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ニルミナス

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ニルミナス

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新たなる日々の芽

「主、なぜ学者でもないのにここまで細かい調査をしてるんですか?」
 森の中。蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は森の生態を調べている芦原 郁乃(あはら・いくの)にそう聞く。
「ん〜、そだね……最初はね、絵を描こうと思っただけだったんだよね。でも、思い出したんだよ」
「ナニをです?」
「日本でも絶滅した生き物がいてね……絵にも本にも残らなかったものがいるんだよなぁって。それは過去形じゃなくて現在進行形でもさ」
 そうした事実があると郁乃は言う。
「まあそうですね」
「だからね、今やってることって目録なんだよ。絵だけじゃ伝わらないことってあるじゃん。だからもし無くなったとしても、後の世の人が分かるように記録しとかなきゃねって」
「……なるほど。もしかしたらミナスさんも同じような思いで魔道書を残されたのかもしれませんね」
 実際のところミナスがどんな思いで魔導書を残したのかそれは分からない。けれど、そう自分が受け止めてもいいだろうとマビノギオンは思う。
「うん、そうだといいね。もしかしたらキングなら本当のことを知ってるかもだけど」
 そう言いながら郁乃はこの間ゴブリンキングと話してた時のことを思い出す。

「あのね……今、ニルミナスの記録を作ってるんだけど、そこに人口を載せようと思うんだよ。そこにゴブリンとコボルドの人数も足したいんだけど……どうかな?」
 郁乃の提案。それにゴブリンキングはそれには及ばないとジェスチャーで伝えた。ゴブリンとコボルトの人口は変わらないからと。
「実はもうすぐ『恵みの儀式』を終わらせるつもりなんだ……もしかすると森のあり方が変わるかもしれない……でもね、わたしはゴブリン達もいてのニルミナスだと思ってるんだ。だから加えさせてほしいんだけど……キングはどう思ってる……?」
 だが、話の中で郁乃がそういった時ゴブリンキングは郁乃にこう伝えた。儀式が終わった後、是非とも自分たちの人口を記録していって欲しいと。

「結局……どういう意味かは教えてくれなかったけど、きっと儀式が終わるのはゴブリンやコボルト達にとって嬉しい事なんだよね」
 この村で森で過ごしていけば分かる日が来るだろうと郁乃は今はそう思うことにする。
「ミナスも喜んでくれるといいな」
 儀式が終わることを。森の記録を残すことを。そう願う郁乃だった。



「んふふ〜、久しぶりに遊びに来ちゃった。ユーグはどこかな〜っと……あれ、アーミアじゃん。何の話してるんだろう?」
 路地の方でユーグと自分のパートナーが話しているのを見つけてミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)は隠れて聞き耳を立てる。
「この前は結構大変だったって聞いたけど、大丈夫だった?」
 ミネッティが聞いてることも知らずアーミア・アルメインス(あーみあ・あるめいんす)は心配そうにユーグに聞きます。
「問題ない。怪我とかはしてねえよ」
「よかった……」
 ユーグが無事そうな様子に安堵の息をつくアーミア。そして安心したところで自分が何のために村に来たのかを思い出す。
「それでね……前聞いた事って覚えてる?」
「ん? ああ、一緒に旅をしないかって話か」
「あたしの気持ちはあの時と変わってないんだ。……それでどうかな? 一緒にたびに出ない?」
 ドキドキとしながらアーミアは聞く。
「……もうあいつらも俺がいなくても大丈夫だろうしな。いいぜ。一緒に行くか」
 アーミアの誘いにユーグはそう答える。
「え〜。あたしが面白く無いじゃんそれ」
 ユーグの答えを聞いたところでミネッティはそう言って二人の前に出てくる。
「き、聞いてたの!?」
 恥ずかしそうにいうアーミア。
「うん。アーミアが顔赤くしてる様子もバッチリ見てたよ」
 なんでもないことのようにいうミネッティ。
「まあ俺は気付いてたが…………、悪いな。お前とはあんまり会えなくなるかもな」
「うーん……まあ旅にわざわざ付き合うのもなんだしねー。たまにどっかで会えた時に『遊んで』くれたらそれでいいよ」
「ま、お前くらいの女なら男くらいいくらでも見つかるだろうしな」
「そのつもり。ユーグくらいうまい人は簡単には見つからないからちょっともったいないけどね」
 軽い感じでそう言うミネッティ。
「じゃね、ユーグ、ミネッティ。そっちは旅の準備で忙しいだろうからお暇するわ。……と、そうだアーミア」
 ミネッティはアーミアに耳に口を寄せて小さな声で言う。
「おめでと♪ ユーグってはあっちは上手だからすごくいいよ」
「っ……」
 顔を赤くするアーミアにそれを可笑しそうに笑いながら逃げていくミネッティ。
「……変な関係だな。お前ら」
「……見てないで助けてよ」
 少しだけいじけてアーミアは言う。
「悪いな。こんな美人さんと一緒にふたり旅だ。あいつが言ったようなことは多分するから助けようがない」
「……もう、相変わらず口がうまいんだから」
「心配するな。嘘は得意だがつまらない嘘は嫌いだ。ついでにお世辞もな」
「…………本気にするわよ」
「ああ、そうしてもらわないと困る」
「……こうなったら、あたしが行ってみたいところ全部付き合ってもらうからね」
 ユーグの腕に抱きついてそう言うアーミア。その顔は腕に隠れてユーグには見えないようにする。
(……今の顔はあんまり見られたくない)
 この力関係がいつか変わる日が来るんだろうかと思うアーミアだった。