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ロウソク一本頂戴な!

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ロウソク一本頂戴な!
ロウソク一本頂戴な! ロウソク一本頂戴な!

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■ 2日目(1) ■



 某空き地。
 晴天の下、カンカンと金槌の音が聞こえる。
「よし、上出来っと!」
 完成を知らせる千返 かつみ(ちがえ・かつみ)に、彼が作業しやすいように支柱を押さえていたエドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)は、うん、と頷く。
「即席にしては良い感じだね」
「おお、いい感じではないか」
「食器とかこっちのテーブルに置いておきますね」
 橋の使えない子供の為にフォークを含めた食器を一通り揃えた千返 ナオ(ちがえ・なお)は、パーカーの帽子にノーン・ノート(のーん・のーと)を入れてあちらこちらと忙しそうである。
 そうこうしている内に空き地の側にバスが止まり、ぞろぞろと子供達が降りてくる。

竹に短冊七夕祭り 多いは嫌よ ローソク一本頂戴なー くれなきゃ顔をかっちゃくぞー

「来たな」
「ようこそ」
「こんにちは。今日は楽しんでいってくださいね、俺も楽しみにしてるんです」
「あれ、話は聞いてなかったのか?」
 かつみ、エドゥアルト、ナオと歓迎されて歌を歌ったがお菓子の気配をしないことにきょとんとする子供達に、ノーンは破名へと目を向ける。
「流しそうめんだったか? そういえば話していなかった」
「抜けているのぅ」
「すまない」
 ノーンとのやりとりを聞いて、此処で振る舞われるのがお菓子ではない事に子供達はそわそわしている。ナオは両膝を抱えるように曲げて一番小さいフェオルと視線を合わせた。
「流しそうめんって知ってますか?」
「しらない」
「俺も初めてなんですよ。かつみさんどうせなら大勢で食べようって」
「たべものー?」
「はい」
 流しそうめんというよりそうめん自体知らなさそうなフェオル達にナオは簡単な説明を始めた。
 元々ナオにいつか流しそうめんをしようと約束していたのをかつみが思い出して、子供達も一緒にやったらどうだろうと提案したのがきっかけである。
 お菓子がなくてがっかりさせるのではと危惧するも子供達の食に対する旺盛さは知っているから、そうめんはできるだけいっぱい用意した。足りなければ新たに茹でればいいかとそちらの準備もしてある。
「みずー! みずー!!」
 組んだ竹の上流から水を流して水流の具合を調整するエドゥアルトは下流で既にびしょ濡れで遊んでいる幼組に、微笑ましさに笑う。贅沢に水を使えない環境にあるせいか、冷たくて綺麗な水を浴びるというだけで興奮するらしい。
「よし、カップと箸……よりはフォークか、皆持ったか?」
 こうやって準備するんですよと見本になるナオを見習うようにとノーンが子供達に声をかけている。
「もってるー!!」
 と綺麗な合唱が返ってきて、ノーンはうんうんと満足気に頷く。
「ナオー、見てみて、箸練習したんだよ」
「かつみーまだー?」
 騒ぐ子等に、上流で水気を切ったそうめんが入ったざるを抱えるかつみはエドゥアルトと頷くと「よし、始めるぞ」と第一弾を流した。
「あれ、食わないのか?」
 キリハも運転手も流しそうめんに参加している中、物珍しそうに側で様子を見ている破名にかつみは首を傾げる。先にあった孤児院の改装の日のバーベキューに知ったが、食べ物は口にしないと聞いていたので別段かつみは今回見学だけの破名を気にしなかった。
「気にしなくていい……かつみ、これは?」
 そうめんとは別に用意されているソレを指さされてかつみは「おう」と答える。
「デザートだ」
「デザート?」
 かつみと破名の会話を耳にして、エドゥアルトは下流側に問いかけた。
「皆お腹いっぱいかな?」
 水流に乗って流れてくるそうめんを箸で救ったり摘んだり、フォークで刺したりと拾ってはつゆの入ったカップに入れてから啜る子供達に、今日初めて食べる食べ慣れないものなのに順応が早いなぁとエドゥアルトは笑った。
 ノーンはそんなエドゥアルトに気づき「もっと流せ流せ」とせっつき、「前の方取り過ぎだぞ、はい立ち位置交代だー」と、子等がきちんと皆満遍なく食べられているか見張りつつ声がけしつつ、ナオも楽しめと彼の肩を叩いた。
 そうめんが残り僅か……というか用意した予備分も無くなった頃、かつみは先程話題にちらりと顔を出したデザートが入っているざるを手に取った。
「お菓子代わりのデザート流すぞ。魚がながれてくるから、ちゃんと捕まえろよ」
 取り逃がすなよとかつみが水流に乗せたのは錦玉羹。中に練りきりで作った魚が入っていて、中々小粋だ。
 小さなカップに入れてあるので素手で掴んでも平気な工夫もしておく。
 ただこの和菓子、四人の手製であり、それぞれに個性があったりする。
 かつみが作ったのはパーツこそちゃんとできているのに配置が微妙で妙なぶさ可愛さがある。
 反対に一番上手に出来上がったのはノーンが作った奴で、あの丸い手でどうしてあんな繊細なものが完成に至るのか全くの謎だ。
 ナオは良し悪し全て含んで普通の出来栄えで、見ただけで美味しそうと感じさせるものがある。
 最初こそ魚を作っていたエドゥアルトは、最終的には魚を諦めて、星に変えたという経緯があった。不器用なのが不運だったのか、妥協した星も、先に三人が完成させた魚の先入観の為か、ヒトデに間違えられる。
 きゃぁきゃぁと取り合われるデザートは、それぞれに個性的であったが、同じボールから取り出したのだから味は一緒で、全て人気だった。
「シェリーさん」
「なぁに、ナオ」
 ずぞっとそうめんを啜ってからシェリーは器とフォーク(箸が上手く使えなかった)を近くのテーブルに置いて向き直る。
「シェリーさんは学校、決まりました?」
 聞かれて、シェリーはちょっと困った顔をした。
「まだ決めてないの。決め切れないというか、ほら色々あったでしょう?
 私ね、ナオ。ちょっと迷いがでちゃった」
「シェリーさん……」
「あ、でもね。この迷いはきっと必要なものだと思うの。私、今やっと自分と向き合ってるって実感してるから」
「そうなんですか?」
「ええ。私は私の道を探さなきゃ、よね?」
「応援してます」
「ありがとう。ナオも、私、応援してるわ」
 ナオと二人話をしているのを眺めている破名にかつみは気づいた。
「食べないのか?」
「見ているだけでいい」
「そういえばいつもそうやって見ているよな」
「かつみがナオを見ているのと差したる違いは無いぞ?」
「え?」
「いつも感謝している。皆、子等に優しい」
 かつみは、系図や楔、系譜の詳しいことはわからないが、これから先シェリー達系譜の子供達が笑って生きていける事だけを望んでいる。
 椅子の修理とか流しそうめんとか、ちょっとした事しかできないかもしれないが、喜んでくれるならこれからも協力は惜しまない。
 感謝している。
 はっきりと言葉にされて、頼られているんだと、かつみは知った。