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夏最後の一日

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夏最後の一日

リアクション

 廃教会内。

「これまで数々の妨害が入りましたが、ここならばきっと……」
 長椅子に座るアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)は周囲を見回した。
 寂れ、埃が積もり、所々にひびの入った壁や窓、信者が座る木製の長椅子は経年劣化で腐りかけており、当然灯りは壊れ使い物にはならず、他の部屋も酷い有様である。
 しかし
「きょ、今日こそ、キロスさんと結婚式を挙げてみせますっ!」
 頬を染め愛する婚約者との結婚式を夢見るアルテミスにとっては些細な事実。何よりこれまで様々な妨害が入り挙式が出来なかったためなりふり構わずと言った感じだ。
 そうこうしている内に
「おい、急にこんな所に呼び出してどうしたんだ?」
 婚約者のキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)が現れた。どうやら挙式の事を知らない模様。これもまたアルテミスが外部に漏れるのを恐れての事。
「来ましたね、キロスさん!」
 アルテミスは長椅子から立ち上がり至極真剣な表情でキロスを迎えた。
「あぁ、来たが、ここは……」
 キロスは頷きつつ、疑問符を浮かべた顔で教会内部を見回していた。どう見ても廃墟、どう見ても用事などありそうにない場所。
「教会です。今日こそは結婚しましょう!」
 アルテミスはきっぱりと唯一で重要な目的を発表。
「……ここでか?」
 まさかの事にキロスは一度周囲を見回してから訊ねた。予想外の場所への呼び出しに予想外の目的が続く。
「えぇ、そうです」
 アルテミスは恐ろしい程真剣な顔でうなずいた。
「どう見ても廃墟だぞ」
 キロスはもう一度周囲を見て眉を寄せながら言った。どう見ても結婚式には不似合いな場所。
「そうです。この廃教会なら、誰の邪魔も入りません。神父も観客もいない結婚式ですが、神様は見ていてくれます」
 アルテミスは真剣な表情のまま続ける。
「そりゃ、まぁそうだが、いいのか? 一生に一度の結婚式をこんな所でして」
 キロスとしては自分よりもアルテミスを心配していた。
「えぇ、大丈夫です。私にとって大事なのはキロスさんと結婚をしたという事実ですから」
 今のアルテミスにとって場所なんぞ些細な事であった。アルテミスも本当ならば神父もいて観客がいる中華やかな結婚式をしたいだろうが、いかんせん身内に妨害されるものだからこうならざる得なかった。心無しかその心意気が重い気もするが。
「まぁ、お前がそれでいいってんならオレは別にいいけどさ」
 キロスが思うのはアルテミスが喜ぶ結婚式であればという事だけ。
「それじゃ、さっさと邪魔が入らないうちに始めましょう! いつ邪魔が入るか分かりませんからね。これまで数々の妨害で現実だけでなく夢にまで……」
 キロスの了解を得るなりさっさと結婚式を開催しようとする。何せ現実だけでなく夢でも妨害されたので警戒は一層のようである。
「夢?」
 何も知らぬキロスはアルテミスの妙な言葉尻を気にした。
「いえ、何でもありません。とにかく始めましょう」
 アルテミスはとにかく挙式を急かした。
「……分かった」
 アルテミスの必死さにキロスは申し出を受けた。
 そしてとうとう結婚式は始まった。

 静かな二人だけの結婚式が執り行われ無事に愛を誓い合い、指輪交換を無事に行う事が出来た。
「……(ここまでは妨害もなく無事に出来ましたね)」
 アルテミスは薬指に嵌められた指輪を見ながら無事に事が進んでいる事に安堵しながらも警戒は怠らない。
 まだ
「……あ、あとは誓いの口づけですね……」
 大事なものが残っているから。アルテミスは頬を染め、隣のキロスを見た。
「……あぁ、そうだな」
 キロスもまた結婚式という事もあってか若干照れているようであった。リア充に嫉妬していた事もあったりアルテミスともここまでに来るのに色々とあったものだから尚更。
「……ではキロスさん」
「あぁ、アルテミス」
 アルテミスとキロスは見つめ合い、アルテミスがそっと目を閉じ、キロスが唇を重ねようとした瞬間、

「$%&#@%&$#▲&■$#」
 人とは思えぬまるで地獄の底からわきでたかのような金切り声が響き渡り、窓ガラスや長椅子や金属製の燭台を破壊し天井にひびを入れた。

「!!!」
 アルテミスとキロスは驚きながらも戦いに慣れた二人は瞬時に防御に動く。アルテミスは『龍鱗化』で耐えキロスもまた防御態勢を。
 それにより何とか事なきを得て金切り声も収まった。
「……い、今のは一体何なんだ……無事か、アルテミス……」
「……は、はい……耳が……まだ、おかしい気がしますが……」
 何とか耐えたがアルテミスもキロスもぐったりとしており耳が痛い。
 しかも二人への被害はそれだけではなく
「……あぁあ、ゆ、指輪が……指輪が……なぜ……」
 二人の結婚指輪は見事に破壊されていた。アルテミスは壊された指輪を見やり悲痛な声を上げた。
「……アルテミス……その、悲しむな……いつか結婚式を挙げる事だって出来るさ……」
 キロスはアルテミスの落ち込みように放ってはおけず、優しく慰める。
「……キロスさん」
 アルテミスはそっと顔を上げキロスの優しさに浸ろうとした瞬間、
「!!!!」
 二人の眼前に奇妙な象頭の変な生物が現れたかと思いきや
「ヨウコソ、ヨウコソ、キモダメシヘ、ヨウコソ」
 奇妙な事を言うなり
「へ?」
「は?」
 二人目がけて白いただの煙幕をぶっかけて消えた。
 煙幕が晴れると
「……って、な、何ですか、人が悲しんでいる時に……」
 怒りに油を注がれたアルテミスの悲しみはどこへやら。
「……肝試しってあの肝試しか……という事は誰かが作った物か、それにしちゃなかなかよく……」
 キロスは訳が分からない状況だが狼狽える様子は無かった。相手は作り物という事もあるからだろう。
 そうこうしているうちに入口や床から機械音がする度に作り物幽霊やら化け物が現れては二人を驚かせようと向かって来る。幸い、攻撃は仕掛けては来ないが、鬱陶しく迷惑。
「……キロスさん」
 式を邪魔され怒りに燃えるアルテミスはちろりとキロスを見ると
「……あぁ、分かっている」
 キロスはこくりと頷きアルテミスの思惑を理解した。
 思惑、つまり
「乙女の恨みは鬼よりも怖いのですよ!!!」
 邪魔者を全て殲滅するという事である。アルテミスは魔剣ディルヴィングを振り回し、次々と『正義の鉄槌』で破壊していく。相手はただの作り物のため脆弱で面白いぐらいに壊れていく。
「すげぇ」
 キロスも次々と破壊していった。アルテミスの怒りに満ちた気迫溢れる戦いぶりに感心しながら。
 結果、
「廃教会、化け物退治、完了」
 アルテミスは両手を腰に当て少し満足そうであったが、すぐに表情は崩れ
「……って、化け物退治に来た訳じゃ……結婚式をしに来たのに……」
 また結婚式が遠のいたとうなだれた。
「…………元気を出せ……御馳走してやるから」
 キロスはアルテミスの頭を撫でなが食事に誘った。少しでも元気になって欲しいと思いながら。
「……はい」
 アルテミスはキロスの優しさに甘える事にした。
 この後、アルテミスとキロスは近くの喫茶店で食事をした。

 アルテミス達が去ってしばらく後。
 廃教会に二人組が現れ、内部の凄まじい残骸に仰天していた。
 その二人組とは
「な、なんじゃ、こりゃ全部滅茶苦茶だ」
「機械が起動してやがる。もしかしてどこからか来た動物とかがスイッチを入れたのか」
 悪戯好きのヒスミとキスミであった。キスミの言葉通り廃教会に忍び込む小動物によって機械のスイッチが入り、アルテミス達を肝試しの客と認識してしまい襲いかかったのだ。
「……あぁぁ、ここで夏最後の肝試しをしようと思ったのに」
「……これじゃ、出来ねぇ、折角最高の場所を見つけたと思ったのに」
 まさかアルテミス達を襲撃したために破壊されたとは知らない双子はただひたすらがっくりと肩を落とすばかりであった。そもそもそんな物を作りここに隠していた方が悪いのだが。
 この後、双子はばれてはまずいと慎重に片付けをし、学校に戻った。
 しかし、二人は知らなかった。
「……(これは報告でありますな)」
 段ボールで追尾する吹雪がいる事を。
 吹雪によってこの事は学校に知られ、こっぴどく叱られたという。もちろん吹雪の名は出されなかったが。
 ちなみにロズが購入した双子への石は無事に渡す事が出来、双子を喜ばせた。

 夏最後の一日は多くの人に様々な思い出を作らせた。

担当マスターより

▼担当マスター

夜月天音

▼マスターコメント

 参加者の皆様大変ありがとうございました。そしてお疲れ様でした。
 夏最後の一日を素敵に過ごして頂きありがとうございました。
 少しでも楽しんで頂ければ幸いです。