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【特別シナリオ】あの人と過ごす日

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【特別シナリオ】あの人と過ごす日
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リアクション


■幸せを願って


 午前。
「……」
 リア・レオニス(りあ・れおにす)は少し落ち込んだ顔で建物から出て来た。
「……リア、大丈夫ですか?」
「ほら、見舞いに持って来た花束と花冠は預けたんだ。きっと届けてくれる」
 共に来たレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)がリアを励ました。実は三人は現在治療中の吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)の見舞いに来たのだが、面会出来ず医療関係者に見舞い品を渡した後であった。
「……そういう事じゃないんだ。俺はこうして毎日アイシャの見舞いに来てるけど、それしか出来ないなって……祈る事しか。アイシャを前のように外を自由に動き回れるようにする事は……」
 リアは沈んだ顔のまま口を開いた。アイシャと会えなかった事では無くアイシャに会う事しか出来ない自分がもどかしいのだと。
「……昼も近い。どこかで食べるか。折角の休みだ」
 ザインは気楽な調子で昼食を話題に出した。リアの気分を少しでも上向きにするために。
「あぁ、そうだね」
 リアはザインの気持ちを察し、いつもの元気な顔で言った。
「では、行きましょう。早くしないとどこも混み合ってしまいますからね」
 レムテネルの促す言葉が合図となり三人は昼食をとるためにどこかの店に入った。
 そして昼食をすぐに終えた後、リアに思いがけないサプライズが訪れた。

 昼食後、店内。

「悪くなかったな」
「えぇ。混み合っていなくて良かったですね」
 ザインとレムテネルはそれぞれ満足していた。
「……本当に。これから……」
 リアも満足し、残った時間を何に使うか相談しようとした時、連絡を知らせる着信音が響き、確認したリアの表情が明るく変わった。
「アイシャからか?」
 ザインが掛けてきた相手を訊ねた。何故相手を特定したかというとリアの表情を明るく変える一番の相手はアイシャだからだ。
「そうだよ」
 リアは二人に答えてから電話に出た。
 しかもただの電話ではなくテレビ電話に
『リア、今日はごめんなさい。お見舞いに来てくれていたのに……休んでいて……』
 画面には申し訳なさそうにするベッドから上半身を起こしたアイシャが映っていた。リアが帰ってしばらくしてアイシャは目を覚ましたのだ。
「いや、そんな事はどうでもいいよ。それより起きて話していて大丈夫?」
 リアは先程会えなかった事よりもアイシャの具合の方が気に掛かる様子であった。
『えぇ、少しは……それより、お見舞いの花束と花冠ありがとうございます』
 アイシャは口元に笑みを浮かべながら答え、花瓶に生けた優しい香りの青色カーネイション主体の花束を画面に映した後、シロツメクサとレンゲで作られた花冠を頭に被って見せた。花のチョイスは匂いのきつい香りは病人には酷だろうとリアが気遣って選んだものだ。

「……先程までの沈んでいた顔が嘘のようですね」
「あぁ、よほどアイシャの事が好きなんだな」
 レムテネルとザインは邪魔をしないよう静かに二人のやり取りを見守っていた。当然微笑ましげに。

「飾ってくれたんだね、ありがとう。それに似合ってるよ……まるでお姫様のよう」
 少しでも外の世界を伝えアイシャの気持ちを前向きにしようと持って来た花束が花瓶に飾られている事も嬉しいが、リアとしては花冠を被ったアイシャの姿が何より嬉しい。花色がアイシャの髪色に映えとてもよく似合い、まるでではなく本当にお姫様のようにリアには見えた。
『……リア、言い過ぎです』
 お世辞だと捉えるアイシャはクスリと笑うばかり。
「そうでも無いさ。そうそう、実はもう一つサプライズがあって」
 急にリアは人差し指を立てていやに真剣な表情になった。
『何ですか?』
 不思議そうに訊ねるアイシャに
「実は先日司法試験に合格したんだ。だから宮殿勤めの事務官になるよ。アイシャが大切に守ったこの国をこれからも守って行きたいから」
 リアは誰よりもアイシャに聞いて欲しかった報告をようやく言葉にした。合格によってまた少しアイシャの力になれる事が増えたと。
『リア、合格おめでとうございます。それに頑張って下さいも。後ほど、お祝いの品を贈りますね』
 アイシャは拍手をして心底リアの合格を喜んだ。リアがロイヤルガードの仕事をしながら一生懸命頑張っていた事を知るため尚更である。
「ありがとう、アイシャ」
 一番聞きたかった人の祝辞にリアの表情は幸せそうであった。
『……楽しみにしていて下さいね』
 リアの嬉しい報告にアイシャの表情まで明るくなる。

「……嬉しそうだな」
「えぇ、一番祝辞の欲しい人から言葉を貰っているのですから当然でしょう。二人は見ていてもお似合いですから付き合うようになれると嬉しいですが(付き合うという事は相手の幸せを願って一緒にゆっくりと相手の歩幅と相手の目線で歩いて行く事ですが、リアとアイシャ様ならきっと大丈夫なはずですし)」
 ザインとレムテネルはアイシャの祝辞に喜ぶリアを嬉しそうに見守っていた。それだけではなく、レムテネルは胸中でリアとアイシャの幸せを願っていた。

 いつもと変わらぬとりとめのない会話をして終わると思いきや
「アイシャ、花束の青いカーネイションの花言葉……永遠の愛って言うんだ」
 リアは急に真剣な表情で花束に込めた自分の想いを言葉にし始めた。
『……リア』
 まさかの展開に少し驚くも邪魔をしないよう口をつぐみアイシャは耳を傾ける。
「神じゃなかった時の君に森で会って恋に落ちて、俺は君に相応しい自分になりたくて色々頑張って……今の俺があるのもアイシャのおかげだ」
 リアは静かに語る。初めて出会った時の事、アイシャの力になりたくて自分の出来る事に奮闘している事、アイシャの事を考えるだけでどんなに励ましになり心が強くなる事を。
『……それはリアが頑張ったからですよ。私は何も……』
 アイシャは静かに頭を振ってリアの言葉を否定するような事を口にしようとするが、知るリアが言葉を挟んで遮った。
「いいや、俺の心の支えになってくれた。アイシャがいなければ、きっと今の自分は違っていた。それだけは言えるよ」
 リアは真剣なままきっぱりと言い切った。アイシャがいなければ、好きになっていなかったらきっと何もかも変わっていたと。
『……』
 自分の言おうとしてた言葉を否定されすっかり言葉を失ったアイシャはただ黙するばかり。
「国家神となる前に告白してから君への想いはどんどん強くなって……守りたい支えたいと君の小さな肩にのしかかる運命ごと……ってね。それは今も……」
 リアは胸いっぱいに溢れるアイシャへの想いを話す。
『……』
 アイシャは一切口を挟まず静かに聞くばかり。
「俺は役目を終えて普通の少女に戻った君と共に新たな人生を歩んで行きたいと思ってる。辛くて厳しい事が待っていたとしても」
 リアの想いは誰よりも真剣。喜楽の時に側にいるのは容易いが、大事なの辛苦の時に共に歩めるかどうか。リアにはとっくにその覚悟は出来ている。
 だから躊躇わずに言える。
「世界で誰よりも愛しているよ」
 と。
『……リアは優しいですね。私がここから出られるのはいつか分かりませんよ』
 画面越しでも伝わるリアの想いにアイシャは嬉しくも少し困った顔で自身の状況を言った。
「そんなの何年だってアイシャが元気になるまで待てるよ。俺はそのままの君が好きなんだ。だから、急がなくてもいいし気負わなくてもいい。俺はアイシャの側にいるだけで幸せだから」
 リアにはアイシャの優しい気持ちはすでに周知済み。それら全てを含んでありのままの彼女を愛しているのだ。
「……シュヴァーラの名前はなくなったけど。今のアイシャに相応しい名前とこれからの幸せと生き方を二人で一緒に探して行こう……俺と生きなおそう」
 リアはなおも想いを綴り続ける。唯々何の心配もなくアイシャには笑っていて欲しいのだ。そのためならリアは何だってするだろう。
『……ありがとうございます、リア。でも今すぐには……』
 アイシャはリアの想いは嬉しいが今すぐには答えられなかった。周囲に負担を掛ける事になる自身の事やその他諸々があって。
 ここで
「分かってる。それじゃ、また明日」
 リアは優しく笑み、先程の告白など無かったかのように挨拶をした。
『……本当にありがとうございます、リア』
 自分が思い煩わないように振る舞ってくれるリアをありがたく思いながらアイシャは礼を言い、二人のやり取りはこれで終わった。
 すると
「……リア、大丈夫ですか?」
 レムテネルが気遣いげに訊ねると
「あぁ、大丈夫だ。行こう」
 レムテネル達が知る笑顔でリアは言い、椅子から立ち上がった。
「そうだな」
 ザインはリアを気遣い余計な事は言わずに椅子から立ち上がった。
 昼食を終えた三人は店を出て行った。

 後ほどリアの元に一つの小包が届いた。
 差出人は当然
「アイシャからだ」
 リアにとって嬉しい人。
「良かったですね、リア」
「開けてみたらどうだ?」
 レムテネルとザインの表情も思わずゆるむ。
「あぁ」
 二人が見守る中、リアは緊張と嬉しさ混じりに包装を解き、箱のふたを開けた。
 中身は
「……時計だ……」
 上質の時計が一つ入っていた。自由に動けぬアイシャが手間を掛けて合格祝いにと用意した時計が。
「……これは」
 リアはそっと手に取り確認し、驚いた。
「……progress」
 自分と贈り主のアイシャの名前とリアが口に出したメッセージが刻まれていた。
「……前進、進歩、発展ですか。メッセージと時計が合っていますね」
 『博識』を有し趣味が読書のレムテネルは刻まれたメッセージの訳をいくつか並べると同時にアイシャの贈り物の選択に感心していた。時計は過去ではなく明日に向かって一分一秒前へ前へと時を刻む物。まさにメッセージ通り。
「明日やより良い未来とやらに向かって精進しろとか……まぁ、贈り主ではないから分からないが、リアの事を思って贈った事には違いないな」
 レムテネルの解説を受けてザインが自分なりの解釈をするが、アイシャではないので正しいかどうかは分からない。ただ、アイシャがリアのためにと真心を込めて贈った事だけは確か。
 そして、
「……ありがとう、アイシャ」
 リアはぎゅっと時計を握り締めアイシャの思いと幸せを噛み締めていた。