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Happy Birthday

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Happy Birthday

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1.ウェザーでパーティー

「Happy Birthday!」
 ぱぁーん、とクラッカーの軽快な音が響いた。
 次いで舞い散る色とりどりの紙吹雪。
「陽菜都ちゃん、お誕生日おめでとー!」
「ありがとう!」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の祝福に、遠山 陽菜都(とおやま・ひなつ)は満面の笑みで答えた。
「ささやかだけど――私たちは、これをを陽菜都さんに送るわ」
 そう言って綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は揃って歌いだした。
 聞いている人たちが幸せな気持ちになるような、そんな歌。
「わ、あ……」
 楽器が音を奏でるたび、歌声が響く度に、歌に合わせて音符や星が現れては宙を舞い、浮き立つような雰囲気により花を添える。
 時折その音符や星が周囲の人々にぶつかって攻撃してくるのはご愛嬌。
 ノーンの作ったゴージャスなバースデーケーキのロウソクが、歌声に揺れる。
(これからも、幸多い人生を送って欲しい)
(新たな人生の門出となる一日に……)
 さゆみとアデリーヌは気持ちを込めて祝福の唄を歌い上げた。
「さあ、陽菜都ちゃん、ロウソクを!」
「う、ん!」
 ふうっ。
 一瞬の暗転。
 灯りが付いた時には、綺麗に飾られたウェザーのパーティー会場と、ノーンたちのよりいっそう明るさを増した笑顔が並ぶ。
「こんなにも素敵な誕生日を、ありがとう!」
 陽菜都は誕生日の発案者、ノーンの両手をぎゅっと握りしめる。
「ううん、喜んでくれて嬉しいよ!」
「さゆみ先輩たちも、歌のプレゼント……ありがとう。聞いてて、すごく幸せな気持ちになれたわ」
「幸せなバースデイのお手伝いができたのでしたら、わたくし達にとってもそれに勝る喜びはありませんわ」
 アデリーヌの言葉にさゆみも何度も頷く。
「さあさあ、まだ終わりじゃないですよー。陽菜都さんのために用意したご馳走がたっぷり待ってるわ!」
 お誕生会の舞台となったウェザーの看板娘、サニー・スカイ(さにー・すかい)がどんどんとお皿を運び込む。
「そういえば……」
 それを聞いたノーンがふと思い出したように両手を打つ。
「おにーちゃんと環菜おねーちゃんの赤ちゃんの名前が陽菜ちゃんって言うんだけど、陽菜都ちゃんとお名前似てるね!」
「そうなんだ!」
 ノーンの言うおにいちゃんとは、留守番をしている御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のこと。
「陽菜ちゃんのお誕生日祝いする時には陽菜都ちゃんも来てくれたら嬉しいな!」
「いいの!?」
「もっちろん! その前にわたしの誕生日もあるけど!」
「あは……っ」
 陽菜都の笑顔に、ノーンは悪戯っぽく笑って見せた。

   ◇◇◇

「はい、それでは今から新郎新婦……じゃなかった、主役のお二人にはお色直し、もといお着替えに立ってもらいますー」
 そびえ立つケーキはウェディングケーキならぬバースデーケーキ。
 ライスシャワーのごときクラッカーの嵐の中、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は少しだけ頬を赤らめながら席を立った。
 美羽とコハクの誕生日は8月8日と9日の1日違い。
 だから合同でウェザーでお祝いをしてもらおうと、誕生日パーティーを申し込んだのだ。
 二人の希望は、サプライズ形式のパーティー。
「ほほーう。分かったわ!」
 それを聞いたサニーの目が輝いたことに、若干の不安と期待を覚えながら迎えたその当日。
「さあさあこれに着替えて!」
 とサニーが取り出したのは新品ドレスとタキシード。
「これは、私達からのプレゼント!」
 美羽はサニーから骨董品の指輪に青いリボンのついたガーターベルトを受け取り、更に。
「これは、貸してあげるね!」
 と琥珀色のブローチを渡された。
 そう、サニーたちが企画したのは、ウェディングパーティー式のバースデーパーティー。
 着替えた二人を、サニー、サリー、レイン、クラウド、そしてラフィルドら居並ぶウェザーの面々が拍手で出迎えた。
 さゆみとアデリーヌの祝福の歌で、2人は会場の中を行進する。
 いっぱいの料理にケーキを楽しんだ後は、成人式の衣装のための着替えの時間。
 パーティーには、更に成人式のお祝いまで用意されていたのだ。

「た……のしかったぁ!」
「素敵なパーティーをありがとう」
 ウェザーの面々によるパーティーを楽しんだ美羽とコハクは、揃ってサニーたちにお礼の言葉を継げる。
「ううん、こっちこそ、好き勝手やらせてもらっちゃって……」
 そんな二人にサニーは慌てて手を振る。
「むしろ、こっちがありがとう。私達に、お祝いの機会をくれて。その……これからも、よろしくね」
 誕生日プレゼントに加え、これはお店からとサニーがはにかみながら渡す大きな花束を、2人は揃って受け取った。

   ◇◇◇

「ウェザーに行ってみないか?」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)をウェザーに誘ったのは、8月も半ばに入った頃だった。
「雑貨屋ウェザー…って確か必ず騒動が起きるお店だよね」
 ジブリールは伝聞ながらなかなか鋭いウェザー観を率直に述べる。
「オレ行った事ないから勿論行くけど、今日何かあるの?」
「マスター? ウェザーさんは本日は如何なる催しがあるのでしょうか。ジブリールさんは初めてお伺いするのでご挨拶に良い機会ですが……」
 フレンディスも訝しがりながら、しかし素直にベルクに従う。
 二人はまだ知らなかった。
 ベルクが一体何を考えていたのかを。
 この先二人に、何が待ち受けているのかを……
「「Happy Birthday!」」
 ベルクにドアを開けるよう促されたジブリールとフレンディスが小さく開けたドアから顔をのぞかせた瞬間。
 明るい声が、降り注がれた。
「はう」
「これ、は……」
 目を丸くする二人に、ベルクが説明する。
「黙ってて悪かったな。8月は、フレイの誕生日とジブの誕生日……家族になった日があるだろ。だから、ウェザーで誕生パーティーをやってもらうことにしたんだ」
「う、わあ……」
「そ、それは……」
 綺麗に飾り付けられた会場。
 響く歌声。
 そしてテーブルの上にずらりと並べられたお料理の数々とケーキ!
「は、はぁあああ……」
 その美味しそうなとりどりの料理と香りに思わず鼻はひくひく、目を輝かせて口元からは涎が零れんばかり。
 しかしはっと現在の状況に気が付くと、慌てて居住まいを正して恐縮する。
「こ、この度はかような催しをして頂けるなど……勿体無き幸せ」
「そう恐縮するなよ。フレイたちが遠慮しないよう、今の今まで黙って事を進めてきたんだからな」
「そうか……あれからもう一年なんだよね」
 一方、ジブリールの方は驚きながらも、俯くと照れくさそうに感情を口にする。
「その……オレなんかの為にありがと……」
「どういたしまして! はじめまして、ようこそウェザーへ! 私はサニー。これから、楽しんでいってね」
「え、えーと、はじめまして。オレはジブリール……」
 しどろもどろにジブリールが挨拶している間、ベルクは新たな年への決意の炎を燃やしていた。
(今年、フレイは20歳。親の承諾なく結婚できる歳! フレイと結婚できたら、ジブを養子にして、そして……)
「あ、マスター!」
 ぐらり。
「へ?」
「危ないぃいい!」
 ぐっしゃーん!
 フレンディスのために作られた高い高い特製ケーキ。
 それが、フレンディスが食べ進めていくうちにバランスを崩し、見事ベルクとフレンディスの上に倒壊したのだった。

   ◇◇◇

「そんなわけで、今年は忙しくって二人とも誕生日を祝えなかったわけよ」
「な、なるほど……」
「だーかーら、せっかくフェザーが会場を貸してくれるなら、こっそりセレアナの誕生日を祝っちゃえ! ってわけよ」
「ふ、ふむふむ……ところでうちは『ウェザー』だから」
 サニーに熱く語っているのは、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
 彼女は大切な相方、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)のサプライズパーティーをウェザーで開催しようと、サニーと打ち合わせ中だったのだ。
「プレゼントは何がいいかな。あのクールビューティーに似合うもので、一年中使えるもの……」
 セレンフィリティは立ち上がると、ゆっくり店内を吟味する。
「――ん。これよ、これがいいわ!」
 そして揃いのティーカップを手に取った。
「ちなみにお料理はどうしようかな? やっぱり、ここはあたしの手で……」
「いえいえいえいえいえ! お客様に用意させるわけにはー!」
「でもやっぱり大切なセレアナのために……」
「大切だからこそ! い、家で料理はいつも食べさせれあげられるじゃない。ここはひとつ非日常的空間を演出して!」
「そう?」
 常日頃にない流暢なサニーの話術によって、セレンフィリティの手料理という地雷は避けられたのだった。

 そして、誕生会当日。

「セレアナ、お誕生日おめでとう!」
「セレン、お誕生日おめでとう!」
 ぱぁーん!
 さゆみ達の祝福の歌声の中、二人の声が重なった。
「え?」
「え?」
 見れば、セレンフィリティもセレアナも、共に相手へのプレゼントを抱えている。
「ええと、これ、プレゼント……」
「私からも、よ」
 茫然とプレゼント交換をする二人。
「驚いたでしょー。私たちも、どうしようかと思ったわ」
 ほっとした様子で溜息をつくサニーとレイン、クラウド。
 セレンフィリティとセレアナは、同じ日同じ時間にそれぞれお互いのサプライズパーティーを企画していたのだった。
 どうりで、ウェザーの面々の態度がおかしいと思ったと、セレンフィリティがプレゼントの包みを開くと、お揃いの頑丈そうなマグカップ。
「セレアナ、ありがとう……」
「私こそ……」
 涙で声が滲んだのは、どちらだったのだろう。

   ◇◇◇

(あぁ……)
 ウェザーのイベント会場が見る間に飾り付けされ、誕生会の準備が進んでいくのを水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)はどこか暗澹たる気持ちで眺めていた。
「ほらほら、すごいねー。もうすっかりバースデー会場だよ。バースデーケーキももうじき届くからねー」
「そう……」
 楽しげなマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)の声にも、虚ろな言葉を返すだけ。
 ゆかりの不運はマリエッタと共にウェザーの前を通りかかったことから始まった。
『会場貸します。お誕生日などのイベントを演出いたします』
 そんな看板を見かけたマリエッタがゆかりの声をかけたのだ。
「そういえば、今年のバースデーは全然祝ってなかったよね、カーリー?」
「そ、そんなことないわよ?」
「それじゃあ、祝いましょう!」
「べ、別にそこまでしてくれなくっても……」
「そんなこと言わないで! 善は急げ、予約しちゃいましょう!」
「え、えぇー」
 困惑するゆかりをずるずると引っ張ると、ウェザーに誕生会の予約を入れるマリエッタ。
 ――そして、ゆかりのバースデーパーティーが開催されることとなったのだ。
(ま、まあ……気持ちはありがたいし、せっかく祝ってくれてるんだから……)
「ほら、バースデーケーキだよ!」
 なんとか気持ちを切り替えようとしたゆかりの目の前に、マリエッタは大きなケーキを差し出した。
 そこには、揺れるロウソクが25本。
「ううっ……」
「どうしたの? これ、プレゼントね」
「ありがとう……」
 ワンポイントの可愛らしいマグカップを受け取り礼を言うゆかりの、あまりにも誕生日に似つかわしくないテンションにきょとんと首を傾げるマリエッタ。
(25本…… 25歳…… 四捨五入すると……)
 自身の年齢を突きつけるようなロウソクと現実に、ゆかりの気持ちはなかなか晴れることはなかった。
「ほら、あーん!」
「あ、あーん……」
 そんなゆかりの口に、マリエッタが無理矢理ケーキを押し込んだ。
「お、いしい……」
「ね!」
 再びマリエッタを見たゆかりの表情は、果たして……

   ◇◇◇

「ねぇねぇサリー。せんとにね、サプライズプレゼント作るの手伝ってよ」
「ぷれぜんと、でスかー?」
「んー、うっうー」
 ウェザーの中でバースデーパーティーの準備を手伝っていたサリー・スカイに声をかけたのはエリー・チューバック(えりー・ちゅーばっく)ロラ・ピソン・ルレアル(ろら・ぴそんるれある)
「私ニ、できるでしょうカ……?」
 少し戸惑った様子で会場の支度をしているサリーたちを眺める。
 今、ウェザーは結和・ラックスタイン(ゆうわ・らっくすたいん)が申し込んだ占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)の誕生パーティーの準備の真っ最中だった。
 そこから少し離れた場所で、サリーたちはサプライズプレゼントの作成へと取り掛かる。
「どう? ここに『テロルチョコおもち』を細工して……ここを、こうしてー」
「むぅむぅ、んー」
「いつも喧嘩してルみたいでスけど、ちゃんとプレゼントは作ってあげルんですネー」
 真剣な様子でバスケットを準備するエリーと、そこに紙飾りを貼り付けるロラに、サリーは感心した様子で頷く。
「だってさー、正面きってせんとにおめでとう! なんてしたくないもん」
 エリーが書くプレゼントカードには『おめでとう せんと』の文字。
「『せんと』じゃないノでハー?」
「いーんだよ、サリーもせんとって呼ぶといいよ!」
「そうなんでスかー」
 頷くサリーの袖を、ロラが引っ張る。
「むう! んっぬー」
「あア、可愛い飾りでスねー。私モ、一緒に作ってモいいんですカ?」
「んっんー!」
 エリーとロラに促され、プレゼント作りに専念するサリー。
 その頃、誕生日パーティーの会場では極秘でとある計画が練られているとも知らずに……

「お誕生日おめでとうございます! サリーさん!」
「……エ?」
 会場に戻ったサリーは、突然結和からかけられた言葉に硬直する。
 見れば、バースデーケーキにもサリーの文字。
「えへへ! びっくりした? ボクたちサリーをびっくりさせたくて頑張ったの!」
「……え、エ?」
「ひーほー! うーう! ひーほー!」
 エリーがサリーに笑いかけ、ロラはサリーによじ登ると、頭に何かを乗せる。
 よく見れば、紙で作った王冠。
 今日の主役の証。
 結和たちは、今日この日をサリーの誕生日とし、彼女を祝うために今回のような企画を考えたのだ。
「サリーさんに、これからも、幸せいっぱいの一年がありますように」
 そう言うと、結和は細い金色のブレスレットをサリーに手渡した。
 魔力を込めた守護の紋章が刻んである。
「……」
 驚きのあまり呆然と立ちすくむサリーの横で、占トが大きなバスケットを抱えてくる。
「さーて、ここでお待ちかね、ケーキの時間だぜ……うぉお!?」
 ばっかーん!
 突如その箱は爆発し、飛び出したテープだらけになった占トをエリーとロラが大声で笑う。
「え、俺……じゃなくて、お・ま・え・らー」
「ほらほらそんなに怒らないで。プレゼントもあるから」
 エリーが渡したカードには『おめでとうせんと』の文字。
「……アリルディスだっつってんだろ、こンの、クソガキイィイ!」
「わー」
「んっんー」
 逃げるエリーたちを追いかける占トの喧騒が響く。
「……あ」
 そんな中、サリーはやっとのことで口を開いた。
「あ、りガとう、ごザいまスぅうううううう……」
「泣かないでください。また来年も、毎年だって、お誕生日は来るんですから。その度に、お祝いしてあげますね」
「わ、私モ……おかーさ……結和さんや、皆に、お祝イ……したいでス。毎年、楽しみニしていテください……」
 やっとのことでサリーはそれだけ告げたのだった。
 ちなみに占トはその後、結和から新しいデミカップのセット、エリーたちからはきちんと『アリルディス』の名前の入ったハンカチを受け取った。