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××年後の自分へ

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■手紙を書いたり・見学したり・双子と戯れたり


 手紙書きの参加者達はまったりと未来の自分へと手紙を書いていた。時には想像した事を手紙に染み込んだ未来体験薬で鮮やかにして楽しんでいる者達もいた。導く匂いは様々であった。

「……未来の自分への手紙か(夫として父として念のために保険を作っておくか。人生は分からないからな。二人は足りないとか言うかもだけど生きてる間に愛を注いでおくが、俺が早く死んだら子供達には愛が必要なはずだ)」
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は家族を持つ者として自分の事よりもまず妻や子供達の事にあれこれと頭を巡らした。特に自分が死んだ場合について。
「未来への手紙ねぇ……(未来か。人間に化けているが魔鎧である俺がどこまで人に近い未来を歩けているか疑問だが)」
 一緒に来た藍華 信(あいか・しん)は人間ではない自分の未来の姿に思いを馳せていた。
 そして
「早速、書くか」
「ちょっと書いてみるか」
 ハイコドと信はそれぞれ書き始めた。

「まずは自分に宛てて書くか……宛先は……15年後にするか」
 ハイコドはまず手元にある便箋に自分に向けて書き始めた。
 しばらくして
「こんな感じでいいか」
 無事に書き終えた。

 その手紙の内容は
『元気でやってるか? 子育てはうまくいってるか?
妻たちを泣かせてないか?
またどっか体を義手とかにしてないか?
……今の人生は楽しいか?
もしも取り返しの付かない事に遭ったら悔やむな、読んでいるお前が出来る最善策を行え家族が死んでも愚かな事をするな、してたら自分で自分を殴れ』
 静かに15年後の自分への手紙を書き終えた。

「あとは……(ちとルール違反だけど、混ぜておこうか)」
 ハイコドは事前に書いておいた妻と子供達に宛てた手紙を取り出した。念のために自分宛以外は自分の生死によって書き分けた二種類を用意してある。
 まずは、自分の血印を押した妻達に宛てた手紙を入れる。
 その中身は、自分が死んだら自由に生きて欲しい事や謝罪の他に
『今幸せかい?
ただ一言、愛してる』
 最も大事な気持ちも綴ってあった。

 その次は子供達に宛てた手紙を入れる。中身は、妻には言っていない双子の本当の名付け理由や父は子供達を愛しているという事の他に
『今の生活は楽しいか? 中学生にもなれば恋人でも居るか?
コハク、15年前の父は(マトモなら)君の恋人を認めよう
……もしも自分が暴走してたらぶん殴ってやってくれ』
 という父親らしい事を書いてあった。

「よし、終わりと。15年後、必ず届いてくれよ」
 作業を終えたハイコドは幾つもの手紙を入れて割と厚さが増した封筒を確認しながら言った。

 一方、信。
「……5年後の自分に宛てて書くか」
 信はペンを持ち未来を考え、
「5年後なら何もなければ無事に大学を卒業して何かしてるだろうな」
 ゆっくりと書き始めた。
 その内容は
『浪人してなきゃ大学を卒業して何か仕事してるか?
就職失敗していさり火で働いてるか?
それとも冒険者でもしてるか?
まぁアレだ、『約束』を果たすまでは自由に過ごせ
お前が信として、信じることをしろ
ハイコドを、じゃない自分を信じろ』
 というものだった。

「こんなものでいいか。これを受け取って読んだ時、俺はどう思うんだろうな」
 信は書き終わった便箋を封筒に入れながらぽつりと言った。
 その時、
「信、書けたか」
 書き終わったハイコドが信の手紙書きの案配を訊ねてきた。
「あぁ、終わった」
 そう言いながら信は今し方便箋を入れた封筒を見せた。
「そうか。そう言えば、お前、まだ19だっけ?」
 ハイコドは思い出したように信の年齢を話題にした。
「あぁ、来年二十歳だ」
「そうか。二十歳か」
 来年の年齢を言う信になぜだかしんみりとするハイコド。
 それを見た信は
「何か祝ってくれるのか?」
 ニヤリとしながら言った。
「祝うって言うか、その時が来たら飲みにいこうと誘おうと思ってな」
 ハイコドはカラカラと笑ってお猪口に入れた酒を持つジェスチャーをしながら言った。
「飲みにか……お前のおごりで旨い酒ならな」
 信はニヤリとしたまま追加注文をする。
「たはは……まぁ、考えておくよ」
 ハイコドは笑いながら言うも急に真剣な表情に変え
「それより……信、俺が死んだら家族を頼むな」
 改めて万が一が起きた後の事を信に託そうとする。家族と共にずっと歩んで行きたいと思うが人生は必ずしも思い通りに行くとは限らない。そのため備えておく事は悪くない。
「悪いが、その頼みは聞けないな……昔のネットスラングにある言葉がある『孫に囲まれながら老衰で死ね』ってな」
 信は飲みに行く事は注文を付けながらも受けたのにこればっかりはつっぱねた。縁起でもない事を誰が喜んで受けるだろうか。
「元よりそのつもりさ」
 ハイコドはカラカラと言って用意された飲み物で喉を潤した。
「……そうか」
 信はうなずき、同じく飲み物で一息入れた。