校長室
賑やかな秋の祭り
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夜も過ぎて。 「祭りっていいよね。賑やかで参加している人がみんな笑顔でさ。こっちも自然と楽しくなって笑顔になるよね」 「えぇ、花火も町を包む光も綺麗で」 花火とオレンジの光に包まれた町をリア・レオニス(りあ・れおにす)と吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)は仲良く歩いていた。行き交う人々を目で追う度に二人は自然と笑顔になってしまう。 「そう言えばアイシャはスイーツが好きだったよね。今日は折角のお祭りだから思いっきり買い食いもやっちゃおうぜ!」 アイシャの好みを知るリアはニヤリと女の子には厳しい誘いを口にする。 「……食べたいですけど、あんまり食べると……」 アイシャはリアの言うように甘い物に興味はあるが、祭りという事もあり食べ過ぎて女の子としては堪らない事、体重増加が多少気になったり。 しかし 「そんなのダンスで動けばケーキ分は大丈夫、かな……たぶん」 リアは賑やかに歌い踊る参加者に目を向けつつクスリとしながら言った。ただ言うだけでなくちょっぴりの意地悪に余計な一言を付けて。 「……たぶん、ですか?」 アイシャはリアの意地悪な言葉尻にむぅとするが、リアには全く効果が無い。なぜならそんな顔も愛おしいから。 「いや、絶対に、ほら、行こう」 リアは言い直し、 「ちょっ、リア!?」 驚くアイシャに構わず腕を引っ張って適当な店に入った。 二人はスイーツをたっぷりと楽しんだ。ただしリアはスイーツを食べるアイシャを楽しんでいたが。 店を出てしばらく。 「……アイシャ、ケーキ分ダンスでもどうかな? こう見えてもダンスは修めているんだ。薔薇学は美を重んじる校風だからね……という事で俺にリードさせて貰えないかな?」 リアは早速有言実行。紳士よろしくアイシャに向かって手をそっと出した。 「……ではケーキ分、お願いします」 アイシャはクスリと笑みながら差し出された手を取った。 二人はオレンジ色の光溢れる中、手と手を取り合い、軽やかに舞った。 踊りの最中。 「……あの時、世界産みの時に理事長の所……タシガンから電話した時、アイシャも祈ってたんだね。一緒に祈れて嬉しかったよ」 リアは今でも鮮やかに思い出せるある事を思い浮かべ、落ち着いた今だからこそなのか話題として口からこぼれた。 「リアや皆のおかげであの時は本当に……」 アイシャもまた思い出しているのかあまりにも大変だった出来事にほんの少しだけ翳りが差した。なぜなら多くの助けを得て上手く行ったという事は多くの人に迷惑を掛けたり大変な思いをさせたという事だから。 「アイシャ、あそこで一休みしようか」 リアは空気が少し重くなったのを感じたのか近くのベンチを指し示し、お喋りはベンチに座ってからになった。 ベンチに座った後。 「花植えの時さ、家族と共に普通に生きたいって希望を俺にだけ教えてくれたよね……思ったんだけど、普通の幸せって、実はとても貴重だよな。その貴重さを大切に、幸せになれると良いなと思って」 リアは思い出しながら言った。百合園女学院での花植えに参加した時にアイシャが懐かしむような愛しむような表情で語った事を。 「……そうですね」 アイシャはしんみりとうなずいた。 「アイシャ、俺と家族になろう。俺だけじゃなく沢山の人と家族になって、普通で当り前の日々を生きよう」 リアは幾度となくアイシャに向け続けた温かな微笑みを浮かべていた。心の底からアイシャが幸せになる事を願って。 「……沢山の人と家族ですか。それは素敵ですね」 アイシャの口からも笑みが洩れた。いつもと変わらず自分を思いやる優しい言葉に。 そんな時 「よぉ」 「参加していたんだな」 リア達を発見した双子が現れた。 夢以来の再会に 「今日のアイシャは夢じゃなく現実だよ」 リアは笑いながらアイシャを紹介。実は快眠効果付きの夢札で見た夢の中でアイシャと過ごしている時に出会った事があるのだ。 「?」 何も知らないアイシャは小首を傾げるばかり。 「何でも無いよ、アイシャ……それで今日は? 酷い悪戯は許さないよ?」 リアはただ笑うだけで詳細ははぐらかし、双子に本日の用事を訊ねた。 「酷い悪戯ってひでぇな。ただ美味しいキャンディーをあげようと思ってさ。参加してくれてありがとう的な」 「色々やられてばっかじゃ……何でもない。とにかくキャンディーを食べろよ」 ヒスミはリアの発言に肩をすくめ、キスミは余計な事を洩らしたりしながら自作のキャンディーを差し出した。実は他の参加者に散々痛い目に遭わされた後だったりする。 双子の強い言葉に 「……」 『歴戦の生存術』で警戒しつつリアはキャンディーを受け取った。アイシャはそれを見てから同じく手にした。 「……」 可愛らしい紙包みをじっと見るばかりのリア。見た目は可愛いが中身はそうではないかもしれないから。 「何、ぼんやりと見てんだよ。さっさと開けろよ」 ヒスミはむっとしながら開けるように促した。 「分かったよ。俺が先に開けるからアイシャはその後で……」 アイシャを守るためにリアが毒味役を買って出ようとするが 「んな事言ってないでさっさと開けろって」 キスミが遮りアイシャを強く促した。 「……では開けてみますね」 双子をよく知らぬアイシャは早く開けて欲しいのだろうと判断し、紙包みを開けた。 途端、 「わぁ……綺麗です」 出て来たのは甘いキャンディーではなく紫色の光を放つ小さな星々が溢れ、アイシャを包み込んで涼やかな音を立てて消えた。 「へぇ、これはいいね……」 アイシャの様子を見てリアは安心して紙包みを開けた。 しかし、予想外の事が。 「!?」 突然の爆発でリアを驚かせると共にカラフルな星が吹き出し空へ昇る。 それを見た双子は 「あぁ、あの素材の分量を多くしたのがまずったかな。でも成功は成功だな」 「だな。というか、行こうぜ。ロズとかに見付けられないうちにヒスナ達と合流だ」 満足するも自分を強制連行する誰かに警戒してかすたこらとどこぞに逃げてしまった。 空に昇った星々は勢いよくリアとアイシャの頭上に降り注ぎ 「……痛っ、アイシャ、大丈夫か? 急いで屋根のある場所に移動しよう」 「そうですね。私は大丈夫ですけど……」 総攻撃を受けダメージは小石並だが大量のため痛いものは痛い。そのためリアはアイシャに星が当たらないように庇いつつ急いで避難。 近くの店の軒下。 「まさか食べられないキャンディーを貰うなんて思いもしませんでした……綺麗でしたけど」 アイシャは降り注ぐ痛い星の雨を眺めながらキスミ作の素敵な悪戯を思い出しほわぁと表情を和ませた。 「あと、少し痛かったけど」 リアが口元をゆるめ、ちょっぴり付け足し。 「……大丈夫ですか?」 アイシャは自分を庇って自分よりも痛い思いをしたリアの身を案じた。 「あぁ、大丈夫さ。あれがやんだらまた花火を楽しみながら食べ歩きをしよう」 リアは平気だとばかりにニコニコと笑いアイシャを安心させた。 この後、星の雨は数分で止み、二人はまた食べ歩きをするべく祭りに戻った。