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七夕祭りinパラミタ内海

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七夕祭りinパラミタ内海

リアクション

「海で七夕なんて初めてだけど、こういうのも偶にはいいね」
「そうですね。今夜は海面の星空も楽しめますしね」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)も祭りの賑やかさに心が浮かれていた。
 しかし
「ただ、主催者があの二人じゃなかったら余計な心配はしなくていいんだけど」
 北都は軽い溜息を吐き出した。主催者のあの双子についてはよく知っているため尚更である。
 その時、
「……北都、噂をすれば何とやらです」
 クナイが軽く笑いを洩らしながら前方を歩く見覚えのある三人組を指し示した。
「……あの浮かれぶりは危ないね。様子を見に行こう。ロズさんがいるから大事にはならないと思うけど、邪魔されたくないし」
 後ろ姿でも分かる浮かれぶりに北都は嫌な予感を感じ取り、声を掛けに行った。
「北都」
 クナイも後を追った。

「短冊にどんな願いを書こうかな」
「書き終わったら遊ぼうぜ。人も多いしさ……」
「二人共、願い事を書き終わったら大人しく屋台巡りでも……」
 双子は浮かれロズは気苦労していた。
 その時、
「……何して遊ぶのかな」
 北都は双子の背後から口撃を食らわせた。
「!!!」
 聞き知った声に驚いた双子はそろりと怯えながら振り返り
「……何でいるんだよ」
「それにその格好……」
 予想通りの人物に嫌な顔をした。それに加えてキスミはいつもと違う北都の格好を指摘した。
「昼間に行った七夕イベントでマスコットキャラクターのコスプレをしてね、着替えてきてもよかったんだけど、こっちも七夕イベントだし。仮装して楽しむのもアリかなーって思って……でもこれは女装ではなくあくまで仮装だから(実際はそれだけじゃ無いけどね)」
 北都はにこやかに双子の疑問に答え、仮装であると拘りを言い張るのも忘れない。こっそり隣のクナイを盗み見る。いつもと違う姿なら人前でも恋人であるクナイとイチャイチャ出来るかもという算段があったり。
「まぁ、それはいいだけど」
「そんな事より」
 北都の格好よりも一番気になるのは自分達の発言を聞かれていたかどうか。
「聞いたよ。随分、ご機嫌だねぇ」
 北都は隠す事無くあっさりとにこやかに答える。
「……」
 双子は言葉発する事が出来ず、硬直。何せこれまでも怖い目に遭っているので。
「今日は楽しい悪戯なら見てみぬフリするけど、僕達の邪魔したりしたら……暫く悪戯する気すら起きない事になるからねぇ?」
 にこやかなまま北都は脅しをかける。本日はいつも以上に見えぬ気迫がある。やはり七夕という恋人イベントのためだろう。
「!!!!」
 あまりの恐ろしさに双子は硬直続行。
「……邪魔をせぬよう気を付けておく」
 真面目なロズは双子に代わって答えた。
「悪いけど、二人の事頼むよ。さぁ、クナイ行こう」
 ロズに双子を頼んでから北都はクナイの腕を軽く引っ張り急かした。
「えぇ、では七夕祭り楽しませて貰いますね」
 クナイは双子への挨拶もそこそこに北都と共に浜辺に向かった。
 この後、双子とロズは新婚ほやほやの可愛い夫婦に出会い笹飾り作製に勤しんだ。

 笹が溢れる浜辺。

 到着した北都達はそれぞれ作業を始めた。北都は笹飾りをクナイは短冊に願い事を。
 少しして
「ほら、結構上手に出来たと思うけどどうかな?」
 北都が完成させたばかりの天の川をイメージした吹き流しをクナイに見せると
「上手に出来ていると思いますよ。ただ……」
 クナイは短冊から顔を上げて笹飾りを褒めるも言いたい事は他にあるようだが
「願い事は書けた? 書けたのなら飾ろう」
 北都が言葉をかぶせて遮断した。偶然ではなくわざとに、恋人が何を言おうとしているのか分かっていて聞きたくなかったから。
 そんな北都の気持ちはとうにクナイの知る所である。
「……聞かれたくないのは分かりますが、聞きますよ。短冊に願い事を書きませんか?」
 クナイはそっと短冊を差し出した。
 一瞬だけ短冊を見やるが
「僕は遠慮するよ。自分が願うと叶わないから」
 北都はすぐに断りの言葉を口にし、受け取らない。
「……それは北都の思い込みですよ。願ってもう叶っているじゃないですか……昔の北都の一番の願い」
 クナイは何もかも包み込む優しい微笑みを北都に向けた。
 幾度となく向けられた自分の心を優しくする笑顔に
「…………誰かに愛させる事……クナイ……」
 北都は胸が熱くなり、自分を誰よりも大切に思う恋人の顔を見た。その優しい銀の瞳に映るのは自分だけ。
「でしょう。だから、願ってもいいのですよ」
 クナイは再び短冊を差し出した。
 一瞬だけ迷うも
「……」
 今度は受け取り、
「……(願ってもいいなら……僕の願いは……)」
 そっと短冊に願い事を書き記した。
 そして、二人の短冊は隣り合わせに飾り付けられた。

 笹飾りを終えた後、人のない浜辺。

「……空と海で星を楽しめるなんてなかなか趣があるよねぇ」
 北都は桃のジュースを飲みながらクナイと一緒にのんびりと星空鑑賞しつつ夜明けを待っていた。
「今回は晴れて本当に良かったですね」
 クナイはおもむろに七夕という事で雨の日の七夕での出来事を思い出して口にした。
 途端、
「……」
 思い出したのか北都は頬を赤らめて一瞬目を逸らした。
 そして、
「……クナイ」
 そろりと戻した瞳には熱を名前を洩らす声には艶を帯びており
「……北都」
 クナイは惹かれるように北都を強く抱き締め、キスをした。
 ジュースのせいかそのキスはほんのり甘い味だった。

 ようやく訪れた夜明け。
「……夜明けだよ」
「……えぇ、綺麗ですね」
 二人は寄り添いながら笹飾りや願い事が次々と天に昇る幻想的な情景を眺めていた。
「……」
 二人は願い事が叶いますようにとあの時の七夕と同じく互いの小指を絡め、約束を結んだ。言葉を交わさなくとも互いの思いは結んだ指を通して伝わる。

“クナイとずっと一緒にいられますように”
“北都とずっと一緒にいられますように”

 北都とクナイの願い事も光の粒子となり、空に還っていった。