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特別なレシピで作製された魔法薬

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特別なレシピで作製された魔法薬

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 妖怪の山。

「またここでお仕置きをするとは思わなかったでありますよ」
 吹雪は以前この地で黒亜をお仕置きした事を思い出していた。
「……仕事を果たすためには相手にばれないよう要注意でありますな。前のように他の魔法薬の実験をしている事も考えて慎重に行くでありますよ!」
 『妖精の領土』を有する吹雪は山道だろうが平野と同じように動き回る能力を『カモフラージュ』であちこちの木々に潜み歩いていた。時々、黒亜の居場所情報を得ては素速くそちらに向かうのだった。

 その時、ずっと前方に
「……あれは……どうやら自分と同じ目的の者でありますな」
 軍用犬を連れた陽一を発見し身を隠しながら接近し
「黒亜を捜索しているのでありますか?」
 念のためにそっと訊ねた。
「あぁ、前に覚えた匂いを辿ってね」
 答えながらも足は止めない。
「ふむ。ではこの道を通ったという事でありますか?」
「いや、この付近……この道の先にいる」
 陽一は『顕微眼(ナノサイト)』で空気中に他の魔法薬の粒子が混じっている事をその粒子が前方の道の先から漂ってるのを知った。
「そうでありますか。では、知らせるであります」
 吹雪は手早く愛に報告した後、超遠距離対応の銃を構え
「真面目に仕事をするでありますよ!!!」
 『行動予測』で黒亜の動作を予測し、『追加射撃』で瞬時に魔法薬がばら撒かれる前に黒亜の足元を狙って撃った。『銃器』を有する吹雪の射撃は狙いは外さない。
「足元を狙ったのか。向かいからもう一人」
 『ホークアイ』で陽一は向かいから愛の姿を確認した。つまり吹雪の射撃は黒亜の動きを止め愛が駆けつける時間稼ぎをしたのだ。
「さっき見た薬が気になるから行って来る」
「自分はここで待機しているでありますよ」
 陽一は出撃し吹雪は待機。その間に空気清浄薬が散布された。

 妖怪の山上空。

「空気清浄も順調みたいだな。被害者の探索と搬送も進んでいる。すぐに解決出来るな」
 夏候淵は完璧な解除薬を空から散布しながら舞花の活動と手配した飛行機晶兵達の働きを確認して安堵していた。
「これでひとまず解除薬散布浄完了だね。飲めなかった人達は錠剤でフォローだね」
「しかし、完全収束までには時間がかかるがな。そのためには解除薬の量産が必要だが」
 ルカルカとダリルは気を抜かず、完全な解決に必要な事を考える。
「確かにね。でも研究熱心なのは分かるけど誰かに迷惑掛けるのはだめだよねー」
 ルカルカも安堵から黒亜に対してぼやいていた。
「第一に披検体が好き勝手動いていたのでは肝心のデータ収集もままならないではないか」
「気にする観点間違ってるよ、ダリル」
「いや、ばら撒くのが反対なのは同じだ」
「……まぁ、そう聞こえなくもないけど」
 ルカルカとダリルは騒ぎが少し落ち着いた事もあり少しお喋り。
 そこに
「楽しいお喋りの所、悪いが、あれを見てみろ」
 夏候淵が二人の会話に割っては入り、眼下を指さした。
「……あれ? あぁ、黒亜だ! 行くよ、二人共! みんなの加勢に!」
 夏候淵が示した先を確認したルカルカは二人を促した。
「あぁ」
「当然だ!」
 ダリルと夏候淵はうなずき特攻の準備を始めた。
ルカルカが『超加速』を全員に付加して超速に接近し、黒亜確保に混じった。

 一方、地上。

「……どこから……どこかで私の邪魔をする者がいる……さっきの空気清浄薬といい余計な事を……しかし、まだ試せる魔法薬はある」
 黒亜は魔法薬をばら撒くのをやめて銃弾が飛んで来た方角に顔を向けた。まさか自分が吹雪の思惑通りに動いているなどつゆ知らず。

「ようやく見付けたわ♪」
 両腕に腰を当てた愛が堂々登場。
「……?」
 プロレスな格好の愛に思わず動きを止める黒亜。
「あなたが黒亜ね。薬なんかに頼ってないで、私とプロレスやってみない? 心身を鍛えれば健康になるし、朝の目覚めはばっちりよ♪」
 明るく陽気な声で喋りながら愛は黒亜の手から瓶を何気なく取り上げ、吹雪達がいる方向に投げた。吹雪達が回収してくれると信じて。
「……プロレスか。それより……魔法薬……あれはここで試すために作製した物」
 黒亜は魔法薬が投げ込まれた方角を睨む。
「それだから駄目なのよ。薬、薬って、折角生まれてきたんだからもっと楽しまなきゃ。そう、プロレスをしないと!!」
 放り投げた魔法薬から注意を逸らすために黒亜の言葉を無視してさらに詰め寄る愛。すでに行動を起こした陽一が無事に魔法薬を回収した。
「……」
 黒亜はおもむろに新たな魔法薬を取り出そうとするが、
「あー、そう、疑うってわけね。最初誰でもそうよね。わかるわ。プロレスのすごさ、すばらしさがわかんないんじゃしょーがいよね。うんうん、じゃあ、あなたにプロレス技をかけまくってプロレス大好きにしてみせるわ」
 愛は許さず、すぐさま黒亜に技をかけて動きを封じた。
「!!!」
 驚き戸惑う黒亜。
「バカをやるのも全力でした方が人生楽しいんだから♪」
 最高の笑顔を浮かべながら技をかけまくる愛。
「……ん……これは……さっきのが空気ならこれは完璧な解除薬?」
 愛は頭上から降る雨にわずかばかり意識が行き、黒亜を拘束する手をゆるめた。
 その隙に黒亜は抜け出し
「……完璧な解除薬か……ならばそれに反応する魔法薬を実験してみようか……どうなるか」
 いつの間にか黒亜はすっかり素材化が治療されていたが、気に留める事もなく新たな実験を始めようとする。

「そんな事はさせないでありますよ!」
「悪いが、実験は中止だ。大人しくするんだな」
 超遠距離の吹雪と『ポイントシフト』による瞬間移動で退路を防ぐダリルがA.E.Fで足元を狙い動きを止めて。
「拘束するぞ」
「了解」
 夏候淵が神に祈願しての攻撃『神威の矢』を黒亜の足元ぎりぎりを狙って放つ。矢は真っ直ぐに狙った場所に刺さり、黒亜の行くてを阻むと同時にルカルカが『●呪詛』による呪いで地面に膝をつかせた。
「……今回はこれで……終わりか……次は」
 調薬しか頭に無い黒亜は次の製作の事にしか興味が無い様子。自分が今どんな立場に置かれているのか全く興味を示さない。
 そこに
「いいや、次回は無い。こんな騒ぎを起こせない場所で一生大人しくして貰う」
 陽一が登場し辛辣な言葉を投げかける。
「……次回が無い……実験が……出来ない」
 ここで初めて黒亜は他人に興味を示した。調薬が出来ないという事がどれほど彼女にとって大ダメージなのかうかがい知れる。
「そうだ。これは謝ってすむレベルではないからな」
 陽一と同意見の夏候淵が加勢に加わる。
「研究や実験は効率的に行うべきだ。これではただの遊びだ。使い方によっては重宝される効能もある。それに良い腕があるのだから真っ当なやり方で研究しろ……とはいえそんな機会が今後あるかは俺には分からないが、とりあえず馬鹿につける薬は無いとはよく言ったものだな」
 ダリルも射貫くような鋭い瞳で説教。
「……俺達の言っている事がどういう意味か調薬が命のお前には分かるな? つまり一生調薬出来なくなるという事だ」
 陽一は黒亜の心に楔を打つようにゆっくりと辛辣に迫った。
「……あ……調薬が出来ない……私が作った魔法薬が試せない……」
 黒亜は表情を絶望に変え、動揺を見せた。前回散々お仕置きされても意に介さなかったのに調薬がかかると180度様変わり。
「そうだ。しかし、まだ完璧な解除薬の製作は続いている。もしそれに協力するなら証言してやる、協力的だったと。どうだ?(まぁ、証言した所で調薬が許される訳では無いだろうが)」
 少しだけ口調を軟化させるが胸中では証言は役に立たないと考えていたり。
「……完璧な解除薬……それも面白いか」
 黒亜は調薬がかかっている事や完璧な解除薬が面白そうという事で製作に加わる事にした。
 ただし、黒亜の持ち物は全て夏候淵が没収し逃亡防止にダリルが黒亜に魔力の手錠をかけた後、皆に監視されながらの連行となった。
 黒亜の参入で無事に錠剤版の解除薬の追加生産は難なく成功し、妖怪の山は無事に救われた。

 その後、黒亜は陽一と夏候淵の言により調薬が一生出来ない公共機関に引き渡され、魔法中毒者はシリウスの便宜によりイルミンスールの監視下に置かれ今回の騒ぎをきっかけに両調薬会には新たな展開が訪れた。