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リアクション
【屋敷北】
契約者達が屋敷の捜索を開始して、暫く。
一階にある厨房では――ちょっとした騒ぎが起こっていた。
褐色の肌を持つ一人の男が、厨房で暴れていたのだ。食器棚から何から、手当たり次第に蹴り飛ばし、引きちぎり、破壊活動を行っている。あと、時々拾い食い。
「ちょっと、何をしているんですか。そんなことをしたら、見つかる物も見つからなくなってしまいます」
暴れる男を咎めるのは、厨房を探索に来た水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)だ。その声に男――カスパー・サンドロヴィッチ(かすぱー・さんどろう゛ぃっち)は、ちらっと顔を上げてゆかりを見る。
「さがし物なら、てきとうにこわせば、でてくる」
そして、とんでもなく乱暴な理論を披露すると、再び破壊活動……いや、彼曰く、捜索活動を再開する。
屋敷付きのメイド型機晶姫たちが、泣きそうな顔で修復活動にいそしんでいるが、いたちごっこだ。
「メイドさん達も困っていますし、私も捜索が行えません。即刻やめて……」
ゆかりの堪忍袋の緒が切れそうになった、その時。
つるっ。
カスパーが何かに足を取られた。自分で床にぶちまけたジュースの瓶が割れて、液体が床にこぼれていたらしい。そのまま、仰向けに倒れ込む。そして――がつん、と後頭部を地面に打ち付けた。
思わず、一同の視線がカスパーに集まる。結構良い音がした。頭部はまずい、頭部は、と皆が思いながらカスパーの顔を覗き込むと。
むく、とおもむろにカスパーは起き上がった。どうやら、大事なかったらしい。
「だ、大丈夫ですか」
「大丈夫だ。んじゃ、謎を探すべ」
当たり所が悪かった――いや、良かった、と言うべきか、原始人並だったカスパーの思考能力が何と! 人並程度まで劇的進化した、らしい。進化したところでようやく人並みだが。
突然まともな行動を取り始めたカスパーの姿に驚きつつも、ゆかりはこれでやっとまともな捜索ができる、と胸をなで下ろす。
と、その時、ゆかりの元へパートナーのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)からの連絡が入った。
二階の倉庫で、謎らしきプレートを見つけた、と。
ゆかりは(一応カスパーにも声を掛け)、二階北側の倉庫へとやってきた。
そこではマリエッタが、一枚のプレートを前にして考え込んでいる。ゆかりが声を掛けると、マリエッタは顔を上げて手元のプレートを差し出した。
「どこにありましたか?」
「あっちの奥の荷物の影に、割と普通に隠してあったわ。もうちょっと意表を突いて堂々と置いてある……とか考えたんだけど。それより、この謎よ」
マリエッタが差し出したプレートには、【ぐず→□→くず あそ→☆→さと とし→■→どじ たき→☆→■→□→??】と刻まれている。
ゆかり、そしてついでにカスパーもそのプレートを覗き込む。
「さっきから考えてるんだけど、もー、頭がウニだー!」
「静かにしてちょうだい、マリー」
記号の意味するところがまったく分からないという様子のマリエッタに、ゆかりがぴしっと釘を刺す。こちらは何か手応えを得たようだ。
「☆は……五十音表で、左の文字を二行、右の文字を一行移動……■は、濁点を付けて……□は、一文字目の濁点を取る、ってところかしら」
「そーっすっと、『たき』からはじまるから、最初は『は、し』になるんだべな」
ゆかりの言葉を引き継ぐようにカスパーが答える。その言葉にゆかりも頷いた。
「それに濁点を付けて、一文字目の濁点を取るんだから、答えは――」
『はじ』
三人の声がハモる。
『…………はじ?』
それから、少しの間を開けて、もう一度。
はじ、という答えにはたどり着いたものの、具体的にその「はじ」が何を意味するのかは全く分からない。
「はし……ってことは、端を探せば良いのかしら」
「んだども、必要なのは数字だべ? はち、ってことじゃねーのか」
「とりあえず、情報は共有しておきましょう。他の謎の答えと合わせたら、何かが分かるかもしれないし」
マリエッタとカスパーがあれこれ検討して居る横で、ゆかりは冷静に、情報を他の契約者達と共有する。
謎は他にもまだあるはずだ。それが分からないことには、推理のしようもない。
今は、他の謎の答えが解明されるのを待つばかりだ。
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