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恐竜騎士団の陰謀

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恐竜騎士団の陰謀
恐竜騎士団の陰謀 恐竜騎士団の陰謀

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11.強者の考え方



「おいおい、こりゃどういう事だ?」
 白津 竜造が戦闘音が聞こえた場所にたどり着いた時には、あたり一面が瓦礫の山になっていた。そして、恐らく喧嘩売っていただろう何人かが床に倒れいた。
 その一番奥に、座り込んだバージェスの姿がある。
「これは、壮絶だねぇ」
 松岡 徹雄は別段驚いた様子もなく、そんな言葉を口にする。あれだけ激しい音がすれば、これぐらいは許容範囲だ。ただまぁ、バージェス一人がピンピンしていて、他が全員死屍累々という状況はいくらなんでも想像していなかったが。
 バージェスはやってきた竜造達に気付いたのか顔をあげたが、つまらなそうにため息をついて視線をまた床に戻す。
 興味すらもたれていないその反応に、竜造の血液が沸騰する。
「てめぇ! んだ、その顔はっ!」
 今にも飛び掛ろうという勢いは、しかし熱を奪うどころか熱源を吹き飛ばしそうな強い風によって遮られる。崩れ落ちた天井から差し込んでいた光が遮られ、頭上に巨大な翼竜が姿を現す。
「貴様か」
 バージェスは顔をあげないで、自分のすぐ横に降りた恐竜騎士に言葉を投げかける。
「なんだ、生きてたんですかバージェス様。いやいや、超竜を用意していただく前に死なれてしまっても困るわけですが」
「して、何の用だ?」
「そりゃ、バージェス様が弱ってたらその首を頂こうと思ってたんですがね………なんだ、まだ食べ残しがいるじゃないですか。ほら、そこの二人組み、この人の首はここにあるんだから、さっさと取っちゃいなよ」
 魔装となっているアユナ・レッケスにやってきた恐竜騎士は気付いていないようだ。
「バージェス様!」
 そこへ、さらに別方から誰かが走ってくる。
 走ってきたのは、プルクシュタール・ハイブリット(ぷるくしゅたーる・はいぶりっと)だった。
「………誰?」
 恐竜騎士に尋ねられて、プルクは竜造達をちらりと見てから耳打ちする。
「ふんふん、あー、そうそう。俺もその話をバージェス様にしようと思ってきたところなんだった。めんどくさいから、君、報告したげて」
「極光の谷から連絡が入りまして、襲撃を受けて収容者のほとんどを奪われた―――次第でございます」
「そうか、向こうも攻撃を受けたか。ククク、やはりこれぐらいの方が面白みというものがあるな」
 怒りだすでもなく、バージェスは嬉しそうにしかしない。それから、ゆっくりと息を吐くと、のっそりとバージェスは立ち上がる。
「寄る年波には勝てませんね、バージェス様」
 恐竜騎士は、形こそ敬語を使っているがまったく敬っている様子が無い。
「黙れ、この時でも我を討とうとしない腰抜けに言われる筋合いなどない」
「そりゃ、超竜を用意していただくまでは有用ですから。さて、それでは初老で腰の痛くてたまらないバージェス様を、鍼灸医のところにでも運んでやりますか。そこの君」
「プルクシュタールです」
「ふんふん、プルク君ね。ついでに君も運んでやるから、そこのお年寄りを俺の相棒に運んでやってくれ」
「わかりました」
 プルクシュタールはバージェスを背負うと、首を下げて乗りやすくしてくれているケツァルコアトルスの背中に向かう。
「さて、そういうわけで残念だけど時間切れだ。次はしくじるなよ、お兄さんはきみ達に実は期待してるんだから。そんじゃ、上手い事あとは切り抜けるんだな」
 恐竜騎士は、ケツァルコアトルスの足を掴む。それまで大人しかったケツァルコアトルスは啼くと、翼をはためかせて空へと上がっていった。
 羽ばたきの強風が収まると、遠くからこちらに向かってくる大勢の足音が聞こえてきた。外で戦っていた恐竜騎士団の面々だろう。
「どうする、おじさんは逃げたいんだけどな〜?」
 とか口で言いながら、徹雄は雅刀を抜く。目を見れば、次に竜造が何をするかなんてすぐにわかる。特に、こんな風に頭に血が昇っている時ならなお更だ。
 ここに向かっているのは、外で戦っていた面々だろう。なら、そこまで脅威とは思えない。多少疲れるだろうが、竜造のストレス解消に付き合う方がのちのち後腐れもないだろう。



「ほら、胃薬だ」
 グンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)が水と一緒に粉薬を手渡すと、国頭 武尊は震える手でそれを受け取った。
 気苦労を募らせて、胃を痛めたかいもなく、極光の谷は襲撃され多くの収容者の逃走を許してしまっている。そのせいかどうかはわからないが、武尊の胃痛も限界を向かえて既に意識が半分飛んでいるように見える。
「ところで、いいニュースと悪いニュースがあるが、どっちから聞きたい?」
 胃薬を飲んだおかげか、少しだけ持ち直した様子なのでグンツはバージェスと一緒に空を飛んでいるプルクシュタールからの話をしてやる事にした。
 道具を使わずに通信できる精神感応は大変便利である。
「じゃ、じゃあ悪いニュースからにするぜ」
「風紀委員試験やってた闘技場にも襲撃があったんだと」
「!?」
 話を聞いた武尊は、驚愕し、すぐさま顔から血の気が引いていった。
 まるで自分の力量以上に部下を抱えてしまった、ネガティブな中間管理職のようだ。まぁ、実際彼の立場はそんなところかもしれない。見た目以上に頭を回して色々考えているだけに、その分がストレスとなって返ってくるのだろう。
 もっと気楽に生きればいいものを、なんて言うつもりは微塵も無い。
「とりあえずいいニュースも聞いとけ。バージェス様は上機嫌だとさ」
「は?」
「とりあえず、今回の件で処分されるのは、あちこちで延びてる残念な風紀委員だけだってわけだ。逃げられた分、そいつら使って発掘を続けさせるらしい。良かったな、トイレにこもってたおかげで地位が保障されたぞ」
「いや、全然嬉しくねぇから。つぅか、自分が襲われて、ここも襲われて上機嫌ってどういう事だよ。頭おかしいんじゃねぇか」
「あー、プルクシュタールの推測だが、バージェスは潰し甲斐の無いもんよりは、反骨してくるような奴らを潰してくのが好きなんじゃないか、だと。それに、おぞましいぐらいに強いらしいぞ、バージェス様は」
「そうかい。とりあえず、個人のお楽しみにしといてくれりゃ、とりあえずありがたいが―――問題はアレだな」
「極光の琥珀だな。確認は取れてないが、恐らく持ち出されると考えた方が無難だな」
「武闘派の恐竜騎士団が欲しがってるもんだ………厄介なもんに違いねぇだろうな」
「そういうもんが持ち出された、しかも行く先はまずイルミンスールで間違いない。クソな話だ。ともかく、この件は俺達もあずかり知らぬ事にしとくべきだろうな。せっかくバージェス様も上機嫌なんだしな」
「………っち。そうするしかねぇな」
「ま、何かあったら声をかけてくれよ。秘密を共有するもの同士、手を組むのにこれ以上の理由もない、だろ? それに、こっちからも情報は提供できる。持ちつ持たれずでいこうや」
 


「こいつらで最後か?」
 御弾 知恵子(みたま・ちえこ)の問いに、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が頷いて答える。
「よし、乗りな!」
 エヴァルトの連れてきた二人組み、浦安 三鬼と魔威破魔 三二一を知恵魂暴夷の荷台に飛び乗らせると、知恵子は運転席に飛び込みアクセルを踏む。
 エヴァルトも動きだした知恵魂暴夷に飛び乗る。追っての小型恐竜に乗った恐竜騎士団の面々には、フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)がイコン用アサルトライフルの弾をばら撒いて足止めさせる。
「助かりました、兄貴!」
「あ、あにき?」
 極光の谷から離れ、少しは息もつけられるような状況になった頃、三鬼が尊敬のキラキラした眼差しをエヴァルトに向けていた。
「兄貴マジぱねぇよ。金のためとか言いながら、俺達を助けるために動いてくれてたんだろ! 俺、痺れちまったよ!」
「え、あ、いや………」
 極光の谷の中では、風紀委員の目を自分にひきつけるために少しばかりはっちゃけた感じで立ち回っていた。やっている時は結構楽しかったのだが、こうして一息つける段階に思い出すと、たまらなく恥ずかしい。
「なぁ、三二一?」
 三二一は、何度も何度も頷いて三鬼の問いに答えた。めんどくさいから頷いているのではなく、言葉にならないからとにかく頷いているのだ。
 ただでさえ、恥ずかしく思えているのにそれを褒められるても、エヴァルトは素直に喜べない。曖昧に返事をしつつ、
「それより、追っ手が来ていないか俺が見張ってる」
 といって、二人から距離を取った。
「見張りはこっちでやるからいいって。大変だったんだろ、ジャタの森のパラ実生さん?」
「ぐっ」
 一体どの辺りをフォルテュナは見ていたのか。なんとなく、最初から最後まで全部見られていたような気がする。
 逃げ場はなさそうなので、諦めてエヴァルトはその場に腰を下ろした。
「そうだ、兄貴。こいつを預かっててくれないか?」
 そんなエヴァルトに三鬼がよってくると、何かを差し出してきた。
「こいつは?」
「風紀委員の奴らは、極光の琥珀とか言ってもんでさ。大事なもんらしいんだけど、俺は全然学が無いからどういうもんなのかわかりゃしねぇ」
「本当はあたし達じゃなくて、今回の脱走作戦を計画した人たちが持っていくはずだったんだけど、色々あって渡せなかったの」
 三二一は気まずそうな顔で言う。エヴァルトは、この襲撃作戦に乗っかった側の人間で、計画した側ではない。なので、細かい予定までは打ち合わせていないのだ。ぶっちゃけ、誰が首謀者なのかも知らないでいる。
「重要なものなのか、しかし、こんなもの俺に渡してしまっていいのか?」
「そりゃ、俺らが持ってるより兄貴が持ってた方が安全ですしね。つっても、そいつはイルミンスールの奴らに渡さなきゃならねぇんだけどな。今回迷惑かける駄賃の代わりってわけなんでさ」
「恩人にお使いを頼むようで申し訳ないけど、あたし達は一息ついたらイルミンスールからすぐ出るつもりだから。だから、兄貴お願いします!」
「………そうか」
 どうしよう、この二人メンドクサイ。
「しかし、重要なものには見えないな。中に拳ぐらいの蚊が一匹つまってるだけか。化石を恐竜の復活に利用しているという話だが、蚊なんて何に―――」
「おい、空中戦できる奴いないか?」
 突然、知恵子の声がスピーカーを通して荷台に響く。
「おい、今はお前らがコレを大事に持ってろ」
 エヴァルトは、ひとまず三鬼に琥珀を返すと、荷台の扉を開けて外を確認した。
 知恵子が言った言葉の意味はすぐに理解できた。空から、敵の軍勢がこちらに向かってきているのだ。すぐに天板にあがり、フォルテュナに声をかける。
「これで、どれだけ撃ち落せそうか?」
 フォルテュナが構えているのは、イコン用のアサルトライフルだ。当然、威力は折り紙つきだが、トラックに取り付けてある固定砲台のため自由度は低い。
「できるだけやってみるけど、角度が悪い。龍の糧食が足止めになりゃいいんだが」
「空を飛ぶ奴がうまく食いつけばいいが………」
 知恵魂暴夷には、奴らが欲しがっている極光の琥珀がある。価値はよくわからないが、絶対に手渡してはいけないものだろう。ならば、こちらに向かっている六頭の翼竜は全て片付けなければいけない。
「大型の奴らは、かなり手ごわい。小型の奴とは一緒にするな」
 大型の恐竜を与えられている奴と、そうでない奴の戦闘能力は次元が違うというのは谷の中で暴れまわったエヴァルトは身をもって体験している。その時は、地の利を活かしたが、相手が空にいるのでは崖を崩して生き埋めにするような方策は取れないだろう。
「ま、やるだけやるしかないだろ」
「そういう事だな」