空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

【特別シナリオ】あの人と過ごす日

リアクション公開中!

【特別シナリオ】あの人と過ごす日
【特別シナリオ】あの人と過ごす日 【特別シナリオ】あの人と過ごす日 【特別シナリオ】あの人と過ごす日 【特別シナリオ】あの人と過ごす日 【特別シナリオ】あの人と過ごす日 【特別シナリオ】あの人と過ごす日 【特別シナリオ】あの人と過ごす日 【特別シナリオ】あの人と過ごす日 【特別シナリオ】あの人と過ごす日

リアクション


【博季・アシュリング】

 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)の結婚式が、今日、執り行われる。
 素敵なことだ、と西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)は思う。式を挙げることは当然、博季とリンネの幸せそうな笑顔を見ていると、心からそう感じる。
「じゃあ、リンネさん。後で、また」
「うん! 博季ちゃんの袴姿、楽しみにしてるね!」
「こっちのセリフです。幽綺子さん、着付け、よろしくね」
「任せなさい。ほら、別れを惜しんでないで、早く各々控え室に入る!」
「「はーい」」
 声を重ねて返事をしたふたりは、顔を見合わせてくすりと笑った。それからまたねと手を振って、控え室に入る。幽綺子はリンネの後に続き、部屋に入った。
 着々と着付けをしながら、幽綺子はかつてのことを思い出す。
 父親の指示に従い、幽綺子は博季の父親を殺した。本来なら築けたはずの暖かな家庭は、幽綺子の手によって消えてしまった。
 後悔しなかったことはない。それは、博季の笑顔を見ているとき特に強く思った。
 笑っているようで、心の底から笑えていないような。どこか、陰を背負っているような、笑顔。
 無論それは、幽綺子の罪悪感からそう見えたのかもしれない。けれども幽綺子にはそうとしか思えなかったし、だから彼の笑顔を見ると心が痛んだ。
 だけど。
「ありがとうね」
 リンネと結婚してからの博季は、本当に幸せそうに笑うようになった。嬉しそうに、楽しそうに笑うようになった。
 幽綺子の唐突な礼に、リンネはそれが自分に向けられたものだとすら気付いていなかった。きょとんとした顔で、鏡越しに幽綺子の顔を見つめている。やがて幽綺子が自分を見ていることに気付いて、ようやく言葉を噛み砕いたようだった。
「ありがとうって、どうして?」
「リンネちゃんと結婚してから、博季、幸せそうだから。……あんなに幸せそうな博季、見られるなんて思わなかったわ」
「博季ちゃんはいっつも笑顔だよ!」
「あなたの前だからね」
「?」
「あの子、リンネちゃんのことが本当に好きなのよ。
 ……ねえ、リンネちゃん。今更だけど、博季をよろしくね。幸せになってね」
 くるりとリンネが振り返った。真っ直ぐな目が、幽綺子を見つめる。あまりにも真っ直ぐな目で、後ろ暗いことがある人間には直視できないような目だ、と思った。それでも幽綺子は彼女の目を見つめ、微笑む。するとリンネも無邪気に笑った。太陽のような笑みだった。
「うん! 幸せになるよ! もう十分幸せだけどね!」
 そうね、と幽綺子は頷く。そうね、もう、あなたたちは幸せね。
 だって、こんな風に笑えるのだもの。


 博季とリンネは、以前にも式を挙げている。あの時はチャペル式で、博季はタキシード、リンネはウエディングドレスに身を包んでいた。
 今回は、前と違って神前式である。格好、様式が違うと随分と様変わりするのだと、白無垢姿のリンネを見て跳ねた心臓を押さえつつ博季は思う。リンネが緊張しているようだったら気分を解してあげないと、と思っていたのに、なんだかこっちの方が緊張しているようだ。それも仕方がないだろう。洋服姿ばかり目にしていたから、和服のリンネには馴染みがない。だから割り増しどきどきするのだ。
 それにしても、彼女は何を着てもよく似合う。元がいい、というのもあるだろうけれど、和服でも難なく着こなしているようだ。背筋をすっと伸ばしている様は、下手をするとそこらの日本人女性よりも凛々しく美しいのではないか。横顔を見つめながら、惚気たことを考える。
 と、リンネが博季の方を向いた。再び心臓が跳ねる。彼女の表情が、普段目にする無邪気なものではなく真面目なものだったからだ。この場の空気がそうさせるのだろうか。それともやはり、緊張しているのだろうか。
「リンネさん、大丈夫? 緊張してます?」
 声をかけると、リンネは「あは」と笑った。
「緊張、するねー。なんだろう。式は一度挙げてるのにね!」
「ですね」
「博季ちゃんも緊張してる?」
「リンネさんが綺麗でドキドキしてます」
「あっそうか。じゃーリンネちゃんのドキドキも、博季ちゃんがかっこいいからそうなっちゃってるのかもね」
「ねえリンネさん、そのカウンター反則」
「?」
 リンネがきょとんとしたところで、こほんという咳払いが聞こえた。ああそうだった。式の最中だった。博季はリンネと顔を見合わせ、軽く肩をすくめた。
 式が進む最中も、博季はリンネを見続けた。
 綺麗だ。
 普段は隠れている、白いうなじも。輪郭の線も。桜色の頬も。紅を塗られた小さな唇も。全部、全部、綺麗だ。
「リンネさん」
「んっ?」
「可愛いです」
「お上手ー」
「本当に」
「えー」
「愛してます」
 二度目の咳払いが聞こえて、はっとした。ぱっとふたりは前を向き、式を進行させる。
 けれどもやはり、綺麗な彼女が気になってしまった。ちらりちらりと、横目で窺う。
 凛としていたリンネの表情は、博季の惚気のせいかどうなのか、なんだか少しはにかんでいるように見えた。そんな表情の変化も、すべて愛しい。
 不意に強く、抱き締めたいなあ、と思った。細い腰を引き寄せて、抱き締めて、その唇にキスをしたい。
 ああやばい、と頬を押さえる。案の定、熱かった。絶対に真っ赤だ。恥ずかしい。挙動不審も含めて、恥ずかしい。しかも問題なのは、我慢できないことだ。触れたい。触れられたい。彼女の体温を感じたい。
 こんなことを言ったら、笑われるだろうか。結婚三年目になるというのに、まだ、こんな。
 でも仕方ないじゃないか。好きで、好きで、大好きなんだから。
 ……ああ、駄目だ。好きだと思うたび、気持ちが大きくなるのがわかる。
 愛していると、心の中で呟いた。愛しています。世界中の誰よりも、貴方のことを愛しています。
 この気持ちだけは、誰にも負けない。馬鹿みたいに見えるかもしれないけれど、博季にとっては誇れることだ。
 とりあえず、今は、火照った頬をどうにかしなくては。幽綺子が式の一部始終をカメラに収めてくれているのにずっとこうでは後々からかわれてしまう。
 そう思うのに、リンネに触れたい、抱き締めたい、という気持ちは大きくなる一方で、一向に冷める気配はないのだった。


 式が終わってすぐに、博季がしたことはリンネを抱き締めることだった。
「わ。どうしたの?」
 驚いたようにリンネが声を上げる。答えずに、博季は強く抱き締めた。リンネが笑う気配があって、背中に回された彼女の手がぎゅっと博季を抱き締める。
「仕方ない旦那さまですねー」
 からかうような響きを含んだ声に、少し恥ずかしい気持ちを覚えた。が、仕方がない。そう、仕方がないのだ。彼女が言うように。
「好きです」
「知ってるよ」
「愛してます」
「それも知ってる」
「キスしていいですか」
 訊きながらも、返答を待たずして博季はリンネにキスをした。ああ本当に、仕方がない。
 触れているだけで幸せで、唇が重なるともっと満たされた気持ちになって、彼女が博季の名前を呼ぶとまた抱き締めたくなって、ループして、ループして。
 こんな風に彼女のことしか考えられないなんて。ひとつのことに夢中だなんて。馬鹿っぽいなあ、と思った。瞬時に、馬鹿でもいいなあ、と結論を出した。リンネに関してなら、馬鹿でもいい。そんな風に考えるのが容易いくらいには、彼女のことが好きだ。
 これだけ色々やったって、まだまだ自分の気持ちを伝えきれた気がしない。さっき彼女は博季の気持ちに対して「知ってる」と答えてくれたけれど、それでも足りない。だって、まだまだ伝えきれていないのだから。
 好きという気持ちも、愛しているという気持ちも、幸せだという気持ちも。
 それから、ありがとうという気持ちも、まだまだ。
「ねえお二方? 仲がいいのは結構だけど、一旦離れた方がいいんじゃないかしら?」
 幽綺子の声に、博季はやっとリンネから離れた。いつから見ていたのだろうか、幽綺子は「見てるこっちが恥ずかしいわ」と唇を尖らせて言っていた。
 なんとなく気まずくなって幽綺子から目を逸らすと、すぐに「博季」と名前を呼ばれた。何、と彼女に目を向ける。すると、すっと白い封筒が差し出された。
「? 何、これ?」
「プレゼントよ」
「プレゼント? ……開けても?」
「どうぞ」
 お許しを得たので開封する。中から出てきたのは、チケットだった。
「三泊四日ペア宿泊温泉旅行券……って。幽綺子さん、これ」
「結婚式といえば、新婚旅行までがセットみたいなものでしょう? あなたたちの家のことは私に任せて、悠々と楽しんできなさい」
「ありがとう……! そっかあ、僕、リンネさんとふたりで温泉旅行に行けるんだ……」
 想像しただけで楽しそうだ。リンネとふたりきりになれるだけでも嬉しいのに、期間は三泊四日。宿泊先も、聞き覚えがあるくらいに有名な観光スポットだ。楽しみで仕方がない。隣を見ると、リンネもわくわくとした瞳でチケットを見ていた。
「楽しみですね、リンネさん」
「うん! いっぱい思い出作ろうね!」
「はい」
 笑顔で頷き、リンネのことを抱き締める。くすぐったそうに笑う吐息が、博季の首筋を撫でた。
「ね、リンネさん」
「うんー?」
「どれだけ言葉を紡いでも、僕の気持ち、伝えきれないから」
「うん」
「だから、この一言に全部込めるつもりで言います」
「うん」
「ありがとう、リンネさん。
 愛してます」