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リアクション
【七 最後の選抜予選】
赤コーナーサイドの入場ゲート場でコスプレアイドルユニットのふたり、海音☆シャナと霙音☆彡サフィがポップな歌声とダンスを披露し、会場内を大いに沸かせた。
シャナは富永 佐那(とみなが・さな)、そしてサフィはソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)である。
試合に臨むのはシャナひとりだが、サフィはアイドルとしてのステージが終われば、シャナのセコンドにつくことになっていた。
シャナはブルーのウィッグにグリーンのカラーコンタクト、そしてサフィはグリーンのウィッグにブルーのカラーコンタクトをそれぞれ装着しており、白い砂浜の中では蛍光色に近しい二種類の輝きが、観客達の目には非常に印象的な色合いで映っていた。
やがて、シャナとサフィがリングインを果たすと、次は対戦者の入場である。
シャナの対戦相手は、シャンバラン・バッド・アスとして大会に臨む、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)であった。
軍用バイクに跨って、威風堂々と花道を駆け抜けてくる涼介。
アイドルとしてきらびやかなステージを展開しながらリングインを果たしたシャナ、サフィのコンビとは実に対照的であった。
バッド・アス対コスプレアイドル――客席が大いに沸きそうなギミックであろう。
「ここは俺の庭だ。有名になりたきゃ、遠慮なくかかってこい」
「勿論ですッ。今日はプロレス、全力で頑張っちゃいまっすッ!」
涼介とシャナ、お互い勝手知ったる相手だといって良い。
まさか選抜予選で当たることになるとは思っていなかったが、最も安心して試合に臨める相手でもあった。
これまでの選抜予選では既に、ルカルカ、垂、菊、ヴァンダレイ、エレーン、ろざりぃぬ、パンツマシンが本戦出場を決めている。
そして、最後の枠を巡る戦いが今、始まった。
レフェリー正子の要請に従ってゴングが鳴ると同時に、シャナは涼介を場外に誘い出した。
涼介は、シャナの戦法を心得ている。
まずはシャナのパフォーマンスで観客を自分達の世界に引きずり込むべく、不利を承知で、敢えて場外戦に応じることにした。
最初に涼介がジャブ、ボディブロー、アッパーのコンビネーションを仕掛けていくが、これはあくまでもシャナの技を引き出す為の餌だ。
最後に蹴り技を加えたところで、シャナのドラゴンスクリューが炸裂。涼介は、場外の砂浜上に叩きつけられた。
シャナはすかさず長卓を砂浜上に組み上げ、涼介をボディスラムの要領でその上に叩きつけた。
涼介は、動かない。シャナの技を、最初に受けてしまおうという魂胆だった。
一方のシャナは、手近のコーナーポスト最上段まで駆け登り、そこからダブルローテーション・ムーンサルトプレスを敢行。
用意した長卓が派手に割れ、涼介の体躯が砂浜の地面に再度、叩きつけられた。
大歓声の中で、涼介は一瞬だけ記憶が吹っ飛んだが、日頃から鍛えている肉体があればこそ、これだけの無茶な技を受け切ることが出来るというものである。
ペースを掴んだシャナは、涼介をリング内へと押し戻すと、今度はリング下から梯子を取り出した。
この梯子をエプロンサイドぎりぎりの位置に設置し、その最上段まで登り切った。
再び、プレス技で来るか――涼介は、リング上で大の字になりながらも、次なる展開を読んでいた。
涼介の読み通り、シャナは360°シューティングスタープレスを仕掛けてきた。涼介は、これも受けた。
しかし、3カウントは奪えない。
試合はまだ序盤、涼介の体力は十分に有り余っている。
レフェリー正子が2カウント目を叩いた時、涼介はリフトアップの要領でシャナの体躯を跳ね飛ばした。
ここからが、シャンバラン・バッド・アスの本領発揮である。
場外での反則攻撃、更には自慢の360°シューティングスタープレスを凌ぎ切られたシャナとしては、この後の展開は非常に苦しい。
涼介からのフライング・クローズラインやサイドウォーク・スラムなどを巧みな受け身で凌いだものの、受けたダメージは決して小さくない。
するといつの間にか、サフィがエプロンサイドに佇んでいた。
「シャナちゃんを、いじめるな〜ッ」
不用意に近づいていた涼介の顔面目がけて、サフィが何かを投げつけた。どうやら、砂浜から掻き集めておいた砂に、日焼け止め用のベビーパウダーを混ぜ込んだものらしい。
要は目潰しなのだが、涼介は敢えてかわさず、まともに受けた。
だが内心で涼介は、
(アイドルなのかヒールなのか、少しはっきりしないところがあるな……こいつは、後で話し合う必要があるかも知れない)
などと冷静に分析していた。
ともあれ、サフィの援護で再びペースを取り戻すチャンスを得たシャナは涼介の脚を取ってのドラゴンスクリューから、本来ならば対ヴァンダレイ用に取っておいたポラルナ☆彡デスロック(ナガタロック?)を敢行。
脚への防御策を取っていなかった涼介にしてみれば、これは少々、きつい攻撃だった。
この脚を巡る攻防が後々になって響いてくることになるのだが、今はとにかく、何とか凌ぎ切らなければならない。
辛うじてロープへと逃れた涼介は、尚もシャナが畳み掛けようと不用意に近づいてきたところで強引に引きずり倒し、トワイライトベルト(フットチョーク)を仕掛けた。
だが矢張り、先に脚へと受けたダメージが効いていたのか、極めが十分ではない。
シャナも何とか逃れることが出来たが、スタミナが相当に消耗していた。
ここでシャナは、勝負に出た。
(これで仕留めないと……ッ)
涼介の脚を狙ってのドラゴンスクリューから、またもやダウンを奪う。次いで、動きが止まった涼介に必殺のリップル☆彡スランバー(アンプリティアー、或いはキルスイッチ)で仕留めにかかった。
ここで3カウントが奪えるか、と期待するサフィの目の前で、涼介はまたもやシャナを弾き飛ばした。
体力は両者とも限界に近かったが、気力はまだ、残されている。
だが、シャナには次の技にかかるまでの体力回復が追いついていなかった。一方、涼介はシャナを実況席まで引っ張り回し、ここで学人が新たに用意していた長卓上に立ち上がった。
狙うは、ラストライド。
高角度のパワーボムで、シャナの両肩口から実況席の長卓が再び、真っ二つに割れた。
しかしS−1クライマックスでのルールでは、カウントはあくまでもリング内で取らなければならない。
涼介は再びシャナをリング内に引きずり戻さなければならず、ここでまた、余計な体力を消耗した。
ここで再び、サフィが妨害に入ろうとしたが、エプロンサイドでの奇襲とは異なり、涼介を真正面から相手に廻すには、サフィは余りに非力過ぎた。
サフィの妨害を難なく返り討ちにするや、涼介はシャナをリング内へと押し戻し、自らも気力でリングインを果たして、片エビ固めに取った。
ここでようやく、レフェリー正子の3カウント目が入った。
涼介は厳しい消耗戦を制し、S−1クライマックス本戦の最後の枠を、何とか勝ち取った。
勝ち名乗りを受ける際もやっとの思いで立ち上がった涼介だったが、マイクを奪うや、荒い息で観客席に向けて吼えた。
「さぁ、これからがプロレスの時間だッ!」
場内はこのひと言で、再び沸きに沸いた。
* * *
―― 選抜予選、第八試合 ――
○涼介・フォレスト (16分19秒、片エビ固め) 海音☆シャナ●
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