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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(後編)

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【2】百折不撓……2


 時刻は申の刻。
 ニルヴァーナ探索隊追撃部隊は九龍への接近を果たした。
 先陣を切るのは松平 岩造(まつだいら・がんぞう)中尉。朽ちた家屋の屋根を全力疾走、前方を進む目標を射程にとらえた。
 九匹の龍が刺繍された深紅の外套。冷酷なブラッディ・ディバインの暗殺者。
 その名は九龍(クーロン)
「見つけたぞ、鏖殺寺院。龍の名を持つ鏖殺寺院など忌々しい。ここで死ね」
「よし、キョンシーの掃討は私たちが引き受けよう」
 ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)はイカロスウィングを展開。
 そのすぐあとにワイバーンを駆るドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)が続く。
 ファルコンは両脚のイカロスクローで強襲を仕掛ける。しかし敵はこちらの呼吸を読んでいち早く散開。
「我が刃から逃れる術はなし!」
 ファルコンは急速方向転換ののち、地面すれすれを高速で滑空。炎を纏った剣が直線に立つ敵を真一文字に斬り裂く。
 胸から噴き出す炎がやがて全身を包むと敵はただの骸へと戻った。
 けれども敵も黙ってやられはしない。硬直した身体を鳴らし、拳法の構えをとるとファルコンに襲いかかった。
「む……っ!」
 四方から放たれる手刀をイカロスシールドでいなす。
 そして隙を見て上空へ舞い上がった。流石のキョンシーも上空には手が出せない。
「ドラニオ!」
「任しておきなっ!!」
 上空を旋回してドラニオのワイバーンが強襲する。その口から吐き出される炎が、地上のキョンシー達を焼き払う。
 知覚の大半が機能していないキョンシーにとって、知覚範囲外からの遠距離攻撃は避けようのない攻撃だった。
 ドラニオとワイバーンの放つ炎の雨に隠れ、ファルコンも一撃離脱の攻撃を仕掛けていく。
「よーしじゃ、一気に殲滅といくか……! ファルコン、合図したら上に逃げろよ!」
「了解だ!」
 ワイバーンの上から地上に向けてオイルをばらまくドラニオ。
 次の旋回の直後、ワイバーンの火炎ブレスが眼下に火柱を作った。燃え広がる炎の波が屍人を飲み込んでいく……!
 その混乱に乗じ、岩造は一気に九龍との距離を詰めた。
 超人的速度で射程に入ると全身全霊を込めた太刀型強化光条兵器『龍光尾』を閃かせる。
「消えろ、鏖殺寺院!」
「来たか……」
 しかし向こうも達人、超人的反応速度で一撃をかわす。
 勢い余って斬り裂いた屋根から、瓦が弾けるように空中に舞い上がった。
「死ね、シャンバラの犬……!」
「むっ!?」
 瓦が足元に落ちるよりも速く繰り出された神速の突きを、岩造は間一髪、機晶シールドで受けた。
 その刹那、岩造の纏う魔鎧武者鎧 『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)が青白い光を放つ。
「後の先をとれ、岩造!」
「ああ、わかっている!」
 シールドで突きをそのまま押し返すや、岩造は流れるように龍光尾を頭上から振り下ろす。
「ほう……!」
「俺の名は龍雷連隊隊長の松平岩造、またの名は《蒼炎の龍皇剣》。鏖殺寺院に龍と言う名は邪魔だ」
 しかしそれも九龍は回避し、素早く反撃を繰り出してくる。
 放たれた蹴りには岩造も負けじと蹴りで返し、正拳を放たれれば正拳で相殺する。
「目には目を、拳には拳、蹴りには蹴りじゃ!」
「うおおおおおおお!!」
 意気を荒くする鉄の龍神とともに、岩造は雄叫びを上げた。
 ところがその時、屋根の上で攻防を繰り広げる彼らの元に無数の光の刃が降り注いだ。
 はっと岩造が一瞥した先には、もくもくと土煙を上げる隣りの家屋。
「九龍はどこにいやがる……!?」
 煙の中から姿を見せたのは、第四師団所属の朝霧 垂(あさぎり・しづり)だった。
 傍らではライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が道を切り開くため、キョンシーを閃刃で攻撃しているのだが……。
「ライゼ、手当たり次第に攻撃すんなよ、仲間に当たるだろうが」
「えー大丈夫だよ、この辺は誰もいないはずだから」
 まだ連帯が完全に戻ったわけではない。
 牙竜の連絡網も報告を無視する隊員がいる以上、どこそこに穴が出来てしまうのは当然だった。

「にゃははは〜、とっととここを抜けて九龍を探すぞ〜」
 朝霧 栞(あさぎり・しおり)は通路に密集したキョンシーたちを炎の嵐で焼き尽くす。
「よーし、燃えろ燃えろ〜」
「おまえなぁ……」
 嬉々として笑う栞に冷たい視線を送る垂。
「もう、そんな目で見んなよぉ」
 肩をすくめると今度は吹雪を両手から繰り出し、凍らせて敵の動きを封じるにとどめた。
「……なるほど。連携が乱れているようだな」
 先ほどの炎が燃え移り煙る屋根の上、九龍は探索隊に走る不穏な影を冷静に分析した。
「余所見などしてる場合か! 鏖殺寺院!」
 再び向かう岩造に、九龍は必殺の『抜心』を放つ。素手で内臓を引きずり出すと言う邪拳だ。
 流石にこれを相殺することは出来ない。直撃寸前で身体を捻り、致命傷を避ける。抜心は岩造の肩を深々と抉った。
「ぐわあああああっ!!」
「ふ……」
 九龍はひらりと隣りの屋根へ移った。
実力はあるようだが、力押しでは俺は倒せん……!