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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

リアクション

「来るよ、絶対通さないんだから!」
 詩穂は、お下がりくださいませ旦那様、ガードラインの技術で、皆を守りながら前に出る。
「敵機晶姫の狙いは、アルカンシェルの内部からの破壊じゃろうが……」
 魔鎧として詩穂に纏われている青白磁が疑問を口に出す。
「こっちに向かってくるっちゅうことは、何か狙いがあるんじゃろうな。それはやはり……」
「向こうの指揮官はズィギルのようですからね。彼の狙い……アレナ様がこちらにいると知っているのなら、手の者を差し向けてもおかしくはありません」
 セルフィーナがそう答えた。
 道中、敵には遭遇しなかった。
 敵に情報を送っていなければ、アレナがこちらに向かっていること、到着したことを知る者はいないはず、なのだが。
「来た。後ろには僅かな衝撃も通さないんだからっ!」
 中にいる人達を思いながら、クレアはラスターエスクードを構え、皆を守る。
「2体……いえ、その後ろからも、付近の部屋や柱に身を隠しながら、こちらに向かってきています。今まで自爆の報告はありませんが、爆弾を使った攻撃については多数受けています。ご注意を!」
 銃型HC弐式で情報の確認をしながら、セルフィーナが注意を促す。
「うん、最初の機晶姫は任せて!」
 詩穂は軽身功の能力で壁を走って、飛んでくる機晶姫の照準に立ちはだかる。
「たーっ!」
 機晶キャノンの攻撃を躱し接近し、等活地獄で打ち落とし、歴戦の武術の技術を用い、雷霆の拳を叩き込む。
 機晶姫2体は激しく損傷し、後方に飛ばされた。
「負傷者も来るよ。道開けられる?」
 アリアクルスイドが、医務室から大声で連絡する。
「合図をしたら、駆け抜けるように言って」
 クレアはそう答えて、盾を構えてタイミングを計る。
「愚かな貴方たちはデリートされたいようですね」
 エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)がサンダーバードを召喚。
 通路に現れた巨大な鳥が通路を飛び回り、機晶姫にダメージを与えていく。
 柱に隠れた敵を暴きだし、部屋に隠れた敵の出口を塞ぐように飛ぶ。
「星剣を放つことは、連絡してある。こっちで場所の指示を出すから、敵機晶姫だけターゲットに攻撃を頼むな」
 が、ホークアイの能力で敵の動きを観察しながら、後方のアレナに言う。
「はい」
 アレナは、クレアの盾の後ろでヴィータを構えて合図を待つ。
「頼んだぞ、アレナ」
 言って、康之は敵の只中へ駆けていく。
 圧倒的な迫力を放つ大剣トライアンフを振り回し、機晶姫に叩きつけていく。
 隠れながら、機晶姫は機晶姫用レールガン、機晶キャノンを多方向に放ってくる。
「こっちはダメ!」
 もラスターエスクードを構えてバリケード越しに風術を放って、敵を阻む。
「アルカンシェルから出ていってーっ!」
 それでも向かってくる機晶姫に、舞い降りる死の翼で距離を保ちつつ攻撃。
 攻撃は肩を掠め、足を掠め、頭を掠める。
「……!」
 葵が覚悟を決めて機晶姫を破壊するより早く、ニーナ・ノイマン(にーな・のいまん)が、強化型光条兵器のルミナスアーチェリーで機晶姫の首を狙った。
「私は葵さんの剣ですから」
 ニーナはそう葵に微笑んだ。
 敵とはいえ、葵は相手を傷つけたくないと思っていることが、分かるから。苦しんでいることがわかるから……。倒さねばならない相手ならば、自分が先に。
 そして、敵機晶姫に狙いをつけて、一撃で葬れるよう攻撃を続けていく。
「機関室、エネルギー室への攻撃とは違って慎重だな。……こっちには本気で攻撃できない理由があるってわけか」
 某は殺気看破で敵の動きを探り、アレナに指で指示を出す。
「行きます……っ!」
 アレナが光の矢を放った。
 まっすぐに飛んだ矢は康之のいる位置で弾けて左右に飛び散る。
「康之、お前は右だ」
「ああ!」
 某が指示を出した途端、康之は右の部屋へと跳び、迅雷斬で機晶姫を斬り伏せ……はぜず、剣の腹で叩きつける。
「攻撃はやめてもらうぜ!」
 アレナの攻撃を受けて、身体の一部が破壊されている機晶姫の移動力を奪い、武器を壊してその部屋から飛び出す。
 康之は機晶姫を機能停止に陥らせることはなかった。
「アレナ、敵が潜んでいる場所に連続で攻撃を。康之は反対側を引き続き塞げ」
「はい」
「了解っ!」
 某が指示を出し、アレナは通路左を、康之は右側の敵を部屋の中へ叩き込んでいく。
「道を開けてもらいます」
 遊撃に出ていたユニコルノが駆け付け、通路右の機晶姫もう一体に剣を叩きつける。
「今だよ、急いで駆け抜けて!」
 クレアが声を上げる。
 途端、機晶姫より後方に隠れていた者達が、負傷者を抱えながら走り込んでくる。
 クレアも走って迎えに行き、負傷者達を盾の後ろに庇う。
 機晶姫が浴びせる攻撃を盾で防ぎ切り、守りながら医務室へと向かう。

 医務室へは、前の通路からだけではなく、非常口を利用し、真上の部屋からも怪我人が運び込まれていた。
「……どうしてあの子たちはボクたちにこうげきしてくるです?」
 ヴァーナーは歌で皆を励ましながらも、悲しそうに部屋の外に目を向けていた。
「みんなでなかよくなっていっしょにがんばれたらいいと思うです……」
「そうね」
 同じ学校のマリーがそう答える。
 だけれど、それはとても難しいこと。
 マリーもまた、外に目を向ける。
 戦っているアレナの方へと。
「動けない患者をこちらに。動ける負傷者はベッドの方で、まずは回復魔法で治療を」
 涼介は皆に指示を出しながら、重傷者の症状を確認し危ない物は直ちに、回復魔法で治療する。
「ソール、ベッドの方々に魔法を」
「よし、皆一緒に治すから集まってくれ」
 翔はベッドの方に負傷者を導き、ソールが魔法で簡単に治療をする。
「患部、ちゃんと見せてくれよな。適切な治療があるからさ」
 ソールは応急処置として軽く魔法をかけた後、負傷者1人1人を診ていく。
「大丈夫、のようですね」
 翔は、持ち物に注意を払っていた。
 負傷者の中に、敵の手の者が紛れ込んでいる可能性も考えて。
 今のところ、乗組員以外の人物は運ばれてきていない。
「大丈夫、楽にしていてくれ」
 涼介は治療をしながら、重傷者に声をかける。
 契約者は優れた能力を持っているが、その力は戦うこと以外に人を救うことも出来るのではないか。
 自分の目の届く範囲にいる人を助けたい。
 それが医者としての涼介の矜持だった。
 皆、それぞれに待っている人もいるだろう。
 誰かが悲しむのを見るのはあまり好きではなく。自分も自分を待ってくれている最愛の妻の為に、生きて帰れるように最善を尽くすつもりだった。
 死者、ゼロを目指す――。
 そんな方針の医療現場に。
 契約者の機晶姫以外の、動かない機晶姫が運び込まれてきた。
 人に近い形をした機晶姫、だ。
「武器は全て奪った。何かに使えるかもしれないから、回収してきた」
 避難してきた作業員がそう言う。
「爆弾が仕込まれている可能性は?」
 警戒して翔が問う。
「バラバラになった同じタイプの機晶姫を見たが、爆発物は仕込まれてなかった」
 作業員はそう答えた。
「……かわいい女の子ですね。治してあげるです」
 ヴァーナーが近づいて、ボロボロの機晶姫を天使の救急箱で癒していく。
 その途端。
 機能停止状態だった機晶姫が動いた。
 全ての武器を奪われ、満足に動くことも出来ない少女型機晶姫が、自分よりも細いヴァーナーの首に腕を回す。
「攻撃、シタラ。壊ス」
「あ……」
 機晶姫の体内から飛び出した鋭い部品が、ヴァーナーの体に突き刺さった。
「ヴァーナーさん!」
「だいじょうぶ、です」
 駆け付けようとするマリーや、契約者達をヴァーナーは笑顔で止める。
「けがをしたら、いたいです、よ……。こわれたら、いやなんですよ……。みんなで、なかよくなって、いっしょに月にいくです……ね?」
 首を絞められ、苦しげな声で、ヴァーナーは機晶姫に語りかける。でも変わらずヴァーナーは微笑んでいる。刺された背中が真っ赤に染まっているのに。
「目的は何? そんなことをしても、アルカンシェルは落とせないし、君も助からないよ」
 負傷者を背に庇いながら、ソールが機晶姫に慎重に声をかける。
 この場に居る者が光条兵器で撃てば、機晶姫だけ倒すことは可能だ。
 しかし、同時にヴァーナーの首を折られてしまう可能性も否めない。
「……危険です、避難された方が……」
 ザウザリアスがルシンダを庇い後退しようとする。
 しかしルシンダは、固まった表情で機晶姫とヴァーナーを見ており、微動だにしない。

(アレナちゃん、拒否したら君大切な人が死ぬよ)
 突如、頭の中に響いたそのテレパシーをアレナは拒否することが出来なかった。
(今一緒に遊んでいる玩具のいくつかには、高性能の爆弾を持たせてるんだ。君の大切な人が近づいた時に、爆発させるためにね)
「やめてください、やめてください……っ!」
「ズィギルのテレパシーか!? アレナ、聞くな!」
 突如叫びだしたアレナを某は両手で押さえつける。
「康之さん、ユノさん戻ってきてください。近づいちゃダメです」
 しかし、戻ったらより機晶姫を皆に接近させてしまうこと……そして、医務室に攻撃が届いてしまう可能性があることを、アレナが傷つくということを、康之もユニコルノも理解していたから、戻ることはできなかった。
(証拠を見せるよ)
「……!」
 ズィギルの言葉が届いた途端。康之が対峙していた機晶姫が、爆発を起こす。
 その可能性も考えていたとはいえ、想像を超える威力だった。
 康之と、それからユニコルノも、バリケードの前まで吹っ飛んできた。
 アレナはすぐに回復魔法で2人を治療する。
「つぅ……ありがとう、アレナ。やべぇな、もっと遠くで動けねぇようにしないと」
 康之はアレナに笑みを残して、また機晶姫の元に向かっていく。
「作られる時と場所が違ったら、私もあの中にいたのかも知れない。でも……私は私」
 ユニコルノも同じだった。
 アレナに頷きを見せた後、剣を手に飛んでいく。
(アレナちゃん、医務室に助けに行った方がいいよ。大事なお友達がバラバラになる前にね)
(何が……目的ですか)
 アレナはズィギルの言葉に答えた。
(沈む船の中に、君を置いておきたくないんだ。君の友達を止めて、機晶姫と一緒に私のところにおいで。そうしたら、医務室の娘を解放してあげるよ)
「アレナ、話をしたらダメだ!!」
 某がアレナの様子に気づき、ガクガク彼女を揺さぶった。
「は、い……」
「ここは任せて、アレナ先輩下がって!」
 葵は風術で機晶姫達を近づけさせない。
「代わりは私が」
 ニーナがルミナスアーチェリーを連続で放ち、葵の剣として、そしてアレナの代わりをも務める。
「……葵、さん……おねがい、します。だれも、しなないで……」
 絞り出すような声で言って、アレナは医務室の方へと走っていった――。