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リアクション
第19章 イルミンスールの祭典 Story12
「コレットさん、早く逃げて!」
「無理ね、聞こえてないみたいよ」
クリスティーの必死の呼びかけにもコレットは反応できなくなっていた。
「きみの防壁でコレットさんを守って」
「ふぅ…、守りきれる保障はなくってよ」
ポレヴィークは彼女の周りに木々を生やし、樹木の防壁を作り出す。
案の定、根元からビキビキと音を立て始めた。
「クローリスくん、お願い」
「あいあい♪」
舞い散らせた花びらを、コレットの周りにまとわりつかせる。
ひらひらと舞う花の守りは黒魔術に耐え切れず、パチッパチンッと砕けていく。
「ふぇぇ、このままじゃあの女の子がやられちゃうよクリストファーくん!」
「俺の精神力ならいくら吸っても構わない。彼女を守ってやってくれ」
「う、うん…」
「(く、俺たち2人でも守るだけで手一杯か)」
何かよい策はないか懸命に思考を働かせる。
「こうなったらボクがキャスリングで…」
「いや、彼女と立ち位置を変わったところで、今度は…」
「―……!そ、そうか…。何か他に手はないかな」
ポレヴィークの蔦を天井に這わせ、襲撃する手も考えてはいたが、そこには本物の陣が敷かれている。
誤って踏まれたりしないよう、そういった位置にしたのだろう。
木を隠すなら森の中ということもあり、カフェ班と離れすぎない場所を選んでくれたのかもしれない。
もしも自分たちが別のエリアにトラップを敷いていたとしたらと思うと、背筋がぞっと凍りつきそうだった。
「弥十郎、あいつの場所を教えてくれ。俺が気をひきつける」
「しっかりね♪」
気配の元へ祓魔銃のミストを撃ち一輝に教える。
「むー、邪魔しないでよ」
「俺が相手だ、ディアボロス!」
二丁の祓魔銃を撃ち鳴らし魔性を振り向かせる。
「だったら、おまえからいじってあげようか♪」
これでもかというほど、手元にピコピコハンマーを出現させては一輝へ放り投げる。
「く…、無茶苦茶なっ。弥十郎、コレットを!」
「うん…斉民っ」
「言われるまでもないわ」
斉民は炎の翼を羽ばたかせ、すぐさまコレットを抱えてディアボロスから離れる。
「ちぇ、つまんないの」
「つまらなくて結構。こっちはあなたを楽しませるつもりはないわ」
「ふーん?じゃあ、皆と遊ぼうかな♪」
ピコピコハンマーをぽんぽん放り投げ、避ける様を楽しげに眺める。
「クリストファーくん。叩かれちゃったら呪われるのら!」
「あれも呪いだったのか」
クローリスの呪いの耐性があるとはいえ、耐える度さらに精神力を吸われてしまう。
「ボコールたちが階段のほうへ行ってしまうわ」
「な…っ」
真宵の声に階段側へ目をやると、ボコールらしき者たちがさらに侵入しようとしている。
「テスタメントが止めてやるのです」
「彼らだけにしたらどうなると思っているの!?」
「うぐぐ…」
「皆にはワタシがメールを送っておいたよ」
目視できない気配の存在に気づいた時から、十分すぎるほど予測できた事態だ。
すでにいっせい送信済みだと真宵に告げた。
「彼らよりも、こっちを行かせてしまったら厄介だからよ」
ボコールを通してしまったのは悔しいが、封魔術が完成するまでディアボロスを止めきれさえすればいい。
客が1人もいなくなったことで、これ以上店を営業する必要もない。
探知領域から逃さないよう斉民の支援の元、彼らの目になるため祓魔銃を撃ち続けた。
「ん〜、早く仲間内で殴りあってほしーのに!」
再び黒い月を駆動させ、黒々とした輝きを拡散せる。
「(この魔術の威力というより…、追加効果のほうが厄介だね…)」
クリスティーはリュートを弾きながら幸せの歌を歌う。
「仲間割れを狙う気か」
一輝に有効的な手段はなく、上手くいけば気を逸らす程度だ。
悔しげに相手を見上げていると、コレットが“オヤブンー”と呼びながら描けてくる。
何事かと視線をやった瞬間…。
「いっぱつ殴らせて!」
「な、なんで…っ」
頬にパンチをくらってしまう。
重くはなかったがそれでも痛いものは痛い。
頬をさすりながら相手を見ると彼女の目の色は正気を失い、誰でもいいから殴ってやりたいと暴れている。
「コレットさん!?」
幸せの歌だけでは黒魔術の効果に負けてしまい、どうしたらいいものかと悩む。
「テスタメントもなんだかイライラしてきたのですっ」
「お、落ち着きなさいって!」
「あはっ♪おもしろーい」
「うっさいわねっ」
「わわわ…、荒れちゃってるね」
もはや祭典を楽しむどころではなくなり終夏はスーを抱える。
「ううん、助けてあげたいけど手元にハンドベルがないし…。あ、エースさんなら!」
腰のベルトにつないである魔道具を目にし、彼ならコレットたちを正気に戻してくれるはず…。
そう思い不本意ながらも壁際に身を寄せ、そっとエースのほうへ寄っていく。
「エースさん…ちょっといいかな」
「え、…うん?」
「そこの何人かが、黒魔術でおかしくなっちゃったみたいなんだ。そのベルがあれば助けられると思うんだけど…」
「校長が途中で抜けるのは…ってなんか言ってたような。うーん…分かったよ」
彼らを助けられるのは自分しかおらず、仲間を助けるためならと了承した。
ルカルカたちから離れたエースは、店主のいなくなった出店の陰に隠れ、フラワーハンドベルを鳴らす。
「むーーーっ、不快な音…。それ、やめてよねっ」
ベルの音がするほうへ駆けようとするが…。
弥十郎たちの祓魔銃で視界を遮られてしまう。
「きみの相手はこっちだって♪」
「どんどん祓魔術を使ってくれるかな」
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)も二丁の祓魔銃で応戦し、テスタメントに哀切の章で狙わせる。
「このテスタメントに懺悔するのです。今なら、許してあげるかもしれませんよ?さあ、さあ!」
怒りの感情から開放され、意気揚々とハイリヒ・バイベルを行使する。
「あんた邪魔くさいよ!」
「ふっふっふ。ピコピコ投げる呪いがあたらないようですね?」
パートナーに気配を教えてもらい、走行加速の能力を得て軽々とかわしてやる。
封魔術の班のほうは続きが行えず、待機の状態になってしまっていた。
「エースが帰ってこないと止まりっぱなし…」
「別組にでも聞いてみるか、ルカ」
「そうしよっか。…もしもし、歌ちゃん。今忙しいよね、ごめん。クローリスの変わりに、そっちへ魔力を供給できる方法ってないかな」
歌菜は“先生に聞いてみます!”と言い、待つこと数分…。
『アークソウルとホーリーソウルでもよいみたいですが、クローリスを使うより負担が大きいそうです』
「うう〜ん、分かった。ありがとうね」
別の手段を得たものの苦しい選択しかもらえなかった。
彼女から聞いた話を仲間たちにも教え、ディアボロスの襲撃を受けた今となっては、それしか方法はなかった。
「まさか隠れながら行うことになるとはな…」
「しーっ。堂々と立ってできるわけないでしょ、ダリル」
姿を見られてしまっては、天井に敷いた陣を見つけられるは時間の問題。
ゆえに、彼らに注意が向いている間に行うしかなさそうだ。
できれば加勢に行きたいが、それでは作業が完全に止まってしまう。
「こちらのテリトリーなのに、こそこそしなくてはならいとはね」
「文句を言うなメシエ」
「状況が状況だから仕方がないとして…。カルキノスが戻ってこないようだけど?」
一般客を誘導しに行ったきり戻ってこないのではと言う。
人数が多かったのは分かるが、できるだけ早く戻ってほしいものだと息をつく。
「カルキのことは仕方ない。俺たちだけで再開しよう」
「私とセレアナ、メシエの3人から始めるんだっけね」
「そのようだね。はぁ、大変そうだな」
コーティング作業よりも重労働だと感じ、今度は深くため息をついた。
ディアボロスはだんだんと本気になり、黒い月の輝きをさらに拡散させた。
カフェは激しく揺れ、その衝撃で天井に設置したものも振動を受けた。
簡単に壊されないように先行してコーディングを行っていたため、たいした傷はついていない。
それでも中級以上の魔性相手では切断されるのも時間の問題であり、少しでもサリエルの能力を弱体化させようと必死に詠唱を続けた。