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リアクション
7.5日目・日中〜北の探索隊・荒野〜
探索隊の要員達の役割は、偵察や調査ばかりではない。
道に迷わぬよう、例えば地図を作製するためのマッピング作業も重要な任務の一つだ。
5日目は快晴であり、絶好のマッピング日和となった。
本日は彼等の一日を眺めてみることとしよう。
■
地図作成の中心的存在となった者達は如月佑也(きさらぎ・ゆうや)、ラグナアイン(らぐな・あいん)、ラグナツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)、ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)、セリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)の5名の要員達だ。
アイン、ツヴァイは空から、佑也、ヴァイス、セリカは地上から、対照的な視点でとらえて作成して行く。
これは地図の整合性を取るためには、よい方向性だと言ってよい。
この日も2人は大空に、3人は地道に徒歩で、ニルヴァーナの中に飛び出して行った。
■
「パソコンとビデオカメラのバッテリーも、バッチリなことだしな!
さ、景気良く、飛んできてくれ」
「バッテリーの問題なんですか? 佑也さん。
この撮影って???」
「当たり前だ! 途中で切れたら、何のための記録なんだか。
北の滝までもたなきゃ、意味がないだろうが」
「ふうん、まあ、それはそうなのでしょうが……」
それと自分が「景気良く飛ぶ」のと、どんな関連性があるのか?
今ひとつ理解不能なアインであった。
まあ、とにかく佑也は張り切って地上から撮影するから、おまえは空の方を頑張って欲しい、と。
つまりはそういうことなのだろう。
(では、そろそろ、私も佑也さんのお手伝いに、ひとっ飛びしてきましょうかね?)
「姉上、準備はよいですかな?」
「ええ、ツヴァイさん」
機晶姫用フライトユニットの翼を広げて、アインはツヴァイの頭を撫でた。
「私が飛んでいる間、周囲への警戒も頼みますね?」
「では、2〜3時間で交代しましょう。ボクが代わります」
アインは軽く頷くと、デジタルビデオカメラを片手に、空いた方の手で佑也に合図を送った。
「佑也さん、お先に行ってきますね」
「ああ、気をつけてな」
佑也は片手をあげて、自分はそのままビデオカメラを回し始める。
アインが撮りきれなかった地上の出来事を、ある程度カバーすることが出来る。
「それでは皆様、ごきげんよう!」
アインはいつものように、それは楽しそうに大空へと旅立って行ったのだった。
「さて、俺は例によってフラフラと歩き回るかな?」
ビデオカメラにナレーションを入れつつ、撮影を開始する。
巨大生物に襲われるだとか、
とんでもない自然災害に見舞われるだとか、
そういう緊急事態でも起きてくれないですかね……。
彼は黒縁ハーフフレームのメガネをかけ直す。
真面目そうに見える割には、ぶっそうなナレーションだ。
「とどのつまりが、平和で静かで、何もない荒野が延々と続いている。
と、まぁそういうことだな」
ここ5日間変わらぬ、おなじみの殺伐とした光景なのだ。
いい加減こんな状態では、さすがに地図にも何を書きこんでいいのやら……とか思う。
「う〜ん、記念撮影でもすっか」
佑也はチョイチョイと指先でツヴァイを呼ぶ。
視線はアインの指先とは真逆の空を見上げていた。
「何です? 兄者」
「3人で記念撮影するぞ! 何、これも大事なマッピング作業だ!」
ハイ、チーズ!
ガシャッ!
こうして「アインの機影と佑也とツヴァイの記念撮影地点」という、立派なポイントが出来た。
これは後々地図の作成について、大きな効力を発揮するに違いない。
ことに、このような何もない荒野の平地においては……。
「姉上! 交替の時間ですよ!」
ツヴァイは大空に向かって大きく手を振ってみせる。
暫し後、空の旅から戻ってきたアインは、はあっと大きく息をついた。
「デジタルビデオカメラ片手に、解説も入れつつ、地図もつくらなくちゃならないなんて。
想像以上に大変なことですよ、ツヴァイさん。
道中の安全を祈っているわ」
アインはデジタルビデオカメラをツヴァイに渡して、続きを取って欲しいとお願いた。
もう一度大きく気を吐いて、曰く。
「2〜3時間も解説入れ続けるのって、大変なことなのですね?」
「…………」
こうして仲良く撮影したデータは、その日の晩のうちに佑也のシャンバラ電機のノートパソコンにデータとして蓄積され、彼が仲間達の為に睡眠時間を削ってでも翌日までに作り上げる「大まかな周辺地図」の下となるのである。
■
一方の、ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)、セリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)の2人は、やや方向性に行き詰まりを感じていた。
「そっか、籠手型HCって戦闘用だったっけ……これは迂闊だった……」
ヴァイスはしまったと言わんばかりに唇を軽く噛む。
オートマッピング機能があるとばかり睨んでいた。
これでマップを作り、仲間達に送信すれば、役に立てると計画していたのだ。
そのために、彼は今日一日かけて、魔界コンパスで慎重に方角を定めて、自然にできたランドマークを探したり、なければ、適宜自分で造ったりしてきたのだ。
「あーあ、折角つくったランドマーク。
どうしようか……」
宝の持ち腐れ、そんな言葉が脳裏をかすめる。
一生懸命に作ったのだ。
何しろだだっ広い割には何もない荒野では、石を多少積んだだけでも、それは分かりやすい目印となるのだから。
「大丈夫だ、ヴァイス」
折れそうになる少年の心をセリカが食い止める。
「これだけの規模の探索隊だ。
おまえがマッピング出来なくても、誰かが役に立つような形にしてくれていることだろう。
心配するな、こいつは共同作業だ。
おまえ一人ですべてを抱え込む必要もない」
「…………」
「地道に、メモを使って地図を書いていくことも出来るがな」
「ああ、それもそうだな!」
顔を挙げた。メモに書き写そうと考えたようだ。
彼が見ると、ヴァイスはいつもの陽気さで笑っていた。
「じゃ、あとはたいむちゃんにつながるもんでも探すかな?
カラ元気でもいいから、早く元気になってほしいぜ」
(やはり、そこだったか……ヴァイス)
対照的に、セリカは一瞬複雑な表情になる。
ヴァイスは事故で家族と右目の視力を失っていた。
帰ってきたら身内がいねえとか、キツいもんがあるよな、と。
そういうことなのだろう
(……あれほど開き直れるまで、苦しかっただろうな)
たいむちゃんのことも、結局の所、立ち直るか否かは自身にかかっている。
その辺りの事をヴァイスは身をもって経験したのだ。
だからこそ、彼女を慰めに行かなかったのだな、と悟った。
「ヴァイス、苦しい時は俺に言え。
俺はむざむざ弟を死なせた最低の兄だが、いないよりはマシだろう」
思わず、ヴァイスの頭をくしゃくしゃになでた。
ヴァイスは不思議そうな顔でセリカを見上げている。
「深い意味はない、ふと思いついただけの言葉だ」
「そうなのか? セリカ???」
セリカはあっはっはと笑い飛ばした後、彼に向き直った。
「さて、ヴァイス。まだ周辺の地図を作るのだろう?」
そして自分の厚い胸板を叩いてみせ。
「では俺は、サバイバルの経験を生かすとしよう。
地形から、水や食料がありそうな場所を推測するのだ」
「頼んだぜ、セリカ。
調理は任せて! オレが何とか食えるよう工夫するから。
大丈夫、人間の胃はそんなに弱くない」
「…………」
セリカが睨んだ通り、彼がつくった、もしくは探しあてたランドマークは、佑也達によってしっかり撮影されていた。
これとヴァイスが作った地図により、荒野の目標として、暫しの間探索隊の大事な目標物となるのである。
そうそう、セリカのサバイバルの知識が、後々地下水の大まかな位置を示したことも、ここに記しておこう。(詳細は、沢渡隆寛の記述参照)
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