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賑やかな秋の祭り

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賑やかな秋の祭り
賑やかな秋の祭り 賑やかな秋の祭り

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 イルミンスールの町、通り。

「……(……まさかアスパ―がブランチェだとは思わなかったが……どちらであろうと俺にとって大切な事は変わらない。変わらずに彼女に接する)」
 ウッド・ストーク(うっど・すとーく)はガル族の猫獣人のアスパー・グローブ(あすぱー・ぐろーぶ)が人の姿であるレーヴァンのブランチェ・ストークである事を長く知らなかったが、最近知り今日までしばらく動揺が続いたが、ここ最近ようやく安定し、自分が彼女にどう接するべきかを導き出していた。
「……(お兄ちゃんに正体がばれてしまったけど……セレンスのおかげで何とか……)」
 今は人の姿で大人しめな雰囲気を纏うアスパー事ブランチェもまたウッドと同じ事を考えていた。こちらも正体が知られた事でかなり動揺していたがセレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)の助けで大分落ち着きを取り戻していた。
 それだけではなく
「……(それに……)」
 ブランチェはちらりと隣を歩く幼い頃から仲が良い義兄ウッドを盗み見た。その顔には安堵ではなくそれ以上に可愛らしいものだった。密かな恋心という。
 しかし
「……どうした?」
 向けられている当の本人ウッドは気付いていなかった。ブランチェよりもずっと気が軽くなったためだろう。
 そんな二人を見るセレンスは
「……(明日は祭りだから何とか二人に時間をあげたいなぁ)」
 明日の祭りの準備で慌ただしい町の様子を見ながら祭りを二人のために役立てたいと思っている。
「……(二人きりにするには私がいない方がいいけど。二人の様子も気になるし……祭りに参加した方が手っ取り早いかも……ブランチェには明日ウッドをデートに誘うように言えばいいかな)」
 セレンスは大切な二人の幸せを願い色々と考え
「明日、祭りに出たいから少し器具とか材料を揃えるのを手伝って(料理はあんまり上手じゃないけど、手伝ってくれる人を捜せば何とかなるはず)」
 祭りに出る事に決め、二人に手伝いを求めた。
「あぁ」
「いいよ」
 ウッドとブランチェは快く手伝いを申し出てくれた。
 それにより準備はあっという間に終え、
「やるなら良い場所を確保した方がいい」
「花火が上がるのなら屋外の方がいいと思う」
 ウッドとブランチェはそれぞれ意見を出し、屋外にある最適なスペースも確保し、椅子とテーブルも無事に設置した。何とかセレンスが出店する準備が整った。

 準備を終えて帰宅する道々。
「……明日、ブランチェにお願いした事があるから少し早く来てくれないかな」
 セレンスはウッドに聞こえないように耳打ちした。先程考えていたデートに誘うように勧めるための時間。今よりも当日に話した方が勢いも相まって上手く行くのではと考えて。
「……分かった」
 セレンスの隠れた考えを知らぬブランチェはあっさりと引き受けた。
 そして
「……明日、朝、店の事で用事があるから少しの間だけ店番してくれないかな」
 セレンスは二人っきり作戦のためにブランチェに聞こえないようにウッドに耳打ちした。
「……分かった」
 ウッドはブランチェ同様にセレンスの内なる考えを知らぬまま即引き受けた。
 二人に約束を取り付けたセレンスは
「……(ブランチェにデートに誘うように勧めるだけ)」
 ここまで計画が上手く行った事に満足した。 
 とにもかくにもそれぞれの思いを抱えながら祭りの時がやって来た。

 祭り当日、早朝、前日に確保した出店スペース。

「来たよ、お願いしたい事って何?」
 ブランチェが一番にやって来た。
「ありがとう。お願い事というのは……」
 そう言ってセレンスはブランチェにウッドを祭りに誘うように勧めた。
 話が一段落した所で
「……店番に来たぜ……ブランチェ」
 ブランチェよりも遅い時間を伝えられたウッドが現れるなりブランチェがいる事に少し驚いた。何せブランチェもセレンスに呼ばれた事は知らないので。
 そこで
「それじゃ、、用事に行って来るね。ブランチェも店の事お願い」
 セレンスは用事は無いがある振りをして二人きりにするために席を外した。自分が勧めたデートへのお誘いをブランチェがウッドにすると信じて。
「……あの……」
 セレンスが退席した理由を知るブランチェは慌てるが
「あぁ、任せろ」
 秘密の女子トークを知らぬウッドは引き受ける事に何のためらいもなかった。
 この二人きりの時間に何やかんやとあり、自分達も料理を出す事に決めた。
 しばらくして戻って来たセレンスにその報告をした。

 報告後。
「……手伝ってくれるのはありがたいけど折角の祭りなのに楽しまなくていいの? 二人だけで……」
 セレンスはもう一度、二人で色々お喋りする時間、つまりデートをしたらと言おうとして
「いや、楽しむつもりだ。ブランチェの腕前を皆に見て貰うんだ……気晴らしにもなるだろう」
 ウッドが遮った。ウッドも料理上手だがブランチェには敵わない上に機械が苦手であったり。
「……そうね。確かに気晴らしになるし頑張って料理するよ(今更二人だけで行きたいとこっちから言うのは……)」
 気晴らしになると思いながらもブランチェはまだセレンスが提案していた事に興味を持つが、流れが出店になってしまった事に恥ずかしくて踏み込めなかった。
「……二人がそれでいいなら、別にいいけど……それじゃ昼間には料理を出せるように動こうか……民族料理もいいけど独自性が強いから多くの人に馴染みの深い料理もいくつか一緒に出した方がいいよ」
 セレンスはちらりとブランチェを見た後、出店の方へ舵取りを取る事に。自分があれこれ言っても二人が動かなければ意味を成さないから。
「そうだな」
「任せて」
 ウッドとブランチェは料理を始めた。

 二人が料理をしている間。
「……(デートとはいかなかったけど、二人は料理が出来るからそれを利用すれば二人きりに出来るはず……というか私があまり料理が上手じゃないだけで)」
 テーブルを布巾で拭いたりと細々とした事をするセレンスは料理をする二人の様子を見つつ自分の最初の計画が失敗となったものの二人きりという目的を達成した事に満足していた。
「……(どうにか二人をくっつけたいけど……一番は二人が幸せになる事だし……とはいえ二人の本当の幸せって何なのかしらね)」
 ウッドよりも先にブランチェの秘密を知り相談によく乗っていたセレンスは色々考えながらも結局は仲間の幸せを願っていた。
「……終わったけど、二人の邪魔はしない方がいいよね……呼び込みとウェイターだけど夜の宴に向けて料理が出来る人を確保しないと……さすがに二人だけじゃ無理だろうし」
 作業を終えたセレンスは二人に声をかける事はせず自分の仕事を開始する事に。

 そうやって気遣い上手のセレンスが一人仕事に奮闘している間。
「……(さすがにデートは無理だったけど)」
「……(さすがだな。俺よりも上手だ)」
 昼に提供出来るように料理をするブランチェとウッド。思う事は様々。
 その時、
「ん、こいつは見た事が事がないな」
 ウッドは自分の知らない料理が皿に載っている事に気付き、戦士の一族レーヴァンの料理を作っているブランチェの顔を見て
「……もしかしてガル族の料理か?」
 ブランチェのもう一人の顔であるアスパーとしての料理だろうと見当が付いた。
「うん、急に懐かしくなっちゃって(……みんな元気にしてるかな。料理を作ったせいかちょっと感傷的になったかも)」
 ブランチェはほのかに笑みつつ一族の皆の顔を思い浮かべちょっぴり思い耽ったり。秘密が知られたため故郷の獣人部族の料理も同時に出そうと考えたのだ。
「……そうか」
 余計な事を聞いたと少ししんみりするもウッドは思わずつまみ食い。
「……って、つまみ食いは駄目だよ」
 ブランチェがぷぅと可愛らしく頬を膨らませて注意。何せウッドのせいで客に出せなくなってしまったから。
「さすがだな。美味い」
 気にしないウッドはブランチェの料理の腕を褒め称えた。これもブランチェを励まそうという心遣いだったりする。
「もう、それ摘んじゃったから全部食べてよ、お兄ちゃん」
 ブランチェはウッドの気遣いを察しつつも言う事は言う。
「あぁ、悪かった」
 ウッドはそう言って自分が手を付けた料理を美味しく食べた。
 この後、二人は料理人として腕を振るった。
 そして、
「美味しい民族料理にみんなに馴染みの料理もあるよ〜、夜には宴を開催して花火を見ながら大騒ぎ! 宴の準備をお手伝いしてくれる方はいませんか? 料理上手、料理好き大歓迎♪」
 セレンスは元気に可愛らしく呼び込みと求人募集とウェイターも頑張った。
 それによって客が来たり手伝いが来たりと賑やかになった。

 昼になると昼食時もあってかますます繁盛し
「……これは呼び込みとウェイター両方は無理だから誰かに手伝って貰おうっと」
 二足の草鞋では厳しいため適当な人を見付けてどちらかを任せようと考えるのだった。
 適当な人を発見し、呼び込みを任せ自分はウェイターの方に回った。

 一方。
「それにしても繁盛だな。こりゃ、休む暇もないぜ」
 ウッドは賑やかな様に思わず言葉を洩らすも
「誰のせいでこんな忙しくなったと思ってるの! 呑気な事を言っていないで手動かして!」
 忙しなく作業をするブランチェが呑気に客模様を眺めているウッドに文句を垂れた。何せ料理提供を発言したのはウッドだから。
「あぁ、分かってる」
 ウッドも急いで作業に戻った。
 ともかく昼も大賑わいで様々な客がやって来た。
 時間はあっという間に昼から夕方となった。

 夕方頃。
「少し閉店だよ〜。夜になったらとても賑やかになるからね」
 セレンスは夜の宴に向けて一時空き時間を作るため通行人達に宣伝をしてから
「夜までに沢山料理作るの頑張ってね。私は料理面ではお手伝い出来ないから……」
 料理人達に手を合わせてお願いをする。
「任せろ」
「……任せて」
 ウッドとブランチェは快く引き受け、表情は真剣な料理人に早変わり。
 おかげでたっぷりの料理が揃い夜には
「美味しい料理がそろい踏みだよ!! みんなで食べて飲んで楽しく花火を見よう!」
 セレンスの呼び込みもあって人は集まり盛大なパーティーを盛り上げた。

 パーティー中。
「……料理提供になったけど、これはこれで良かったのかな(二人の本当の幸せも、きっと一緒にいる事でそれは見つかるはず……何より二人を見ていたらそれがよく分かるもの)」
 盛り上げ役を少しだけ休憩中のセレンスはブランチェ達二人の姿を微笑ましげに見ていた。本日は一貫して脇役だが、それで満足。セレンスの中での今日の主役はブランチェ達だから。
 そして
「さぁ、花火に負けず思いっきり楽しもう♪」
 セレンスは盛り上げようと声を張り上げ、頭上に輝く花火に目を向けた。