」
 摩耶とミムが嬉しそうに男の捕獲話を話す傍ら、クリームヒルトのパートナーのアンネリースも男と戯れている。
「クリム様。命令通り屈強そうな殿方たちを校舎内で捕獲致しました」
 アンネリースはぺろりと舌なめずりをした。
「まだまだ、楽しめると思います」
「ふっふー。おじさんたち、夜はまだまだこれからだよ? ボクたちといっぱい遊ぼうよぉ」
 摩耶が隣の男に、豊かな胸を押し付けて抱きついた。
「えへー。やっぱりアンネちゃんの、おっきいの! おじさんもそう思うでしょ?」
「み、ミム様、そのような大胆な……く、くすぐったいですわ!」
 絡み合う美女たちに、男たちの興奮がヒートアップしていく。
「クスクス、摩耶、あたしも混ぜてよ。ほら、おじ様も一緒に行こ?」
 そんな花園に、クリームヒルトと彼女が釣った獲物も溶け込んでいった。

 作戦通りだ。
 絡み合いながら摩耶は思う。
 実は生徒を救出したいというエセル、レナンペアとは事前に相談を持ちかけてあった。
 もしも、彼女ら二人の手に負えないレベルの酔っ払いが現れたら、ためらわずに摩耶たちのいるエリアに逃げてくるように言ってあった。
 理性を失った獣同然な酔いどれどもをたぶらかすのは、百戦錬磨のサッキュバスな摩耶たちからすれば容易なこと。こうすればエセルたちには被害はほとんどないだろうし、捕まえた酔っ払いどもは精根尽き果てるまで四人で吸い尽くすので危険はなくなる。
 イコール、暴れて会場を飛び出した酔っ払いどもからの被害はほぼなくなる。
 ――完璧、ね♪
 摩耶は相棒のミム、恋人のクリームヒルト、彼女のパートナーのアンネリースとウインクを交わして、着ている物を全て脱いだ。

 彼女ら六人の活躍により、酔っ払いによる外部の被害は軽微に押しとどめられた。

■■■

 その後、正気に戻った男たちの証言をまとめると、酒を飲んだら身体がかーっと熱くなって、居ても立ってもいられなくなったとか。それからはよく覚えてはいないそうだが、四人の美人でスタイルのいい女の子たちにすごく可愛いがられたということだけは鮮明に、強烈に覚えていた。