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リアクション
セレスティアーナ
東シャンバラ代王セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)のテントに、東シャンバラ・ロイヤルガード秋月 葵(あきづき・あおい)が客人を案内してくる。
「セレスティアーナ様、お友達がいらっしゃいましたよ〜」
葵が案内してきたのは、五条 武(ごじょう・たける)と、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)、彼のパートナーフィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)だった。イーオンは西側に属しているが、ロイヤルガードである武が身元を保証して、共に来ていた。
セレスティアーナが、ぱっと顔を輝かせる。
「おー、武、イーオン、二人ともよく来たな!
まぁ、ゆっくりしていくがよいぞ!」
「しばらくぶりだな、セレス」
「よォセレス、元気かァ?」
まるで家に友達が遊びにきたような態度で、セレスティアーナは言う。彼女の元気な様子に、武はホッすると共に、やはり彼女を失う事はできないと再確認した。
始めのうち二人は、セレスティアーナが最近の発見(最近、巨大うさぎをよく見かけるが、お月様は増えたりしないのだろうか、など)を聞いてやり、緊張した雰囲気にはならないように気を使う。
その間にフィーネは、そっと席を外してテントの前で見張りにつく。
この時間は他の来客などに邪魔されたくない。フィーネはセレスティアーナを訪ねてくる者に、敵襲などの緊急の知らせでもない限り、イーオンたちの用件が終わるまで待ってくれるよう頼み、説得した。
やがてテント内では、リラックスした雰囲気なのを確認し、武が言った。
「なんつゥか……実は今、ちっとヤバい事になっててよ」
「む? 何がヤバイのだ?」
「キミが以前ダークヴァルキリー、とても怖しいものに追われていた時に……」
イーオンが説明を始めると、とたんにセレスティアーナが大声をあげる。
「うわああああ! 何か忘れたが、すごくこわかった気がするぞおおおぉぉぉ!」
「お、落ち着け、セレス! アレが来たわけじゃないんだ!」
「もう二度とキミを襲う事はない。安心するんだ」
武とイーオンがすかさず彼女をなだめにかかる。
「……ほ、ほんとーに大丈夫なのか?」
「ああ! セレスをいじめる奴は俺がボッコボコにしてやる!」
「キミを護る、と約束しただろう?」
二人が両側からセレスティアーナの肩を手をあて、優しく言った。
「そ、そ、そうか……。なら安心しよう! はーはっはっはっは!」
ころりと安心して高笑いするセレスティアーナ。
その様子を見ていた葵が、目を丸くする。
「あれ〜? セレスティアーナ様、男の人が大丈夫になったんですかっ?」
セレスティアーナは一瞬、固まり、それから真っ赤になって奇声をあげた。
「うどうわああああああああ!!!」
左右の武とイーオンをふっとばし、自分はその勢いでごろごろと後ろに転がる。
幸い、何事かと戻ったフィーネが、セレスティアーナを受け止めた。
葵が大あわてで、フィーネと協力してセレスティアーナを起こして、テントの中ほどに戻す。
「だ、大丈夫ですか〜?」
「う、ううむ。世界がぐるりと回ったぞ。
……はて? そーいえば、私は何をしていたのだったかな?」
イーオンと武は優しく、説明を再開させる。
「キミはジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)を覚えているか?」
「ナラカ城で一緒に行動した仲間の一人だ」
セレスティアーナはぐりんと頭をひねる。
「う〜む〜? む? おお! ジークリンデか! 思い出したぞ! ジークリンデはいい奴だ!」
「そのジークリンデがピンチだ。あの場に居た俺としちゃ、放っておけねェ。なんとかして助けてェんだが、それにゃーメッセージが必要みてェなんだ」
武の言葉に、セレスティアーナは大きくうなずいた。
「おお、それではメッセージをありったけ買い集めてジークリンデに持ってってやるといいぞ」
どうも彼女は「メッセージ」が何かよく分かっていないようだ。
イーオンは彼女の眼をまっすぐに見ながら、静かに説明する。
「メッセージとは、キミの言葉だ。
キミは特別だからな。それこそ君が思う以上に。
頼む。彼女のためにでも、俺たちのためにでもいい。キミの強い想いの言葉がほしい。特別な言葉でなくていいたった一言でも、キミの想いを伝えたいのだ」
イーオンの真剣な表情に、セレスティアーナはもじもじしながら何か言おうとするのだが。
「う、うむ……一言? ……ううぅ、えー」
と、彼女の頭を武がなでるように、軽くぽんぽんと叩く。
「考え過ぎンなって。お前の素直な気持ちを伝えりゃ、それで良いンだよ。ほら、何かあるだろ」
イーオンもぎこちないながらも精一杯の笑顔で、彼女をリラックスさせようとする。
葵はデジタルビデオカメラを出してきた。
「じゃあ、セレスティアーナ様が思いついた事をお好きなようにしゃべってくれればいいですよ! その中から、使いたい場所を選べば」
セレスティアーナはようやく落ち着いた。
「おお、すまんな。ううむ、よし! それでは、ろくりんぴっくで覚えたアレをやろう!
……フレー! フレー! ジークリンデ! 皆が心配してるようだから、早く元気に戻ってくるがよいぞ。わはははははは!」
セレスティアーナは応援団員のように、胸を張って立ち、うろ覚えで左右の腕を伸ばしたり胸元にやったりする。
つづいて、葵も同じカメラで自分のメッセージを撮る。
「初めましてアムリアナ女王。ロイヤルガードの秋月葵とです。こちらは東西に分かれたりして大変な感じですが、シャンバラの人達や私達も元気なお姿でシャンバラにお戻りになられるのを今も願ってます。女王様の代わりとしてセレスティアーナ様も立派に代王としてお勤めされてますよ」
セレスティアーナと葵はビデオの液晶で、たがいの映像を見あってはしゃいでいる。
「おおっ、私はいつの間にうさぎ髪になったのだ?」
「これ、あたしですよー」
「なに? どーりでカワイイと思った」
「セレスティアーナ様もかわいいですよっ」
イーオンと武は少し離れた所で、その様子を見守っていた。
「これで女王の力となるとよいのだがな」
「ああ、そうでねェと、セレスが……」
急に口をつぐんだ武に、イーオンが「どうしたのだ?」と尋ねる。武は急にあわて始めた。
「あァ? ……し、知るか。大体、生きるか死ぬかって人間の心配をしちゃおかしいかよ。そんだけだよ、変に勘ぐるンじゃねェよ」
イーオンは、ふっと笑った。
二人とも、表には出さずとも同じ事を心配していたようだ。
もしアムリアナ女王が崩御したら、パートナーのセレスティアーナにも悪い影響が出る恐れがある。武もイーオンも、それだけは何としても避けなければ、と思っていたのだ。
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