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はっぴーめりーくりすます。

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はっぴーめりーくりすます。
はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。

リアクション



24.貴方への誓い。


 恋人なんて居なくても。
 イルミネーションや様々な飾り付けが施された、ヴァイシャリーの街並みを見て歩けば、クリスマス気分も満喫できるというもので。
「リア充うらやましい……」
 とは、思ってもなるべく言わないようにと皆川 陽(みなかわ・よう)は気をつけていたのだが。
 ぽろり、口から出てしまった。
 だって、クリスマスイブを男二人で過ごすなんて不毛すぎるじゃないか。
 ――……いいもん友達が居れば。
 そうは思うものの。
 陽は隣を見遣る。
 ――何、考えてるんだろ。
 友達でありパートナーであるテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が、陽の隣を歩いている。楽しそうに、にこにこ笑顔で手まで繋いで。
 ――本当、何を考えているんだろう。
 だって陽は、極々普通で平凡で、薔薇学らしさなんて殆どなくて。
 だけどテディはいかにもな薔薇学美少年顔で、足はすらりと長く、育ちの良さも漂っている。
 ――モテるんだろう、なぁ。
 簡単に人のことをヨメと言ったり、結婚しろーとか言ってくるような口説き体質だし。その上この容姿だ、どうしてこれでモテないと言えよう?
 しかし思い返してみれば。
 バレンタインデーも、ホワイトデーも、夏祭りも。
 全部全部、一緒に居た。
 隣に居た。
 ああそうか。
「テディって実はモテないんだね」
「うん? 僕はヨメ一途だし。とーぜん」
 ――おかしいなあ。
 こんな口説き体質がモテないなんて。
 大丈夫なのだろうか、いろんな意味で。
 すれ違い様に見るのは、手を繋いだ恋人達。
 甘酸っぱい雰囲気で、はにかんだ顔で、楽しそうにしていて。
 再びちらり、テディを見た。
 白く滑らかな肌。長い睫。大きな瞳。
 ――あー。もしも。
 もしも、だ。
 ――もしも僕が女の子だったら。
 テディの、「僕のヨメ!」というあの冗談を、真に受けているのだろうか。
 ときめいたり、してしまうのだろうか。
 ――しそうだなぁ。
 そう考えると、男に生まれていて、よかったのだろうか。それとも。
 ――ていうか、うん、待て待て。その前に。
 5000年前の古代シャンバラ王国で、騎士として生きていたテディにはちゃんとしたお嫁さんと――当然、女性と――結婚していたという。
 今も、その人を想っているのだろうか。
 何千年と経った今も、ずっと。
 そうだとすれば、誰とも付き合わない理由にもなる。
 ――きっと、まだ好きなんだ。
 ずっとずっと、死んだ後でも、変わらずに。
 ――あ。
 ちくり、と。
 胸に、痛み。
 テディを見てるだけで、痛みは増す。
 ちくり。
 ちくり。
 あまりにも痛くて、立ち止まった。
 ――どうしたんだろう、突然。
 痛い。痛い。
 ――病気か。病気なのか。ヘルプ、ヘルプ医者!
 心の中で叫んだ時、
「どした、ヨメ? 大丈夫?」
 心配そうな顔をしたテディが、覗き込んできた。
「テディは、」
「うん?」
「お嫁さんのこと、まだ好き?」
 唐突なことを聞いているなあと自覚していたけれど、問いかける。胸はまだ痛い。
「マリエッタのことは……忘れてないよ」
 ――あ、いて。またいてー。ずきずきしてきた。きりきり? どっち。
 きゅぅ、と胸元を握る手に、テディの手が重なった。
「けど、今は。契約したことによってヨメが僕に二度目の人生をくれた。だから、僕はこの人生をヨメに全て捧げるって決めたんだ」
「……じゃあ、契約がなかったら?」
「それはわからないよ。でも今、わかってることがある。
 僕は、ヨメが好きだ。だから結婚してとか言うんだよ」
 わかってる? と首を傾げて、テディは言う。
 ――好きだから、結婚してって言うの?
 ――あれ? じゃあ、えっと。
「だからヨメ。結婚してくれ」
 そんなに真摯な目で見られたら、どう答えればいいの。
 ――どうして、僕なんかと?
 違う。
 ――僕は、テディに好かれるような存在じゃないから、お似合いになれないから。
 これも違う。
 ――僕は、
「僕は、」
 ――どうしたいんだ?
 イルミネーションの明かりに照らされ、テディの目がなお一層、強く見えた。


*...***...*


「あ……人形劇、終わっちゃってるね」
 静まり返った教会を見て、白銀 司(しろがね・つかさ)はぽつりと呟いた。
「お前の買い物が長かったからな」
 呟きを受けて、セアト・ウィンダリア(せあと・うぃんだりあ)が然程興味なさそうに、言う。
 教会に来る途中、クリスマス限定のコフレに目移りして、足が止まること一時間以上。
「あはは、どの色にしようか悩んじゃって……」
「他にもあったしな」
 売り場から離れられたと思えば、また別の店で足が止まり。
 そしてまた……の繰り返し。
「全く、女の買い物ってのはどうしてこう長いんだ」
「……うう。ごめんなさい……」
 ちくちく言われたので、司は素直に謝る。
 セアトはやれやれ、と息を吐いていた。怒っている様子ではなかったので、一先ず安堵。
 人形劇は見れなかったけれど。
 ――教会、入れないかな?
 そっと、両開きのドアを押してみる。
 ……動かない。鍵が掛かっているのだろうか?
 諦め半分で引いてみると、今度はあっさりと開いた。
「セアトくん! 教会入れそうだよ!」
「不法侵入になんねーか?」
「わかんない。でも、このまま帰るのも寂しいし……ね、ちょっとだけ」
 お願いっ、と頼んでみると、セアトは再び、やれやれと息を吐き。
「しょうがねぇなぁ」
 面倒そうに言いながらも、一緒に来てくれた。
 誰も居ない、夜の教会。
 クリスマスイブという日のせいだろうか。なんだか凄く、特別な場所に思える。
「静か、だね」
 無性にドキドキする。
 一方セアトは司と対照的で、荘厳な内装にも興味なさそうに流し見しているだけである。
「もうちょっと楽しもうよー」
「興味ない」
 もう、と頬を膨らませつつ、祭壇に登って。
「わぁ……素敵なステンドグラス!」
 月の光を受けて輝くステンドグラスを仰ぎ見る。光は床に色を落とし、幻想的だ。
「セアトくんは剣の花嫁さんだし、こういう所で結婚するのかもしれないねっ」
「花嫁言うな」
 俺は男だぞ、と冷めた声で言うセアトに苦笑い。
「白いドレスで祭壇に経ってるお前の方がよっぽど、……」
「よっぽど?」
「何でもない」
「えー? 気になるなぁ」
 問い掛けても、セアトはぷいっとそっぽを向いてしまった。
 ああ、いつもと全然、変わらない。
 クリスマスだろうが、なんだろうが。
 変わらない幸せは、昔もあった。
 ――お父さんが居て、お母さんが居て。
 ――美味しい食事とケーキがあって、サンタさんも来てくれて。
 だけどそれは、ある日突然に終わりを告げた。
 両親が他界するという、最悪の形で。
「……セアトくんも、いつか何処かに行っちゃうんだよねえ……」
 お父さんが居なくなったみたいに。
 お母さんが居なくなったみたいに。
 サンタさんも来なくなって。
 一人きりのクリスマス。
 ――ちっちゃい頃は、毎年泣いてたなぁ。
 寂しくて、悲しくて。
 楽しくて、うきうきできるようになったのは最近のこと。
 セアトや、八雲と一緒に居られるようになってからのこと。
「セアトくんや、八雲さんが居て……おかしいな、すごくうれしくて、幸せなのに。
 ……なんでかな、時々、すごく怖くなるんだ」
 ――変だなぁ。
 ――なんで私、こんなこと言ってるんだろう。
 ――セアトくん、困っちゃうよ。
 不意に、寒さを感じた。
 礼拝堂の中なのに。
 室内なのに。
 心に空いた穴に、風が吹き込んできたみたい。
「あはは……なんだか、寒い、ね」
 思わず、自分で自分を抱き締めた。
 かたかた、かたかた、震えているのがわかる。
 ――寒いから。
 ――そう、寒いから。
 それ以外に理由なんてあるものか。


 震える司を見て、セアトは情動的に手を伸ばしかけた。
 しかしその手を、途中で止める。
 ――俺は、何をしようとしてるんだ。
 抱き締めるつもりか?
 慰めるつもりか?
 どういう意図で?
 ……同情で?
 そんなもの、あいつが望むかよ。
「司」
「あ、ごめんね、退屈だよね。もう出よっか?」
 呼びかけて振り返った司の、気丈に笑う姿が痛ましくて。
 また、手を伸ばしかけて、躊躇って。
「? セアトくん?」
 何を言えばいいのだろうか。
 どうすればいいのだろうか。
 不安に震える彼女に対して、どういう態度で居ればいいのか。
 考えて、考えた結果。
 ――……なんだ。
 ――簡単だな。
「俺はどこにも行かねぇよ」
「え、」
「俺はお前のパートナー。お前の剣の花嫁だ」
 ――俺は俺であればいい。
 だから、抱き締めたりしないし。
 けれど、言葉くらいならかけられるから。
「もし、信じられなくて不安なら……この場所で、俺の剣に誓ってもいい」
 光条兵器である剣を取り出して、床に切っ先を当てて。
 騎士が、姫に忠誠を誓うように膝をついて。
「お前と共に在ろう」
 誓いの、言葉を。
 司は泣き笑いのような表情で、
「セアトくんの光……暖かくて、すごく綺麗だね」
 けれど嬉しそうな声で、そう言った。


*...***...*


「せっかくのクリスマスやん? ディナーとかどう?」
 七枷 陣(ななかせ・じん)の提案を。
「やだ!」
「嫌です」
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)は、即座に却下した。
「……えぇと」
「陣くんとおうちクリスマスする〜!」
「お夕飯は、私が腕によりをかけて作ります」
 そう言われてしまったら、反論する理由も見当たらず。
 ――クリスマスとかやから、奮発〜とか、贅沢に〜、とか、思ったんやけど。
 彼女達は、別にそうでもないらしい。
「ま。真奈の飯はそこらの店より美味いから、えぇね」
 それに、なんだかんだ家の方がゆっくりまったりできるよなぁと結論付けて。
「ほな、買い物行こか?」
 連れ立って、家を出た。


 そうして夕飯の買い出しを終えて、通りがかった公園。
「ね、ね、ちょっと遊んで行っていい?」
 リーズがうきうきと言ってきて。
 どうぞ行ってらっしゃい、と荷物持ちを請け負って、陣はベンチに腰掛ける。
 ――ああ、去年と同じやな。
 買い物帰りで。
 リーズは公園ではしゃいでいて。
 雪がちらついていて。
「陣くん、雪、綺麗だね〜♪」
 こんな風に笑っていて。
 ――リーズを始めて異性として認識して、綺麗だと思ったのも、
 今日だったなぁ、と。
 デジャヴのようだ。
「リーズ様、足元お気を付けて。滑りますよ」
「はわわっ、真奈さんありがとう〜!」
 転びそうになったリーズを、真奈が助けるのを見て「お」と思わず声が漏れた。
 ――去年と、ちゃうなぁ。
 去年、真奈は少し離れた場所から寂しげに陣とリーズを見るしかしなくて。
 そんな彼女に、陣は家族以上に大切な存在なんだと諭したりした。
 ――あん時は、真奈に恋愛感情なんて考えとらんかったんよねぇ。
 真奈とリーズは微妙な距離を置いてしまって。
 それが自分のせいかもと思ったらちょっと辛くて。
 だけど、今は。
 リーズと真奈は、手を繋いで楽しそうに笑っていて。
 二人の横顔は、去年よりも大人びていて、そして去年よりも綺麗で。
 だから、デジャヴじゃない。
 そんな変化した風景を見て、ふっと笑む。
「? 陣くんなんで笑ってるのー?」
「いや、リーズがアホ顔やったから」
「ふえぇ!? そんなことないよー!」
「ご主人様、あまりリーズ様に意地悪なさいませんよう」
「真奈は大人やなぁ」
「そして話をすり替えませんよう」
 二人が、陣の隣に戻ってくる。
 三人並んで、ゆっくりとした歩調で帰路に就いた。


 真奈が先導して、夕飯を作る。
 指示を受けて、リーズと陣が手伝う。
 そんな形で、協力し合ってできた夕飯は、
「美味そー……」
 BGMはTV番組だし、いつもより豪華で、ケーキがあるくらいは普段と変わらないけれど。
 それでも、ちょっとだけ特別なことには変わりない。
「メリークリスマス」
「今年もよろしくね!」
「リーズ様、その挨拶は少し早すぎます」
「ありゃ?」
 そんな素っ頓狂なやり取りを楽しんで。
 いつも通り、変わらずに食事をして、ケーキを食べて、満腹になったらお風呂に入って。
 その後、ちょっと普段と違った。
「ボク、真奈さんとお風呂入ってくる!」
「へ?」
 二人で? と疑問符を浮かべて見る。
「二人で、です」
 真奈が、静かに微笑んだ。
「はぁ、ほないってらー」
 ――そんな、仲良くなってるん?
 いつの間に、と思いながら、二人を見送った。


 浴室にて。
「い、いよいよ……だね」
 湯船に浸かりながら、リーズは言う。
「いよいよ、ですね」
 シャンプーの泡を流し終えた真奈が頷き、湯船に入る。
 ざぁ、とお湯の流れる音を聞きながら。
「……ボク、今日で一年だ」
 リーズがぽつり、呟いた。
「初めて陣くんのこと、異性として認識した日から」
 そして思い出す。
 去年の今日を。
 ホワイトクリスマスだった。
 公園ではしゃぐリーズの頭を撫でてくれた、陣の優しい手。
 あの瞬間、きっと。
「……すき、が、かたちになったんだ」
「そうですか……」
 リーズの話を聞いて、真奈も去年の今日を思い出した。
 寂しさを押し殺して、主従以上の感情を持たないように努めていた日々が、苦しくて、寂しくて。
 けれど陣は、そんな真奈に気付いてくれて。
 大切な存在だと、伝えてくれた。
「……私も、あの日からかもしれません」
 告げると、リーズが「おそろいだね!」と笑った。
「リーズ様とも、いろいろありましたね」
「うん。真奈さんと上手くやっていけて、ボク、幸せだなぁ」
「ええ。リーズ様と一緒に、ご主人様の恋人になれた。 
 こんな幸せな事はありません」
 誰も傷つくことなく。
 みんな幸せで。
 傍から見たら、一人の男に二人の彼女で、おかしいことなのかもしれないけれど。
「さあ、のぼせてしまう前に、上がりましょう」
「え、え! ボク、まだ心の準備が――」
「そんなことを言っていたら、私、先を越してしまいますよ?」
「だ、だめっ! ……真奈さんの意地悪ぅ〜……」
「ふふ」
 微笑んで、浴室から出て。
 薄い青の生地で、仔犬プリントがちりばめられたパジャマをリーズは身に付け。
 真奈は、仔猫のプリントが入ったミントグリーンのパジャマを着る。
 顔を見合わせて、こくりと頷いて。
 向かうは陣の寝室。


 コンコン、とノックの音に陣は顔をあげる。
 ドアを開けると、リーズと真奈が立っていた。お風呂からあがったばかりらしく、頬は上気して赤く、シャンプーの香りがふわりと漂った。
「どないしたん?」
「あのね。……前から真奈さんと話して決めてたんだ」
 リーズが、おずおずと切り出す。
「今日の夜に……その……んにぃぃ……」
「なんやねん」
 頭を抱えてしまったリーズに代わって、
「ご主人様と一夜を共にしようと決めていたのです」
 真奈が言葉を受け継いだ。
 ――へ?
 陣は一瞬、言葉を無くす。
 ――一夜を、共に。
 ということは、……ということで。
「……ええの?」
「だって、恋人になって……もうすぐ、一年だよ」
「もっと……ご主人様を深く感じたいと、思っているんです。私も、リーズ様も」
「だから、」
 言いかけたリーズの口を、キスで塞いだ。
 断る理由もないことと、これ以上女の子に言わせるわけにもいかないだろうという気持ち。
 それに、遅かれ早かれいつかはこういうことも、するのだろうから。
 それがたまたま今日だっただけで。
 ――でも、言わせてしもたなぁ。途中までやけど。
 男としてどうよ、と思いつつ、照れ隠しに頭を掻いて、ベッドに腰掛けた。
「おいで、二人とも」
 近付いてきた二人に、深い口付けをして。
 契りを交わそう。


 いつの間に、眠ってしまったのだろうか。
 窓から朝日が入り込んでいる。
「おはよう、陣くん」
 リーズが、陣を見て微笑む。その姿には肌色分が多い。
「……パジャマ着なかったんかい。風邪引いても知らんぞー?」
「そしたら看病してもらうもんねー」
 言って、リーズは悪戯っぽく笑った。
「おはようございます、ご主人様」
 そしてこちらは、既にメイド服に着替えた真奈の丁寧な挨拶。
「おはよう」
 なんだか二人がいつも通りにしてるから、昨日あったことは……などと思ってしまう。
 だけど、そんなの一瞬だった。
「あのね、陣くん」
「あの、ご主人様」
 二人が同じタイミングで、同じように顔を赤らめて。
「……大好きだよ。愛してるよ」
「愛しています、どうしようもないくらいに」
 真摯な言葉を伝えてくれて。
 ――ああもう。
 ――オレもしかしたら、今日あたり爆発するんとちゃうかなぁ。
 心の中で、茶化しつつ。
 恥ずかしいけど、ちゃんと答えようと決めた。
「オレも……二人のこと、愛してる」