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願いが架ける天の川

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願いが架ける天の川

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「こっちこっち、博季くん!」
 暗闇をどんどん先に進むリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)を追いかけながら、
「気を付けてくださいね、リンネさん!」
「うん、……きゃっ!?」
 足を絡まった草に取られてバランスを崩しかけた妻を、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)は手を伸ばして肩を抱き留めた。
「ありがとう博季くん」
 リンネが博季の胸の中から彼を見上げる。夏の草いきれの中、ふわりと彼女のシャンプーの香りが漂って、博季の胸がどきりと高鳴る。
「……いいえ。一緒に行きましょう」
 博季は抱き留めた手でリンネの左手を握ると、一緒に斜面を下りていった。
 提灯の火は背後に小さくなり、人の気配も消えていった。下りずとも川が見えるためか、側まで来る者は見える限り他にない。ただ見晴らしは良く、丘の頂上に灯る提灯の明りと、笹飾りの影が帰り道の目印になっていた。
 迷うことはないと安心すると、虫の音とさらさらと流れる川の水音が耳に心地良い。
「どうしますか、もう少し先に行ってみましょうか? それとも……」
 斜面をかなり下ったせいか、足裏に踏む地面はだいぶ平面に近かった。
「うーん、あっ、あの岩の辺りはどうかな?」
 二人は景色の綺麗な場所を探して、平らで、少し出っ張っている岩の上にレジャーシートを広げた。
 博季は静かに、リンネは両手両足を投げ出すようにして寝ころんで星空を見上げる。
 いつか見たプラネタリウムの星空は晴天で、現実にはあれほどの星が良く見えることは滅多にない。それでもパラミタだからだろうか、あの時と同じ数だけの星々が頭上で瞬いていた。
 その中央を白い輝きの帯――天の川がゆったりと流れている。
「綺麗だね」
「うん」
 あの星座は何だとか、一通り星空と会話を楽しんでから、二人はゆっくり起き上がって、今度は川面を眺めた。
 川面に映る星空が美しい。まるで川自体が薄く発光しているようだった。流れは穏やかだが淀むほどでもなく、しかしどうしてこれほど綺麗に映るのかは解らない。
「まるで鏡に映したみたいだ……」
 博季は感嘆の溜息をついた。空の天の川の雫が零れ落ちて、雫を集めて地上に流したようだと思った。
(きっと、僕達の一生の思い出になるな)
 同じように驚いて、驚きを分かち合っているリンネが瞬きをしてから、博季は作って来たお団子とお茶を広げた。
「この景色も一年に一回なんだね。来年まで、目に焼き付けておこう」
「今年の天の川は今日だけだよ。だから一生、焼き付けておこうよ」
 二人で寄り添って。お互いのぬくもりを感じて。
 冷えるといけないな、と博季はリンネの肩を抱きしめる。
(二人で一緒に、お互いの体温を感じあえば、寒さなんて感じません。リンネさんから感じる、この温かさ。
 ……これが、「幸せ」って言うんだろうなぁ……)
 リンネの星を見る笑顔も、自分に向ける笑顔も、全てが、愛おしくて堪らない……。
 そんな風に思っていると、リンネはお団子を飲み込んで、博季に尋ねた。
「後で短冊書きに行こうね。それで、博季くんはお願いごと決めたの?」
「……え? お願い事? 勿論、『織姫さんと彦星さんが幸せな一時を過ごせますように』です」
 意外な返事にリンネは元々丸い青い目を、さらに丸くした。
「自分のお願い事はいいの?」
「ええ。……皆が幸せになれるように。それが、僕の願いですから。僕はもう、充分幸せですし」
 博季は少しだけ、リンネを抱く腕に力を込める。柔らかい感触と、もっと柔らかい頬が近付く。
「あ、リンネさんは短冊なんて書かなくていいですよ。僕に言って頂ければ、何でも叶えて差し上げます。……でしょ?」
 こちらからも頬を近づけて囁くように言うと、リンネは頬を暗がりでもわかるくらい赤く染めた。
「う、嬉しいけど……リンネちゃんにも書きたいことはあるよ!」
「何ですか?」
「『みんなが幸せになれますように!』」
 リンネは恥かしさを吹き飛ばすように、わざと元気な口調で。それが可笑しくて、博季はくすりと笑った。
「リンネさんらしいですね」
「あと『モップスの中身が知りたい!』」
 リンネのパートナーでゆる族のモップス・ベアー(もっぷす・べあー)は「アーデルハイト・アワー ワルプルギスの昼」という番組で、チャックを開いた。その中からポムクルさんが車に乗って去っていき、リンネはゆる族がポムクルさんの駐車場なのではないかと疑ったのだった。結局事実なのか、テレビの演出なのかどうなのかすら不明だったのだ。
「……こっちはおまけだけどね」
 リンネは悪戯っ子のように舌を出すと、すぐに引っ込めて、博季に身体を預けた。
 そのまま二人は互いの体温を感じながら、夜が更けるまで星を見ていた。





 ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)夫妻は、久しぶりの休日を過ごしていた。
 ルースは甚平、ナナは浴衣と日本の行事に合わせた格好で行く前から風流な気分だ。ただ、ナナの方は、女性がお出かけの荷物が多いといっても、どれだけ必要なんだというような――リュックを背負っていて、ピクニックのようだった。
「最近任務が忙しく時間が取れなかったですし、今日はゆっくり……」
 結婚しているといっても、二人とも教導団員。任務や訓練でここ最近は予定も合わず、のんびりお出かけデートする機会がなかったのだった。
 ルースのナナの手を握る力も心なしか少し強い。
「星を眺め、笹の葉に願いを託す……地球の七夕に因んだ催しでしょうか?」
「ええ、肝試しもしているそうですよ」
 ルースが「どきどきコース」について説明すると、ナナは軽く頷いて、
「……おや、肝試しですか? 粋な計らいかと。こちらが面白そうなのです」
 と、暗い道の方へ足を踏み入れた。
「大切な方と夜中に星空を眺めながら、願いを胸に秘め――そのような乙女心に機敏な方が、ドキドキという名を付けたものと、推測するのです」
 二人は軽く肝試しを楽しんだが、実のところ別のドキドキを楽しもうともしていた。
 行きの道は、時々わざと驚いたり、抱き付いたりしてイチャイチャして過ごしたが、特に何事もなく過ぎる。
 道を出ると体を寄せ合ったまま願い事の笹にまっすぐに近付き、願いをかける。
 ルースは迷いなく書き上げる。
『もしこの世界が終ろうとも、死が二人を分かつまでオレにナナを守らせてください』
 筆を迷わせていたナナは、
(ルースさんは、どのような願いをされたのでしょう?)
 と気になってルースを見上げると、彼は恥ずかしそうに苦笑しながら短冊を見せてくれた。
「願いというか決意表明みたいな内容になってしまいましたね」
 ルースは、ナナのことを自分にはもったいないほどの女性だと思っている。ずっと笑顔でいて欲しい。
 ナナに何があっても、その笑顔を守っていきたい……。
「ナナは何を願ったんですか?」
「以前話して頂いたことです」
 ナナの短冊には、『ルースさんの夢である孤児院設立が実現しますように』そして、『ルースさんとナナの子を授かりますように』とある。
 こんな時だからこそ、戦い以外の願いを。
 夫婦になってから出来た、夫婦だからこその願いを。
 二人は照れながらも、毛氈の上で、ナナが持って来た飲み物とお菓子を食べて星を見て……。
「そろそろ帰りましょうか」
 夜もかなり更けた頃、ルースはナナを行きと同じ道に誘った。
 肝試しイベントも既に終了しており、中に入っていく生徒の姿はまばらだ。道に入ってしまえば暗く、前後に人もなく、虫の声だけが聞こえてくる。
 ルースはナナの肩を優しく抱きながら、行きの道すがらに目星を付けていた、道を少し外れた暗がりにナナを連れ込んだ。ここなら人も来ないだろう。
 ルースの意図を察して、ナナは背負ってきたリュックを降ろした。
 ルースは早速ナナの浴衣の生地越しに手を這わせる。
(浴衣って下着つけないって言いますしね。確認してみましょうか、ふふふ)
 ナナの方は、身体を傾けて焦らしいるものの、拒んではいないようだったが……、
「ええ、こんなこともあろうかと、敷布もここに」
 ドヤ顔でリュックの中から取り出したそれを広げる。
(ムードを大事に、お望みのままに受け入れましょう)
 二人はそのまま、敷布に倒れ込んだ。

担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

 こんにちは、有沢です。
 ご参加いただきましてありがとうございました。
 『蒼空のフロンティア』も残すところあとわずかとなりましたが、思い出づくりの一つになりましたら幸いです。
 NPCにつきましては、今回お誘いできなかった公式NPCがいまして申し訳ありません。最後のシナリオはお誘い可能になる予定です。よろしくお願いいたします。

 それではご縁がありましたら、またの機会もよろしくお願いいたします。