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ゾンビの館! 救出を求む調査隊

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ゾンビの館! 救出を求む調査隊

リアクション

 第 7 章

 鉄心から連絡のあったカルやゆかり、調査団の契約者達が捕えられている部屋の前にトマスが辿り着いていた。
「水原大尉、カルカー中尉、ここで間違いないか?」
 ドア越しに声をかけるとすぐに反応が返る。トマスは後輩の無事にひとまず安堵するのでした。
「でも、このドア……特殊な鍵でしか開けられない仕組みのようです。レナンさんが【ピッキング】で何度も試してくれたのですが……」
「ピッキングか……」
 ゆかりの報告にトマスが顎に片手を当てて考え、ヴァイスへと振り返るとドアの鍵を開けてくれるように頼んだ。
「ヴァイス君も、【ピッキング】を試してみてくれないか? 中から開けられないなら、外から開けられるかもしれない」
「わかった、やってみるよ」
 ドアの鍵穴に目線を合わせ、カチャカチャと音を立てる。仕組みがわかるようになるとヴァイスの表情は真剣そのものになる。【顕微眼(ナノサイト)】を使うと集中力のためか、声をかけても気付かない。
「……これ、【ピッキング】で開けるなら外と内と両方からなら開けられそうだ。内から誰か試してくれない?」
 ヴァイスの声にレナンがドアの前で目線を合わせると鍵穴を探り出す。ヴァイスとレナンが同時に押さえを引くとカチリと何かが合わさる音が響く。ヴァイスとレナンの顔から緊張が解け、互いに肩の力を抜くと先にドアを引いたのはヴァイスであった。
「お疲れ、あんたが中に居てくれて良かったぜ」
「いや、そりゃこっちの台詞だな。やっぱり両方から開ける仕組みだったか」
 ヴァイスとレナンが軽く握手をする横で、トマスへ敬礼するカルとゆかりが居る。
「無事で何よりだ、調査団に登録していた7人全員無事を確認。引き続き赤の書と青の書の捜索を開始する」


 ◇   ◇   ◇


 同じ頃、2階の探索に入っていた北都や泰輔達は洋館の西側を歩いていた。
「この辺りは静かですね……ゾンビ殲滅に動いてる方達が居てくれたからでしょうか」
「そうだと思うで、さっきみたいなのが続くのは勘弁や……」
 徘徊するゾンビ達の姿はなく、至って順調に進んでいたところで北都がある部屋の前で足を止める。
「北都? ……どうかしましたか?」
 クナイの声にドアへ手のひらを当て、物音を確かめるように耳を当てる。
「中から物音がするんです……でも、ゾンビみたいな嫌な気配ではなくて……」
「外に誰か、いるのか?」
 中から聞こえた声に北都とクナイが顔を見合わせる。更に見知った声を確認すると泰輔もドアを叩いてみた。
「中に居るの、イーシャンとシルヴァニーやろ? 僕や、泰輔や。皆で助けに来たで!」
 部屋の中からも、イーシャンとシルヴァニーが安心する気配が伝わる事にホッと肩の力を抜く一行だったが、双方を隔てるドアは契約者達を捕えていた部屋のドアと同じ作りであった。
「鍵がなきゃ開けられそうもねえ……俺とイーシャンの力を使って、ドアをぶっ壊してくれると早そうなんだけどな」
「シルヴァニーさん、それは教導団の方達が良しとしないと思います。2人には力を使って欲しくない――きっと、そう言うでしょう。僕達の力でドアを破ってみます、出来るだけ離れていてください」
 ドアの向こうで相談する声に顔を見合わせるイーシャンとシルヴァニーだったが、北都の言う通り部屋の奥へと避難する。
「―――彼らみたいな人達に、自由に力を与える事が出来ないのはもどかしいですね」
「ま、団長もその辺りは何れ何とかしてくれると思うぜ」
 準備が整ったのか、2人へ声をかける北都と泰輔はそれぞれ魔法と武器を用意する。
「イーシャンさん、シルヴァニーさん、部屋の隅にいますか? ドアを凍らせますので近付かないで下さい。【氷術】!」
 まずはレイチェルがドアを周りから凍らせる。白い結晶がドアを覆うと、今度は顕仁が【放電実験】で凍らせたドア一帯に電流を流した。
「巻き添えを食わぬよう気を付ける事だ、そなたらを炭にしたとあっては教導団の者たちに顔向け出来ぬからな」
 流れた電流でドアの彼方此方にヒビが入り、脆くなったところへクナイが『魔剣ディルヴィング』を構える。
「これでドアを砕きます……! 【煉獄斬】!」
 クナイの放った【煉獄斬】はドアに大きな穴を開けた。もうもうと立ち込める埃の向こうに互いの姿を確認するとどちらからともなく沸き立ったが、その直後にトマスの呆れた声が響く。
「ものすごい音が聞こえたと思ったら、君たちだったのか……」


 ◇   ◇   ◇


 ひとまず、目的は果たしたとしたトマス達だったがカル、ゆかり達調査団から得られた情報からゾンビを造りだす研究そのものを止めさせる必要があると判断した。
「具体的な事は残念ながら得られなかったけれど、最上階を探索している最中にそれらしい施設は無かったんだ。僕たちが捕まっていたのが2階、でも造り出されてる様子はなかった……1階はとにかくゾンビ達が多かったし、あと僕たちが見ていないのは地下だよ」
 歩きながらトマス達へ報告するカルが示した地下―――ほぼ、殲滅を終えた様子の1階から地下へ続く階段を探しながら先行していたマリエッタがゆかりの所へ戻る。
「見つけたよ、こっちこっち」
 階段を下りていくと、彼方此方で戦闘の跡が見られたがゾンビ達の気配は殆どない様子を見せた。薄暗さに拍車がかった様相ながら壁や天井を観察しながら造った地図を元に進むアーサーが天井と壁の間に僅かなズレを見つける。
「……なんだろうね、あれは。何だか取って付けたような造りなんですが……地下ならもっと土台や柱も強化したもの使わないと危ないし、……ん?」
 何気なく押した壁が何の抵抗もなくそのまま押されていき、人が1人通れるほどの幅が開いた。
「……すごいな、アーサー」
「すごいの! アーサーちゃん。【超感覚】付けてるレナンちゃんにも解らなかったのに」
 一言余計なエセルにレナンも瞼を半分にするがマリエッタと開いた通路を確かめ、安全を確信するとトマスを加えて先頭を歩いていくが、耳慣れない機械音を感じ取ったレナンとテノーリオが一旦足を止める。
「何かあるようだぜ、俺達でまず突入するか?」
 テノーリオの言葉にレナンが黙って頷くとそれぞれ武器を構えた。ラフィエルが2人へ【パワーブレス】をかけ、アルバが不測の事態に備えてラフィエルを守る位置につく。
 機械音が響く部屋の扉を前にテノーリオとレナンが同時に飛び込むが、室内は無人であり手術台のような寝台が中央に置かれ、その周りには計測器のような機械がいくつも散乱していた。データは全て抜かれセキュリティも意味を成さなくなったディスクが動いている音だったようである。
「【サイコメトリ】で見てみましたが、誰かがデータを抜き取ったようです。3人……の影が見えますね、もっと詳しく解ればいいんですが2人は子供のようです」
「子供? こんな所に居るって考えづらいが……まあ、いい。ありがとう、北都君。水原大尉、これらの機械からデータが復活出来ないかどうか……それと、この部屋の状態から見て人間をゾンビに仕立て上げる研究は本当にされていたらしいから、元に戻せる方法を探ってみてほしい」
「了解しました、マリー手伝ってね」
「はーい!」
 
 ゆかりとマリエッタがデータ復活を試みたものの、既に消去されたデータを拾う事は叶わなかったが同時にゾンビ化させる研究も頓挫してしまったと判断したトマス達は、二度と使われないようディスクを破壊して研究室を封じてしまった。