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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

リアクション

 同時刻 葦原明倫館 イコン整備施設
 
「ここを襲ってきたということは、ここに剣竜があることが気取られたでありんすか!」
 ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)が叫ぶ横で、唯斗は落ち着き払った様子で格納庫へと向かう。
「問題ない」
「問題ない……って、剣竜は後一歩の所で修理がまだでありんすよ!」
魂剛で出る」
 
 それだけ言うと、唯斗は魂剛で出撃する。
 魂剛がカタパルトから飛び出した先では、既に銀色の機体の一個部隊が暴れていた。
 型式は“ドンナー”……もとい“シュベールト”タイプだ。
 
『迅竜の初陣を思い出すな。さて……参る――』
 
 その前に立ちはだかるのは、金色の“シュベールト”。
『ははは。デザインだけはカッコイイ機体だね。デザインだけは』
 いきなり通信を入れてきたパイロットは子供のようだ。
 それも、とびきり無邪気な子供。
 
 油断なく構えながら、唯斗とエクスは言葉を交わす。
「“ドンナー”の応急処置を見た。剣竜の修理にも立ち会った。剣竜のコクピットでシステムに潜ってもみた。戦闘データを魂剛にフィードバックさせた。そして、魂剛が、進化した。唯斗、剣竜との違いは感覚のフィードバックがあるということだ、分かるな?」
「ああ。機体が斬られりゃその分、文字通り身を斬られるような痛みがあるってことだろ」
「だが、その分反応速度は勿論全体的なスペックアップがされておる。もはや生きていると言っても過言ではない状態よ。今の魂剛なら剣竜以上に唯斗の力を発揮できるであろ。賢志郎との戦に間に合わなかったのが口惜しいがな。まぁ、真に斬るべき悪党との戦に間に合ったのだからよしとせい」
「そうだな。魂剛に搭載された真化システム。剣竜の操縦系を参考に機体と同化するこいつなら。竜の系譜を継ぐ剣の鬼ならば。負けねぇよ」
 
 二人の会話が終わるのを待ち、再び通信が入る。
 
『話は終わった?』
『ああ。待たせたな。紫月唯斗、参る』
『ユイトっていうんだ。ボクはツヴァイ。よろしくね』
 
 ツヴァイと名乗ったパイロットは小さく笑う。
 直後、金色の機体は一瞬で魂剛との距離を詰める。
 
 それから展開されたのは圧倒的な戦いだった。
 パイロットが子供とは思えない圧倒的な剣技を見せる金色の“シュベールト”。
 その強さは、魂剛を一方的にいたぶり、破壊するには十分だった。
 
 小破を経て中破、もはや大破寸前の魂剛。
 ツヴァイは笑い声を上げながら、楽しむようにして更に魂剛をいたぶっていく。
 
『あはははは! 弱い! 弱いねぇ!』
 遂に両腕を斬り落とされる魂剛。
 そのコクピットで唯斗が呻き声を上げる。
 更に金色の機体は左手で魂剛の頭部を掴むと、ぶら下げるように持ち上げる。
 そのまま右手に持った“斬像刀”で魂剛を斬りつけ続けていく。
『うぐ……あぁっ……ぐぅ……はぁっ!』
 声にならない声を上げる唯斗。
 咄嗟にエクスはハイナに通信を入れた。
『ハイナ! 剣竜を出してくれ!』
『でも、剣竜は武装の調整がまだ済んでいないでありんす……』
『構わん! このままでは唯斗が死んでしまう!』
 
 それに応じ、剣竜が射出される。
 しかし、無人で射出されたそれを破壊せんと、金色の“シュベールト”が動いた。
 
 金色の“シュベールト”の刃が剣竜を両断する――

『くっ! 剣竜ッ!』
 
 唯斗が声を上げたその瞬間。
 刃と刃がぶつかり合う音が響いた。
 
『お待たせしました、唯斗。ここは僕がくいとめます。さあ、貴方は速くこの機体へ――』
 
 通信を入れてきたのは漆黒の機体。
 ――金色の“シュベールト”の刃を受け止めた、漆黒の“シュベールト”だ。
 
『賢志郎か! 助かった! その機体――どうやら修理は済んだようだな』
『ええ。これがアカーシ博士の手で蘇った僕の剣――“シュベールト・マイスターシュタック”』
『“真打”か。なかなかに洒落た名前をつける』
 
 痛みを堪え、唯斗はエクスを抱えて剣竜へと乗り込む。
 素早くシステムを起動する唯斗。
 
『素手でどうにかしようっていうのかな?』
 金色の“シュベールト”は、剣竜が丸腰なのを見て取ると、漆黒の“シュベールト”を無視して襲いかかる。
 咄嗟に援護に入ろうとするも、銀色の機体が漆黒の機体を阻む。
 
『――唯斗、これを!』
 
 賢志郎の判断は速かった。
 漆黒の機体は愛刀である“斬像刀”を剣竜へと投げ渡す。
 それを受け取った剣竜は金色の機体と斬り結ぶ。
 
『凄い……! 反応速度が更に上がっている!』
 
 驚く唯斗の前に、通信ウィンドウがポップアップする。
 
『紫月さん、よく聞いて』
 
 ウィンドウに現れたイーリャが語り出す。
 
『これからその機体の武装のOSをオンラインで最終調整します。もう少しだけ、持ちこたえてください』
 
 それから幾合か斬り結んだ後、剣竜は“斬像刀”を漆黒の機体に投げ返す。
 
『どうしたんだい? まさか観念したのかな?』
『否。既に俺には俺の為の刃がある――ハイナ! 剣竜の新たな武器とやらを出してくれ!』
『了解でありんす!』
 
 ハイナの声に応じ、施設が稼働する。
 鎖が凄まじい勢いで撒き取られ、リフトが上昇。
 まるで天上にぶつかるようにして上昇したリフトは、その勢いで積載物を外へと放り投げた。
 
 剣竜が受け取ったのは、一振りの打刀だった。
 一見すると打刀だが、異様なほど鞘がごつい。
 それでも剣竜は難なく剣を抜き放つと、それを構える。
 
『やっちゃいなよ』
 
 ツヴァイからの指令で剣竜に殺到する銀色の機体。
 剣竜と斬り結ぶ中で、銀色の機体は懐へと入り込む。
 刃渡りのそれなりに長い打刀は懐の相手には苦戦する。
 その時だった――
 
『紫月さん! モードを弐式に切り替えてください!』
 
 イーリャからの通信を受け、咄嗟に唯斗はその通りにする。
 すると、打刀の柄と刃が二つに割れたのだ。
 
『……! これは!』
 
 音を立てて『変型』した打刀は一瞬で二振りの短い刃となる。
 それが苦無であると咄嗟に理解した唯斗。
 途端、彼は水を得た魚のように素早い動きで敵を翻弄する。
 
 懐に入った敵を難なく斬り捨てた剣竜。
 慌てて敵は距離を取る。
 
『次は参式に!』
『応ッ!』
 
 今度は鞘も『変型』し武器の一部を構成する。
 二振りの苦無は一瞬で槍へと変じ、剣竜の手で敵を貫いた。
 
『四式!』
『応ッ!』
 
 次いで武器は弓へと変じ、慌てて飛行ユニットを起動した敵を射抜いた。
 機晶エネルギーの矢を放つ弓の一撃。
 それをかろうじて避けたのは、飛行ユニットを使わずに距離を取った機体だ。
 
『伍式!』
『応ッ!』
 
 剣竜は素早くビーム弓銃を組み替える。
 次なる形態が完成するが早いか、剣竜はその末端を敵機に向けて放り投げた。
 
 ――鎖鎌。
 伍式の成す形はそれだ。
 
 剣竜の放った鎖鎌は、今まさにバックステップして離脱しようとしていた敵機を絡め取る。
 そのまま敵機を引き寄せると、剣竜は一気に近付いてくる敵機に向けて鎌を振り下ろす。
 
『あぁ、もう! ちょっと強い機体を手に入れたからって調子に乗っちゃって!』
 通信帯域を震わせるツヴァイの声。
 子供じみた癇癪に震えるその声を合図に、後方へと控えていた銀色の機体が一斉に飛行ユニットを起動する。
 金色の機体を先頭に浮遊した銀色の機体群は一斉に明倫館へと斬りかかる。
 
『紫月さん。モードを零式に』
『応ッ!』
 
 剣竜が武器を組み替えると、出来上がったのは巨大な野太刀。
『紫月さん、それは“斬像刀”のデータをベースに再現した武装』
『そうか。それは心強い』
『ええ。それは“斬像刀”のエネルギーコーティング機能のリミッターを外したもの――』
 
 野太刀を構える剣竜。
 するとその刀身をビームが覆っていく。
 刀身を覆い尽くしてもビームはなおも伸び続け、やがては遥か彼方にまで届く超長大な光刃となる。
 
『一体なんで、そんなに強いんだよぉ! どうしてそんなに戦えるんだよぉ!』
 
 あまりの光景に驚きを隠せないツヴァイ。
 そんな彼に向け、唯斗は静かに言い放つ。
『俺が戦うのは他でもない。もはやこれ以上の罪を見過ごせないからだ』
『罪だって!?』
『かつての罪が仕組まれたものだとわかっても、それに縛られた人達がいる。だから俺は、その人達を縛る罪を斬る。それだけじゃない。今ここで犯されようとしている罪があるならそれを斬る。そして、これから先の未来で犯されようとしている罪があるなら、俺はそれを防ぐ為に戦い、その罪を――斬る』
『何なんだ……お前もその機体も、いったい何んだよぉ!』
『俺は紫月唯斗。そして、この機体は剣竜。いや、もはやその名は呼ばねえよ――』
 
 剣竜は長大な光刃を振り上げる。
 
『悪を断ち、魔を断ち、すべての罪を断ち切る者――断竜。それがこいつの新しい名前だ。そして、俺とこいつは――』